赦しこそが唯一の救いであることは、数多くの映画が物語っている。そして、変わることこそが、希望であるということも。愛の根底にあるのは思いやりであり、相手を受け入れることで、絶望の中に光を見出すことができる。31曲のプレイリストに彩られた、そん…
ほんの小さなズレが、人生をあらぬ方向へと導いていく。それを運命と呼ぶならば、なんと人生は、味わい深く、豊潤なものなのか。ラストシーン。言葉を交わさずとも、その表情、しぐさ、佇まい、そのすべてが、形容しがたい感情となって溢れでる。人生に「も…
なぜ人は詩を紡ぐのか。美しいものを美しい言葉で綴ることが詩だと教えられた老女が、孫息子の非道な性犯罪、その親たちによる隠蔽工作、そして、自らの病という過酷な現実と、真正面から向き合ったときに絞り出された言葉、詩が、その是非は置いておいて、…
自らとってしまった行動に、すべて説明がつくわけではない。理由なんてなくても行動できてしまうのが人間の怖ろしいところだ。墓場にもっていく秘密を守り抜いたミシェルの、その佇まい、表情が忘れられない、フランソワ・オゾンらしいビターなフランス映画。…
寅さんはいつも若者に慕われる。打算のない無垢な純真さがお互いに共鳴するからだ。考えなしに柴又から九州・佐賀までバイクを走らせた甥っ子・満男を無条件に受け入れる懐の大きさ、人情深さがグッと沁みる。いよいよ終盤へ。後藤久美子の瑞々しさも光る、シ…
出自というのは不思議だ。どのような両親の元で、どのように育てられたかで、その後の人生が運命づけられる。不都合な出来事が闇に葬られ、なかったことにされることへの異議申し立て。常に物議をかもしてきた写真家ナン・ゴールディンの創作と闘いの根幹には…
毒親の難しさは本人にその自覚がないということだ。事の重大さに気づいたとき、すでに取り返しのつかない事態となっている。この映画が感動的なのは、ほんものの愛を知らず、かつて心に傷を負った人間が、人を憂い、思い、愛するということを決して諦めない…
こんなにも静謐で美しい映画を知らない。まだ薄暗いうちに目を覚まし、身支度を整え、仕事場へと向かう。判を押すように繰り返される、東京に生きる清掃作業員の日常が、なぜこれほどまで瑞々しく感じられるのか。毎朝の缶コーヒー、仕事後の銭湯、古本選び…
2025年もあと2日。1年のスピードの速さに驚くばかりです。今年観た映画は44本。コロナ禍よりも少ない本数となってしまいましたが、時間を見つけては、相も変わらず映画を観ています。気がつけば、2011年からライフワークとして記録している映画の記事も随分…
最低なクズ、ろくでもない奴しか出てこないという評判通りの、自己中だらけの混沌劇。善意や好意がまったく意味をなさない展開は、私たちが生きている社会が、いかに腐敗し、麻痺しているかの証左でもある。地獄の嵐が去った後のわずかな光に救われる。 映画…
寅さんは困っている人をほっておけない。見捨てないばかりか、やがて、巻き込まれ、気がつくと渦中のど真ん中にいる。ひょんなことから、なぜかウィーンにいる寅さんがなんとも滑稽なシリーズ41作目。そして、寅さんは、すべてを受け入れ、そっと立ち去って…
学校ほどカオスな場所はない。大人の預かり知らないところで、日々、多くの事件が起こっている。子供たちはそこで初めて、社会の矛盾を知り、人間の狡さや醜さを知り、戸惑い、迷い、考え、この戦場のような社会で生き抜いていくための術を学ぶ。一切の無駄…
寅さんはインテリにめっぽう強い。小難しいご託を並べられても、ひるむことなく、ぽっと一言、真を突く言葉を返すだけで、誰もが寅さんに魅せられてしまう。人生は理屈ではないのだ。記念すべきシリーズ40作目。とらやの屋号が「くるま菓子舗」に変わり、こ…
ここではないどこかへいきたい。それは誰もが抱く願望ではあるけれど、場所を変えたところで、何かが満たされるわけではない。ただ、足を一歩踏み出すことが大切なのだ。と、師のような人に教えられた。手放すことで得られることがある。幸せは他人の尺度で…
傷つくことから免れることはできない。生きれば生きるほど、傷は増えているばかりだ。忘れることができない女と思い出すことができない男。記憶に翻弄される人生を送る不完全な二人が、ただただ自然に、お互いを補うかのようになんとなく惹かれあう。たった…
