ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「永い言い訳」西川美和

善良な人間の弱さだったり、最低な人間の優しさだったり、一面的ではない人間の、表面には決して表われない、心の奥底にずっと隠されているもの。西川美和監督はそんな人間の複雑な性をあぶりだす天才だ。赦されることのない十字架を背負いながら生きていく。それでもまだ、希望はある、と背中を押してくれる再生の物語。

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映画『永い言い訳』公式サイト

 

「ある戦争」トビアス・リンホルム

家族と離ればなれ。それだけで、どんな大義を並べたところで、戦争を正統化することはできない。英雄であろうが、犯罪者であろうが、一生消えることのない心の傷。生きて帰るも、地獄。もう決して元には戻れない。自ら戦場に出向き、命をかけて守り、戦った者ほど、深く傷つき、傷つけられるという不条理が徐々に露わになっていく。さすがのデンマーク映画

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映画『ある戦争』公式サイト 10月8日(土)公開 | トップページ

 

 

「お父さんと伊藤さん」タナダユキ

上野樹里も、もちろん、リリー・フランキーもいいけれど、これは藤竜也の背中をみる映画だ。大袈裟にいえば、「生きる」の志村喬だったり、「東京物語」の笠智衆だったり。父親はいつも背中で語ってきたけれど、この映画の藤竜也の背中にも、それまで歩んできた「お父さん」の人生のすべてが滲みでている。何気ない会話と、その「間」にあらわれる、哀しさや優しさ、愛しみ。それらが、じんじんじんじん沁みてくる。いい映画だあ。

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映画『お父さんと伊藤さん』公式サイト

「グッバイ、サマー」ミシェル・ゴンドリー

子供といえるほど純粋無垢ではなく、大人といえるほどズル賢くもない。人生でもっとも特別な“14歳”の夏に、起こるべくして起こる、恋と、友情と、冒険の物語。天才ミシェル・ゴンドリーの自伝的な作品というだけでボルテージは最高潮。友達が一人いれば、その夏は永遠となる。何度も、何度も、拳を突き上げたくなるような、そんな青春映画だった。

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ミシェル・ゴンドリー最新作『グッバイ、サマー』公式サイト|9月10日(土)公開

 

 

 

 

「走れ、絶望に追いつかれない速さで」中川龍太郎

忘れられないシーンがいくつもある。どんなに青臭いといわれようがこんな映画が好きだ。人生の断片、最も輝かしい刹那を、映像によって永遠に刻みつけるもの、それこそが映画であると強く信じている。富山の海が、こんなにも悲しく、美しく、優しかったなんて。太賀、すごすぎる。「愛の小さな歴史」よりさらに飛躍した中川龍太郎監督は、この先、一体どこまでいくんだろう。心の震えがおさまらない。

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走れ、絶望に追いつかれない速さで - Tokyo New Cinema Inc. | ヒトを豊かにする映画