「この世には3種類の人間がいる。ボクシングをする人間としない人間。それともう1種類、ボクシングをする為に生まれてきた人間」というのは、ある映画をみた、千原ジュニアのコメントだけど、この映画の主人公ビニーもまた、ボクシングをしなければ死んでしまうタイプの人間だ。何人たりとも止めることのできない、どん底からの、孤独で、果てしのない闘い。ボクシング映画はいつも、倒すべきは相手ではなく、自分であることを教えてくれる。
撮りたいもの、撮るべきものを撮るためには、恐ろしいほどの執念と、並々ならぬ熱意がいる。例え、巨匠と呼ばれる監督であったとしても、ほとんどの場合、それは叶わぬ夢となる。4時間38分。公開から7年間、DVD化を頑なに拒んでいた、噂の映画をようやく観る。ピンク映画で名を馳せた、瀬々敬久監督の人生をかけた作品は、「再生の物語」などという甘っちょろい言葉では到底表せない、理屈ではない生と死が観るものをただただ圧倒する快作だった。
覆水は盆に返らない。復讐か、赦免か。妻に暴行をはたらいた犯人と対峙する夫の怒り、憎しみ、温情、心の葛藤がスリリングに描かれるミステリー・サスペンス。イランの巨匠が問いかけるのは、振り上げた拳を下ろすことができるのか、ということだ。
あああ、なんていえばいいんだろう。まさに映画でしか表現しえない「いたたまれないユーモア」によって呼び起こされる感慨。なにかをガムシャラに追い求めることで、いかにまわりの景色を見失っているのか、ということを、ウザく、キモい、イタズラ好きのダメ親父が教えてくれる。その背景にあるヨーロッパの格差社会。様々なシーンで印象的に使われる、時代もジャンルも超えた音楽のセレクト。伝えたいことがありすぎる、162分の大傑作だった。幸せってなんだっけ?哀しくて、切なくて、可笑しくて、温かい。娘役のザンドラ・ヒュラーが父親に無理やり歌わされる、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love of All」が強く強く胸に沁みる。