テキヤ仲間の絆はことのほか強い。血縁関係がなくても、兄弟のようで、ときに親子のようでもある。それは、東京下町、とらやの面々も同じ。人情よりも制度が優先される時代の波は強まるばかりだ。シリーズ39作。2代目おいちゃんだった松村達雄が扮する町医者…
寅さん38作目。男はつらいよシリーズは、まさに日本映画の歴史そのものといっていいけれど、渥美清と三船敏郎の共演というのは、その中でも特別な「事件」だ。舞台は辺境の地・知床。本土では時代遅れとなりつつある寅さんが、この地では温かく向かい入れられ…
1998年の自作を、2024年にフランス映画としてリメイクし、自身の最高傑作とも評した、世界の黒沢清によるクリミカルな不条理映画。耐え難い悲しみが長い時間をかけて蓄積されたとき、理性は意味を失い、リミッターは外れ、抑制してきた感情をもはや抑えきれ…
真に大切なものを他人に委ねてはならない。絵画であれ、音楽であれ、小説であれ、あらゆる芸術作品を「美しい」と思う感覚はすべて個にあると信じている。つまり「美は鑑賞者の心にある」のだ。愛を同じ物差しで測れないように、美しさもまた、同じ物差しで…
一本の映画を観る前と観た後では、世界が180度異なって見えることがある。そんな、人生を狂わせてしまう危うさを持った映画は、突然あらわれる。フィクションと言ってしまえば仕方がないが、もはや痛みを感じることのない暴力が蔓延する映画ばかりが量産され…
「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」を観たときの衝撃は忘れられない。弱き小さき者に寄り添う、繊細な感性とやさしさに痺れた。それから数年が経ち、そのやさしさに「強さ」を兼ね備え、ショーン・ベイカーがカンヌで世界の頂点に立った。21世紀のプリティ…
伝統を重んじながらも進化を止めない。宮廷料理としての歴史を持ち、食卓を囲む時間そのものが「儀式」であり、その土地の気候や風土と密接に結びついている。皿の上が視覚的なキャンパスとなり、ワインとの組み合わせ、アミューズからプチフールまでが緻密…
いなくなって人たちがすぐそこにいるとしたら、面倒くさいようで、恥ずかしいようで、やっぱり嬉しい。人との出会いと別れが人生であるなら、これからの歩みもまた、これまでいた人たちの思いを紡いでいく時間なのだ。別れをとても丁寧に、柔らかく、ユーモ…
大義。個人の利益を超えた目的を為すため、私を捨てて公に尽くす。個人の自由・権利・尊厳を守る欧米的な価値観とは真逆の、ともすると非合理で、融通の利かない頑固さ。しかし、それこそが、武士の潔さでもある。黒澤明に薫陶を受けた小泉堯史監督による、正…
何かに夢中になること、人を愛おしく想うこと、その無垢な思いが溶けあった刹那な時間の美しさたるや! そんな幸福な時間を壊してしまうものもまた、子どもの純真であるがゆえの残酷さであるという儚さ。痛みを描いているのになぜこんなにも温かいのか。それ…
映画にささやかな意味があるとすれば、観る者に気づきを与え、その暮らしに少しの変化をもたらすことだ。人に恋して、人を愛して生きることについての、気づきがたくさん詰まった映画。坂元裕二の脚本はもちろん、40代の松たか子のチャーミングさがヤバい。…
極めて映画的な映画だった。美しく秩序だった生活が一変、現実とも虚構ともつかない不思議な世界へ迷い込んでいく荒唐無稽な展開は、往年のシュールリアリズム映画を観ているかのようだった。筒井道隆の原作。老いと、生(性)への執着を、滑稽かつシニカル…
震災後、かの地の漁師たちは、大切な人の命を奪った海と、再びどのように向き合ってきたのかを考える。漁師だけでなく、ふるさとの未来をかけた戦い、魂の再生は、今も静かに、脈々と続いている。クドカンが向き合ったふるさと・宮城。その土地に暮らす人たち…
久しぶりの寅さん。ノスタルジックな37作目。かつて炭坑で賑わった町の廃れ具合が物悲しく、それが時代とそぐわなくなりつつある寅さんと重なって切ない。圧倒的にやさしく、真っ当な寅さんが、恋しいのはなぜか。ディーゼルカーの車掌、芝居小屋、映画の看…
やさしい人ほど当てにならない。誰しもが弱く、わがままで、肝心な局面であればあるほど、それは露呈する。それでも、自分の立場や責任を背負いながら、懸命に生きている人もいる。いろいろ思うところはある。が、文句を言うことは簡単だが、なぜかそれを噤…