ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「心と体と」イルディコー・エニェディ

触れる。その苦しみも、痛みも、喜びも、そのすべてを、ファンタジックな物語に詰め込んだ美しいラブストーリー。身体性の欠如したバーチャルな時代に、言語でも、感覚でもなく、触れ合いを可視化した素晴らしい映画だった。ベルリンを制した圧倒的な映像クオリティーが、より一層、この映画をいつまでも忘れられないものにしている。

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映画「心と体と」公式サイト

「映画ドラえもん のび太の月面探査記」八鍬新之介

ドラえもんの脚本を「聖書の続きを書くようなもの」というほど、つまりは、藤子・F・不二雄先生が神のような存在である小説家・辻村深月さんが脚本を手がけると知ってからずっと楽しみにしていた。スクリーンに現われたのは、いつもの、そして、スペシャルなあの5人組だ。「泣いてたねー」と息子にツッコミをいれながら、オープニングテーマが流れた瞬間からうるうるしていたのはここだけの話。僕らはドラえもんという神話とともに生きている。

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大ヒット上映中!『映画ドラえもん のび太の月面探査記』公式サイト

「ハード・コア」山下敦弘

間違っていることを間違っていると言ってしまうと孤立してしまうこの世の中で、居場所をなくした大人たちが群れを為しても、ぽっかり空いた心の穴を埋めることは到底できない、厳しく悲しい現実。この荒唐無稽でありながら、リアリティーに満ちた物語が示すのは、ただ真っ直ぐに生きることがこんなにも滑稽で哀れなものでいいのかという異議申し立てにも似た忸怩たる思いだ。山下敦弘はやはり信頼にたる映画監督だった。

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映画『ハード・コア』公式サイト

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」ナタウット・プーンピリヤ

天才的な頭脳を持った人間が悪知恵を働かせると、こんなにもクリエイティブで、エキサイティングなのかと、道徳観をうっちゃらかって見入ってしまったタイ発のエンターテイメント。カンニングを軸としたスリリングな展開に、学歴偏重や貧富格差といった社会問題を巧みに盛り込んだ手腕にも舌を巻いた。

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[映画]バッド・ジーニアス -危険な天才たち- 2018/9/22(土)、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

「ブランク13」齊藤工

映画を観続けて学んだことのひとつに、物事を一面的に決めつけてはならない、ということがある。誰かにとって憎しみの対象でしかない、どうしようもない人間だったとしても、誰かにとってそのひとの存在がかけがえのない救いとなることがこの世には溢れている。弱さはやさしさであり、やさしさは弱さだ。映画を愛して、愛して、愛しすぎた俳優が撮ったデビュー作は、人間の愛おしい弱さを、ありったけのやさしさで包み込んだ映画だった。素晴らしいキャストにも最大の賛辞を。

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映画「blank13」公式サイト 2018年2/3公開