ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「セイント・フランシス」アレックス・トンプソン

34歳と6歳。年齢を超えて、人は人に影響を与えることができるし、お互いを思いやり、友情にも似た結びつきを得ることもできる。それは希望であり、そして、とても素敵で、感動的なことですらある。生理、避妊、中絶・・・。(子供もいながら)47年以上も生きて…

「トップガン マーヴェリック」ジョセフ・コシンスキー

オープニング。「トップガン アンセム」から名曲「デンジャー・ゾーン」が流れるだけで、とんでもない高揚感。前作でメガホンを取ったトニー・スコットに捧げられたオマージュ全開、36年振りの続編を観ながら感じるのは、80年代の圧倒的なパワーだ。スカッと…

「死刑にいたる病」白石和彌

口が達者で、誇大な傾向があり、病的な虚言を繰り返し、衝動的で、罪悪感(良心)が欠如している。そして、何よりも、他人を支配しようとする傾向がある。そんなサイコパスを演じた阿部サダヲが、あまりに「いい人」でリアルだった。人間とはいとも不可解で…

「アイ・アム まきもと」水田伸生

合理化が止まらない。0か1かで判断される世界は「効率」こそが優先すべき価値となり、そこに人間の感情が入り込む隙はない。心にズケズケと入り込んでくる牧本は、少しどころか、今となってはかなり迷惑だけど、じんわりと温かい。おせっかいが難しい時代の…

「ぜんぶ、ボクのせい」松本優作

ぜんぶ、ボクのせい。みんながそう思えば、ほんの少し、世界はやさしく、生きやすくなる。そんなことを考えながら、エンドロールに流れる大瀧詠一の「夢で逢えたら」を聴いていた。無責任な大人と孤独な少年。叫べ、叫べ、叫べ。歪みまくった社会のリアルが…

「戦争と女の顔」カンテミール・バラーゴフ

戦争の悲劇は多くの人が殺されるからではない。悲惨なのは、ごく普通に生きるはずだった、生きたいと思っていただけの、何百万人という人の人生、その子供たち、また、孫たちの人生をも狂わせてしまうことだ。一度始まった戦争は終わらない。未来を傷つける…

「ほとぼりメルトサウンズ」東かほり

鎮魂。即ち、死者の魂を鎮めるということは、生きている者の気持ちを収めるということでもある。妹が聞くはずだった「一生分の音」を、カセットテープ、アナログの録音機器で集めて「音の墓」に埋める。弔うという機会も、場所も、どんどん失われていく今、…

「川っぺりムコリッタ」荻上直子

生きることは生と死の狭間にいること。友達でも家族でもない。けど、つながっている。それはきっと、日本のとてもいい風景だ。ご飯は誰かと食べるとおいしい。しかも、大人数で食べれば食べるほどおいしい。みんなで食卓を囲んですき焼きを食べるシーン、最…

「ドライビング・バニー」ゲイソン・サヴァット

人生は公平ではない。親を選ぶことはできないし、また、子供のうちは、環境や、置かれている状況を変えることも困難で、差別や偏見だってある。公平なものがあるとするなら、「選択する」という権利くらいか。絶望して自暴自棄になるか、屈せず、自らの遺志…

「ベイビー・ブローカー」是枝裕和

父と母が子を育てる。是枝監督はそれが当たり前でないことをいつも私たちに提示する。実の父母に育てられることが、必ずしも幸せだとはいえないが(そう言い切ってしまうことも憚られるが)、育てられなかったことの棘は、いつまでもチクチクとずっと心の奥…

「男はつらいよ 寅次郎春の夢」山田洋次

寅さん24作目。融通が利かないようで、いったん気が合うと、どこまでも人情深く、やさしい。寄り添ってくれる。日本人だろうが、アメリカ人だろうが、そりゃあ、寅さんに魅せられるわ。「日本の男はそんなこと言わない。背中を向けて黙って去る。それが日本…

「神は見返りを求める」𠮷田恵輔

承認欲求は、もっと、もっと、もっと、と私たちを駆り立てる。駆り立てられた人間は、倫理も道徳もかなぐり捨てて、より一層、もっと過激になるよりほかない。視聴回数や「いいね」の先にあるものは一体なに? 炎に包まれていくぬいぐるみも、目的なきYouTub…

「ふたつの部屋、ふたりの暮らし」フィリッポ・メネゲッティ

これからの人生を誰とどう生きていくか。何のしがらみもなく、自由に選択をするということが、殊のほか難しいことを私たちは知らない。人を愛するには自由であること、自由であるには闘わねばならないことを、この映画は教えてくれる。 映画『ふたつの部屋、…

「なまず」イ・オクソプ

古めかしい言い方をすると「映画の文法」とでも言うべきか。例えば、ウェス・アンダーソンやアキ・カウリスマキ、コーエン兄弟の映画を観ているような、独特のオフビート感がたまらなく心地よかった。飄々としたコメディだけど、強く印象に残るのは、ちょいち…

「わたしは最悪。」ヨアキム・トリアー

人生におけるあらゆる選択は、すべてが正しいともいえるし、間違っているともいえる。大事なのは、どのように自らで折り合いをつけ、責任を取り、受け入れていくかということだ。泣いても笑っても、最悪でも最高でも、一度きり。人生について深く深く考えな…

