ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ラスト・ムービースター」アダム・リフキン

人生において最も価値のあるものは思い出だ。誰と出会い、何をしたのか。何に笑い、何に泣いたのか。思い出が人生を豊かにし、思い出が人生を教えてくれる。バート・レイノルズの素晴らしい遺作。これが遺作だなんて、劇中の映画オタクに愛されるがごとく(彼らの手作り映画祭がなんとも映画愛に溢れていてサイコー)、まぎれもなく映画そのものに愛された俳優だ。

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映画「ラスト・ムービースター(THE LAST MOVIE STAR)」オフィシャルサイト

「タロウのバカ」大森立嗣

とにかく不快だった。やがて、耐え難くなり、痛みとなった。社会に隠されているもの、いや、私たちが無意識に目を覆っているものが、すべて生々しく露わにされているからだ。狂気の塊のようなエージが、純粋すぎるスギオが、そして、神のようなタロウが、畏ろしく羨ましかったのだと、今となってわかる。心を抉るようにダメージを与えるような映画は、ワンシーンワンシーンが脳裏に焼きついて離れない。

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映画『タロウのバカ』公式サイト|9/6(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

「おいしい家族」ふくだももこ

フツウとか、ジョーシキとか、そんなものはどーでもいいことを、映画はいつも教えてくれる。大事なのは、フツウじゃないことを受け入れること、その先にあるものを受け止めること。想像力を働かせることが、思いやりを生み、人を幸福へと導いていく。そんな、家族の物語。

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映画『おいしい家族』 | 大ヒット上映中!

「ピータールー マンチェスターの悲劇」マイク・リー

ケン・ローチともう一人、イギリスには、マイク・リーがいることを忘れてはならない。一大スペクタクル。国の行く末を左右した事件を、その国を代表する監督が撮ると、それはやっぱり「特別な映画」となる。非武装市民6万人を相手に、騎兵隊はサーベルを振り上げ、軍隊はライフルで襲いかかる。なぜ統治する者は民衆を恐れるのか? 恐れざるをえないのか? 21世紀になってなお繰り返される武力弾圧はなぜ起こるのか? そんな本質的な問いかけが、終始一貫、ずっと貫かれている。

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映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』公式サイト

「命みじかし、恋せよ乙女」ドーリス・デリエ

命みじかし恋せよ少女/朱き唇褪せぬ間に/赤き血潮の冷えぬ間に/明日の月日のないものを。嗚呼、なんて美しい日本語。黒澤明の「生きる」で志村喬が歌った「ゴンドラの唄」を口ずさむ樹木希林と、彼女が遺作で発する「あなた、生きてるんだから、幸せになんなきゃダメね」という台詞を聞くだけでも一見に値する(しかも、それが小津安二郎の定宿であった「茅ヶ崎館」で繰り広げられるとは!)。それにしても、いたるところに現われる、ドイツ人であるドーリス・デリエ監督の日本文化への造詣の深さたるや。溜息がでる。

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映画『命みじかし、恋せよ乙女』公式サイト