ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」森達也

本を選ぶときに念頭に置いていることの一つに、それが、ネットはもちろん、テレビや新聞で得られない情報であるか、触れられない表現であるか、という自分なりの基準のようなものがある。森さんのドキュメンタリー作品も、著作も、いずれも賛否両論あるけれど、「正義や善意や大義を燃料にするとき、そして愛する人を守ろうと思ったとき、人は内実が変わらないままにとても残虐になれる」という言葉には、世界に蔓延り、日本を蝕む、戦争や紛争や犯罪の根本的な原因が明快に表われている。正義と善意。それこそが暴力であるということを決して忘れてはならない。

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筑摩書房 世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい / 森 達也 著

「ホワイト・ラバーズ」キム・グエン

心に傷を抱えながら生きている二人が、行き場を失い、逃避行に走るロマンチックで、ファンタジックなラブストーリー。二人でいれば怖いものは何もない。死さえも恐るるに足らず。恋は盲目。良いことも、悪いことも、そのすべてをギュッと凝縮したような95分だった。

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ホワイト・ラバーズ | Sony Pictures Japan

「美しい星」吉田大八

人類の行く末を左右するような地球規模の大問題も、宇宙規模で俯瞰して眺めると、どれもハチャメチャで、滑稽で、哀しくみえてくる。SFにしてカルト。三島由紀夫が50年以上も前に抱いていた不安や絶望、そして、焦燥や虚無、それから、自由な表現を、現代に置き換え、見事に甦らせた吉田大八という監督はやっぱり只者ではない。

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映画『美しい星』公式サイト

「君はひとりじゃない」マウゴシュカ・シュモフスカ

たったワンカットでいい。忘れられないシーンがあるだけで、それはかけがえのない映画となる。突然に母親を亡くした娘とその父親の、絶望と、断絶の果てにあるもの。冒頭からの1時間半がすべて枕だったのかと思わせる圧巻のラストシーン。そのBGM、リバプールFCのサポーターソングとしても知られる「You’ll Never Walk Alone」がとにもかくにも胸に沁みる。

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映画「君はひとりじゃない」オフィシャルサイト

「カフェ・ソサエティ」ウディ・アレン

圧倒的なオシャレ感。さすが、さすがのウディ・アレンというべきか、衣裳も、音楽も(とろけるようなジャズの数々!)、台詞も、物語も、こんなに瑞々しく、洗練された映画を、80歳を超えた監督が撮りあげたなんて、ほんとうに信じられない。1930年代の黄金時代のハリウッド。煌びやかな夢の世界で繰り広げられる、ほろ苦くも甘美な、大人のラブストーリーに酔いしれる。

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映画『カフェ・ソサエティ』公式サイト