ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「くれなずめ」松井大悟

なんだかじわじわくる。思いやりとやさしさが詰まりすぎていて、どんなシーンを思い出しても、感情が溢れて、今にも泣いてしまいそうだ。ハッキリさせなくてもいいし、そこに言葉はいらない。切なすぎる暗黙の了解にグッとくる。松井大悟監督の作品はいつも、はるかに想像を超えて純粋だ。

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映画『くれなずめ』オフィシャルサイト 2021年5/12公開

「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」山田洋次

太地喜和子という伝説となった女優の凄まじさをまざまざと見せつけられた。多くの芸術家、俳優、映画監督が彼女に魅せられたように、そのあまりの艶やかさと奔放さに一瞬で虜となった。宇野重吉のすごさを今さら言うまでもないけれど、彼の卓越した存在がかすむくらいに太地喜和子が眩しかった。「寅次郎相合い傘」と並んで最高傑作にあげる人の多い第17作。「赤とんぼ」が名曲すぎる。そして、「男はつらいよ」は奥が深すぎる。

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第17作 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「約束の宇宙」アリス・ウィンクール

育児休暇中に初めて息子を保育園へ送った妻を思い出し、公式サイトにある「日々の生活や子供を育てること、と同列に宇宙で働くことがある」という矢野顕子さんのコメントが強く印象に残った。この映画を観ると、仕事と家庭、この二つを分けて考えることがいかにナンセンスであるかがよくわかる。母も、娘も、それぞれが自立し、より一層絆が深まる。それって希望だ。

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映画『約束の宇宙(そら)』オフィシャルサイト

「僕が跳びはねる理由」ジェリー・ロスウェル

自分とは異なることを尊重する。実践するのは難しく、偉そうなことはいえないが、それがきっと穏やかな世界を生みだす、唯一の方法だと思っている。尊重するための第一歩は、知ろうとすること、理解しようと努めること。無知は恐れを生み、恐れは偏見や差別を生む。46年も生きてきて、他人が自分と同じようにモノを見て、世界に触れていると考えることが、すごく傲慢なことなんだと思い知らされた。

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僕が跳びはねる理由|トップ

「わたしの叔父さん」フラレ・ピーダセン

1980年生まれのデンマークの映画監督、フラレ・ピーダセンが敬愛し、師と仰いでいるのは小津安二郎であるという。ジャームッシュカウリスマキの名を挙げるまでもなく、海外の映画監督、しかも、生まれたときにすでに小津がこの世にいない監督たちが、自らの映画を通じ、彼にオマージュを捧げるとき、その偉大さを改めて痛感する。この映画が描くのは、他者とのかかわりの中で繰り返される心地よい日常(「ヒュッゲ」)のかけがえのなさだ。日常にある家族の機微を描いた小津の薫陶が脈々と受け継がれている。

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映画『わたしの叔父さん』公式サイト