何も考えず、ただただ楽しく生きていければいいけど、人生はそんなに甘くない。人は人に影響を与え、与えられることで、やがて、何者かになっていかなければならない。嗚呼、今の若者は、生きること、愛することについて、こんな風に生きづらさを感じているのかと、胸が苦しくなって、そのうち、気がついたら背中を押されていた。
何も考えず、ただただ楽しく生きていければいいけど、人生はそんなに甘くない。人は人に影響を与え、与えられることで、やがて、何者かになっていかなければならない。嗚呼、今の若者は、生きること、愛することについて、こんな風に生きづらさを感じているのかと、胸が苦しくなって、そのうち、気がついたら背中を押されていた。
ヨーロッパはれっきとした階級社会だ。進学できる学校はおろか、言葉にも違いがあることを、私たち日本人は、どのくらいリアルに想像できるだろう。そんな封建的な階級格差、パワーバランスのまやかしやインチキを、嘲笑しながら暴き倒したような痛快なブラックコメディ。お金も、容姿も、肩書も、すべての虚飾が剥がれ落ちたとき、その人間のほんとうの真価が問われる。そして、この映画をパルムドールに選んだカンヌは、やっぱり信頼に値する。
芸術が狂気を呼び覚ますのか、狂気が芸術を呼び覚ますのか、それはわからない。芸術が、人間をそれ以上の存在たらしめるもの、神の領域に触れようとすればするほど、やがて「健全さ」は喪失されていく。面白いのは、この映画で主役を務めたケイト・ブランシェットもまた、人間を超え、神の領域に近づこうとする女優であるということだ。
せつない。どんどん記憶を失っていく母と、それに抗うように、どんどん記憶を蘇らせていく息子。心の溝を埋めようにも埋められない。時間を取り戻そうにも取り戻せない。そのことが、殊の外、どうにもせつなすぎて。記憶はとても曖昧だけれど、愛は確かで、いつまでも残る。それだけが唯一の希望だ。