ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「名セリフ!」鴻上尚史

演劇は身体の芸術だ。鴻上さんが書くように、目で読むだけでなく、口に出して初めて「身体と深い所で繋がる」んだと思う。古今東西の演劇の代表作からピックアップされた31の名セリフ。いずれも声に出されることで名作になった演劇の解説本になっている点もおすすめ。

f:id:love1109:20180830235825j:plain

『名セリフ!』鴻上尚史 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

 

「ハッピーエンド」ミヒャエル・ハネケ

世界には、ほんの一握り、いわゆる一般的な映画とはまったく異なる次元で、神々しいほどに美しく、観たあとに只茫然とするしかない映画を撮る天才がいる。例えば、レオス・カラックスやポール・トーマス・アンダーソン、あるいは、グザヴィエ・ドランのように。もはや、何がホントで、何が嘘かもわからない時代の中で、ずっと胸にしまっていた秘密を打ち明ける、死に憑りつかれた85歳の祖父と13歳の孫娘の会話とやり取りにこそ、なにか「確かなもの」が描かれていたように思えてならない。タイトルにある「ハッピーエンド」は、ミヒャエル・ハネケ監督による皮肉なのか、本音なのか。その答えは、私たちの想像力に委ねられている。

f:id:love1109:20180830003313j:plain 

映画『ハッピーエンド』公式サイト

 

「ロング、ロングバケーション」パオロ・ヴィルズィ

人生の最期の最期、それまでずーっと寄り添ってきた老夫婦が、キャンピングカーで旅をしながら、スクリーンに映し出される写真を眺めつつ、あのときはああだった、このときはこうだったと語り合う。なんて豊かな時間なんだろう。例え、一方が認知症で、一方が末期がんであったとしても。いずれ記憶や肉体が消え失せてしまおうとも、その瞬間、その瞬間は、確かにそこにあった。これは人生の価値を問ういつまでも余韻の残るとても良質な映画だ。

f:id:love1109:20180829003512j:plain 

映画『ロング,ロングバケーション』公式サイト

「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」村上春樹 編・訳

村上春樹は、とても誠実な書き手であると同時に、とても誠実な受け手でもあるということは、彼が翻訳した本を何冊か読めばすぐにわかるけれど、アメリカの作家が雑誌や新聞に発表した記事、あるいは、エッセイを、気の向くままにスクラップし、一冊にまとめたこの本を読むと、そのことをより一層実感することができる。例えば、復員後、一貫してヴェトナム戦争をテーマに作品を発表しているティム・オブライエンが書いた「私の中のヴェトナム」(胸に迫る内容!)などは、アメリカの同時代小説をずっと追いながら、熱心に読み込んでいないと、その重要性にもかかわらず、日本に紹介されることのないエッセイであると思うのだ。

f:id:love1109:20180828010831j:plain

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど|単行本|中央公論新社

「羊の木」吉田大八

人が人を信用することの難しさと強さ、そして、危うさを、最後の最後までラストの読めないサスペンスにしてヒューマンドラマ、ほんの少しのSF要素も散りばめたエンターテイメントに仕上げた吉田大八監督の力量に脱帽。元殺人受刑者を演じた6人の「人間像」が、それぞれに不気味で、面白く、リアルだった。原作の一人に名を連ねるのは、あの山上たつひこ先生(がきデカ)! というのも、なるほど納得。

f:id:love1109:20180825013546j:plain 

映画『羊の木』 | 2018年2月3日(土)全国ロードショー