Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「お嬢ちゃん」二ノ宮隆太郎

詩人・茨木のり子は「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」と書いた。「もはや/いかなる権威にも倚りかかりたくはない/ながく生きて/心底学んだのはそれぐらい」とも。「どいつも、こいつも、くだらない」と吐きだす主人公・みのりの苛立ちは、し…

「流浪の月」李相日

魂と魂の揺るがない結びつき。そのことを信じてみる。そこから映画はスタートした。その李監督の言葉がこの映画の本質を物語っている。これは愛なのか、それとも、それ以上のものなのか。美しものなのか、汚れたものなのか。つまりは、信じるのか、信じない…

「とんび」瀬々敬久

親だけが子育てしていると思ったら大間違い。知らず知らずのうち、人と人とのかかわりの中で、子供は成長し、強く、やさしくなっていく。支えながら、支えられながら、笑ながら生きていこう。そうか。親は海にならなきゃいけないのか。 映画『とんび』公式サ…

「三姉妹 -ThreeSisters-」イ・スンウォン

いけしゃあしゃあと平然と嘘をつく。ぎりぎりの状態で生きている三姉妹の叫びが、悲痛でもあり、美しくもあった。必死に生きることがこれほどまでに切実に響いてくるとは。日常的に暴力をふるう父と、それを見て見ぬふりをする母。その犠牲となるのはいつも…

ベストテン2022

2022年もあと2日。今年観た映画は85本。昔のような本数は観れませんが、その分、一つひとつの作品としっかり向き合えているような気がします。 さて、年末恒例の、特に印象に残った映画は、 「クイーン&スリム」メリーナ・マツーカス「空白」吉田恵輔「茜色…

「リコリス・ピザ」ポール・トーマス・アンダーソン

ブギーナイツ、マグノリア、パンチドランク・ラブ、ゼア・ウィル・ビー・ブラッド、ザ・マスター。泣く子も黙るフィルモグラフィー。天才と呼べる数少ない映画監督のひとり、ポール・トーマス・アンダーソンが描く1970年代のアメリカ、青春グラフィティ、ラブロマン…

「峠 最後のサムライ」小泉堯史

武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり。生は死、死は生。つねに死を傍らに感じ、意識し、覚悟することで、生が浮かび上がってくる。つまり、どう生きるか、生き様を見いだすことが侍の本懐だ。黒澤明の系譜を正統に受け継ぐ監督・小泉堯史の描く日本はいつも凛と…

「カモン カモン」マイク・ミルズ

自分の子供が生まれて感じたのは、彼に(彼と同世代の子供たちにも)、色々なことを教えられるということだ。それは、忘れていたことを思いだすとか、改めて再認識するとか、そんな上から目線の傲慢なものではなく、新たな発見、または、驚きと言ってもいい…

「男はつらいよ 翔んでる寅次郎」山田洋次

寅さん23作目。どうしようもなくなったとき、寅さんにすがりつきたくなる気持ち、よくわかる。せっかちでおっちょこちょい、どちらかといえば頼りないのだけれど、寅さんに「大丈夫!」と言ってもらえたら、なんでだろう、きっと大丈夫な気がするのだ。冷静…

「林檎とポラロイド」クリストス・ニク

不思議な映画だった。記憶を失くしても身体は憶えているのだろうか、とか、感覚と記憶を失うとしたらどっちが不幸なのか、とか、記憶は人生にどんな喜びと悲しみをもたらすのか、とか、いろんなことを考えた。シュールでユーモラス、悲哀に満ちているけれど…

「スウィート・シング」アレクサンダー・ロックウェル

素晴らしかった! そこにある理不尽さに、悲しみに、弱さに、喜びに、やさしさに、温もりに、希望に、ずっと泣きそうだった。米インディーズのカリスマだとか、音楽ファンにはたまらないトラックの数々だとか、過去の名作へのオマージュだとか、タランティー…

「アトランティス」ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ

ロシアとの戦争終結から1年後、2025年のウクライナを描く。そんな映画が2019年に完成していたということは、一体何を意味するのだろうか? ロシアによる全面侵攻のはるか前から戦争は始まっているし、失った家族は戻らない。荒れ果てた国土、病んでしまった…

「エルヴィス」バズ・ラーマン

ミック・ジャガーやジョン・レノンよりもずっと先に、黒人音楽を白人社会に伝導したミュージシャンといえばエルヴィス。メンフィスの街で、ブルースやゴスペルから啓示を受ける衝撃は、まさしくビッグバン、ロックンロールの誕生といってもいい瞬間だった。粗…

「TITANE チタン」ジュリア・デュクルノー

なんじゃこりゃぁあああって映画は、これまでもたくさん観てきたつもりだったけど、これはどんな映画よりも圧倒的だった(観る者を選ぶけど)。交通事故、チタン、少女、父、頭蓋骨、ショーガール、性行為、刺殺、エンジンオイル、消防車、妊娠、子宮、脊髄…

「国境の夜想曲」ジャンフランコ・ロージ

ISISに襲われた記憶を描いた子供たちの絵が脳裏に焼きついている。イラク、シリア、レバノン、クルディスタン・・・。四六時中、銃声が鳴り響き、いつ命を奪われるかわからない。圧政、侵略、虐殺。想像すらできない極限と、まさしく隣り合わせで毎日を暮らす人…

「さがす」片山慎三

このサスペンシブルで、グロテスクで、どこか病んでいる映画を、只ならぬものにしているのは、終始貫かれている、あまりに純粋でせつない親子の愛だ。西成を舞台に描かれたはらわたをギュッと掴まれるような(社会派)超・エンターテインメント。そして、伊東…

「やがて海へと届く」中川龍太郎

恋愛ではないし、かといって、単なる友情でもない。詩人でもある中川龍太郎という監督は、そんな言葉にできない繊細な感情を、これまでも映画にしてきたし、タイプの異なる女優二人を主演に据えた本作でも見事に描き切った。人には必ず秘密がある。残された…

「ニトラム/NITRAM」ジャスティン・カーゼル

オーストラリア史上最悪の悲劇。死者35人、負傷者15人―。人間を無差別殺人にいたらしめるものは何か。ときに映画は、その深い深い闇に触れようとするけれど、無論、明快な答えはなく、観る者をどっと疲れさせるだけだ。彼らに共通するのは、想像を絶して「孤…

「前科者」岸善幸

無責任な善意が深く深く人を傷つけてしまうということを私たちはもっと強く自覚する必要がある。人ができるやさしさは、言葉をかけることでも、救いの手を差し伸べることでもなく、そっと寄り添い、しっかり目を離さないことくらいだ。自分は何もできない。…

「パーフェクト・ノーマル・ファミリー」マル―・ライマン

大人になるということは、受け入れることを増やし、赦していくことでもある。パパがある日突然ママになる。11歳の少女には到底受け入れがたい事実に向き合ったカヤ・トフト・ローホルトの演技がとにかく素晴らしかった。親と子である前に一人の人間と人間であ…

「声もなく」ホン・ウィジョン

生きる世界が違う。といってしまえばそれまでだけど、慈しみや温もりが、確かにそこに在るだけに、胸が締めつけられ、息ができなくなるくらいに切ない。貧困から死体処理をして生計を立てねばならない青年と、親から見放されて身代金を払ってもらえない少女…

「Coda コーダ あいのうた」シアン・ヘダー

娘であり、父であり、母であり、兄であり、また、あるときは、ろう者であり、聴者であり。いろんな立場の、いろんな感情が、ぐちゃぐちゃに入り混じった、笑って、泣ける、やさしい映画だった。世界の見え方は一人ひとり異なるけれど、思いやる気持ち、それ…

「ちょっと思い出しただけ」松居大悟

そういや昔、60歳くらいのジャズ喫茶のマスターが「恋をしたい」と言っていて(それはきっと叶わない)、なんだかいいなと思ったことをつい思い出した。失ってしまったもの、もう元には戻れない、戻せないことが、いかに豊かで、美しいものであるかを、この…

「ライフ・ウィズ・ミュージック」Sia

イマジネーションは無限。想像力を働かせることで世界はポップにカラフルに彩られていく。そして、音楽はいつも、私たちの傍にあり、想像力を刺激し続ける。絶望の淵に立つ人間が、もう一度、他者を愛することで希望を手にするファンタジックで美しい物語。 …

「COME&GO カム・アンド・ゴー」リム・カーワイ

中華系マレーシア人の映画作家リム・カーワイがみた大阪。そこで交差する中国人、台湾人、在日韓国人、マレーシア人、ミャンマー人、ベトナム人、ネパール人、日本人の、それぞれの人生は、過酷だったり、空虚だったり、胡散臭かったり。共通しているのは、ど…

「ノイズ」廣木隆一

ちょっと歯車が狂うだけで、しあわせな暮らしも、のどかな日常も、あっけなく音を立てて崩れていく。その引き金を引いてしまうのは、妬みだったり、嫉みだったり、人間の、ほんの些細な弱さだというのが恐ろしい。悪魔はすっと懐に忍び込んでくる。 映画『ノ…

「ベルファスト」ケネス・ブラナー

どんなに大変な状況に追い込まれようとも、人間は「暮らす」ことを止めない。絶望しない。そして、それらの「暮らし」には、笑いがあって、怒りがあって、涙があって、つまり、家族のつながり、温かさが息づいている。動乱の時代を生きる家族の物語をみてい…

「クレッシェンド 音楽の架け橋」ドロール・ザハヴィ

音楽には言葉がない。言葉がないから解釈を強制しない。共感よりも共鳴。響き合うというのはとても純粋な感覚だ。世界で最も解決が難しいとされる紛争地域、パレスチナとイスラエルの音楽家たちが奏でるラヴェルの「ボレロ」、パッヘルベルの「カノン」には…

「椿の庭」上田義彦

写真家・上田義彦が映画を撮った。妻と子供たちを撮り続けた彼の写真集「at Home」は忘れがたい一冊だ。写真も映画も記憶を留める装置。そんなことを思いながら観ていたら、切なくて、切なくて、切なくて。でも、それが人生。生きるということ。そして、やっ…

「淪落の人」オリヴァー・チャン

「世の中は説明できないことだらけ。けれど、心持ちは自分で選べる」とその人は言った。境遇や人種、文化が違う人たちであっても、同じ夢をみることができる。この映画が感動的なのは、同じ夢を見ることで、どん底にあったお互いの人生がきらきらと輝き始め…