ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ロープ 戦場の生命線」フェルナンド・レオン・デ・アラノア

戦場。極限の緊張状態の中では、例え味方同士であったとしても、理想と現実、本音と建て前、あるいは、善と悪、清濁をあわせ呑み、飲み込まなければ決して生き延びることはできない。ほんの些細な出来事に凝縮される戦争のすべて。戦闘シーンはワンシーンもないけれど、これはまぎれもなく、私たちの知らない戦闘地域のリアルを伝えてくれる戦争映画だ。

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映画「ロープ/戦場の生命線」公式サイト 2018年2/10公開

「夏の力道山」夏石鈴子

夏石鈴子(鈴木マキコ)さんの文体の清々しさたるや! 心の中で思っていることを露骨に書きつつも、決して下品にならないのは、彼女の生き方そのものにきっと品があるからだ。働きながら子を育て、働き、さらにはうだつのあがらない夫の世話をする。そんな女性に男が敵うはずなどないのだ。

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筑摩書房 夏の力道山 / 夏石 鈴子 著

「女と男の観覧車」ウディ・アレン

ウディ・アレンのコメディはいつもいたたまれない。そこには「人生というのは、ものすごくシリアスで、ものすごく悲しいもの」だから「何とか笑えるよう最善を尽くすだけ」という哲学が細部に行き渡っている。ある意味で、彼こそがチャップリンのコメディを正統かつ誠実に受け継いでいる映画作家と言えるのではないだろうか。ケイト・ウィンスレット、怪演。これぞ、女優魂だ。

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映画『女と男の観覧車』公式サイト

「地球のレッスン」北山耕平

この本には「簡単に成し遂げられることはなにひとつ書かれていません」と北山耕平は書く。なんでもスピーディーに、便利に、簡単に。インスタントでコンビニエント。効率化が強く求められている時代の中で「簡単に成し遂げられない」ことにこそ価値は生まれ、そこに最も大切なことがあるように思えてならない。彼が影響を受けたネイティブ・ピープルの教えはどれも「問い」からして壮大なもの、深く、何度も、自分の内なる声で反芻しなければならないものばかりだ。

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地球のレッスン - 太田出版

「ロンドン、人生はじめます」ジョエル・ホプキンス

あのウディ・アレンをして「おしゃれの天才」と言わしめたダイアン・キートンの魅力が炸裂。まるで少女のように、というとあんまりだけど、こんなにもチャーミングでいられることが不思議。色褪せるどころか、ますますおしゃれなマニッシュスタイルに目を奪われながら、熟年のラブコメにしばし酔いしれる。

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映画『ロンドン、人生はじめます』公式ホームページ