Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「世界で一番しあわせな食堂」ミカ・カウリスマキ

多様性が大事なのではなくて、価値観の異なる人たちとコミュニケーションを取り、相手を理解しようと努め、お互いを尊重し合うことが大事なのだ。拒むのではなく、受け入れた方が、人生は深く豊かなものになっていく。触れる。認める。受け入れる。改めて、…

「BLUE/ブルー」𠮷田恵輔

上手いことよりも好きでいることの方がはるかに尊い。そう思っていたことが確信へと変わった。30年近くボクシングをやってきた𠮷田恵輔が「名もなきボクサー達に花束を渡すような作品」と想いを込めた映画には、怖ろしいほどのボクシング愛と熱量が詰まって…

「ベイビーティース」シャノン・マーフィー

限られた時間を生きる私たちは、その事実を突きつけられたときに初めて、自分にとって何がほんとうに大切なものなのかに気がつく。それは映画の中の多くの「死」が教えてくれたことだ。死を悟った16歳の少女にとって恋をすることがすべて。そして、「恋をす…

「天国にちがいない」エリア・スレイマン

とあるインタビューで、現代のチャップリン、エリア・スレイマン監督は「映画を通じて、ある種の柔らかさみたいなものを、皆さんとシェアできたらないいな」と語っている。メッセージを込めず、説明しすぎず、ユーモアを交え、観客が「想像できる余白」を残す…

「タイトル、拒絶」山田佳奈

拒絶できる人よりも拒絶できない人の方が圧倒的に多いはずだ。カチカチ山の、タヌキはタヌキで、ウサギはウサギで、吐きだせない思いを溜め込んで「バランスをとりながら」生きている。だから、どうか吐きだして、と願う。感情を吐きだすことを恐れないで、…

「星の子」大森立嗣

映画のすごさは「想像力」を広げてくれるところにある。胡散臭いと思っていたものが実は純粋だったり、純粋だと思っていたものが実は胡散臭かったり。新興宗教にどハマりする両親にも子供がいて、親は子を愛し、また、子は親を愛している。そんな当たり前の…

「羊飼いと風船」ペマ・ツェテン

変わることがいいことなのか、それはわからない。けれども、世界中の人たちが、変わらねば、生きていけないのは事実だ。科学によって脅かされる信仰。中心にあるものが揺らぎ始めると、暮らしそのものも揺らぎ始める。青空に吸い込まれていく赤い風船。時代…

「ブレスレス」ユッカペッカ・ヴァルケアパー

道徳や倫理、社会通念では許されなくても、それなしでは生きていけない人たち、赦される世界があると、ときに映画は教えてくれる。あるいは、文学もそうだ。これは、息もできない痛みを抱えた彷徨える魂が二つ、出会うべくして出会った純度の高いド・変態ラブ…

「ホモ・サピエンスの涙」ロイ・アンダーソン

映画を観ていると「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というチャップリンの言葉を何度も思い出す。哀しく奇妙でありながら、次第に愛おしくなるこの作品は、改めて、映画とはなにか、映画表現とはなにかを教えてくれる…

「スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~」エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ

法律は必ずしも正しいものではない。それは、政府が見て見ぬふりをした、この映画が描いた実話が物語っている。居場所のない子供たちの居場所をつくろうとした彼らを突き動かしたものはなにか。根拠のない「なんとかする」が、とてつもなく心強く響いた。 【…

「あの頃。」今泉力哉

お揃いのキャップとTシャツ姿で「恋ING」を熱唱する彼らがカッコよくみえる。好きなものを好きと断言する人たちは、どこまでも純粋で、まっすぐで、アンポンタンだ。かつて、ヒロトが言った「馬鹿なら馬鹿なほどカッコええ、駄目なら駄目なほどカッコええ、…

「おろかもの」芳賀俊・鈴木祥

聖人君子なんてどこにもいない。自分勝手で、嫉妬深くて、狡賢くて。そんな人間のドロドロした部分を描きながら、どこかすっと救いの手を差し伸べるような、そんな希望を感じさせる映画が好きだ。兄の浮気相手と妹という共犯者たちを「ガンバレ!」と応援し…

「泣く子はいねぇが」佐藤快磨

多くの大人は、ことのほか弱く、だらしなく、いい加減であるということを知ったのは、自分が大人になってからだ。そのことにガッカリするのではなく、どこかホッとしたのは、自分もまたそうであるからだ。親になるということが、完璧な人間になることではな…

「ぶあいそうな手紙」アナ・ルイーザ・アゼヴェード

すべては「寛容であること」から始まる。人生の終盤を迎えた視力を失いつつある78歳の独居老人と、無鉄砲で危なっかしい23歳のブラジル娘が、かかわりあうことで、互いに影響され、心を開き、徐々に意識が変わる姿は、とても感動的だった。敬意さえ失わなけ…

「ようこそ映画音響の世界へ」ミッジ・コスティン  

知られることのない、数えきれない人たちの映画愛によって、映画の歴史が積み重ねられていることを、改めて痛感し、心の底から感動した。映像と音響。いわば映画の1/2を占める映画音響について真摯に向き合ったドキュメンタリー。ルーカス、スピルバーグ、コ…

