ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

書籍

「ぼくらの民主主義なんだぜ」高橋源一郎

大声で「語りすぎるもの」を盲目的に信じてはならない。誰かの呟きにこそ「ほんとう」は隠されている。一方で、自分の考え、あるいは、その呟きもまた、ひとつの見方であるということを忘れてはならない。世界を、広く、深く、複雑なものとして見ること。想…

「君の膵臓をたべたい」住野よる

話題の本をタイトル買い。「愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない。決して負けない強いちからを僕は一つだけ持つ」。もしも、そんな風に思える人との出会いや、そう思える瞬間が一瞬でもあったなら、それだけでもう、生まれてきた価値はあるんじゃ…

「笑うな」筒井康隆

星新一、あるいは、藤子・F・不二雄もそうだけど、優れたSF作家の作品を読むと、どれだけ妄想を膨らませればこんなブッ飛んだ物語が書けるのかとほとほと感心してしまう。冷静で知的な現状分析と、痛烈な文明批判、そして、愚かな人間へのどこか温かなまなざし…

「びんぼう自慢」古今亭志ん生

観客は、志ん生の落語を聞きに行くのではなくて、志ん生そのものを観にいった、というのはあまりに有名な話。素行の悪さで小学校を退学になって以来、落語家を志し、十数回の改名を重ね、その間、破門にされたり、借金取りに追われたり、死に損なったりと、…

「牛への道」宮沢章夫

おもしろさに憧れる。憧れるけれど、あまりの自分のつまらなさに、失望し、愕然とすることの方が多い。おもしろさとは、なにを見て、なにを聞き、なにを考えたか、そんな日々の思考の結果、積み重ねの表れだ。こんな本を読むと、まだまだ考えが足りないなぁ…

「悪魔の辞典」ピアス著/西川正身編訳

批評は難しい。それは多くの場合、批判となり、ときに非難となってしまうからだ。「愛国者」とは「政治家に手もなくだまされるお人好し」であり、「政治」とは「主義主張の争いという美名のかげに正体を隠している利害関係の衝突」であり、「平和」とは「二…

「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介

経済優先の政策をとり続ける日本。それらは、この国に厳然としてある、個人個人、多くの家族にとって切実な、生と死の問題にはまったく関係がないし、政治も、国家も、人間の魂を癒すことには、まるで考えが及んでいない。この若き小説家がクールに提起する…

「科学以前の心」中谷宇吉郎/福岡伸一 編

グリーンランドの氷冠に覆われた世界を「死の世界」ではなく「生を知らない世界」と呼んだ中谷宇吉郎。雪の研究に一生を捧げ、「雪は天からの手紙である」という詩的な言葉を残した、加賀市出身の科学者による随筆集。科学にとって重要なのは、不思議を解決…

「差別語からはいる言語学入門」田中克彦

谷崎潤一郎は著書「文章読本」の中で「言語は万能なものでないこと、その働きは不自由であり、時には有害なものであることを、忘れてはならない」と書いている。この本を読んで思うのは、差別語は、それ自体、そのものが差別的なわけではないということだ。…

「掏摸」中村文則

掏摸(スリ)を「それはあらゆる価値を否定し、あらゆる縛りを虐げる行為だった」と顧みる男が、どうにも逃れなれない過酷な運命と、ろくでもない世界の成り立ちに、抗い、闘い、希望を見いだしていく物語。生きることに執着する。それこそが、救いであり、…

「毎月新聞」佐藤雅彦

普通の人があんまり気がつかないような本質(エッセンス)を自由かつ独特な視点で見抜くこと。そして、そんな、言葉や概念でなかなか説明のつかない、やんわりしたものを、誰にでもわかりやすいように、やさしく立証する佐藤雅彦さんの名著。かの仲畑貴志さ…

「超訳「芸術用語」事典」中川右介

「ロココ」は「元祖キレイ、カワイイ」、「ゴシック」は「何となく、不気味」、「シンフォニー」は「ひたすら大げさな音楽」、「アウト・テイク」は「ボツの再利用」などなど、美術・音楽・演劇・映画に関する、難解で意味不明な専門用語を、「超」わかりやすく…

「フリースタイル」29「椎根和の雑誌づくり」

木滑良久さんでも、淀川美代子さんでもなく、「Hanako」「Olive」「relax」と、いずれもひとつの時代を築いた雑誌の創刊編集長を務めた椎根和さんへの、ややマニアックな人選のインタビュー。「本質と関係ないところの小さなこととか、雑事に妙に惹かれる素…

「熊谷守一 画家と小さな生きものたち」林綾野

晩年、まるで仙人のような風貌で、15坪の小さな庭のある自宅からほとんど出ることなく、家族、猫、取り、虫、草花たちと過ごした画家・熊谷守一。「分際を守って生きた」彼の、すべてを削ぎ落としつつ、「いのち」の本質を捉えた絵画には、どれも圧倒的な美し…

「ようこそ地球さん」星新一

ほんものの批判というのは、声高に叫ぶものではなく、ひょうひょうと和やかな雰囲気でやってきて、相手が少し気を許したところで、その心臓にナイフでグサリと一撃をくらわすようなものだ。星新一を「あの教科書の」なんて考えてはならない。とりわけ、サデ…

