ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「第50回全国高校野球選手権大会 青春」市川崑

レニ・リーフェンシュタール監督の「民族の祭典」と並んで、「東京オリンピック」で、その記録を、壮大な芸術へと昇華させた市川崑監督による伝説のドキュメンタリー。コピーにある「日本で一番美しいもの」を浮かび上がらせる対象への迫り方はさすが。同作に収録された、今はもう絶対に起こりえない、中京商対明石中の球史に残る延長25回のドラマ(しかも、なんと24回まで0対0)は見もの!

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第50回全国高校野球選手権大会 青春 | DVD・ブルーレイ | 日活

「うつくしいひと/うつくしいひとサバ?」行定勲

何度か書いたことがあるけれど、震災を描く、ということはほんとうに難しい。なぜなら、怒りであれ、悲しみであれ、被災した人たちの、ひとり一人の思いに応えることなど、到底できるはずがないからだ。それでも、なのだ。熊本で生まれ、熊本で育った監督が、俳優たちが、熊本のために撮った熊本の映画。「それでも、熊本で生きていく」という、複雑な感情がごちゃまぜになった、溢れる思いに胸が締めつけられる。

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くまもと映画製作実行委員会 「うつくしいひと」

映画「うつくしいひと サバ?」 | 公式サイト

「二十六夜待ち」越川道夫

黒川芽以というだけで期待をしてしまう不思議。監督が「市井に生きる女性の美しさを演じることのできる女優」と語る彼女は、ある意味、とても映画に愛されている女優だ。月光の中に弥陀・観音・勢至の三尊が現れると言い伝えられる二十六夜。「惹かれあう」ということが、丹念に、丹念に、描かれる。

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二十六夜待ち – クロックワークス公式サイト – THE KLOCKWORX

「スリー・ビルボード」マーティン・マクドナー

これぞ良質な、実に良質な、アメリカ映画。綿密に練られた脚本による予測不可能なクライム・サスペンスの行き着く先は、終わりの見えない哀しみと怒りの連鎖の果てにある、ごく小さく、ごく微かな希望だった。今さら説明するまでもない偉大な女優であるフランシス・マクドーマンドはもちろん、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルらキャストの抑制の効いた演技と、脚本も書いたマーティン・マクドナー監督の演出が素晴らしかった。傑作。

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映画『スリー・ビルボード』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

「火花」板尾創路

お笑いを仕事にする。そんな無謀な夢に挑み、もがき、苦しみ、傷ついた芸人二人の10年間の軌跡。原作・又吉直樹、監督・板尾創路によって生みだされた作品ならこそ。細部の描写、一つひとつにリアリティが漲っている。かつて、立川談志は落語を「人間の業の肯定」と言ったけれど、ある意味、お笑いとはやさしさであり、やさしさがないと、笑いを生みだすことはできないのだ。

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映画『火花』