ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」ダニエル・シャイナート

罪のない者だけが石を投げよ。とイエスは言った。たまたま通りすがって罪を目にしたような当事者以外の人間が、血相を変えて赤の他人を断罪し、暴言を吐き捨てるネット時代にあって、いろいろ考えさせられる映画だった。罪は罰せられ、その一方で、赦されもする。さすが、奇想天外な傑作「スイス・アーミー・マン」を生んだダニエル・シャイナート監督。「人間って計り知れないですね」の台詞がこの映画のすべて。素晴らしいコメディはじわじわ大切なことを感じさせてくれる。

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映画『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』公式サイト

「よこがお」深田晃司

愛情はいとも簡単に憎悪に変わり、信頼や好意は一瞬で崩れ落ちる。人間ほど曖昧で危ういものはないのだと、多くの映画が語るけど、そこに哀しみや、かすかな光を感じさせるかどうかが肝心なのだ。深田晃司監督は人間をとことん抉る。抉りまくる。つくづくすごい監督だ。そして、筒井真理子はつくづく畏ろしい女優だ。

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映画「よこがお」公式サイト 2019年7/26公開

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」山田洋次

シリーズ最高傑作との呼び声も高い15作目。寅さんとリリーはほんとうによく似ている。けんかっ早くて、意地っ張りで、それでいて、やさしすぎる。お互いのことをわかりすぎるというのはせつない。そして、やっぱり「メロン騒動」は何度観てもサイコー。平和すぎて泣きそうになる。

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第15作 男はつらいよ 寅次郎相合い傘|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「在りし日の歌」ワン・シャオシュアイ

185分の壮大な叙事詩。どんなに政治が介入しようとも、どんなに社会が変容しようとも、どんなに絶望の淵に立たされようとも、夫婦はともに生きていく。人を思いやり、赦し、すべてを受け入れたときに訪れる、ささやかなしあわせ。これは、深い哀しみを抱えながら生きている、市井の人たちへの敬意ある賛歌。いやー、いい映画だった。心の底から感動した。

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映画『在りし日の歌』公式サイト

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」ウディ・アレン

80歳を超えて、こんなにも瑞々しい「恋」の映画を、軽々と撮り上げてしまう感性って! ニューヨークで繰り広げられる、コミカルでシニカル、オシャレで軽妙な「恋」の物語。ハリウッドから干されかけているウディ・アレンの映画がお蔵入りになるのはやっぱりもったいない・・・な。ニューヨークとジャズへの愛が炸裂。ティモシー・シャメラがピアノで奏でるスタンダードナンバー「Everything Happens To Me」が美しすぎる。

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映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』公式サイト