ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ストーンウォール」ローランド・エメリッヒ

サウジアラビア、イラン、パキスタンでも、同性愛は「死刑」とされている。主人公を白人に変え、英雄視したことに、強い非難があるようだけど、ドキュメンタリーではない以上、現在もなお「全米の若いホームレスの4割は性的少数者LGBT)の人々であり、また、77ヵ国で同性愛は犯罪とされている」ことを示しただけでも、この映画には存在意義があった。(映画の出来は別として)本質とは別のところで作品が非難され、非難がひとり歩きするというのは、なんだか、とても寂しく残念なことだ。

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『ストーンウォール』公式サイト

 

 

「妊娠カレンダー」小川洋子

芥川賞受賞作を含む短編集。生きることの危うさや脆さ、そして、豊かさを、主観に寄りすぎることなく、ある種、淡々と、丁寧に描写する独特の文体が好き。身体や器官への偏愛、フェティシズムも、人間そのものや文学への、彼女の真摯な向き合い方なんだなぁ。このもやもやとした読後感! も、いいね。

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文春文庫『妊娠カレンダー』小川洋子 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS

 

「シン・ゴジラ」庵野秀明・樋口真嗣

ようやく「シン・ゴジラ」を観る(遅っ!)。特撮への愛に溢れるオタク・庵野秀明総監督が「何故、空想特撮映画を作る事を決めたのか」と自問し続け、それを、「ゴジラ」の着ぐるみの脱ぎ着の補助からキャリアをスタートさせた樋口真嗣監督が強力にサポートする。そんな肝煎りの映画が大ヒットしたことは、ある意味、「観客は正しく反応する」ことを示している。熱こそが創作のエネルギーなのだ。

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映画『シン・ゴジラ』公式サイト

 

「淵に立つ」深田晃司

このなんともいえない、ひりひりとした痛々しさ! ある日突然やってきた得体の知れない謎の男が暴くのは、誰もが無意識のうちに蓋をし、心の奥底に閉じ込めている原罪。カンヌが認めた才能。生きることは罪を背負うことでもある、という現実を圧倒的な人間描写で描きだした深田晃司は本当に末恐ろしい映画監督だ。

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映画『淵に立つ』公式サイト

「禁じられた歌声」アブデラマン・シサコ

コーランには「彼らを許し、彼らと話し合え」と書かれているという。つまりは、「聖戦」を唱える人間には、神の声でさえ、無力であるということだ。スポーツも、音楽も、外出も許されない日常。本来、人間を救済するための宗教に、縛りつけられ、抑圧される日々。劇中に流れる、監視の目を盗んで奏でられる民族音楽があまりに美しく、そして、切ない。芸術はいつも正直だ。

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映画「禁じられた歌声」公式サイト