小説家は誰しもそうなのかもしれないけれど、山崎ナオコーラという人はとりわけ、言葉では表わせないものを、言葉によって表わそうとする人だ。デビュー作に「人のセックスを笑うな」なんてタイトルをつける人が綴ったエッセイはやっぱりやさしい。そして、生きることへの誠実さと正直さがじわじわ滲みでている。「伝わらなくてもいいんだ」と書く彼女の言葉は、とても、とても信用ができる。
「モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由」マイウェン
恋愛偏差値のべらぼうに高い国フランスから、またもや熱烈なアムールが炸裂する、10年にわたる愛の映画が誕生。これぞ「嫌よ嫌よも好きのうち」の極致。さすがの女性監督というべきか、これはちょっと男にはハードルが高いな。激愛。
映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』オフィシャルサイト
「わたしは、ダニエル・ブレイク」ケン・ローチ
好きな映画監督を挙げよ、と訊かれたら、まずはケン・ローチを挙げる。どんな作品であれ、彼の映画の根底にあるのは、やさしくない社会への、やむにやまれぬ哀しみと怒りだ。効率化という名のもとに定められるマニュアルやルールによって、もがき苦しみ、それでもなお、尊厳を失わず生きる人たちがいる。ケン・ローチの最高傑作にして集大成。普段はそんなことをまったく思わないけれど、この映画だけはどうか、どうか、世界中のできるだけ沢山の人たちに観られますように、と願う。
「たかが世界の終わり」グザヴィエ・ドラン
すごい。圧巻。呼吸の乱れや胸の鼓動、目線の動き、瞬きの一つひとつまで。悩み、迷い、怒り、悲しみを内包する人間の繊細な「感情」の揺れを、グザヴィエ・ドランは、圧倒的に美しい映像と音楽によって描きだす。傷つけ合い、憎しみ合っても、この映画が愛に満ち溢れているのは、ドランが真のシネアストであるからだ。
「ハーフネルソン」ライアン・フレック
「ラ・ラ・ランド」から「ブレードランナー2049」へ。今やハリウッドきっての超・売れっ子となったライアン・ゴズリングが11年前にみせた演技には彼の天才がはっきりと見てとれる。どんな孤独な人間にも、性別や年齢を超え、誰かがきっと寄り添ってくれるという希望。彼の代表作は「ラースと、その彼女」でも「ブルーバレンタイン」でも「ドライヴ」でもなかった。主役が有名になったことでようやく日の目をみた映画は、魂をぐっと掴まれるような傑作だった。