ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「男はつらいよ 寅次郎夢枕」山田洋次

「いつもその人のことで頭がいっぱいよ。何かこう胸の中が柔らかーくなるような気持ちでさ」「その人のためなら何でもしてやろう。命だって惜しくない」と恋について力説する寅さん。無論、滑稽だけれど、なんだかじんわり沁みてくるのは、あまりに清らかで、まっすぐなロマンチズムが溢れているからだ。まさかのまさか、史上屈指の人気マドンナ・お千代坊(八千草薫)を寅さんがフッてしまうシリーズ第10作目。結ばれぬ恋。いいね。

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第10作 男はつらいよ 寅次郎夢枕|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「ベン・イズ・バック」ピーター・ヘッジズ

子供の命を守ろうとする母親とはこんなにも凄まじいものなのか。薬物依存から抜けられない息子から、あらゆるリスクを排除しようと奔走する母親は、まるで外敵から本能的に子を守る野生動物のようだ。毎年、着実にキャリアを積み重ねるジュリア・ロバーツの迫真の演技はもちろん、純真で危うい息子ベン役のルーカス・ヘッジズの天才は特筆に値する。絶対的な愛ほど切ないものはない。

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「ロケットマン」デクスター・フレッチャー

映画はこれまでも、名曲が生まれる数々の瞬間を描いてきたけれど、この作品の「ユア・ソング」は屈指の素晴らしさ。そのメロディの美しさはまさしく魔法のようだった。あまりに繊細だったがゆえに、奇跡のように美しい曲が生まれ、そのことが一層、エルトン・ジョン自身を傷つけていく。天才だから狂人となるのか、狂人だから天才となるのか。アーティストの人生はいつもそのことを考えさせる。

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映画『ロケットマン』公式サイト 12.25[WED]Blu-ray&DVDリリース!

「男はつらいよ 柴又慕情」山田洋次

長町武家屋敷、兼六園犀川沿いの金沢から、永平寺東尋坊の福井へと向かう北陸路。そして、満を持して登場したマドンナ役の吉永小百合。エピソード満載のシリーズ9作目も、やはり、なんにも変わらない。偉大なるマンネリズム。そして、センチメンタリズム。寅さんの「そうかい、そりゃあ、よかった。よかったじゃねえか」が本作も切なく響く。

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第9作 男はつらいよ 柴又慕情|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「ゴールデン・リバー」ジャック・オーディアール

ホアキン・フェニックスとジョン・C・ライリーが組んだ段階で、ただならぬ傑作となることは決まっている。これまで観たどんな西部劇よりも血の通った、生々しく、どこか温かな映画だった。なにが幸せなのかと迷ったときは「私が何よりも幸せだと思う瞬間は、はるか西部の荒野で、十分な薪を焦がす火と過ごす時間だ。私は座って、私は脚を組んで座って、ぬくもりを楽しみ、青い煙が上るのを見つめる。どんな贅沢品も、この自由な時には代えがたいものがある」という、この映画の中にある滋味深い台詞の一節を思い出そう。

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映画『ゴールデン・リバー』公式サイト