ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

書籍

「たいようのおなら」灰谷健次郎 編/長新太 絵

「たいようがおならをしたので/ちきゅうがふっとびました/つきもふっとんだ/星もふっとんだ/なにもかもふっとんだ/でも うちゅうじんはいきていたので/おそうしきをはじめた」という破壊力抜群の作品から始まる子供たちによる詩集。編者である灰谷健次…

「タモリ学」戸部田誠

タモリは芸人ではなく哲学者であり思想家だ。意味や観念、人間を「かくあるべき」と縛りつけようとするもの、そのすべてを疑い、嫌悪し、拒絶する。あらゆる執着から離れ「自由」になるために「タモリ」は「タモリ」として存在している。彼の数多くの名言の…

「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子

学生の頃、信仰もないくせに枕元にいつも聖書を置いていた。眠気に誘われるまでの間、なんとはなしに読んでいると、まれに目から鱗が落ちるような言葉に出会った。例えば、聖書には、神さまは「試練に耐える力」と共に「逃げ道」をも備えていてくれる、と書…

「空也上人がいた」山田太一

生きるということは罪を重ねるということでもある。そうした、誰にでも当たり前に存在する人間の弱さや脆さのようなものを、肯定するでも、否定するでもなく、ただただ包み込んでしまうやさしさが山田太一の作品にはある。そして、そのやさしさは、世俗的な…

「創作の極意と掟」筒井康隆

小説とはなにか。作家歴60年の筆者が、その圧倒的な知識と経験によって、人生をかけて思索し、体得してきたものすべてを、惜しみなくさらけだした一冊。そこで一貫して心に留められているのが「読み手」の存在であることがとても感動的だった。単なるエッセ…

「手仕事の日本」柳宗悦

名で残ろうとするのではなく物で残ろうとした多くの工人たち。「自分の名を誇らないような気持で仕事をする人たち」のことをもっと讃えねばならないと柳宗悦は説いた。そんな彼が日本全国を歩いて記した手仕事の記録。「良い品物の背後にはいつも道徳や宗教…

「人質の朗読会」小川洋子

「放っておいたら素通りされてしまう、ひっそりとした場所に隠れている」もの。その「営みを間違いなくこの世に刻み付けるために」小説を書いている。作中に登場する作家の言葉はまるで小川洋子自身が発した言葉のようだ。小さきものを見過ごさず、微かな声…

「天才 勝新太郎」春日太一

自らの理想を追い求めるあまり、まわりが見えなくなり、どんどん孤立を深めていく。最後まで「勝新太郎」であることを選んだ(選ばざるを得なかった)、底抜けに純粋で、不器用な男の一生が、関係者の証言をもとに綴られる。豪快な伝説の陰に隠れた人間・勝新…

「まど・みちお 人生処方詩集」詩と絵 まど・みちお/選詩 市河紀子

詩人まど・みちおは「かけがえのない生命のいちばん奥に、なにが秘められているのか」をずっと見つめつづけて詩にしてきた、と選詩者の市河紀子さんは書く。トンボ、チョウチョウ、クモ、カニ、スズメ、アリ、ナマコ、ケムシ、ノミ。どんなに小さな動物や昆虫…

「春宵十話」岡潔

かつて日本に「計算も論理もない数学をしてみたい」と語った数学者がいたことを知ったのはつい最近のことだ。彼はまた「数学は生命の燃焼によって作る」という美しい言葉も遺している。哲学なき科学、よく生きようとする努力のない科学には、なんの意味もな…

「土を喰う日々」水上勉

例えば、四月。山菜について。「氷がとけ、土がとけ、その養分を吸って芽ぶいた草々の、いのちのつよさと美しさが、胸にこみあげてくる」と著者は書く。一日に三回、あるいは二回。精進といえども、喰うことはすべて「いのち」をいただくということであり、…

「粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯」城山三郎

政治家にしろ、実業家にしろ、明治から昭和にかけて名を遺した人たちは、とてつもなくスケールが大きい。その仕事の根幹には、日本はどうあるべきか、という問いへの、それぞれの揺るぎのない信念が据えられている。そして、彼らはホントにオシャレ。元国鉄…

「美しく怒れ」岡本太郎

岡本太郎はいつも人間を卑しめるものに猛烈に怒っていた。「瞬間瞬間に炸裂し、過去も、先のことも考えない」生き方を貫いていた。人に好かれようとせず、独りで立ち、憎しみでも、ましてや、恨みでもない、腹の底から湧きあがる「純粋な衝動」を爆発させて…

「絶叫委員会」穂村弘

日常に溢れる気になる言葉を独自の感性で集めた、現代を代表する歌人による抱腹絶倒の名言集。言葉を大切にする人はその言葉を発した人を重んじる。どんな言葉にも話し手がいて、その人がその言葉を発する、いかんともしがたい理由があるからだ。言葉から人…

「寡黙な死骸 みだらな弔い」小川洋子

優れた小説は日常や常識からかけ離れている。頼りになるのは私たちの想像力だけだ。グロテスクで官能的。歪なフェティシズム。11の残酷な死と、弔いの物語を描きながら、その根底に、生きるものへの敬意、温かさ、美しさ、やさしさが脈々と流れている。それ…

