ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」ファビオ・グラッサドニア/アントニオ・ピアッツァ

マフィアの生まれた地、シチリア。大人たちが見て見ぬふりをし、誰もが口を噤んでしまう、歪みきった、汚れきった社会の中で実際に起きた凄惨な事件をベースに、ファンタジックに綴られた少年と少女のラブストーリー。心の底から人を想うこと、触れ合うことが、こんなにも強く、美しく、尊いものなのかと、改めて思い知らされる。

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映画「シシリアン・ゴースト・ストーリー」公式サイト

「マイ・ブックショップ」イザベル・コイシェ

街から本屋さんがなくなることが嫌だ。背表紙のタイトルを眺めながら、気になる一冊を手に取り、手触りや匂い、また、中面から滲みでるものを身体いっぱい感じとる。そうして想像力を育んできた。未だ知らぬ世界との出会いを与えてくれる本屋という空間が、私たちの暮らしを、人生を、いかに豊かにするものなのか。この映画をみればよくわかる。

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『マイ・ブックショップ』2019年3月9日(土)シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

「斬、」塚本晋也

映像美。すごい映画というのは画面をひと目みるだけでわかる。一瞬たりとも気を抜けず、一息もつけない緊張感。人を殺める宿命を背負った武士の「業」を容赦なく抉っていく。現代の日本で、これほどまでに切れ味の鋭い、真のサムライ映画が撮られたことの奇跡。日本が世界に誇る、池松壮亮という役者、塚本晋也という監督の底力をまざまざと見せつけられる。

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映画「斬、」オフィシャルサイト | 2019年9月4日(水)Blu-ray&DVDリリース

「夜明け」広瀬奈々子

尋常ならざる、神々しいほどの、圧倒的な存在感。世界を驚かせた「誰も知らない」や、欲望と狂気の「ディストラクション・ベイビーズ」に勝るとも劣らない柳楽優弥がここにいる。嗚呼、生きることは、こんなにも残酷で、切なくて、危ういけれど、確かなものでもある、ということを感じさせてくれる大傑作。美談は美談で終わらない。光の中にも闇はあるし、闇があるから、光が射し込んでくるのだ。

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映画『夜明け』公式サイト

「ビューティフル・ボーイ」フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン

手塩にかけて育てた自慢の息子が、ドラッグによって、いとも簡単に崩れていく。人は人を救えない。例え、父親であろうとも。想像もしなかった試練に対峙せざるを得なかった父親がそう悟ったときに、それでもなおできることは、息子とともにもがき、苦しみ、ひたすら待つことだけだった。なんど裏切られても、信じて、待つこと。それ以外にできることはないけれどそれこそが至上の愛なのだ。

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映画『ビューティフル・ボーイ』公式サイト