ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」ヨルゴス・ランティモス

ヒッチコックを例にあげるまでもなく、本物のホラーというのは、視覚的、あるいは、聴覚的に怖さを訴えかけるものではなく、私たちの想像力をじわりじわりと冒してくるようなものだ。人間の「悍ましさ」や「利己」が徐々に露わとなる121分。奇才ヨルゴス・ランティモス監督の世界が炸裂。こんな映画を目にすると、家族など、いかに薄っぺらく、危ういものであるかを完膚なきまでに思い知らされる。傑作。そして、またまたのニコール・キッドマン。まさに円熟期。実にいいキャリアを積み重ねている。

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映画『聖なる鹿殺し』公式サイト

「幕末維新のこと 幕末・明治論コレクション」司馬遼太郎 著/関川夏央 編

説明不要の代表作「竜馬がゆく」は「龍馬の伝記を書こうと思ったわけではなく、龍馬の人柄を書こうと思っただけのことだった」という司馬さんの言葉がなんだかとても感動的だった。なんでも「ものごとをつくるのは、結局は、つくる人の魅力であり、ものをつくっていく場合の魅力とは何だろう」というのが、あの小説のたった一つのテーマだったのだという。坂本龍馬であれ、勝海舟であれ、吉田松陰であれ、近藤勇土方歳三であれ、司馬遼太郎はすべて、その人間に惚れこみ、人間を書いている。だから私たちは、彼の文章に、言葉に、魅せられるのだ。

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筑摩書房 幕末維新のこと ─幕末・明治論コレクション / 司馬 遼太郎 著, 関川 夏央 著

「ジュピターズ・ムーン」コーネル・ムンドルッツォ

シリアから逃れてきた難民の少年が、凶弾に倒れることなく、転生して天使となったのはなぜか。サイエンスフィクションやファンタジーが私たちの心を掴むのは、それが、ノンフィクションやドキュメンタリーで暴くことのできない真実を抉るからだ。難民・移民の受け入れに対し、極度に不安を覚える(それが排斥へとつながる)ハンガリーという国のあり様に、日本の未来を憂虞せずにはいられなかった。

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映画「ジュピターズ・ムーン」公式サイト 2018年1.27公開

「リングサイド・ストーリー」武正晴

そんなに詳しいわけではないけれど、「プロレスを愛するひとに悪いひとはいない」と、どこかで強く信じている。「百円の恋」の武正晴監督が、リングに立ち続ける人間の「崇高さ」を、まっすぐに撮りあげた、びっくりするほどピュアな作品。劇中、今からそこで闘う大きな体のレスラーたちが、体育館に黙々とリングを組み立てていくシーンに、心の底から感動した。美しさとは、こういうことだ。

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映画『リングサイド・ストーリー 』公式サイト | 10月14日(土)全国公開

「ワンダーストラック」トッド・ヘインズ

史跡や遺跡、景勝地など、何10年、何100年の時を経ても何も変わらない場所があるけれど、ある意味、ミュージアムもそんな場所だ。1927年と1977年のニューヨーク。同じ「自然史博物館」で交差する、ファンタジックでロマンチックな物語。こんな映画を観ると、美術館や博物館で感じる、あのなんともいえないある種の「懐かしさ」は、時代を超えて同じものを観るという体験を共有し、また、その思いと共鳴しているからなのかもしれないなと思う。

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映画『ワンダーストラック』 | 4/6(金)角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラスト渋谷他全国ロードショー