Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「クレッシェンド 音楽の架け橋」ドロール・ザハヴィ

音楽には言葉がない。言葉がないから解釈を強制しない。共感よりも共鳴。響き合うというのはとても純粋な感覚だ。世界で最も解決が難しいとされる紛争地域、パレスチナとイスラエルの音楽家たちが奏でるラヴェルの「ボレロ」、パッヘルベルの「カノン」には…

「椿の庭」上田義彦

写真家・上田義彦が映画を撮った。妻と子供たちを撮り続けた彼の写真集「at Home」は忘れがたい一冊だ。写真も映画も記憶を留める装置。そんなことを思いながら観ていたら、切なくて、切なくて、切なくて。でも、それが人生。生きるということ。そして、やっ…

「淪落の人」オリヴァー・チャン

「世の中は説明できないことだらけ。けれど、心持ちは自分で選べる」とその人は言った。境遇や人種、文化が違う人たちであっても、同じ夢をみることができる。この映画が感動的なのは、同じ夢を見ることで、どん底にあったお互いの人生がきらきらと輝き始め…

「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ」リー・ダニエルズ

国家が何かを禁じる。その背景には、その物事に対する恐れ、とても不都合な真実が隠されている。多くのミュージシャンから曲を奪い、映画人を追放した「アメリカ」が、最も恐れた歌手はビリー・ホリデイで、最も恐れた曲は「奇妙な果実」であることは間違いな…

「ヤクザと家族 The Family」藤井道人

任侠、ヤクザ、暴力団、反社。時代によって変化した、その呼び名を並べるだけで、世間が彼らをどのように扱ってきたか、そして今、どのように扱っているのかがわかる。行き場のないはみ出し者たちが、ようやく見つけた「場」は、日本からどんどん消滅してい…

「ドリームプラン」レイナルド・マーカス・グリーン

ギャングがブロックごとに存在し、犯罪が蔓延している街・コンプトン。ドラッグの利権を巡って、黒人同士が殺し合う。そんな街から史上最強のテニスプレイヤー姉妹を誕生させた家族の実話を、最大限の敬意を払って、丁寧に描いたスポーツドラマ。結論。超一流…

「アイヌモシリ」福永壮志

アイヌの熊送りの儀式「イオマンテ」を初めて知った。ヒンドゥー教徒は牛を食べないし、イスラム教徒やユダヤ教徒は豚を食べない。また、日本人は鯨を食べるし、中国や韓国では犬を食べる。そして、それらにはすべて意味があり、そこで暮らす人たちの営みが…

「ブルー・バイユー」ジャスティン・チョン

国籍も、戸籍もない。それは決して珍しいことではない。生まれ故郷である祖国で育ち、結婚し、子を持ち、暮らすことが、当たり前ではない人たちが数多く存在していることを改めて思い知らされる。怖れはやがて、国家ぐるみの差別となり、差別は人と人を分断…

「ライダーズ・オブ・ジャスティス」アナス・トーマス・イェンセン

復讐のバイオレンス・アクションかと思いきやそんな安易な映画ではなかった。人間は「突然の理不尽な悲劇」に襲われたとき、捌け口とする怒りや憎しみ、それを向けるべき相手を探してしまうけど、そんなもので心の傷は癒されない。この作品が、どこか幻想的な…

「その日、カレーライスができるまで」清水康彦

ひとりの男がカレーをつくる。たったそれだけなのに、過去も、現在も、未来も、彼の人生の、その周りの人たちの人生のすべてが浮き立ってくる、プロットも、演出も、もちろん演技力も、そのすべてがスゴイ。ある意味で、これ以上ないほどロマンチックなラブ…

「ローラとふたりの兄」ジャン=ポール・ルーヴ

おっちょこちょいで、底抜けにお人よしだけど、どこかちょっとズルい。そんな愛おしい二人の兄が織りなす、妹をめぐるエスプリの効いた物語。頼れる人がいれば、人生どうにかなる。飄々としているようで心の奥底で慮っている。フランス人の本当のやさしさが…

「私はいったい、何と闘っているのか」李闘士男

どんなに不運で、ツイていなくても、闘っている人は無条件でカッコいい。そして、どんなに不甲斐なく見えても、誰もが「何か」と闘っていることを決して忘れてはならない。つまりは、生きている、それだけでカッコいいのだ。一隅を照らすひと。自分のいる場…

「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」マリア・シュラーダー

鉄腕アトムの最後を思い出した。手塚治虫が記した「進歩のみを目指して突っ走る科学技術がどんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくか」という言葉と共に。もしもアンドロイドを愛してしまったら。迷いに…

「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」スティーヴン・キジャック

学校帰りの東急東横線でよくスミスを聴いた。今思えば、1980年代のイギリスの閉塞感と、バブル崩壊後の日本の虚無感は、とても似通っていたのではないかと思える。あの頃、ヘッドホンから流れるスミスを聴くだけで、簡単に社会と断絶することができたし、そ…

「世界で一番美しい少年」クリスティーナ・リンドストロム&クリスティアン・ペトリ

事実はいつもスキャンダラス。#MeToo運動を例に挙げるまでもなく、芸能の歴史は搾取の歴史であることを、どこか頭の片隅に置いておく必要がある。そして、それは決して女性だけでなく、男性もまた犠牲者であるということも。「ベルサイユのばら」のオスカル…

