仰げば尊しも、浜辺の歌も、ふるさとも、朧月夜も、荒城の月も、七つも子も、日本語があまりに美しい。それはそのまま、日本人や日本という国の美しさとも深くつながっている。黒澤明がライバルとし、大島渚が敬愛し、山田太一が師と仰ぐ、木下惠介という監督の作品をいつかきちんと観なければと思っていたけれど、こんなにも凄いだなんて。溝口でも、小津でもなく、世界中の人たちにこの映画を観せて「これが日本だよ!」と大きな声で誇りたい。
久しぶりの寅さん。16作目。成就させたことのない寅さんが恋を語り、学のない寅さんが学問を語る。それでも、なぜか心を打つのは、曇りのない眼で見極め、本質をズバッと突いてくるからだ。寅さんと大学教授のやり取りはもはや禅問答。そして、つねに寅さんが勝利するのは、己のためでなく、誰かのために考えながら生きているためだ。
「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」と書いたのは、戦後日本を代表する詩人・田村隆一だ。気持ちを言葉にすることは難しく、また、言葉にしたとて、それが正確に気持ちを伝えるとは限らない。それでも、なのだ。たとえ言葉が誰かを傷つけようとも、声に出して、叫ばなければならない。それは「生きちゃった」者の宿命だから。
惨めで、危険で、劣悪な都市といわれるイリノイ州のロックフォード。家族から逃れるようにスケボーを始めた3人の、心のうちにしまい込んだ誰にも言えない痛みを浮き彫りにしながら、不器用に、それでも懸命に生きる姿をありのままに映しだした12年。問題だらけの生活。それでも、このドキュメンタリーがしごく胸を打つのは、彼らを捉えるカメラがあまりにやさしいからだ。仲間だけにみせる言葉、屈託のない笑顔が美しすぎて何度も泣きそうになった。