ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ローラとふたりの兄」ジャン=ポール・ルーヴ

おっちょこちょいで、底抜けにお人よしだけど、どこかちょっとズルい。そんな愛おしい二人の兄が織りなす、妹をめぐるエスプリの効いた物語。頼れる人がいれば、人生どうにかなる。飄々としているようで心の奥底で慮っている。フランス人の本当のやさしさが沁みてくる良作だった。

映画『ローラとふたりの兄』オフィシャルサイト

「私はいったい、何と闘っているのか」李闘士男

どんなに不運で、ツイていなくても、闘っている人は無条件でカッコいい。そして、どんなに不甲斐なく見えても、誰もが「何か」と闘っていることを決して忘れてはならない。つまりは、生きている、それだけでカッコいいのだ。一隅を照らすひと。自分のいる場所、自分が与えられた場所を、懸命に照らす人ほど尊いものはない。

映画『私はいったい、何と闘っているのか』|絶賛公開中!

「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」マリア・シュラーダー

鉄腕アトムの最後を思い出した。手塚治虫が記した「進歩のみを目指して突っ走る科学技術がどんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくか」という言葉と共に。もしもアンドロイドを愛してしまったら。迷いに迷って主人公が下した結論は、とてつもなく切ないけれど、それは正しかったと信じたい。

映画『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』公式サイト

 

「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」スティーヴン・キジャック

学校帰りの東急東横線でよくスミスを聴いた。今思えば、1980年代のイギリスの閉塞感と、バブル崩壊後の日本の虚無感は、とても似通っていたのではないかと思える。あの頃、ヘッドホンから流れるスミスを聴くだけで、簡単に社会と断絶することができたし、それがとても心地よかった。そんなことを思い出させてくれる、スミス好きにはたまらない映画。つまり、青春だな。

映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』公式サイト

 

「ブラッド・ワーク」クリント・イーストウッド

今から20年前。の段階でイーストウッドはすでに老いている。老いてはいるが、枯れてはおらず(今もだけれど)、往年の元FBI捜査官が猟奇殺人犯に挑むさまは、実にスリリングでサスペンスフル。気骨のある老人がもう一度立ち上がる「お決まりのパターン」はこの頃にはもう完成されている。そして、オープニングとエンディングのジャズ。これぞ、イーストウッド節なのだ。

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