Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「ストックホルム・ケース」ロバート・バドロー

善悪よりも好き嫌いの方が絶対的だ。善悪は、置かれている立場、見えている角度によって、簡単に変わってしまうけど、好きか、嫌いか、それはもっとシンプルで純粋なものだ。警察や政治はどこを見ているのか、なにを守ろうとしているのか、見誤ってはならな…

「恋する遊園地」ゾーイ・ウィットック

ロマンチックと捉えるか、馬鹿馬鹿しいと捉えるか。この映画を受け入れるには時間がかかった。人間には様々な性的指向があり、それは性的倒錯として現われることがあるとわかってはいても、対物性愛(オブジェクト・セクシュアリティともいうらしい)をリアル…

「バクラウ 地図から消された村」クレベール・メンドンサ・フィリオ

稀に「なんだこれ!?」という映画に出会う。そういう作品は大抵、これまで自分が観てきた映画とは、まったく異なる文法で作られている。冒頭からカルトの匂いをプンプンと匂わせている本作はやがて、勢いをどんどん増して狂いだし、謎の飛行物体が出現、なぜ…

「空白」吉田恵輔

変わる。そこに希望の手がかりがある、と教えられた。この映画が素晴らしいのは、人を変えるのは、わかりやすい正義、わかりやすい優しさではないけと、また、変われるはずのない人間が変われる(人を赦せる)ことの希望を繊細に描いているところだ。それに…

「クイーン&スリム」メリーナ・マツーカス

ふとDVDを手にして良かった! これはスパイク・リーの「ゲット・オン・ザ・バス」に匹敵する、人種差別から生まれるあらゆる不条理に抗う、日本未公開の大傑作だった。小さな嘘が積み重なり、やがて取り返しがつかなくなるように、不条理が不条理が呼び、やがて…

「キーパー ある兵士の奇跡」マルクス・H・ローゼンミュラー

人種や国籍や宗教、あるいは、政治信条を見て接すると複雑になってしまう感情も、自分と同じ人間として対峙するともっとシンプルなものとなる。スポーツの素晴らしさは、仲間として、敵同士として戦った後にリスペクト、敬意が生まれることだ。スポーツを政…

「夏、至るころ」池田エライザ

池田エライザが映画を撮った。そう聞くだけで「見てみよう」と思わせる「なにか」がある。リリー・フランキー、原日出子はもちろん、自身も映画監督の杉野希妃、フォークシンガーの大塚まさじも、きっと彼女の「なにか」に期待したはずだ。そして、みんなが邪…

「明日の食卓」瀬々敬久

母親はいつも、何かに悩み、迷い、葛藤し、闘っている。そして、すぐ側にいる子供たちもまた、何かに悩み、迷い、葛藤し、闘っている。張り詰めた糸が切れないように、あるいは、切れてしまったとしても、それでも逃げず、向き合って、抱きしめる。またもや…

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」ロジャー・ミッシェル 

とても成熟した映画だった。人間の悲しみ、やさしさ、そして、強さが、丹念に描かれた映画だった。死を前にしたとき、法律や倫理は意味をなさなくなり、母子や夫婦ではなく、人間と人間になる。人生は、困難に満ちていて、ままならず、それでも素晴らしい。…

「#ハンド全力」松居大悟

何を隠そう高校時代はハンドボール部だった。ので、わかる。そうそう、なんとなくこんな感じだった。どーでもいいこと、馬鹿馬鹿しいこと、目の前にあること。結局のところ、何にでもすぐ「全力」になっちゃうのが青春なんだ。松居監督はいつも、死ぬほどカ…

「孤狼の血 LEVEL2」白石和彌

古くは鶴田浩二の博徒シリーズに高倉健の日本侠客伝シリーズ。そして、「仁義なき戦い」を筆頭とする実録シリーズ。数々の傑作を生んできた東映が、本気を出してヤクザ映画を撮っているのが「孤狼の血」だ。コンプライアンス100%無視の、暴力、暴力、暴力。…

「サンドラの小さな家」フィリダ・ロイド

法律がDVを犯罪として認めてから、わずか20年しか経っていない。そして、被害を受けたとしても、離婚率が高くないのが、この犯罪の難しいところだ。与えられた傷は、そう簡単に癒されるものではないけど、傷口に手を添えてくれる人たちは必ずいる。助けを求…

「サンダーロード」ジム・カミングス

わかる。人生は思い通りにいかない。大声をあげて叫ぶか、泣きわめくかだけの違いで、みんな同じような感情を抱えながら生きている。そして、大抵の場合、気持ちも理解してもらえない。その不器用さと純粋さがやるせなく、もどかしく、胸を打たれた。母の葬…

「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」山田洋次

寅さん18作目。寅さんは無自覚なのがいい。無自覚だから打算がなく、打算がないから人の胸を打つ。自分では誰かに何かをしているわけでもないけれど、それが誰かの支えになり、誰かの救いになるというのはとても感動的なことだ。 第18作 男はつらいよ 寅次郎…

「アメリカン・ユートピア」スパイク・リー

リズムがあり、メロディがあり、グルーヴがある。身体を駆使してつくられる音楽をエンターテイメントに昇華し、観客の前に届けられたとき、思いもよらぬ、興奮や熱狂、そして、高揚が生まれる。コロナ禍に現われた実に知的でプリミティブでポジティブなライ…

