Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

書籍

「浅草キッド」ビートたけし

「最後まで芸人としての深見千三郎を超えられなかったことを、オイラはいまでも自覚している」という告白で結ばれる天才・ビートたけしの自伝エッセイ。粋でかっこよく、照れ屋で、寂しがり屋でもあり、そして、底抜けにやさしく、どこか悲しみを背負っている…

「忘れてきた花束。」糸井重里

糸井重里は思想家だ。そして、詩人でもある。まるで彼が敬愛する吉本隆明のように。視点はいつも、なにものにもとらわれず自由で、言葉はやわらかく、その言葉に触れるだけで、気づきがあり、なんだかとても、あたたかな気持ちになる。しみじみおもしろく、…

「ちぐはぐな身体 ファッションって何?」鷲田清一

哲学者によるファッション論。はずすこと、ずらすこと、くずすこと。「やりきれない気分、ちょっと大げさにいえば時代への違和、時代から掃きだされているようなやりきれない気分」が、社会の生きた皮膚としてのファッションになると著者は書く。ファッショ…

「サラバ!」西加奈子

年末年始はずっとこの本を読んでいた。敬愛する西加奈子さんの、これまでの、自身の集大成ともいえる直木賞受賞作。西さんは、いつも、他の誰でもない、自分で自分を赦すこと、自分で自分を認めること、自分で自分を信じることを、全身全霊、小説を書くこと…

「もしもし下北沢」よしもとばなな

あとがきの「企業がむだなものに投資できる時代がまた訪れるように、と願わずにいられない」という言葉がなんだか妙に沁みた。その後にもよしもとさんは「お金のことだけ考えたらしないほうがいいことでも、人間にはしたくてしてしまう楽しいことがあるのだ…

「妖怪になりたい」水木しげる

なにかの虫の知らせか、水木さんが亡くなられる前に買った、雑誌に書かれた文章を編んだ珠玉のエッセイ集。氏の「目に見えない世界を信じる」というポリシーに貫かれた人生は、私たちの心をほんとうに豊かにしてくれるものは何か、ということを教えてくれる…

「最果てアーケード」小川洋子

かけがえのない思い出とともに大切なひとの死を悼む。哀しみにそっと寄り添う珠玉の連作集。小川洋子さんの小説には、静謐な「いつくしみ」が漂っている。それは、世界の片隅で、誰にも気づかれない、見過ごされ、やがて、忘れ去られるものに対する「いつく…

「藝人春秋」水道橋博士

テレビの向こう側では、常人には想像もつかないような、とんでもないことが繰り広げられている。いわば、そんな芸能界という「狂気の世界」を、愛情と羨望をもって書き上げた、他に類を見ないルポ・エッセイ。そのまんま東、草野仁、堀江貴文、ポール牧など、…

「江戸へようこそ」杉浦日向子

レンタルショップとして誰もが知っている「TSUTAYA」。その名前の由来ともなった、江戸時代の地本問屋「耕書堂」の主人・蔦屋重三郎。歌麿や写楽を世に知らしめた、江戸時代の敏腕プロデューサーだった彼が手がけた隠れたベストセラーが、吉原の遊女名鑑兼ガ…

「ぼくらの民主主義なんだぜ」高橋源一郎

大声で「語りすぎるもの」を盲目的に信じてはならない。誰かの呟きにこそ「ほんとう」は隠されている。一方で、自分の考え、あるいは、その呟きもまた、ひとつの見方であるということを忘れてはならない。世界を、広く、深く、複雑なものとして見ること。想…

「君の膵臓をたべたい」住野よる

話題の本をタイトル買い。「愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない。決して負けない強いちからを僕は一つだけ持つ」。もしも、そんな風に思える人との出会いや、そう思える瞬間が一瞬でもあったなら、それだけでもう、生まれてきた価値はあるんじゃ…

「笑うな」筒井康隆

星新一、あるいは、藤子・F・不二雄もそうだけど、優れたSF作家の作品を読むと、どれだけ妄想を膨らませればこんなブッ飛んだ物語が書けるのかとほとほと感心してしまう。冷静で知的な現状分析と、痛烈な文明批判、そして、愚かな人間へのどこか温かなまなざし…

「びんぼう自慢」古今亭志ん生

観客は、志ん生の落語を聞きに行くのではなくて、志ん生そのものを観にいった、というのはあまりに有名な話。素行の悪さで小学校を退学になって以来、落語家を志し、十数回の改名を重ね、その間、破門にされたり、借金取りに追われたり、死に損なったりと、…

「牛への道」宮沢章夫

おもしろさに憧れる。憧れるけれど、あまりの自分のつまらなさに、失望し、愕然とすることの方が多い。おもしろさとは、なにを見て、なにを聞き、なにを考えたか、そんな日々の思考の結果、積み重ねの表れだ。こんな本を読むと、まだまだ考えが足りないなぁ…

「悪魔の辞典」ピアス著/西川正身編訳

批評は難しい。それは多くの場合、批判となり、ときに非難となってしまうからだ。「愛国者」とは「政治家に手もなくだまされるお人好し」であり、「政治」とは「主義主張の争いという美名のかげに正体を隠している利害関係の衝突」であり、「平和」とは「二…

