ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

映画

「わたしのお母さん」杉田真一

母親であり、娘であるということが、その人を雁字搦めに縛りつける。離れたいのに、離れられない。許したいのに、許せない。愛したいのに、愛せない。息苦しい。母親らしく、娘らしく。お互いが、個と個、一人ひとりの人間なのに、役割が与えられることで、…

「PLAN75」早川千絵

少子高齢化。ずっと言われ続けている社会的な大問題に、具体的な解決策ひとつ描けないまま、いよいよ「自由」という名のもとに「殺人幇助」が国家ぐるみで正当化されていく。政治も、人間も、目の前に起こりうる事態に対して、あまりに無力だ。老いと孤独、…

劇場版「永遠ノ矢 トワノアイ」上林昌嗣

文化の最も重要な要素として「受け継がれる」ということがある。それは決して様式のことではなく、精神性の継承を含め、ということだ。かつて、弾圧され、搾取されたアイヌ。誰かが屈せずに闘い、その価値を認め、継承しようという志が、その志だけが、文化…

「あのこと」オードレイ・ディヴァン

「子を授かる」ということが、すべての夢を諦めざるを得ないことに直結すること。あるいは、「子を産まない」という選択が、人格のすべてを否定されるだけでなく、ほんの数十年前まで、犯罪であったことに驚愕した。と思ったら、そのうち、これは果たして「…

「土を喰らう十二ヵ月」中江裕司

春はたけのこ、夏は梅ジュース、秋は茗荷ごはん、冬はふろふき大根。日本料理の真髄は、旬を食する、即ち、いまを味わい、いまを生きることにある。毎年、同じ季節に、同じ作業を繰り返し、同じものを食べる。それこそが、暮らすということ、そのものなのだ…

「夜、鳥たちが啼く」城定秀夫

小説家・佐藤泰志が描いた登場人物はいつも「ここではないどこか」を探している。あがいて、もがいて、それでも辿りつけなくて。また、もがいて。そして、やがて、かすかに見えてくる光を、傷だらけのその小さな手で掴むまで。世界の片隅で、そうやって懸命に…

「母性」廣木隆一

人間は厄介で複雑。そして、ひとりでは生きられない。とりわけ、幼児である頃は、母という存在に依存するしか生きる術はなく、だからこそ「母という病」は存在する。子を授かるということは「十字架を背負う」ことでもあり、それが喜びにもなれば、苦しみに…

「マイ・ダディ」金井純一

病めるときも、健やかなるときも、悲しみのときも、喜びのときも、貧しいときも、富めるときも、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓う。嗚呼、それが夫婦なのかと改めて思う。疑いだしたらきりがない。名…

「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」マリア・シュラーダー

権力によって弱者が虐げられるという構造は、どんな世界、どんな社会にもよくあることだけれど、その中で、最も卑劣な行為は、性の食い物にすること。なぜならそれは、人間の尊厳を著しく傷つけ、犯された者の存在、個(アイデンティティ)を崩壊させてしま…

「パーム・スプリングス」マックス・バーバコウ

何万回も同じ日を繰り返す。同じタイムループに巻き込まれながら、くっつきは離れて、絶望し、やがて途方に暮れる。それでも最後の最後の最後、突き詰めれば突き詰めるほど、シンプルで、ピュアな部分にいきついたロマンティック・コメディにキュンとする。サ…

「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」山田洋次

襤褸を着ても心は錦。とても高額な「新築祝い」を渡した兄を心配し、気持ちだけ受け取ろうとした博とさくらに寅さんが激怒するシーンがある。これは寅さんが圧倒的に正しい。ありがたく受け取ることが筋だ。とはいえ、寅さんのお金は、源ちゃんからの借金(…

「こちらあみ子」森井勇佑

私たちはいつ変わってしまうのか。私たちはなぜ変わってしまうのか。何を恐れて、何を許せないのか。あみ子がひとりぽっちになるのは、私たちとあみ子に決定的な「隔たり」があるからだ。応答せよ、応答せよ、とあみ子が叫ぶ。あみ子はずっと変わらずまっす…

「セイント・フランシス」アレックス・トンプソン

34歳と6歳。年齢を超えて、人は人に影響を与えることができるし、お互いを思いやり、友情にも似た結びつきを得ることもできる。それは希望であり、そして、とても素敵で、感動的なことですらある。生理、避妊、中絶・・・。(子供もいながら)47年以上も生きて…

「トップガン マーヴェリック」ジョセフ・コシンスキー

オープニング。「トップガン アンセム」から名曲「デンジャー・ゾーン」が流れるだけで、とんでもない高揚感。前作でメガホンを取ったトニー・スコットに捧げられたオマージュ全開、36年振りの続編を観ながら感じるのは、80年代の圧倒的なパワーだ。スカッと…

「死刑にいたる病」白石和彌

口が達者で、誇大な傾向があり、病的な虚言を繰り返し、衝動的で、罪悪感(良心)が欠如している。そして、何よりも、他人を支配しようとする傾向がある。そんなサイコパスを演じた阿部サダヲが、あまりに「いい人」でリアルだった。人間とはいとも不可解で…

