Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「旅のおわり世界のはじまり」黒沢清

僕らを縛りつけて一人ぼっちにさせようとするもの。差別だったり、偏見だったり。それらをつくりだすのは、自分自身だったと気づいたとき、目の前の壁はガラガラと音を立てて崩れ落ち、世界がパッと広がっていく。気持ちが迷子になったときはウズベキスタン…

「帰れない二人」ジャ・ジャンクー

時代が変われば人間も変わる。それでも、変わらない、変われない情によって翻弄される人々を描く。ジャ・ジャンクーがチェン・カイコーの「黄色い大地」に影響され、映画を志したことを知り、深い感慨を覚える。第五世代から第六世代へ。こんなにも壮大なラブ…

「最初の晩餐」常盤司郎

秘密を共有する。それは家族が本当の家族になるための儀式だ。その秘密は、ときにひとを悲しませ、喜ばせ、また、怒らせたりもする。良くも悪くもそんな風に気持ちを搔き乱すのは家族だけだ。あのひとのあの料理をもう食べることができない。ここちの良い切…

「リチャード・ジュエル」クリント・イーストウッド

「すべての情報はプロパガンダである」ことを忘れてはならない。イーストウッドの映画にはいつもハッとさせられるけれど(彼の映画はすべて遺言のようだ)、本作は誰もが情報を発信し、メディアを持ちうる時代の「警句」ともいえる作品だった。決して他人の…

「初恋」三池崇史

やったもん勝ち。見るまえに跳べ。三池監督の映画を見終わると、いつもそんな風に感じさせられる。生首が転がるバイオレンスと、奇想天外で荒唐無稽なコメディ、そして、とてつもなく純粋無垢なラブストーリーがごちゃ混ぜとなった1本。つまり、映画は、もっ…

「北の果ての小さな村で」サミュエル・コラルデ

尊重してもらうためには相手を尊重しなければならない。人と人とが信頼し合うためには、年齢や性別、地位や立場に関係なく、互いに認め合う必要があるという当たり前を、この映画は思い出させてくれる。敬意こそが、世界を優しく、温かいものにするシンプル…

「ラストレター」岩井俊二

歳を重ねると、初恋の破壊力がすごい。人が人を想う気持ちを、ここまで純粋に、真正面からどストレートに表現されると、青臭いとか、恥ずかしいとか、そんなことはどーでもよくて、ずしん、と心に響いてくる。「BRUTUS」最新号もいっている。恋は、愛でも、…

「フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて」クリス・フォギン

常に死と隣り合わせの漁師たちには絆と呼ぶだけでは生ぬるいような結びつきがある。1752年のロックンロール。彼らが奏でる野太いハーモニー、漁の無事や成功を祈願し、生を歓び、死を悼むために、永く口ずさまれてきた歌には、なんとも言えず、真に迫るもの…

「テルアビブ・オン・ファイア」サメフ・ゾアビ

生前、立川談志が自らにつけた戒名は「立川雲黒斎家元勝手居士(たてかわうんこくさいいえもとかってこじ)」だ。どんな深刻な状況に陥っても「笑い」を忘れないというのは、人間に与えられた賢さであり、救いであり、最後の手段でもある。「笑い」は憎しみ…

「静かな雨」中川龍太郎

中川監督が「現代の寓話」と語ったその映画は、シンプルで美しく、そして、ささやかなラブストーリーだった。この不確かな世界の中で、唯一確かなのは、誰かを思いやる、純粋な優しさだ。足を引きずりながら一歩ずつ前進する青年と、記憶を留めることができ…

「読まれなかった小説」ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

「映画を文学へ近づけたい」と監督が語ったように、端々に文学的な匂いのする映画だった。ラストシーンに押し寄せるカタルシス、つまりは、心に溜まった澱のような感情の解放や浄化は、長い長い物語を読んだ後のそれと似ている。改めて思う。凡庸であること…

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」箱田優子

みんなそうだ。なりたい自分になりたくて、あがいて、もがいて、そのうち、なりたい自分を見失って、気づかないまま、一体なんにムカついているかもわからず、イライラして。これは、そのことを肯定もせず、否定もせず、ただ寄り添って、受け入れてくれる映…

「ザ・ピーナツバターファルコン」タイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ

子どもの頃に夢見ていたものや、憧れていたヒーローを、いつから忘れてしまったのだろう。魂の純度が高くないと、きっと、いつまで経っても、人生はツマラナイままだ。「友達ってのは自分で選べる家族だ」なんてほんとそれ。人生を豊かにしてくれるのはたっ…

「HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ」イライジャ・バイナム

恋をするのも、悪いことを覚えるのも夏、と相場は決まっている。観光客で賑わう海辺の小さな町で過ごす「行き場のない」少年のひと夏の体験は、危うく、そして、耽美だ。夏の終わりに観る青春映画。松任谷由実の名曲「Hello, my friend」をふと思い出す。 『…

「ひとよ」白石和彌

お互い唯一無二。かけがえのない存在であることは疑いようもない。が、樹木希林がいなくなり、日本映画界にぽっかりと空いてしまった大きな穴を埋められるとしたら、それは田中裕子しかいない。彼女が、夫を殺める母親を演じるなんて、これはもう事件なのだ…