「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介

経済優先の政策をとり続ける日本。それらは、この国に厳然としてある、個人個人、多くの家族にとって切実な、生と死の問題にはまったく関係がないし、政治も、国家も、人間の魂を癒すことには、まるで考えが及んでいない。この若き小説家がクールに提起する…

「科学以前の心」中谷宇吉郎/福岡伸一 編

グリーンランドの氷冠に覆われた世界を「死の世界」ではなく「生を知らない世界」と呼んだ中谷宇吉郎。雪の研究に一生を捧げ、「雪は天からの手紙である」という詩的な言葉を残した、加賀市出身の科学者による随筆集。科学にとって重要なのは、不思議を解決…

「差別語からはいる言語学入門」田中克彦

谷崎潤一郎は著書「文章読本」の中で「言語は万能なものでないこと、その働きは不自由であり、時には有害なものであることを、忘れてはならない」と書いている。この本を読んで思うのは、差別語は、それ自体、そのものが差別的なわけではないということだ。…

「掏摸」中村文則

掏摸(スリ)を「それはあらゆる価値を否定し、あらゆる縛りを虐げる行為だった」と顧みる男が、どうにも逃れなれない過酷な運命と、ろくでもない世界の成り立ちに、抗い、闘い、希望を見いだしていく物語。生きることに執着する。それこそが、救いであり、…

「毎月新聞」佐藤雅彦

普通の人があんまり気がつかないような本質(エッセンス)を自由かつ独特な視点で見抜くこと。そして、そんな、言葉や概念でなかなか説明のつかない、やんわりしたものを、誰にでもわかりやすいように、やさしく立証する佐藤雅彦さんの名著。かの仲畑貴志さ…

「超訳「芸術用語」事典」中川右介

「ロココ」は「元祖キレイ、カワイイ」、「ゴシック」は「何となく、不気味」、「シンフォニー」は「ひたすら大げさな音楽」、「アウト・テイク」は「ボツの再利用」などなど、美術・音楽・演劇・映画に関する、難解で意味不明な専門用語を、「超」わかりやすく…

「フリースタイル」29「椎根和の雑誌づくり」

木滑良久さんでも、淀川美代子さんでもなく、「Hanako」「Olive」「relax」と、いずれもひとつの時代を築いた雑誌の創刊編集長を務めた椎根和さんへの、ややマニアックな人選のインタビュー。「本質と関係ないところの小さなこととか、雑事に妙に惹かれる素…

「熊谷守一 画家と小さな生きものたち」林綾野

晩年、まるで仙人のような風貌で、15坪の小さな庭のある自宅からほとんど出ることなく、家族、猫、取り、虫、草花たちと過ごした画家・熊谷守一。「分際を守って生きた」彼の、すべてを削ぎ落としつつ、「いのち」の本質を捉えた絵画には、どれも圧倒的な美し…

「ようこそ地球さん」星新一

ほんものの批判というのは、声高に叫ぶものではなく、ひょうひょうと和やかな雰囲気でやってきて、相手が少し気を許したところで、その心臓にナイフでグサリと一撃をくらわすようなものだ。星新一を「あの教科書の」なんて考えてはならない。とりわけ、サデ…

「SHAKE」VOL.1「甲本ヒロト 蓄音器とアナログ・レコードの現在地」

「ロックンロールが降ってきた日」という素晴らしい本を生んだ二人の編集者が雑誌をつくった。そのいちばん最初の号の、巻頭のインタビューで、甲本ヒロトが「蓄音器」と「アナログ・レコード」について熱っぽく語っている。「リアルなゴリラが部屋のなかに入…

「細野晴臣 分福茶釜」細野晴臣/聞き手 鈴木惣一朗

ぼくはいつもぶれている。最初の一行になんだかとても救われて購入した一冊。日本の音楽シーンにすごい作品を残してきた彼の言葉には、クリエーションにとって大切なエッセンスがぎゅっと凝縮されている。例えば「うるさい音楽は音を小さくしたってうるさい…

「料理歳時記」辰巳浜子

春夏秋冬。400種類もの旬の食材をとりあげた、その名の通り、料理の歳時記。「戦争の貧困のなかから、土と太陽の有難さを知り、命を守るすべを学び、死ぬ意味もわかりました」とは「食べられる野草」からの一節。これは、そんな心ある母たちの切実な思いが、…

「火花」又吉直樹

赤裸々すぎて笑った。現役の漫才師が、芸人について、漫才について、ほんとうのことを書いてしまうカッコ悪さがとてもカッコ良かった。音楽であれ、映画であれ、小説であれ、やむにやまれぬ真摯な気持ちで表現されたものは、例えそれが荒削りであったとして…

「ヘビーデューティーの本」小林泰彦

初代のL・L・ビーンが作ったメイン・ハンティング・ブーツには欠陥があって、売ったブーツがすべて戻ってきた。これじゃいけないというんで、考えに考えて、ぜったい大丈夫というのにつくりなおして全部送り返した。そんな逸話が紹介されているけれど、そうやっ…

「長嶋少年」ねじめ正一

一度でも野球をやっていた人ならわかるはずだ。野球。少年。校庭。友だち。なんどか書いているけれど、それだけで泣ける。鼻の奥がツーンとしてくる。かつての野球少年にとって「長嶋」がそうであったように、なにか絶対的な存在を持つと、人間は、強く、や…