「アイ・アム まきもと」水田伸生

合理化が止まらない。0か1かで判断される世界は「効率」こそが優先すべき価値となり、そこに人間の感情が入り込む隙はない。心にズケズケと入り込んでくる牧本は、少しどころか、今となってはかなり迷惑だけど、じんわりと温かい。おせっかいが難しい時代の…

「ぜんぶ、ボクのせい」松本優作

ぜんぶ、ボクのせい。みんながそう思えば、ほんの少し、世界はやさしく、生きやすくなる。そんなことを考えながら、エンドロールに流れる大瀧詠一の「夢で逢えたら」を聴いていた。無責任な大人と孤独な少年。叫べ、叫べ、叫べ。歪みまくった社会のリアルが…

「戦争と女の顔」カンテミール・バラーゴフ

戦争の悲劇は多くの人が殺されるからではない。悲惨なのは、ごく普通に生きるはずだった、生きたいと思っていただけの、何百万人という人の人生、その子供たち、また、孫たちの人生をも狂わせてしまうことだ。一度始まった戦争は終わらない。未来を傷つける…

「ほとぼりメルトサウンズ」東かほり

鎮魂。即ち、死者の魂を鎮めるということは、生きている者の気持ちを収めるということでもある。妹が聞くはずだった「一生分の音」を、カセットテープ、アナログの録音機器で集めて「音の墓」に埋める。弔うという機会も、場所も、どんどん失われていく今、…

「川っぺりムコリッタ」荻上直子

生きることは生と死の狭間にいること。友達でも家族でもない。けど、つながっている。それはきっと、日本のとてもいい風景だ。ご飯は誰かと食べるとおいしい。しかも、大人数で食べれば食べるほどおいしい。みんなで食卓を囲んですき焼きを食べるシーン、最…

「ドライビング・バニー」ゲイソン・サヴァット

人生は公平ではない。親を選ぶことはできないし、また、子供のうちは、環境や、置かれている状況を変えることも困難で、差別や偏見だってある。公平なものがあるとするなら、「選択する」という権利くらいか。絶望して自暴自棄になるか、屈せず、自らの遺志…

「ベイビー・ブローカー」是枝裕和

父と母が子を育てる。是枝監督はそれが当たり前でないことをいつも私たちに提示する。実の父母に育てられることが、必ずしも幸せだとはいえないが(そう言い切ってしまうことも憚られるが)、育てられなかったことの棘は、いつまでもチクチクとずっと心の奥…

「男はつらいよ 寅次郎春の夢」山田洋次

寅さん24作目。融通が利かないようで、いったん気が合うと、どこまでも人情深く、やさしい。寄り添ってくれる。日本人だろうが、アメリカ人だろうが、そりゃあ、寅さんに魅せられるわ。「日本の男はそんなこと言わない。背中を向けて黙って去る。それが日本…

「神は見返りを求める」𠮷田恵輔

承認欲求は、もっと、もっと、もっと、と私たちを駆り立てる。駆り立てられた人間は、倫理も道徳もかなぐり捨てて、より一層、もっと過激になるよりほかない。視聴回数や「いいね」の先にあるものは一体なに? 炎に包まれていくぬいぐるみも、目的なきYouTub…

「ふたつの部屋、ふたりの暮らし」フィリッポ・メネゲッティ

これからの人生を誰とどう生きていくか。何のしがらみもなく、自由に選択をするということが、殊のほか難しいことを私たちは知らない。人を愛するには自由であること、自由であるには闘わねばならないことを、この映画は教えてくれる。 映画『ふたつの部屋、…

「なまず」イ・オクソプ

古めかしい言い方をすると「映画の文法」とでも言うべきか。例えば、ウェス・アンダーソンやアキ・カウリスマキ、コーエン兄弟の映画を観ているような、独特のオフビート感がたまらなく心地よかった。飄々としたコメディだけど、強く印象に残るのは、ちょいち…

「わたしは最悪。」ヨアキム・トリアー

人生におけるあらゆる選択は、すべてが正しいともいえるし、間違っているともいえる。大事なのは、どのように自らで折り合いをつけ、責任を取り、受け入れていくかということだ。泣いても笑っても、最悪でも最高でも、一度きり。人生について深く深く考えな…

「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」エマニュエル・クールコル

劇中にて囚人たちが演じた戯曲「ゴドーを待ちながら」の「ゴドー」が「God」の暗喩だという解説を読むとグッと深みが増してくる。神は、ときに想像を絶する試練を人間に与えるけれど、そうした極限の中で、その人がホンモノか、ニセモノかが問われる。神から…

「ひとくず」上西雄大

目を背けて耳を塞ぎたくなる光景も、きっとすべてがリアルなのだ。いや、現実はさらに過酷で、もっと悲惨なのかもしれない。普通に生きていると、ついつい忘れてしまいそうになるけど、人生はどうしようもなく不条理で、不平等この上ない。それでも。生きる…

「メタモルフォーゼの縁側」狩山俊輔

共鳴。好きなものやことをその気持ちごと分かり合う。それはきっとどんな感情よりも嬉しく豊かでかけがえのないものだ。ボーイズ・ラブに魅せられた75歳の老婦人には照れも衒いもない。「好き」という感情がただただ純粋で冒しがたいものだと思わせてくれる。…