「パラサイト」ポン・ジュノ

とにかく面白い。のだ。ほとんど「完璧」と呼んでいいこの作品を目にし、世界の巨匠たちが白旗を掲げ、打ちのめされていることからも、この映画の凄さは窺える。娯楽性と芸術性が極めて高い次元で融合した大傑作。手に汗握る予測不能のエンターテイメントの…

「わたしは光をにぎっている」中川龍太郎

さすが。センスは視点に表われる。働くこと。食べること。生きること。誰も気に留めないような日常の中に、優しさは溢れ、美しさは満ちている。そんな、つまりは暮らしが失われていく切なさを、天才・中川龍太郎監督が映像に遺した。タイトルは山村暮鳥の詩よ…

「家族を想うとき」ケン・ローチ

魂が揺さぶられる。ほどの体験は、例えば100本の映画を観たとしても、ほんの数本だ。けれど、ケン・ローチの映画には、高い確率でそれがある。善良なる人々が虐げられることへの慈しみと強い怒り。一度は引退を決意した83歳の監督が、こんなにも「攻め」の映…

「真実」是枝裕和

やっぱり、すごいなー。それは、カトリーヌ・ドヌーヴしかり、是枝監督しかり。これは、神から与えられたとしか思えないオーラを纏った女優と、映画に対する信じられないほどの実直さを持った監督が、出会うべくして出会った幸福な作品。超一流は言語や文化の…

「カツベン!」周防正行

私が小さかった頃はまだ、映画は特別な娯楽だったし、映画館は特別な場所だった。時は流れ、映画は身近になったけれど、神聖さが失われたことは否めない。活動弁士という、映画を「娯楽の王様」たらしめた先人たちと、活動写真(無声映画)への敬慕をいっぱ…

「ラスト・ムービースター」アダム・リフキン

人生において最も価値のあるものは思い出だ。誰と出会い、何をしたのか。何に笑い、何に泣いたのか。思い出が人生を豊かにし、思い出が人生を教えてくれる。バート・レイノルズの素晴らしい遺作。これが遺作だなんて、劇中の映画オタクに愛されるがごとく(彼…

「タロウのバカ」大森立嗣

とにかく不快だった。やがて、耐え難くなり、痛みとなった。社会に隠されているもの、いや、私たちが無意識に目を覆っているものが、すべて生々しく露わにされているからだ。狂気の塊のようなエージが、純粋すぎるスギオが、そして、神のようなタロウが、畏…

「おいしい家族」ふくだももこ

フツウとか、ジョーシキとか、そんなものはどーでもいいことを、映画はいつも教えてくれる。大事なのは、フツウじゃないことを受け入れること、その先にあるものを受け止めること。想像力を働かせることが、思いやりを生み、人を幸福へと導いていく。そんな…

「ピータールー マンチェスターの悲劇」マイク・リー

ケン・ローチともう一人、イギリスには、マイク・リーがいることを忘れてはならない。一大スペクタクル。国の行く末を左右した事件を、その国を代表する監督が撮ると、それはやっぱり「特別な映画」となる。非武装市民6万人を相手に、騎兵隊はサーベルを振り上…

「命みじかし、恋せよ乙女」ドーリス・デリエ

命みじかし恋せよ少女/朱き唇褪せぬ間に/赤き血潮の冷えぬ間に/明日の月日のないものを。嗚呼、なんて美しい日本語。黒澤明の「生きる」で志村喬が歌った「ゴンドラの唄」を口ずさむ樹木希林と、彼女が遺作で発する「あなた、生きてるんだから、幸せにな…

「サマーフィーリング」ミカエル・アース

この映画が「アマンダと僕」のミカエル・アース監督の作品だということを観終わってから知った。繰り返し「喪失」を描くこの映画監督は、夏の木漏れ日、山々の緑、湖で泳ぐ人々・・・、それから、夕景も、夜景も、過ぎ去っていく風景を絵画のように美しく描く。…

「ジョーカー」トッド・フィリップス

果たして、「ザ・マスター」以上の映画に出会えるのかと思っていたけれど、怪物ホアキン・フェニックス、ここに極まれり。心・技・体、そのすべてにおいて凌駕していた。ここまでくると、決して大袈裟な話ではなく、もはや神の領域。語るべき言葉さえも見つから…

「さらば愛しきアウトロー」デヴィット・ロウリー

圧巻。脱帽。痛快。82歳のロバード・レッドフォードが、自らの引退作に、足を洗えない銀行強盗を描く、この作品を選んだなんて、なんと粋なこと!(しかも監督には新鋭監督をチョイス)可笑しくて、哀しくて、とてつもなく艶っぽい。「問題は僕がどこにいて何…

「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋次

ひとの幸せを喜び、ひとの悲しみに涙する。それは、寅さんだけでなく、おいちゃんも、おばちゃんも、さくらも、タコ社長だってそうだ。下町の人情がじんじんと沁みるシリーズ13作目。夏。花火。浴衣。寅さんが思わず「浴衣、きれいだね」と口にしてしまうほ…

「殺し屋1」三池崇史

再見。三池崇史監督が審査員長を務めた映画祭にて、映画を志す者に向けられたメッセージ「『生ぬるい映画に満たされた今を嘲笑うかのような快作』。または、『捻れに捻れた現実を、さらに捻じりあげるような快作』。なんでもいい。幸せな出会いを期待してい…