ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「君の名は。」新海誠

光の美しいアニメーションだった。都会の高層ビルを照らす朝日も、田舎の校庭に射し込む木漏れ日も、美しく清らかで世界を包み込むような光が全編に満ち溢れていた。時代に、とりわけ、若者に圧倒的に支持される作品というのはそれだけで価値がある。なぜなら、それは未来だから。そして、多くの人たちを熱狂させるものはいつも、表層的ではなく根源的なもの、希望を感じさせるものだ。

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映画『君の名は。』公式サイト

 

「沈黙 ―サイレンス― 」マーティン・スコセッシ

弾圧する側も、弾圧される側も、そのいずれにも「弱さ」はある。この映画が胸を打つのは、善人も、悪人も、人間なら誰しもが持っているその「弱さ」に、終始一貫、揺れ動きながらも寄り添っているからだ。人間を救済するための宗教が、なぜゆえ、こんなにも人間を苦しめるのか。神に問うても、内なる声に耳を傾けても、その答えは一向に見つからない。けれども!

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映画『沈黙‐サイレンス‐』公式サイト

 

 

「ラ・ラ・ランド」デイミアン・チャゼル

今さらの「ラ・ラ・ランド」。いやー面白かった! エンターテイメントへの限りない憧れと愛情。ドキドキとワクワク、そして、ちょっぴりの切なさが、きらきら散りばめられた魔法。わずか1本のフィルムでエマ・ストーンの美しさは永遠となった。こんな映画を観ると、ミュージカルを生んだアメリカという国が、ほんとうに偉大に思えてくる。胸、高鳴りっぱなし!

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映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト

 

 

「ヒトラーの忘れもの」マーチン・サントフリート

人の痛みをリアルに想像することでしか憎悪の連鎖を断ち切ることはできない、というシンプルで力強いメッセージ。第二次世界大戦後、ナチス・ドイツがデンマークに埋めた200万個以上の地雷を除去した多くは、20歳に満たないドイツの少年兵たちであり、その半数近くが死亡もしくは重傷を負ったという史実。目の前で少年が死んでいく。世界には誰かが伝えようと強く思わなければ知りえない隠蔽された残酷な歴史がまだまだ沢山ある。

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映画『ヒトラーの忘れもの』公式サイト – シネスイッチ銀座他にて絶賛公開中!

 

「狼」新藤兼人

新藤兼人による1955年の作品。貧困が人間をどのように破壊していくのかを緻密に描いたエンターテイメント。それにしても、今や社会派としか紹介されない監督がこんなにも第一級の娯楽作品をインディペンデントで撮った「豊かさ」が、かつての日本映画にあったことが信じられない。そして、戦争の本当の悲劇は、戦争が終わってなお、罪のない普通の人たちの一人ひとりの人生を踏み躙り、破滅させることなのだと改めて痛感する。

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