ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「リュミエール!」ティエリー・フレモー

映像学を専攻して最初に観た映画がリュミエールの「工場の出口」だった。ルイとオーギュスト。1895年にシネマトグラフを発明した兄弟による1422本の作品から厳選された108本。ロングショット、クローズアップ、パンショット、ドリーショット・・・。家族や友人、パリの人々を撮った映像の中に、すでに多くの撮影技法が用いられていることにまず驚くけれど、何より感動的なのは、コメディあり、サスペンスあり、そこに人間の悲喜こもごもがすべて収められているということ、つまりは、シネマトグラフが最初から「映画」であったということだ。

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映画『リュミエール!』公式サイト

 

「絶筆」野坂昭如

脳梗塞で倒れてからも口述筆記で続けられた12年に及ぶ日記やエッセイから編纂。野坂昭如らしく、ふてぶてしく、洒脱に、ユーモアを加えて時代を斬ってはいるけれど、戦争と、そのときに体験した餓えについては、冷静さを保つことのできない鬼気迫る思いが溢れ出ている。「言っておきたい。いざとなったら、金じゃない。食いもののある国が生き残るのだ。よその国など誰が助けてくれるか」。死の前日に記されたこの言葉の意味はとてつもなく重い。

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野坂昭如 『絶筆』 | 新潮社

 

 

「We love Television?」土屋敏男

狂っている。共演者であれ、スタッフであれ、番組にかかわる人間のあらゆる逃げ道を塞ぎ、どんどん追い込んでいく姿は、まさに狂人のような恐ろしさがある。しかし、そんな「欽ちゃん」の、ほんとうの恐ろしさを思い知らされるのは、それ以上に鋭い刃を、76歳にしてなお、自分自身に突きつけているからだ(エンドロールが流れたあとにそれは明らかとなる)。果たして「お前は狂えているのか?」という突きつけ。「狂熱を継承せよ」という、自らを鼓舞するかのような、Tプロデューサーのメッセージが熱い。

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映画『We Love Television?』公式サイト

 

 

「勝手にふるえてろ」大九明子

天才・松岡茉優の魅力が炸裂! こじらせっぱなしの暴走ガールが、とてもチャーミングに見えるのは、それを松岡茉優が演じているからだ。これは、中谷美紀の「嫌われ松子の一生」 、安藤サクラの「百円の恋」に匹敵する、とても幸運な当たり役。綿谷りさ原作の、イタさも、愛おしさも、純真さも、すべてが完璧に、リアルに表われていた。恋は無敵だ。

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映画『勝手にふるえてろ』公式サイト

 

「gifted/ギフテッド」マーク・ウェブ

教育。例えば、「夢は叶う」と教えるよりも、「夢が叶わなくても、この世界は生きるに値する」と気づかせることの方が、余程に大切だ。理屈で説明することのできないもの。1+1 はわからなくても、愛するもの、愛すべきものを見つけること。そっちの方が、はるかに尊く、価値があるということを、この映画は改めて私たちに問いかける。

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映画『ギフテッド』 公式サイト