「SHAKE」VOL.1「甲本ヒロト 蓄音器とアナログ・レコードの現在地」

「ロックンロールが降ってきた日」という素晴らしい本を生んだ二人の編集者が雑誌をつくった。そのいちばん最初の号の、巻頭のインタビューで、甲本ヒロトが「蓄音器」と「アナログ・レコード」について熱っぽく語っている。「リアルなゴリラが部屋のなかに入…

「細野晴臣 分福茶釜」細野晴臣/聞き手 鈴木惣一朗

ぼくはいつもぶれている。最初の一行になんだかとても救われて購入した一冊。日本の音楽シーンにすごい作品を残してきた彼の言葉には、クリエーションにとって大切なエッセンスがぎゅっと凝縮されている。例えば「うるさい音楽は音を小さくしたってうるさい…

「料理歳時記」辰巳浜子

春夏秋冬。400種類もの旬の食材をとりあげた、その名の通り、料理の歳時記。「戦争の貧困のなかから、土と太陽の有難さを知り、命を守るすべを学び、死ぬ意味もわかりました」とは「食べられる野草」からの一節。これは、そんな心ある母たちの切実な思いが、…

「火花」又吉直樹

赤裸々すぎて笑った。現役の漫才師が、芸人について、漫才について、ほんとうのことを書いてしまうカッコ悪さがとてもカッコ良かった。音楽であれ、映画であれ、小説であれ、やむにやまれぬ真摯な気持ちで表現されたものは、例えそれが荒削りであったとして…

「ヘビーデューティーの本」小林泰彦

初代のL・L・ビーンが作ったメイン・ハンティング・ブーツには欠陥があって、売ったブーツがすべて戻ってきた。これじゃいけないというんで、考えに考えて、ぜったい大丈夫というのにつくりなおして全部送り返した。そんな逸話が紹介されているけれど、そうやっ…

「長嶋少年」ねじめ正一

一度でも野球をやっていた人ならわかるはずだ。野球。少年。校庭。友だち。なんどか書いているけれど、それだけで泣ける。鼻の奥がツーンとしてくる。かつての野球少年にとって「長嶋」がそうであったように、なにか絶対的な存在を持つと、人間は、強く、や…

「本人伝説」本人 南伸坊/写真 南文子

やりすぎ、ふざけすぎ、不謹慎、ナンセンス。ほんとうの面白さはくだらなさの向こう側にある。くだらなさが想像力を強く刺激するのだ。そして「「なんで」こんなことをしているのか、私自身も、ほんとうのところはよくわからないのです」と書いちゃう南伸坊…

「霊長類ヒト科動物図鑑」向田邦子

冷静かつドライな視点で、マジマジとニンゲンを観察し、ズバズバ、ズケズケと書いているようで、決してユーモアを忘れない。ちゃんと品があって、洒落ていて、「愛しみ」に満ちているから、読んでいてとても気持ちがいい。「至らぬ人間の至らぬドラマが好き…

「幸福論」アラン著/村井章子訳

究極のプラス思考。「悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意志のものである」で有名なアランの「幸福論」を村井章子さんが素晴らしい新訳でお届け。哲学なんて得体のしれないものを、わかりやすく、やさしい日本語で書いてくれているので、無理なく頭に…

「珍品堂主人」井伏鱒二

硲伊之助の表紙に一目惚れ。「変なものを掴むようでなくっちゃ、自分の鑑賞眼の発展はあり得ない」と、骨董を女に見立てて描いた、井伏鱒二による粋な小説。たんたんと書かれているようで、足し引きする必要のない、完成された文体がすごい。声に出せばわか…

「本へのとびら 岩波少年文庫を語る」宮崎駿

宮崎駿は「生活するために映画をつくるのではなく、映画をつくるために生活するんです」と書く。その著書やインタビュー集を読んでいつも思うのは、彼ほど貪欲に、先人たちの仕事や世界の歴史から多くを学び、自らの作品に反映させたアニメーターはいないと…

「石井桃子のことば」中川季枝子/松居直/松岡享子/若菜晃子ほか

今も色褪せない200冊以上の本を生んだ、石井桃子さんをしっかりと記憶したのは「歯が立たない」「ただごとじゃない人」と書かれた宮崎駿さんの著書でした。その精魂をこめた仕事の数々。「子どもの本は、つくられるというよりも、幼児と共に(自分のなかの幼…

「弱くても勝てます」高橋秀実

結論。弱くては勝てない(笑) でも、常識を疑い、思考することで、その可能性を広げることはできる。この本がとても感動的なのは、根性まるだしで、やる気を漲らせずとも、情熱は燃えたぎる、ということを教えてくれるところだ。考え、検証し、また、考える…

「広告ロックンローラーズ」

自身もクリエイターである箭内道彦さんが、数々の伝説を作り、今なお第一線で活躍する業界の重鎮14名に迫ったインタビュー&作品集。オモロイ! よわい80になろうというおじいちゃん(失礼!)が、広告クリエイティブについて、その信念を内に秘め「マジ?」…

「ハーレムの熱い日々」吉田ルイ子

アメリカの伝統的な価値観が根底から揺さぶられ、それに呼応するかのように、黒人たちが人間としての誇りや自覚を取り戻し、革命に目覚めた1960年代のハーレムについてのルポ&フォト。「いつもゴスペルソングを口ずさみながら、雨もりする仕事部屋でミシン…