ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「長いお別れ」中野量太

ゆっくり記憶を失っていく父とのお別れまでの7年間。原作からの「長いお別れ」というタイトルがすごくいい。長い月日のなかで、お互いの心境や関係が少しずつ変化し、みんながやさしく、正直になっていく様子が丹念に描かれる。つながりは、かたちが変わっても、つながり。母を演じた松原智恵子が素晴らしかった。母も、妻も、その深く大きな愛には敵わない。偉大だ。

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映画「長いお別れ」公式サイト 2019年5/31公開

「新 男はつらいよ」小林俊一

シリーズ4作目。寅さんを観ていてつくづく思うのは、おいちゃんこと喜劇役者・森川信のすごさだ。浅草の演劇界でエノケンやロッパとしのぎを削り、あの坂口安吾にも絶賛されたという芸が半端ない。本作の最大の見せ場である寅さんとの「婦系図」についてのやりとりも、完全に渥美清を喰ってしまっている。というより、森川信がいて、初めて渥美清が活かされる。表情、間、台詞まわし・・・。これぞ喜劇、完璧なのだ。

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第4作 新 男はつらいよ|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「アメリカン・アニマルズ」バート・レイトン

退屈な日常。を打破するために犯罪に手を染めてしまった大学生を、その後の本人たちの証言によって緻密に再現した、クライム・エンタテインメント。というよりも、ほぼほぼクライム・ドキュメンタリー。エリート大学に通いながらも満たされない、何者かにならねばと焦燥する4人の、それぞれの青春が痛々しく、そして、なぜかとても眩しい。青春は愚かしく美しい。

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映画『アメリカン・アニマルズ』 | 10.25(金)Blu-ray&DVD発売!TSUTAYA先行レンタル開始

「男はつらいよ フーテンの寅」森崎東

寅さんが嫌いという投稿が話題になった。確かに身勝手で迷惑な人ではあるけれど、寅さんにはいつも人が集まってくる。それは寅さんの人柄によるところが大きいものの、忘れてならないのが、これは、おいちゃん、おばちゃん、さくらや博、御前様、まわりの人たちの優しさ、寛容の物語でもあるということだ。シリーズ第3作。どんなにひどい仕打ちを受けても水に流してしまう初代おいちゃん・森川信の「バカだねぇ、ほんとうにバカだよ」の台詞を聞くたびに胸がいっぱいになる。

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第3作 男はつらいよ フーテンの寅|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「泣き虫しょったんの奇跡」豊田利晃

負けました。と登場人物が頭を下げるシーンを何度見たかわからない(調べてみるとあの羽生善治でさえプロになって600回負けているのだ)。倒れても、倒れても、倒れても、立ち上がる。その根底にある「好き」という気持ち。それも主人公一人ではなく、多くの人たちの将棋への思いが連なったクライマックスに胸が熱くなった。豊田監督もまた、かつてプロ棋士になる夢を諦めざるをえなかったことが、この映画を一層、魂のこもったものにしている。松田龍平がますますいい。

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泣き虫しょったんの奇跡