ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「エリザのために」クリスティアン・ムンジウ

いい映画はわかりやすい善悪を描かない。その代わり、私たちの内面に、じわじわじわじわ問いかけてくる。オマエハフセイヲハタライタコトハナイノカと。例え、ツテやコネ、賄賂が横行する社会であっても、それを社会のせいにし、自らも手に染めるかどうかは、無論、個人の判断による。しかしながら、大抵の場合、私たちは弱く、そして、愚かだ。「政治を軽蔑するものは軽蔑すべき政治しか持つことができない」というトーマス・マンの言葉を苦々しく思い出した。

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映画『エリザのために』公式サイト

 

「アズミ・ハルコは行方不明」松居大悟

無差別に男をボコる女子高生たち。最初は眉をひそめつつ、途中から「やっちまえ!」と、心の中で叫ぶ自分がいた。街中に描かれるグラフティも、それに火をつける行為も、すべて法を犯しているけど、やらずにいられない、やりきれない気持ち、ちょっとわかる。拒絶され、虐げられる、閉塞感でいっぱいな時代の、ポップで過激な青春映画。超アナーキー

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映画『アズミ・ハルコは行方不明』公式サイト | 大ヒット上映中!

 

「旅をする木」星野道夫

ある書店員さんにお薦めしてもらった本。ほんとうに素晴らしかった。例えば「人はその土地に生きる他者の命を奪い、その血を自分の中にとり入れることで、より深く大地と重なることができる」と星野道夫さんは書く。ただひれ伏すしかない圧倒的な自然の中で生きる人間だけが綴ることのできる言葉の数々。これは何度も読み直したくなる珠玉の一冊だ。

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文春文庫『旅をする木』星野道夫 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS

「地獄に堕ちた野郎ども」ウェス・オーショスキー

パンクロックにかぶれ、ゴミのようなCDを死ぬほど買ったけれど、彼らのファーストアルバム「地獄に堕ちた野郎ども」はやっぱり特別な1枚だし、その冒頭「ニートニートニート」はパンク史上もっともカッコイイ曲だと思っている。オリジナルメンバーでの再結成は絶望的ながら、60代になってなお、現役バリバリというのが痛快。道化師のようで、どこか世の中を嘲笑しているようなところが、なんともパンクなのだ。

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ダムド映画『地獄に堕ちた野郎ども』

 

「トレジャーハンター・クミコ」デヴィッド・ゼルナー

自分を理解してくれる他者など誰一人いないのだと信じ込み、世界でたった一人、例えようのない孤独に苛まれ、閉塞感に押し潰されそうになった人間が、映画という幻想に逃げ込みたくなる気持ち。すごくよくわかる。これは、そんな、不健全な映画狂いに捧げられた鎮魂の映画だ。なんだか、切なくて、切なくて、途中から画面を直視できなかった。

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トレジャーハンター・クミコ | ソニー・ピクチャーズ - DVD & ブルーレイディスク(Blu-ray Disc)