「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」エマニュエル・クールコル

劇中にて囚人たちが演じた戯曲「ゴドーを待ちながら」の「ゴドー」が「God」の暗喩だという解説を読むとグッと深みが増してくる。神は、ときに想像を絶する試練を人間に与えるけれど、そうした極限の中で、その人がホンモノか、ニセモノかが問われる。神から…

「ひとくず」上西雄大

目を背けて耳を塞ぎたくなる光景も、きっとすべてがリアルなのだ。いや、現実はさらに過酷で、もっと悲惨なのかもしれない。普通に生きていると、ついつい忘れてしまいそうになるけど、人生はどうしようもなく不条理で、不平等この上ない。それでも。生きる…

「メタモルフォーゼの縁側」狩山俊輔

共鳴。好きなものやことをその気持ちごと分かり合う。それはきっとどんな感情よりも嬉しく豊かでかけがえのないものだ。ボーイズ・ラブに魅せられた75歳の老婦人には照れも衒いもない。「好き」という感情がただただ純粋で冒しがたいものだと思わせてくれる。…

「恋は光」小林啓一

人生でもっとも美しいものは恋だ。それは間違いない。それでいて、厄介で、生生しく、野蛮で、恐ろしい。つまりは、不可思議なものだ。そんな不可思議なものの正体に、少しでも近づこうと、もがいたのがこの映画だ。結論。そして、やっぱり恋は美しい。 映画…

「お嬢ちゃん」二ノ宮隆太郎

詩人・茨木のり子は「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」と書いた。「もはや/いかなる権威にも倚りかかりたくはない/ながく生きて/心底学んだのはそれぐらい」とも。「どいつも、こいつも、くだらない」と吐きだす主人公・みのりの苛立ちは、し…

「流浪の月」李相日

魂と魂の揺るがない結びつき。そのことを信じてみる。そこから映画はスタートした。その李監督の言葉がこの映画の本質を物語っている。これは愛なのか、それとも、それ以上のものなのか。美しものなのか、汚れたものなのか。つまりは、信じるのか、信じない…

「とんび」瀬々敬久

親だけが子育てしていると思ったら大間違い。知らず知らずのうち、人と人とのかかわりの中で、子供は成長し、強く、やさしくなっていく。支えながら、支えられながら、笑ながら生きていこう。そうか。親は海にならなきゃいけないのか。 映画『とんび』公式サ…

「三姉妹 -ThreeSisters-」イ・スンウォン

いけしゃあしゃあと平然と嘘をつく。ぎりぎりの状態で生きている三姉妹の叫びが、悲痛でもあり、美しくもあった。必死に生きることがこれほどまでに切実に響いてくるとは。日常的に暴力をふるう父と、それを見て見ぬふりをする母。その犠牲となるのはいつも…

ベストテン2022

2022年もあと2日。今年観た映画は85本。昔のような本数は観れませんが、その分、一つひとつの作品としっかり向き合えているような気がします。 さて、年末恒例の、特に印象に残った映画は、 「クイーン&スリム」メリーナ・マツーカス「空白」吉田恵輔「茜色…

「リコリス・ピザ」ポール・トーマス・アンダーソン

ブギーナイツ、マグノリア、パンチドランク・ラブ、ゼア・ウィル・ビー・ブラッド、ザ・マスター。泣く子も黙るフィルモグラフィー。天才と呼べる数少ない映画監督のひとり、ポール・トーマス・アンダーソンが描く1970年代のアメリカ、青春グラフィティ、ラブロマン…

「峠 最後のサムライ」小泉堯史

武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり。生は死、死は生。つねに死を傍らに感じ、意識し、覚悟することで、生が浮かび上がってくる。つまり、どう生きるか、生き様を見いだすことが侍の本懐だ。黒澤明の系譜を正統に受け継ぐ監督・小泉堯史の描く日本はいつも凛と…

「カモン カモン」マイク・ミルズ

自分の子供が生まれて感じたのは、彼に(彼と同世代の子供たちにも)、色々なことを教えられるということだ。それは、忘れていたことを思いだすとか、改めて再認識するとか、そんな上から目線の傲慢なものではなく、新たな発見、または、驚きと言ってもいい…

「男はつらいよ 翔んでる寅次郎」山田洋次

寅さん23作目。どうしようもなくなったとき、寅さんにすがりつきたくなる気持ち、よくわかる。せっかちでおっちょこちょい、どちらかといえば頼りないのだけれど、寅さんに「大丈夫!」と言ってもらえたら、なんでだろう、きっと大丈夫な気がするのだ。冷静…

「林檎とポラロイド」クリストス・ニク

不思議な映画だった。記憶を失くしても身体は憶えているのだろうか、とか、感覚と記憶を失うとしたらどっちが不幸なのか、とか、記憶は人生にどんな喜びと悲しみをもたらすのか、とか、いろんなことを考えた。シュールでユーモラス、悲哀に満ちているけれど…

「スウィート・シング」アレクサンダー・ロックウェル

素晴らしかった! そこにある理不尽さに、悲しみに、弱さに、喜びに、やさしさに、温もりに、希望に、ずっと泣きそうだった。米インディーズのカリスマだとか、音楽ファンにはたまらないトラックの数々だとか、過去の名作へのオマージュだとか、タランティー…