Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「ハニーボーイ」アルマ・ハレル

母親が麻薬中毒者、父親がアルコール依存、という映画を3本立て続けに観る。とても胸を締めつけられたのは、いずれの子供も、最後まで親を見捨てなかったことだ。親は子を持つかどうかを選べるが子は親を選べない。子供のやさしさに甘えてはならない。毒親の…

「酔うと化け物になる父がつらい」片桐健滋

誰もがもやもやした気持ちを抱えながら生きている。それを教えてくれたのは映画だ。自分のほんとの気持ちなんてわかるわけもなく、なんとなく気がついたとき、大抵の場合、伝えるべき相手はもういない。憎しみなのか、愛情なのか、もやもやした気持ちが、愛…

「コロンバス」コゴナダ

好きなものを語るひとが好きだ。好きなものを語るとき、そのひとは、いちばんそのひとらしい顔をしている。モダニズム建築の宝庫として知られるインディアナ州コロンバス。建築を巡り、建築を語ることで、徐々に解されていく屈折した心。建築っていいな。ミ…

「レ・ミゼラブル」ラジ・リ

権力をもった人間が絶対に失ってはならないものは想像力だ。想像力を失った人間は、警察だろうが、政治家だろうが、ギャングだろうが、同じ穴の狢だ。抑圧され、虐げられた者たちの怒りが爆発するラスト30分。サイレントマジョリティの声なき声に耳を傾けよ…

「幸せへのまわり道」マリエル・ヘラー

誰からも愛されるということは、誰よりも孤独であるということに等しい。ともすると、聖人君主として崇められるだけの国民的英雄の内面、優しさや穏やかさの中にある気高さ、寂しさを、トム・ハンクスが見事に表現している。名優は一瞬にして見る者を物語の中…

「その手に触れるまで」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

正義は恐ろしい。誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪になりうることを、絶対に忘れてはならない。そして、主義や信条、思想が異なったとしても、人と人は手を取り合えるということも。巨匠ダルデンヌ兄弟のカメラは、加担することなく、ただそこに「在…

「風の電話」諏訪敦彦

こういう映画は言葉にならない。言葉にできない。悲しみに寄り添うなんておこごましい。耐えがたい絶望を、その小さな身体で受け止める少女を、ただ茫然と見つめるしかできない。ドキュメンタリーではないが、フィクションでもない、そんな映画体験。ひとり…

「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」ダニエル・シャイナート

罪のない者だけが石を投げよ。とイエスは言った。たまたま通りすがって罪を目にしたような当事者以外の人間が、血相を変えて赤の他人を断罪し、暴言を吐き捨てるネット時代にあって、いろいろ考えさせられる映画だった。罪は罰せられ、その一方で、赦されも…

「よこがお」深田晃司

愛情はいとも簡単に憎悪に変わり、信頼や好意は一瞬で崩れ落ちる。人間ほど曖昧で危ういものはないのだと、多くの映画が語るけど、そこに哀しみや、かすかな光を感じさせるかどうかが肝心なのだ。深田晃司監督は人間をとことん抉る。抉りまくる。つくづくす…

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」山田洋次

シリーズ最高傑作との呼び声も高い15作目。寅さんとリリーはほんとうによく似ている。けんかっ早くて、意地っ張りで、それでいて、やさしすぎる。お互いのことをわかりすぎるというのはせつない。そして、やっぱり「メロン騒動」は何度観てもサイコー。平和…

「在りし日の歌」ワン・シャオシュアイ

185分の壮大な叙事詩。どんなに政治が介入しようとも、どんなに社会が変容しようとも、どんなに絶望の淵に立たされようとも、夫婦はともに生きていく。人を思いやり、赦し、すべてを受け入れたときに訪れる、ささやかなしあわせ。これは、深い哀しみを抱えな…

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」ウディ・アレン

80歳を超えて、こんなにも瑞々しい「恋」の映画を、軽々と撮り上げてしまう感性って! ニューヨークで繰り広げられる、コミカルでシニカル、オシャレで軽妙な「恋」の物語。ハリウッドから干されかけているウディ・アレンの映画がお蔵入りになるのはやっぱり…

「男はつらいよ 寅次郎子守唄」山田洋次

シリーズ14作目。久しぶりの寅さん。寅さんの優しさはその出自からくる悲しみの大きさと無縁ではない。手に負えるか、負えないかは置いておいて、想像する悲しみに耐えきれず、放っておけないのだ。思えば、寅さんはいつも、誰かを放っておけないがために、…

「ポップスター」ブラディ・コーベット

運命は不思議だ。些細な出来事の重なりがすべてを変える。銃の乱射で不差別に人が殺されることが、もはや、フツウになってしまった時代にスター(偶像)であること。あり続けること。甘い蜜を吸おうとするギョーカイ人が、ペラペラのジャーナリズムを盾にし…

「象は静かに座っている」フー・ボー

デビュー作にして遺作。その作品が映画史に名を刻むに違いないことは、果たして偶然なのか、必然なのか。フー・ボー監督の自死の原因といわれる「再編集」の要請。その必要がなかったことを、一瞬一瞬に魂が刻み込まれた234分の、自然光の長回しによって生み…

