ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「つむぐもの」犬童一利

芸歴50年の初主演。高倉健に見いだされた石倉三郎という役者、というよりも、人間の深み。演じるというよりも、ただそこに「在る」だけで美しいのはきっと、本人が美しい生き方を積み重ねているからだ。人が人と交わること、人が人を認めること、人が人を敬うことに、年齢や性別も、国籍や文化も、まったく関係がないということを強く信じ、まっすぐに伝える、まばゆい映画だった。そして、忘れてはならぬ、キム・コッピという天才。

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http://www.tsumugumono.com/

「運び屋」クリント・イーストウッド

イーストウッドのメッセージはいつも短くシンプルだ。しかし、いつまでも余韻を残しながら、やがて、脳裏に焼きついていく。かつて『グラン・トリノ』という傑作を遺した「神様」からの、もう一つの遺言。しかも、それは、決して重苦しくなく、艶やかで、軽やかなで、さわやかな。御年88歳のイーストウッドの人生が滲みでた悲しみと、強い矜持がじんじん心に沁みてくる。

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クリント・イーストウッド監督・主演最新作『運び屋』公式サイト 大ヒット上映中!

「アメリカン・スリープオーバー」デヴィッド・ロバート・ミッチェル

とても不思議な映画だった。なので、言葉にするのもとても難しい。大人は誰一人として登場せず、もうすぐ新学期(アメリカは9月から)が始まる8月の「ある特別な夏の夜」に起こる、ティーンエイジャーたちの悲喜こもごも。理屈では説明することのできない衝動や、打算のない行動、運命的な出会いと突然の別れ。青春の刹那。『アンダー・ザ・シルバーレイク』というヤバい映画を撮った鬼才は、長編デビュー作から独特な視点で映画を撮っている。まるでパステルズのようなけだるすぎるエンディング曲がまた最高。

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映画『アメリカン・スリープオーバー』オフィシャルサイト

「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」エルネスト・ダラナス・セラーノ

モールス信号は世界共通語であり、アマチュア無線は国境を越える。このキューバのコメディが描くのは、そこには人種や思想の違いによる諍いや、自国ファーストというエゴはなく、いわばイマジンのような世界が存在していたということだ。SNSによる「つながり孤独」なる矛盾が蔓延している今こそ、トン・ツー・ツーで思いを伝え、世界とつながろうとした人たちに教えられることは多い。

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映画「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」公式サイト 2018年12/1公開

「生きてるだけで、愛。」関根光才

程度の差こそあれ、人はみんな孤独だ。きっと分かり合えるなんてのは傲慢で、もしかしたら一瞬分かり合えたかもしれない、そのかけがえのない奇跡を、初々しい感性と瑞々しいキャストで描き切った、他者とつながることが怖くて痛い現代の純度の高い恋愛映画。ハズレなしの本谷有希子原作。そして、とにもかくにも主人公・寧子を演じた趣里の圧倒的な存在感。あのひらひらと揺れる真っ青なロングスカートを、またきっといつか観たくなるはずだ。

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映画『生きてるだけで、愛。』公式サイト 11/9(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー