Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「読まれなかった小説」ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

「映画を文学へ近づけたい」と監督が語ったように、端々に文学的な匂いのする映画だった。ラストシーンに押し寄せるカタルシス、つまりは、心に溜まった澱のような感情の解放や浄化は、長い長い物語を読んだ後のそれと似ている。改めて思う。凡庸であること…

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」箱田優子

みんなそうだ。なりたい自分になりたくて、あがいて、もがいて、そのうち、なりたい自分を見失って、気づかないまま、一体なんにムカついているかもわからず、イライラして。これは、そのことを肯定もせず、否定もせず、ただ寄り添って、受け入れてくれる映…

「ザ・ピーナツバターファルコン」タイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ

子どもの頃に夢見ていたものや、憧れていたヒーローを、いつから忘れてしまったのだろう。魂の純度が高くないと、きっと、いつまで経っても、人生はツマラナイままだ。「友達ってのは自分で選べる家族だ」なんてほんとそれ。人生を豊かにしてくれるのはたっ…

「HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ」イライジャ・バイナム

恋をするのも、悪いことを覚えるのも夏、と相場は決まっている。観光客で賑わう海辺の小さな町で過ごす「行き場のない」少年のひと夏の体験は、危うく、そして、耽美だ。夏の終わりに観る青春映画。松任谷由実の名曲「Hello, my friend」をふと思い出す。 『…

「ひとよ」白石和彌

お互い唯一無二。かけがえのない存在であることは疑いようもない。が、樹木希林がいなくなり、日本映画界にぽっかりと空いてしまった大きな穴を埋められるとしたら、それは田中裕子しかいない。彼女が、夫を殺める母親を演じるなんて、これはもう事件なのだ…

「パラサイト」ポン・ジュノ

とにかく面白い。のだ。ほとんど「完璧」と呼んでいいこの作品を目にし、世界の巨匠たちが白旗を掲げ、打ちのめされていることからも、この映画の凄さは窺える。娯楽性と芸術性が極めて高い次元で融合した大傑作。手に汗握る予測不能のエンターテイメントの…

「わたしは光をにぎっている」中川龍太郎

さすが。センスは視点に表われる。働くこと。食べること。生きること。誰も気に留めないような日常の中に、優しさは溢れ、美しさは満ちている。そんな、つまりは暮らしが失われていく切なさを、天才・中川龍太郎監督が映像に遺した。タイトルは山村暮鳥の詩よ…

「家族を想うとき」ケン・ローチ

魂が揺さぶられる。ほどの体験は、例えば100本の映画を観たとしても、ほんの数本だ。けれど、ケン・ローチの映画には、高い確率でそれがある。善良なる人々が虐げられることへの慈しみと強い怒り。一度は引退を決意した83歳の監督が、こんなにも「攻め」の映…

「真実」是枝裕和

やっぱり、すごいなー。それは、カトリーヌ・ドヌーヴしかり、是枝監督しかり。これは、神から与えられたとしか思えないオーラを纏った女優と、映画に対する信じられないほどの実直さを持った監督が、出会うべくして出会った幸福な作品。超一流は言語や文化の…

「カツベン!」周防正行

私が小さかった頃はまだ、映画は特別な娯楽だったし、映画館は特別な場所だった。時は流れ、映画は身近になったけれど、神聖さが失われたことは否めない。活動弁士という、映画を「娯楽の王様」たらしめた先人たちと、活動写真(無声映画)への敬慕をいっぱ…

「ラスト・ムービースター」アダム・リフキン

人生において最も価値のあるものは思い出だ。誰と出会い、何をしたのか。何に笑い、何に泣いたのか。思い出が人生を豊かにし、思い出が人生を教えてくれる。バート・レイノルズの素晴らしい遺作。これが遺作だなんて、劇中の映画オタクに愛されるがごとく(彼…

「タロウのバカ」大森立嗣

とにかく不快だった。やがて、耐え難くなり、痛みとなった。社会に隠されているもの、いや、私たちが無意識に目を覆っているものが、すべて生々しく露わにされているからだ。狂気の塊のようなエージが、純粋すぎるスギオが、そして、神のようなタロウが、畏…

「おいしい家族」ふくだももこ

フツウとか、ジョーシキとか、そんなものはどーでもいいことを、映画はいつも教えてくれる。大事なのは、フツウじゃないことを受け入れること、その先にあるものを受け止めること。想像力を働かせることが、思いやりを生み、人を幸福へと導いていく。そんな…

「ピータールー マンチェスターの悲劇」マイク・リー

ケン・ローチともう一人、イギリスには、マイク・リーがいることを忘れてはならない。一大スペクタクル。国の行く末を左右した事件を、その国を代表する監督が撮ると、それはやっぱり「特別な映画」となる。非武装市民6万人を相手に、騎兵隊はサーベルを振り上…

「命みじかし、恋せよ乙女」ドーリス・デリエ

命みじかし恋せよ少女/朱き唇褪せぬ間に/赤き血潮の冷えぬ間に/明日の月日のないものを。嗚呼、なんて美しい日本語。黒澤明の「生きる」で志村喬が歌った「ゴンドラの唄」を口ずさむ樹木希林と、彼女が遺作で発する「あなた、生きてるんだから、幸せにな…

「サマーフィーリング」ミカエル・アース

この映画が「アマンダと僕」のミカエル・アース監督の作品だということを観終わってから知った。繰り返し「喪失」を描くこの映画監督は、夏の木漏れ日、山々の緑、湖で泳ぐ人々・・・、それから、夕景も、夜景も、過ぎ去っていく風景を絵画のように美しく描く。…

「ジョーカー」トッド・フィリップス

果たして、「ザ・マスター」以上の映画に出会えるのかと思っていたけれど、怪物ホアキン・フェニックス、ここに極まれり。心・技・体、そのすべてにおいて凌駕していた。ここまでくると、決して大袈裟な話ではなく、もはや神の領域。語るべき言葉さえも見つから…

「さらば愛しきアウトロー」デヴィット・ロウリー

圧巻。脱帽。痛快。82歳のロバード・レッドフォードが、自らの引退作に、足を洗えない銀行強盗を描く、この作品を選んだなんて、なんと粋なこと!(しかも監督には新鋭監督をチョイス)可笑しくて、哀しくて、とてつもなく艶っぽい。「問題は僕がどこにいて何…

「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋次

ひとの幸せを喜び、ひとの悲しみに涙する。それは、寅さんだけでなく、おいちゃんも、おばちゃんも、さくらも、タコ社長だってそうだ。下町の人情がじんじんと沁みるシリーズ13作目。夏。花火。浴衣。寅さんが思わず「浴衣、きれいだね」と口にしてしまうほ…

「殺し屋1」三池崇史

再見。三池崇史監督が審査員長を務めた映画祭にて、映画を志す者に向けられたメッセージ「『生ぬるい映画に満たされた今を嘲笑うかのような快作』。または、『捻れに捻れた現実を、さらに捻じりあげるような快作』。なんでもいい。幸せな出会いを期待してい…

「アマンダと僕」ミカエル・アース

喪失。日常に開いた大きな穴は埋めようがないし、また、立ち直ったり、乗り越えたりできるものでもない。ただ、私たちができることは、絶望しながら生きる術を手に入れることだけだ。そんなとき、わずかでも気持ちを共有できるひとがいる、というのはこんな…

「ガリーボーイ」ゾーヤ・アクタル

世界に最も影響を与えた音楽はレゲエだと聞いたことがある。特定の人種、宗教に限らず、あらゆる人種や宗教の人々が、同じように奏で、歌っているからだ。カリブ海に浮かぶ小さな島国で生まれた音楽が世界を熱狂させたように、ニューヨークのブロンクスで生…

「男はつらいよ 私の寅さん」山田洋次

シリーズ12作目。寅さんの困った顔が好きだ。鈍感なようでいて、人の悲しみや苦しみには人一倍敏感で、頼まれてもいないのにいつもおどけてみせる。マドンナの岸惠子が「寅さんは、私のパトロンね」と言ったけど、ホント、寅さんはみんなにとって自分だけの…

「さよなら、退屈なレオニー」セバスチャン・ピロット

例えば、クラスの誰にも馴染めず、というよりも馴染まずに、窓際の席でずーっと外の景色を眺めているような。あるいは、グループの輪の中に入ってはいるものの、なんとなく違和感、というか居心地が悪そうな。いつもそんなコが好きだったなぁと遠い昔に思い…

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」山田洋次

11作目。シリーズ最高のマドンナであり、寅さんのソウルメイト、リリーこと、浅丘ルリ子がついに登場。突然だけれど、リリーは「100万回生きたねこ」だ。「いいなぁ。寅さんって、いいね」の彼女のつぶやきに、人を好きになっては振られ、それでもまた好きに…

「ワイルドライフ」ポール・ダノ

父親も、母親も、弱さや狡さを抱えた一人の人間なのだと理解するには14歳は早すぎる。まるで飼い殺されるかのように、じわじわ、じわじわと家族が崩壊するさまを、息子はじっと耐え、ただ茫然と見つめるしかない。ホント、地獄。こんなにも辛い映画はないな…

「そこのみにて光輝く」呉美保

たとえ絶望の淵にあろうとも、魂の純度が変わることはない。また、その高さは、社会的な成功、貧富とはまったく無関係だ。ときに、その魂の純度の高さは、不意に泣きたくなるような美しさをみせる。ようやくの映画「そこのみにて光輝く」。綾野剛、池脇千鶴…

「男はつらいよ 寅次郎夢枕」山田洋次

「いつもその人のことで頭がいっぱいよ。何かこう胸の中が柔らかーくなるような気持ちでさ」「その人のためなら何でもしてやろう。命だって惜しくない」と恋について力説する寅さん。無論、滑稽だけれど、なんだかじんわり沁みてくるのは、あまりに清らかで…

「ベン・イズ・バック」ピーター・ヘッジズ

子供の命を守ろうとする母親とはこんなにも凄まじいものなのか。薬物依存から抜けられない息子から、あらゆるリスクを排除しようと奔走する母親は、まるで外敵から本能的に子を守る野生動物のようだ。毎年、着実にキャリアを積み重ねるジュリア・ロバーツの迫…

「ロケットマン」デクスター・フレッチャー

映画はこれまでも、名曲が生まれる数々の瞬間を描いてきたけれど、この作品の「ユア・ソング」は屈指の素晴らしさ。そのメロディの美しさはまさしく魔法のようだった。あまりに繊細だったがゆえに、奇跡のように美しい曲が生まれ、そのことが一層、エルトン・…