「ペイン・アンド・グローリー」ペドロ・アルモドバル

「一瞬も一生も美しく」というのは資生堂の傑作コピーだけど、ホント、人生は一瞬一瞬が奇跡の連続で、その連なりが、私たちを奮い立たせ、また、癒してくれたりもする。さすが、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが描く自伝的な作品には、そんな人生の豊潤…

「燃ゆる女の肖像」セリーヌ・シアマ

男性であるとか、女性であるとか、性別に関係なく、抑圧からの解放を描いた映画はとかく胸を打つけれど、これほど高らかに、そして緻密に、女性の気品や知性、熱情や献身を表現されると、観る者はただ圧倒されるほかない。あのカンヌでさえ、パルム・ドールを…

「ジ・アリンズ/愛すべき最高の家族」サミ・サイフ

狂気の沙汰につき、閲覧注意。この世に生まれ落ちたら、誰一人として、独りでは生きていけない。どんな狂人であっても、どんなに世を恨んでいても、誰かに守られ、愛された事実は消えないし、幸せな記憶は魂のずっと奥に留まり続ける。そして、魂に刻み込ま…

「喜びも悲しみも幾歳月」木下惠介

結婚し、働き、子を産み、育て、老いていく。単調に思える人生の中に、悲喜こもごもがあり、それがいかにドラマチックなものであるかを描き切った超大作。ラスト。それでも生きていく。そのことを肯定した、潔くも、さわやかな作品だった。木下惠介監督作品2…

「おらおらでひとりいぐも」沖田修一

すごい映画をみた。沖田監督はいつもそんな映画を撮るけど、今回もまた、正真正銘のものすごい映画だった。映画はいつも「誰か」と生きること、その悲喜こもごもを描くけど、この映画は違った。人間は独りで生まれ、独りで死んでいくのだ、それでいいのだ、…

「二十四の瞳」木下惠介

仰げば尊しも、浜辺の歌も、ふるさとも、朧月夜も、荒城の月も、七つも子も、日本語があまりに美しい。それはそのまま、日本人や日本という国の美しさとも深くつながっている。黒澤明がライバルとし、大島渚が敬愛し、山田太一が師と仰ぐ、木下惠介という監…

「男はつらいよ 葛飾立志篇」山田洋次

久しぶりの寅さん。16作目。成就させたことのない寅さんが恋を語り、学のない寅さんが学問を語る。それでも、なぜか心を打つのは、曇りのない眼で見極め、本質をズバッと突いてくるからだ。寅さんと大学教授のやり取りはもはや禅問答。そして、つねに寅さん…

「生きちゃった」石井裕也

「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」と書いたのは、戦後日本を代表する詩人・田村隆一だ。気持ちを言葉にすることは難しく、また、言葉にしたとて、それが正確に気持ちを伝えるとは限らない。それでも、なのだ。たとえ言葉が誰かを傷つけようとも、声に出し…

「行き止まりの世界に生まれて」ビン・リュー

惨めで、危険で、劣悪な都市といわれるイリノイ州のロックフォード。家族から逃れるようにスケボーを始めた3人の、心のうちにしまい込んだ誰にも言えない痛みを浮き彫りにしながら、不器用に、それでも懸命に生きる姿をありのままに映しだした12年。問題だら…

「望み」堤幸彦

罪を犯してでも生きていてほしいのか、命を落としてでも正しさを選んでほしいのか。いずれにせよ、あの何気のない、平穏な日々が、戻ってくることは二度とない。子をもつすべての親に「愛する」とはどういうことかを突きつけてくる、息がつまり、胸を締めつ…

「マーティン・エデン」ピエトロ・マルチェッロ

多くの芸術は希望ではなく絶望から生まれる。労働者階級出身の青年が、ブルジョワに恋焦がれ、作家を志すも、越えられぬ壁に打ちのめされ、絶望したときに初めて、自らの作品が出世する。そんな幾度となく繰り返されてきたであろう物語が胸を打つのはなぜか…

「甘いお酒でうがい」大九明子

気づくか、気づかないか、の差は大きい。とある会社の派遣社員として働く40代の独身女性・佳子さんがあまりにチャーミングで、彼女の日常がかけがえのないものに感じるのは、彼女がきちんと気づくひとであるからだ。小さな気づきはやがて、大きな喜びとなって…

「フェアウェル」ルル・ワン

文化や価値観の違いはあっても、家族を想う気持ち、ともに悩み、ともに苦しみ、ともに支え合い、ともに喜ぶ家族のかたちは、どんな地域、どんな国であっても変わりはない。そして、人間はいつも、どこか滑稽で、愛らしい。 映画「フェアウェル」公式サイト

「平成真須美 ラスト・ナイト・フィーバー」二宮健

観客からお題をもらい、わずか10日で撮られた映画。平成最後の渋谷の街。琴線に触れる。そんな忘れられない体験は、思いがけないとき、思いがけない人からもたらされる。誰かのために頑張ることは、結局、自分のために頑張ることでもあるのだと感じる、感動…

「疑惑とダンス」二宮健

ヤッたのか、ヤッてないのか。ワンシチュエーション、シナリオなしで繰り広げられる即興演出の会話劇。言葉を尽くしても、というか、言葉を尽くせば尽くすほど、人間はこんなにもわかりあえないのか、イライラといたたまれず、絶望的な気持ちになって、やが…