ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「家族はつらいよ2」山田洋次

「家族はつらいよ」も良かったけど、続編がまた、とても良かった。つらいばかりの人生も、七面倒臭い家族との関係も、傍からみると、滑稽で、愛おしい。山田洋次の円熟の喜劇が、ここにきて、ますます極まっている。「喜劇ってのは泣きながらつくるもの」という監督の言葉をそのまま体現したような作品。あまりに可笑しいからこそ、あまりに切ない。そんな映画だった。

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山田洋次監督作品『家族はつらいよ2』11.3(金)Blu-ray&DVDリリース!

 

「光」河瀨直美

映画。この光と闇が織りなす偉大なる芸術は、観るものではなく、感じるものであるということを、痛切に教えられた。そして、私たち、一人ひとりの想像力が、映画を殺し、映画を生かす、ということも。「目の前から消えてしまうものほど美しい」という劇中の台詞は、映画への最大の賛辞。これは映画を愛する人間が、その愛をいっぱいに詰め込んだ、まるで恋文のような映画だ。

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映画『光』公式サイト 河瀨直美監督・BD&DVD好評発売中!

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」石井裕也

ぼくらの石井裕也が帰ってきた。最果タヒの詩集が原作だなんて、素敵なお土産をひっさげて。彼の作品は、もちろんどれも素晴らしいけれど、誰もが見過ごしてしまいそうな世界の片隅で、とことん情けなく、不器用で、それでも、誠実に生きる人たちが描かれる、あの「やさしい映画」が帰ってきたのだ。薄っぺらい世界の中で、こんな風に、ほんとうの愛を見つけることができたなら、生きること、生きていることを、思いきり肯定したくなる。

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『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 2017.11.15ブルーレイ&DVD リリース!

「我々の恋愛」いとうせいこう

阪神淡路大震災地下鉄サリン事件。日本の安全神話が崩壊した1995年に20世紀が終わったと仮定するなら、作中で描かれる恋愛は、『二十世紀の恋愛を振り返る十五ヵ国会議』による「二十世紀最高の恋愛」にして、「二十世紀最後の恋愛」でもある。ケータイも、メールも、もちろん、SNSもなかった時代。固定電話の息づかいに耳をすまし、沈黙に胸を高鳴らせた恋愛は、もう二度と戻ってこない。あの待ち合わせにもやきもきした「我々の恋愛」が、こんなにもノスタルジックになってしまったのかと、やけにしみじみしてしまう。

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『我々の恋愛』(いとう せいこう):|講談社BOOK倶楽部

「あゝ、荒野」岸善幸

寺山修司を知ったのは、たしか、高校二年の頃だった。以来、あの美しく、哀しく、強烈な言葉に魅せられ、古本屋で文庫本を買いあさり、ボロボロになるまで貪るように読んだ。そんな彼の小説を、50年以上たった今、舞台を2021年に置き換えて映画化。しかも、前・後篇を合わせ、5時間5分にも及ぶ長編として完成させた、その情熱と執念にただただ頭が下がる。新宿、家出、競馬、売春、そして、ボクシング。まさに寺山ワールド。熾烈にしか生きられない孤独な若者たちの肉体と魂のぶつかり合い。これぞ死闘。凄まじい熱量の菅田将暉とヤン・イクチュンがとにかく素晴らしかった。

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映画『あゝ、荒野』 | 10.7前篇/10.21後篇 2部作連続公開