ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「サマーフィーリング」ミカエル・アース

この映画が「アマンダと僕」のミカエル・アース監督の作品だということを観終わってから知った。繰り返し「喪失」を描くこの映画監督は、夏の木漏れ日、山々の緑、湖で泳ぐ人々・・・、それから、夕景も、夜景も、過ぎ去っていく風景を絵画のように美しく描く。光と色彩。まるでエリック・ロメールの再来。これぞ、フランス映画の正当なる系譜だ。

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映画『サマーフィーリング』オフィシャルサイト

「ジョーカー」トッド・フィリップス

果たして、「ザ・マスター」以上の映画に出会えるのかと思っていたけれど、怪物ホアキン・フェニックス、ここに極まれり。心・技・体、そのすべてにおいて凌駕していた。ここまでくると、決して大袈裟な話ではなく、もはや神の領域。語るべき言葉さえも見つからない。あの笑い、あの肉体、あの狂気のダンスを、一生忘れることはないだろう。兄リヴァー・フェニックスの言葉を口にしたアカデミー賞の受賞コメントも本当に感動的だった。社会の理不尽と鬱屈の化身。デ・ニーロを超えることで、アーサーはあのトラヴィスと同じく伝説となった。

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映画『ジョーカー』ブルーレイ&DVDリリース

「さらば愛しきアウトロー」デヴィット・ロウリー

圧巻。脱帽。痛快。82歳のロバード・レッドフォードが、自らの引退作に、足を洗えない銀行強盗を描く、この作品を選んだなんて、なんと粋なこと!(しかも監督には新鋭監督をチョイス)可笑しくて、哀しくて、とてつもなく艶っぽい。「問題は僕がどこにいて何をしていようと、子供の頃の僕が今の僕を見て誇りに思うかどうかだ」って台詞を吐く、チャーミングな爺さんに終始心を奪われっぱなしでした。

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映画『さらば愛しきアウトロー』公式サイト

「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋次

ひとの幸せを喜び、ひとの悲しみに涙する。それは、寅さんだけでなく、おいちゃんも、おばちゃんも、さくらも、タコ社長だってそうだ。下町の人情がじんじんと沁みるシリーズ13作目。夏。花火。浴衣。寅さんが思わず「浴衣、きれいだね」と口にしてしまうほど、縁側に佇む吉永小百合が艶やかで、まるで美人画のように美しい。

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第13作 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「殺し屋1」三池崇史

再見。三池崇史監督が審査員長を務めた映画祭にて、映画を志す者に向けられたメッセージ「『生ぬるい映画に満たされた今を嘲笑うかのような快作』。または、『捻れに捻れた現実を、さらに捻じりあげるような快作』。なんでもいい。幸せな出会いを期待している」は、かつて撮った、自分自身のこの作品に捧げられたような言葉だ。熱量と狂気。野心に満ち満ちた、この日本映画史上、極めて暴力的(あるいは変態的)で残虐残酷な映画をみると、今もなお「得体のしれないものを観てしまった」というモヤモヤとした気持ちにさせられる。

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