ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「読まれなかった小説」ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

「映画を文学へ近づけたい」と監督が語ったように、端々に文学的な匂いのする映画だった。ラストシーンに押し寄せるカタルシス、つまりは、心に溜まった澱のような感情の解放や浄化は、長い長い物語を読んだ後のそれと似ている。改めて思う。凡庸であること、うだつがあがらないことは、人間としての価値とはまったく関係のないことだ。

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映画『読まれなかった小説』公式サイト

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」箱田優子

みんなそうだ。なりたい自分になりたくて、あがいて、もがいて、そのうち、なりたい自分を見失って、気づかないまま、一体なんにムカついているかもわからず、イライラして。これは、そのことを肯定もせず、否定もせず、ただ寄り添って、受け入れてくれる映画だ。ん? ダサいって、なんだか、とってもいいぞ。

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映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』公式サイト

「ザ・ピーナツバターファルコン」タイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ

子どもの頃に夢見ていたものや、憧れていたヒーローを、いつから忘れてしまったのだろう。魂の純度が高くないと、きっと、いつまで経っても、人生はツマラナイままだ。「友達ってのは自分で選べる家族だ」なんてほんとそれ。人生を豊かにしてくれるのはたった一人の友達なんだと、おじさん、独りでしみじみする。

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映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』公式サイト

「HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ」イライジャ・バイナム

恋をするのも、悪いことを覚えるのも夏、と相場は決まっている。観光客で賑わう海辺の小さな町で過ごす「行き場のない」少年のひと夏の体験は、危うく、そして、耽美だ。夏の終わりに観る青春映画。松任谷由実の名曲「Hello, my friend」をふと思い出す。

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『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』公式サイト

「ひとよ」白石和彌

お互い唯一無二。かけがえのない存在であることは疑いようもない。が、樹木希林がいなくなり、日本映画界にぽっかりと空いてしまった大きな穴を埋められるとしたら、それは田中裕子しかいない。彼女が、夫を殺める母親を演じるなんて、これはもう事件なのだ。なんと清らかで美しい愛憎劇。人間の情念とはこれほどまでに深いものかと、まざまざと思い知らされる。

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映画『ひとよ』公式サイト