「ジョン・F・ドノヴァンの生と死」グザヴィエ・ドラン

グザヴィエ・ドランと同時代を生きていることを映画の神様に感謝している。ドランは絶望を描きながら、そこに差し込む光を忘れない。孤独を描きながら、愛の美しさを喚起する。ナタリー・ポートマンに震え、キャシー・ベイツに慄き、スーザン・サランドンに絶句…

「旅のおわり世界のはじまり」黒沢清

僕らを縛りつけて一人ぼっちにさせようとするもの。差別だったり、偏見だったり。それらをつくりだすのは、自分自身だったと気づいたとき、目の前の壁はガラガラと音を立てて崩れ落ち、世界がパッと広がっていく。気持ちが迷子になったときはウズベキスタン…

「帰れない二人」ジャ・ジャンクー

時代が変われば人間も変わる。それでも、変わらない、変われない情によって翻弄される人々を描く。ジャ・ジャンクーがチェン・カイコーの「黄色い大地」に影響され、映画を志したことを知り、深い感慨を覚える。第五世代から第六世代へ。こんなにも壮大なラブ…

「最初の晩餐」常盤司郎

秘密を共有する。それは家族が本当の家族になるための儀式だ。その秘密は、ときにひとを悲しませ、喜ばせ、また、怒らせたりもする。良くも悪くもそんな風に気持ちを搔き乱すのは家族だけだ。あのひとのあの料理をもう食べることができない。ここちの良い切…

「リチャード・ジュエル」クリント・イーストウッド

「すべての情報はプロパガンダである」ことを忘れてはならない。イーストウッドの映画にはいつもハッとさせられるけれど(彼の映画はすべて遺言のようだ)、本作は誰もが情報を発信し、メディアを持ちうる時代の「警句」ともいえる作品だった。決して他人の…

「初恋」三池崇史

やったもん勝ち。見るまえに跳べ。三池監督の映画を見終わると、いつもそんな風に感じさせられる。生首が転がるバイオレンスと、奇想天外で荒唐無稽なコメディ、そして、とてつもなく純粋無垢なラブストーリーがごちゃ混ぜとなった1本。つまり、映画は、もっ…

「北の果ての小さな村で」サミュエル・コラルデ

尊重してもらうためには相手を尊重しなければならない。人と人とが信頼し合うためには、年齢や性別、地位や立場に関係なく、互いに認め合う必要があるという当たり前を、この映画は思い出させてくれる。敬意こそが、世界を優しく、温かいものにするシンプル…

「ラストレター」岩井俊二

歳を重ねると、初恋の破壊力がすごい。人が人を想う気持ちを、ここまで純粋に、真正面からどストレートに表現されると、青臭いとか、恥ずかしいとか、そんなことはどーでもよくて、ずしん、と心に響いてくる。「BRUTUS」最新号もいっている。恋は、愛でも、…

「フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて」クリス・フォギン

常に死と隣り合わせの漁師たちには絆と呼ぶだけでは生ぬるいような結びつきがある。1752年のロックンロール。彼らが奏でる野太いハーモニー、漁の無事や成功を祈願し、生を歓び、死を悼むために、永く口ずさまれてきた歌には、なんとも言えず、真に迫るもの…

「テルアビブ・オン・ファイア」サメフ・ゾアビ

生前、立川談志が自らにつけた戒名は「立川雲黒斎家元勝手居士(たてかわうんこくさいいえもとかってこじ)」だ。どんな深刻な状況に陥っても「笑い」を忘れないというのは、人間に与えられた賢さであり、救いであり、最後の手段でもある。「笑い」は憎しみ…

「静かな雨」中川龍太郎

中川監督が「現代の寓話」と語ったその映画は、シンプルで美しく、そして、ささやかなラブストーリーだった。この不確かな世界の中で、唯一確かなのは、誰かを思いやる、純粋な優しさだ。足を引きずりながら一歩ずつ前進する青年と、記憶を留めることができ…

「読まれなかった小説」ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

「映画を文学へ近づけたい」と監督が語ったように、端々に文学的な匂いのする映画だった。ラストシーンに押し寄せるカタルシス、つまりは、心に溜まった澱のような感情の解放や浄化は、長い長い物語を読んだ後のそれと似ている。改めて思う。凡庸であること…

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」箱田優子

みんなそうだ。なりたい自分になりたくて、あがいて、もがいて、そのうち、なりたい自分を見失って、気づかないまま、一体なんにムカついているかもわからず、イライラして。これは、そのことを肯定もせず、否定もせず、ただ寄り添って、受け入れてくれる映…

「ザ・ピーナツバターファルコン」タイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ

子どもの頃に夢見ていたものや、憧れていたヒーローを、いつから忘れてしまったのだろう。魂の純度が高くないと、きっと、いつまで経っても、人生はツマラナイままだ。「友達ってのは自分で選べる家族だ」なんてほんとそれ。人生を豊かにしてくれるのはたっ…

「HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ」イライジャ・バイナム

恋をするのも、悪いことを覚えるのも夏、と相場は決まっている。観光客で賑わう海辺の小さな町で過ごす「行き場のない」少年のひと夏の体験は、危うく、そして、耽美だ。夏の終わりに観る青春映画。松任谷由実の名曲「Hello, my friend」をふと思い出す。 『…