Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」ロジャー・ミッシェル 

とても成熟した映画だった。人間の悲しみ、やさしさ、そして、強さが、丹念に描かれた映画だった。死を前にしたとき、法律や倫理は意味をなさなくなり、母子や夫婦ではなく、人間と人間になる。人生は、困難に満ちていて、ままならず、それでも素晴らしい。シリアスなテーマにユーモアを持ち込んだロジャー・ミッシェルという監督はやはり只者ではない。

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映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』オフィシャルサイト 2021年6/11公開

「#ハンド全力」松居大悟

何を隠そう高校時代はハンドボール部だった。ので、わかる。そうそう、なんとなくこんな感じだった。どーでもいいこと、馬鹿馬鹿しいこと、目の前にあること。結局のところ、何にでもすぐ「全力」になっちゃうのが青春なんだ。松居監督はいつも、死ぬほどカッコ悪い奴らを、死ぬほどカッコ良く描き切る。対象に対する愛が溢れている。

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映画『#ハンド全力』ハッシュタグハンドゼンリョク公式サイト

「孤狼の血 LEVEL2」白石和彌

古くは鶴田浩二博徒シリーズに高倉健の日本侠客伝シリーズ。そして、「仁義なき戦い」を筆頭とする実録シリーズ。数々の傑作を生んできた東映が、本気を出してヤクザ映画を撮っているのが「孤狼の血」だ。コンプライアンス100%無視の、暴力、暴力、暴力。欲望と裏切りに垣間見える、それぞれの正義が痛々しい。この映画によって、白石和彌深作欣二に、鈴木亮平菅原文太と肩を並べた。

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映画『孤狼の血 LEVEL2』公式サイト

「サンドラの小さな家」フィリダ・ロイド

法律がDVを犯罪として認めてから、わずか20年しか経っていない。そして、被害を受けたとしても、離婚率が高くないのが、この犯罪の難しいところだ。与えられた傷は、そう簡単に癒されるものではないけど、傷口に手を添えてくれる人たちは必ずいる。助けを求める人たちに手を差し伸べる人間でいたい、と強く思わせてくれる映画だった。

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映画『サンドラの小さな家』公式サイト

「GQ JAPAN」2022年1月&2月合併号

淀川美代子さんの訃報に一抹の寂しさを感じていたところに、GQ JAPANの編集長である鈴木正文さんの退任を知った。いつも足を運ぶヘアサロンでは、いつの間にか雑誌はiPadで提供されるようになってしまったけれど、GQとCasa BRUTUSだけは紙の雑誌が鏡の前に置かれ、毎月必ずGQを手に取り、巻頭にある鈴木編集長のコラムから目を通すのが密かな楽しみだった。

最初に雑誌に夢中になったのは宝島だ。1992年、一般紙で初めてヘアヌードを掲載し、エロ化する前の宝島には、音楽や文学など、まさしく黄金期の80年代のポップカルチャーが溢れていて、高校時代、パンクロックに傾倒し、モッズカルチャーに憧れ、東京に住もうと決めたのもこの雑誌の影響だった。

話は脱線したが、いわば当時の宝島と同じように、ここ数年、どこにも書かれていないホンモノの政治や文化、貧困や差別、偏見について、深く教えてくれたのはGQだった。

GQといえば、ファッション誌の括りになるんだろうけど、その編集のディテールに据えられていたのは(例え小さく無名であったとしても)闘う者たちへの賛歌であり、その根幹にあったのは、鈴木正文という一人の人間の見識だった(と勝手に思っている)。

鈴木編集長が綴る文章にはいつも胸が熱くなったし、自分の思考に大きな衝撃と影響を与えた、忘れられないコラムがいくつかある。

見識とは「物事の本質を見通す、すぐれた判断力。また、ある物事についてのしっかりした考え、見方」と広辞苑にある。編集長が変わると、残念ながら、間違いなく雑誌は変わる。日本から見識のあるメディアがまた一つ消えそうなことがとても残念でならない。


鈴木編集長の最後の巻頭コラムは下記で読めます。

勇者とはだれか──GQ JAPAN編集長・鈴木正文
https://www.gqjapan.jp/.../article/20211122-editors-letter

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