ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「スターリンの葬送狂騒曲」アーマンド・イアヌッチ

緊張と緩和。こそが笑いを生むというけれど、強制労働収容所への収容、あるいは、反逆罪による銃殺と、恐怖による支配が崩れ、たがが外れた瞬間に、ここまで人間は「滑稽」になるのかということを丹念に描いた衝撃のブラック・コメディ。状況の変化に態度を一変させ、追い込まれれば追い込まれるほど、欲が丸出しになっている側近たちの下衆さが、なんだか、どんどん愛おしくなってくるから不思議だ。

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映画『スターリンの葬送狂騒曲』公式サイト

「輝ける人生」リチャード・ロンクレイン

信じて飛べ! そう言われても、なかなか飛ぶことができないように、自由に、やりたいことをやり、後悔のない人生を送ることは、殊の外、難しいものだ。モタモタしているうちにやり過ごしてしまわぬよう、迷ったらやる、というくらい前のめりに生きていこう。いのち短し、恋せよ乙女。酸いも甘いも噛み分けた大人たちに教えられることはたくさんある。

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映画「輝ける人生」公式サイト 2018年8/25公開

「LUCKY」ジョン・キャロル・リンチ

ハリー・ディーン・スタントンの遺作。風貌、仕草、服装、そのいずれもが、怖ろしいほどカッコイイのは、そこに彼の人生のすべてが滲み出ているからだ。テンガロンハットをかぶり、行きつけのダイナーでコーヒーを飲み、新聞のクロスワード・パズルを解く、頑固で偏屈な爺さんが「死」を想い、語り、受け入れることが、こんなにも感動的だなんて。できることなら彼のように、ほんとうの孤独を掴みとってから、人生の最期、そのときを迎えたい。

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映画『ラッキー』公式サイト

「男と女、モントーク岬で」フォルカー・シュレンドルフ

盲目的な男の浅はかさと、強かな女の思慮深さを、見事に描いた大人の恋愛映画。設定が40代とは到底思えない人生経験値と恋愛偏差値の高さ! 「ほろ苦くも芳醇なラブストーリー」という言葉はこの作品のためにあるような映画だった。ロマンチストとリアリスト。それにしても、未練タラタラ、男というのはどうしようもないな。猛烈にお恥ずかしい。

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男と女、モントーク岬で « アルバトロスフィルム

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」クレイグ・ギレスビー

フィギュアスケートを始めたのも、DVを続ける夫に縋ったのも、何度もオリンピックを目指したのも、すべては唯一、母親に愛されたかったんだと思うとやるせない気持ちでいっぱいになる。史上最高にスキャンダラスで、世界中で嫌われたスポーツ選手を、世間の側からではなく、彼女の側から捉えたその視点に胸が熱くなった。偏った、穿った見方への懐疑。かといって正当化するわけでもない、「客観」というやさしい眼差しが印象に残る。しっかし、運命というのは凄まじいものだ。

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映画『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』公式サイト