「奇想の系譜」辻惟雄

岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳。「因襲の殻を打ち破る、自由で斬新な発想」を持った「奇想」な天才画家たち。日本の近代絵画史において、本流から排除され、無視され続けてきた彼らに光をあてた著者の功績は限りなく大きい…

「ことばの食卓」武田百合子/画・野中ユリ

食べることは生きることであり、生きることはなんだか物悲しい。食べものを通して語られる思い出がリアルなのは、味覚が記憶を強烈に呼び覚ますからだろうか。ものを書くということを生業とする人の文章は本当にすごい。情景がありありと浮かんでくる。これ…

「デザインのめざめ」原研哉

例えば「明朝体」。「中国で象形文字が発明されて実に数千年かかってこの形に到達した。そういう密やかなものに、文化の質を支える美が潜んでいる」のだという。良いデザインは、そのモノ自体をカッコよく、美しく見せるだけでなく、そのまわりのものにも良…

「十二人の手紙」井上ひさし

伝えたいことをただ伝えるのではなく、趣向を凝らす、というところにエンターテインメントの醍醐味がある。超一流のプロフェッショナルの仕事に触れると、いつもそのことに気づかされる。また、伝えるという機能において手紙ほど優れたメディアはない。行間…

「かないくん」谷川俊太郎 作/松本大洋 絵

人生をかけて言葉を紡いできた詩人と真摯に絵を描いてきたマンガ家が手がけた絵本はやっぱりすごかった。これまでも死をテーマにした小説や映画にたくさん触れてきたけれど、死をこんなにもリアルに、みずみずしく、また、やさしく表現した作品を他に知らな…

「ニーチェ覚書」ジョルジュ・バタイユ/酒井健 訳

冒頭から「箴言を血で綴る者は、その箴言を読むことではなく、暗唱することを求めている」というただならぬ言葉で始まるバタイユによるニーチェの箴言集。「書かれた文章を読む行為にも、肉体との呼応を求めていた」ニーチェの要求はとても正しい。言葉は反…

「風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡」宮崎駿

彼が公式引退の辞に書いた「ぼくは自由です」という言葉がとても印象的だった。ナウシカから千尋までのインタビューを今振り返ると、自分ではなく観客のために、宮崎駿が全身全霊、いかに時代ととことん向き合い、格闘してきたのかがよくわかる。その苦しみ…

「Quick Japan」vol.111「アイドルたちの2013年ーステージから見た景色」

アイドルは最も過酷な職業のひとつだ。人気がでればでるほど休みのとれない肉体的な疲労と、謂れのない雑言を浴びせられる精神的な苦痛に屈することなく、いつも笑顔でカメラの前に立ち、絶えず全力で、歌い、踊らなければならない。ももクロも、モー娘。も…

「日本語のかたち」外山滋比古

言語には「ものの見方」が表れる。日本語について考えることは、日本そのものについて考えることに等しい。縦に書くか、横に書くか。言葉にとってたいへんな問題も、「公文書は横書きにすべし」とかつて公布されちゃったあたりがなんとも日本らしい。私たち…

「灯をともす言葉」花森安治

例えば「みがかれた感覚と、まいにちの暮しへの、しっかりした眼と、そして絶えず努力する手だけが、一番うつくしいものを、いつも作り上げる」なんて、思わず背筋が伸びてしまう。古びることのない花森安治の言葉は、なんども反芻したくなるものばかりだ。 …

「小説 永井荷風」小島政二郎

非難と批評はまったく異なる。対象への敬意のないエセ批評はただの悪口に過ぎない。荷風を「臆病で卑怯で嘘つきで下劣な人」としてボロクソに描きながら、読み手を嫌な気持ちにさせないのは、その一語一語に、異常ともいうべき羨望と、揺るぎない敬愛の念が…

「ふくわらい」西加奈子

自意識や偏見を完全に拭い去ることはとても難しい。彼女の小説に強く惹かれるのは、倫理とか、常識とか、法律とか、そんなチンケなものに縛られず、人間はどこまでも自由でいられることをいつも気付かせてくれるからだ。世界はすべてが美しく、何も間違って…

「針がとぶ」吉田篤弘

一つひとつの言葉選びも、全編に漂う独特の世界観も、まるで詩集のような短編集。何度も読み返したくなる、やわらかで、含蓄のある文章のオンパレード。読者におもねる感じが一切なく、そもそも「針がとぶ」なんてタイトルも憎い。表紙のビジュアルも、タイ…

「きみは白鳥の死体を踏んだことがあるか(下駄で)」宮藤官九郎

宮藤官九郎は自らの初めての小説を「私小説」ならぬ「恥小説」(虚8実2くらい)と書いた。そうだ。表現するということは、恥部をさらけ出す行為そのものなのだ。なのになぜ人は表現をするのか。ものを書いたり、描いたり、撮ったり、演じたりする理由。その…

「ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく」堀江貴文

バカ売れしているホリエモンの自伝的な著作は、繰り返し唱えたくなるほど良いタイトル。「誰かを恨もうとは思わないし、くよくよと悩むつもりもない」。ただ、働く。それだけで人間はこんなにも強くなれるのだ。「刑務所なう。」を読んで「ホリエモン。あの…