「サマーフィルムにのって」松本壮史

無我夢中。好きという気持ちは、それだけで侵しがたく、最強で、何よりも尊い。勝新太郎を愛してやまない女子高生の映画愛は、メガホンを握った瞬間に黒澤明と同格なのだ。あまりにキラキラと眩しすぎて、気がついたらのめり込んで、最後には手に汗を握って…

「スティルウォーター」トム・マッカーシー

マット・デイモンは特別な俳優だ。アクション、ドラマ、SF、コメディ、そのすべてにおいて代表作があり、超一級の演技をみせる。忘れがたい作品がいくつもあるけど、中でも群を抜いて圧巻の演技をみせているのが本作だ。名優はその存在だけですべてを物語る。…

「男はつらいよ 噂の寅次郎」山田洋次

コレコレコレ。とことんお調子者で、おっちょこちょいで、喧嘩っぱやくて、惚れやすくって、人情深い。それを取り巻き、脇を固める「とらや」の面々。寅さん22作目はザ・男はつらいよ的テイスト満載の隠れた名作だった。それにしてもマドンナ役の大原麗子が、…

「竜とそばかすの姫」細田守

細田守監督は、デジタルも、アナログも、いずれも強く肯定しながら、同時に疑うことを忘れない。そして、彼の作品にいつも魅了されるのは、生きること、すなわち、命を、寸分の迷いもなく全肯定するからだ。中村佳穂をはじめとする天才たちの奇跡のコラボレ…

「いとみち」横浜聡子

おらんどみんな不確かだ。生きるってそういうことだべ。あの独特のなまりで語られたその台詞にほんとうに泣きそうになった。津軽三味線によって奏でられた民謡、ソウルミュージックが素晴らしく、人のつながりっていいなと、真っすぐシンプルに沁みてくる。…

「キネマの神様」山田洋次

かつて、松竹大船撮影所の敷地内にあった「鎌倉シネマワールド」に何度か足を運んだ。当時、小津安二郎や木下惠介、そして、大島渚、山田洋次、それから、山田太一もここで映画を撮っていたのかと思うと、なにやら感慨深いものがあった。シネマではなくキネ…

「アナザーラウンド」トマス・ヴィンターベア

人生は甘くほろ苦い。酒はときに救いとなるが、酒で身を滅ぼすこともある。魂を解放することが、良いことなのか、悪いことなのか、それはわからない。けれども、魂を解放しなければ「生きる」ことの真髄に触れられないことだけは確かだ。かつて、ドグマ95を…

「ラジオ・コバニ」ラベー・ドスキー

世界で起こっていることを私たちは知らない。メディアが真実を伝えるとは限らない。よくぞ映倫がこの映画をそのままDVDにしてくれたと思う。街のそこかしこに転がる遺体がまるでゴミのように回収される様は戦争の悲惨さをリアルに伝える。イスラム国に洗脳さ…

「プロミシング・ヤング・ウーマン」エメラルド・フェネル

いわゆるフェミニズムを描いた映画とは一線を画している。男性上位の社会に対する辛辣なメッセージを含みながら、主人公の女性が手を染めるのは、明らかな「復讐」であり、「犯罪」でもある。彼女を復讐や犯罪に駆り立てたのは、彼らであり、彼女たちであり…

「COLD WAR あの歌、2つの心」パヴェウ・パヴリコフスキ

ボーイミーツガール。男が女に出会うと1本の映画はできる。一切の無駄を排除したモノクロームの映像を彩る音楽とダンス。西へ、東へ、別れと再会、愛憎を繰り返すドラマティックな展開。衝動がすべて。ヌーヴェルバーグの精神を正統に継承した珠玉のラブスト…

「ローサは密告された」ブリランテ・メンドーサ

貧しさはモラルを奪い、人間をどこまでも卑しめる。街はスラム化し、薬物が蔓延し、警察は汚職にまみれている。それがフィリピンのマニラの現実だ。善も悪もなく生きる。ただ生きる。綺麗事が許されない世界には、想像を絶する強さと、美しさがあった。 映画…

「リスペクト」リーズル・トミー

ブルース、ソウル、ファンク、R&Bなど、あらゆるブラックミュージックの根底に流れているのは、敬意と尊厳、そして、悲しみだ。それらが欠落した音楽は、黒人が奏で、歌ったとしても、もはやブラックミュージックとは呼べない。偉大なシンガーたちが総じて「…

「モーリタニアン 黒塗りの記録」ケヴィン・マクドナルド

国家や宗教、政治や民族など、あらゆるしがらみを解き放ち、一対一の、人間と人間として対峙したときに初めて、ようやく真実は露わとなっていく。検閲によって黒く塗りつぶされるのは、不都合な真実であり、検閲する側の恐れだ。赦す、ということが、人間の…

「子供はわかってあげない」沖田修一

なにが素晴らしいかって、偏見がまったくないところだ。偏見のない人間は、とても寛容で、そして、何よりも自由だ。なんのしがらみも、遠慮もない世界では、人と人の間の壁はなくなり、こんなにもすべてがきらきらと輝くのかと、理想の世界を見せてもらえて…

「少年の君」デレク・ツァン

これだけ純粋に真正面から愛についての映画を撮られたらもう何も言うことはない。陰険ないじめも、熾烈な受験戦争も、ネグレクトや少年犯罪も、彼らが生きる「日常」はどこか虚無的で、二人でいる時間だけがリアルだった。愛は強く、美しく、犯しがたい。映…