ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン。20世紀の独裁者はどのようにして生まれたのか。サルトルの短編小説から着想を得たという不条理な世界。全編に漂う、何かが起こりそうな不穏な空気が、観るものを釘付けにして離さない。そして、あのルイス・ブニュエルを彷彿とさせるフェティシズムと宗教への複雑な視線。結末に向かうにつれて、すべてのピースがはめ込まれたように、その全貌が見えてくる、これは、映画的な、実に映画的な陶酔を誘う、怖ろしい作品だ。
本編で引用される「私は本を読みつづけることだろう、そして忘れつづけることだろう」というイギリスの作家・ギッシングの言葉。そうだ、過去のほとんどは忘れ去ってしまうけれど、ほんのわずか、記憶に残る過去の断片を、ノスタルジーに浸ることなく、極めて洗練された文章で綴ったエッセイ集。山田太一という人の言葉は、ドラマであれ、小説であれ、エッセイであれ、いつも心に強くひっかかる。