「ミッドナイトスワン」内田英治

誰にも頼ることができず、誰にも頼られることがない。ほんとうの孤独の先にある、苦しみも、悲しみも、息苦しさも、想像することは難しいけれど、その美しさ、かけがえのなさはわかる。誰もが頼り、頼られることのできる、やさしい世界であってほしいと願わ…

「すばらしき世界」西川美和

傑作であることはわかっていた。例えば、是枝裕和やケン・ローチ、ミヒャエル・ハネケ、グザヴィエ・ドラン。撮った段階ですごい映画であることは決まりきっていて、襟を正して作品と向き合わなければならない監督がいるけれど、西川美和監督もそんな一人だ。誰…

「はるヲうるひと」佐藤二朗

山田孝之も、仲里依紗も、坂井真紀も、もちろん、佐藤二朗も。感情の果ての果て、もがいてもがいて、それでも生きていく壮絶さを、己の身体のすべてを使い切って表現する俳優の凄みをまざまざと見せつけられる。すべてが虚ろですべてがリアル。想像をはるか…

「ファーザー」フロリアン・ゼレール

名優と呼ばれる人たちは、その晩年に、神がかったとしか思えない演技をみせてくれる。アンソニー・ホプキンスの場合、この作品がそうだ。人間は老いる。記憶と時間の混乱に抗うことはできない。その残酷さと救いをアンソニー・ホプキンスという身体を通じて語…

「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」アンドレアス・ドレーゼン

良い歌を歌うからといって崇拝されるべきではないし、裏切者だからといって断罪されるべきでもない。労働者のための歌を奏でながら、密告し、不倫だってする。表と裏。そんな矛盾を抱えながら生きる人間はいくらだっているし、彼らはいつでも葛藤し、感情か…

「砕け散るところを見せてあげる」SABU

そうだった。日本にはSABUという天才監督がいることを忘れてはならない。これからの日本映画を担うに違いない、屈指の若手俳優たちが織りなすのは、怖ろしく、純粋で、美しい、窒息してしまいそうな切ない愛の物語だった。愛によってつながれていく命。その…

「ビーチ・バム まじめに不真面目」ハーモニー・コリン

史上サイテーでサイコーにカッコいい主人公をあのハーモニー・コリンが生みだした。それを演じたのがマシュー・マコノヒーだなんて、なんと贅沢な映画なんだ。楽しく生きることが正しく生きることと同義とは限らない。自由に生きるには代償がある。その代償を…

「バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」松居大悟

安藤玉恵、宇野祥平、柄本時生、渋川清彦、でんでん、浜野謙太。この映画にも出ていたけれど、この辺の俳優さんの名前が連なっていると、映画の期待値がグンとあがる。映画を傑作たらしめるのは、バイプレイヤーたちにかかっているといっても過言ではない。…

「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」シドニー・ポラック(撮影)/アラン・エリオット(映画化プロデューサー)

何度か書いているけれど、人生で最も音楽に感動したのは、ハーレムの教会で聴いたゴスペルだ。今までまったく経験したことのない音楽がそこにはあった。それは癒しなんて生ぬるいものではなく「救い」そのものだった。魂の救済は、ゴスペルを歌い、神につな…

「ゾッキ」竹中直人・山田孝之・齊藤工

そういえば、得体の知れないヒトやモノをとんと見なくなってしまった。あの、驚きとも怖さとも異なる、自分では処理しきれない何かを飲み込まざるをえない「感覚」。そんな懐かしい感覚を存分に感じさせてくれる映画だった。すべてが解明され、説明され、評…

「空に住む」青山真治

その生き難さ、満たされなさは、何によってもたらされるのか。誰によってもたらされるのか。共存すべきは他者ではなく、守るべきはプライドでもない。この映画が問いかけるのは、自らの意志で生きているかということ。生きるということは、自らの選択、その…

「くれなずめ」松井大悟

なんだかじわじわくる。思いやりとやさしさが詰まりすぎていて、どんなシーンを思い出しても、感情が溢れて、今にも泣いてしまいそうだ。ハッキリさせなくてもいいし、そこに言葉はいらない。切なすぎる暗黙の了解にグッとくる。松井大悟監督の作品はいつも…

「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」山田洋次

太地喜和子という伝説となった女優の凄まじさをまざまざと見せつけられた。多くの芸術家、俳優、映画監督が彼女に魅せられたように、そのあまりの艶やかさと奔放さに一瞬で虜となった。宇野重吉のすごさを今さら言うまでもないけれど、彼の卓越した存在がか…

「約束の宇宙」アリス・ウィンクール

育児休暇中に初めて息子を保育園へ送った妻を思い出し、公式サイトにある「日々の生活や子供を育てること、と同列に宇宙で働くことがある」という矢野顕子さんのコメントが強く印象に残った。この映画を観ると、仕事と家庭、この二つを分けて考えることがい…

「僕が跳びはねる理由」ジェリー・ロスウェル

自分とは異なることを尊重する。実践するのは難しく、偉そうなことはいえないが、それがきっと穏やかな世界を生みだす、唯一の方法だと思っている。尊重するための第一歩は、知ろうとすること、理解しようと努めること。無知は恐れを生み、恐れは偏見や差別…