いまいちメジャー感はないけれど、サリー・ホーキンスはとても素晴らしい女優の一人だ。愛情表現が不器用で、事故で亡くなった父親に引け目があり、自閉症ぎみで数学にしか興味を示さない息子に相手にされずとも、大きな、無償の愛を注ぎ続ける母親。終盤、その息子に「恋」について、一生懸命、自分の言葉で伝えようとする彼女の演技に強く胸を打たれた。大事なのは、器用かどうかではなく、そこに愛があるかどうかなのだ。
大学時代の恩師によるブックガイド。書物を読むことは「他人の声に耳を傾けるという行為」であり「人々がお互いに不寛容になってきている状況だからこそ、あえて書物を読まなければならない」との主張にお変わりないなーと思う。そして「何かを人に告げ知らせようという意志、または情熱が書物をつくっている」とも。インターネットとの決定的な違いをそんな風に表現する一節になんだかグッとくる。やっぱアナログだなー。情報ではなく声に耳を傾ける。本を読もう。
文春新書『人間を守る読書』四方田犬彦 | 新書 - 文藝春秋BOOKS
先立った最愛の妻を追いかけようと何度も自殺を図ろうとする偏屈で実直な主人公が、偶然引っ越してきたお隣さんによって、もう一度、生を見つめ直す小さな奇跡。どんな境遇の、どんな人間であれ、人を愛し、人に愛されるため、この世に生まれ、そして、今を生きている。そんなことを思い出させてくれる温かなスウェーデン映画。苦境を乗り越えてきた人生が、切なくて、愛おしくて、しみじみする。
原題の「冬の歌」は故郷グルジアの歌のタイトルで、その歌には「冬が来た。空は曇り、花はしおれる。それでも歌を歌ったっていいじゃないか」という歌詞があるとオタール・イオセリアーニ監督。人が人を糾弾し、抑えつけ、略奪し、いつまでも殺し合いをやめないどうしようもない人間社会を嘲笑しつつ、それでも、生きるって悪くないよと、不良ジイサンが、実に軽やかに、そして、ユーモアいっぱいに教えてくれる人間賛歌。そのセンス溢れる詩的なファンタジーにただただ酔いしれる。