本を選ぶときに念頭に置いていることの一つに、それが、ネットはもちろん、テレビや新聞で得られない情報であるか、触れられない表現であるか、という自分なりの基準のようなものがある。森さんのドキュメンタリー作品も、著作も、いずれも賛否両論あるけれど、「正義や善意や大義を燃料にするとき、そして愛する人を守ろうと思ったとき、人は内実が変わらないままにとても残虐になれる」という言葉には、世界に蔓延り、日本を蝕む、戦争や紛争や犯罪の根本的な原因が明快に表われている。正義と善意。それこそが暴力であるということを決して忘れてはならない。
「ホワイト・ラバーズ」キム・グエン
心に傷を抱えながら生きている二人が、行き場を失い、逃避行に走るロマンチックで、ファンタジックなラブストーリー。二人でいれば怖いものは何もない。死さえも恐るるに足らず。恋は盲目。良いことも、悪いことも、そのすべてをギュッと凝縮したような95分だった。
「美しい星」吉田大八
人類の行く末を左右するような地球規模の大問題も、宇宙規模で俯瞰して眺めると、どれもハチャメチャで、滑稽で、哀しくみえてくる。SFにしてカルト。三島由紀夫が50年以上も前に抱いていた不安や絶望、そして、焦燥や虚無、それから、自由な表現を、現代に置き換え、見事に甦らせた吉田大八という監督はやっぱり只者ではない。
「君はひとりじゃない」マウゴシュカ・シュモフスカ
たったワンカットでいい。忘れられないシーンがあるだけで、それはかけがえのない映画となる。突然に母親を亡くした娘とその父親の、絶望と、断絶の果てにあるもの。冒頭からの1時間半がすべて枕だったのかと思わせる圧巻のラストシーン。そのBGM、リバプールFCのサポーターソングとしても知られる「You’ll Never Walk Alone」がとにもかくにも胸に沁みる。
「カフェ・ソサエティ」ウディ・アレン
圧倒的なオシャレ感。さすが、さすがのウディ・アレンというべきか、衣裳も、音楽も(とろけるようなジャズの数々!)、台詞も、物語も、こんなに瑞々しく、洗練された映画を、80歳を超えた監督が撮りあげたなんて、ほんとうに信じられない。1930年代の黄金時代のハリウッド。煌びやかな夢の世界で繰り広げられる、ほろ苦くも甘美な、大人のラブストーリーに酔いしれる。