ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「ビニー/信じる男」ベン・ヤンガー

「この世には3種類の人間がいる。ボクシングをする人間としない人間。それともう1種類、ボクシングをする為に生まれてきた人間」というのは、ある映画をみた、千原ジュニアのコメントだけど、この映画の主人公ビニーもまた、ボクシングをしなければ死んでしまうタイプの人間だ。何人たりとも止めることのできない、どん底からの、孤独で、果てしのない闘い。ボクシング映画はいつも、倒すべきは相手ではなく、自分であることを教えてくれる。

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映画『ビニー/信じる男』公式サイト

「ヘヴンズストーリー」瀬々敬久


撮りたいもの、撮るべきものを撮るためには、恐ろしいほどの執念と、並々ならぬ熱意がいる。例え、巨匠と呼ばれる監督であったとしても、ほとんどの場合、それは叶わぬ夢となる。4時間38分。公開から7年間、DVD化を頑なに拒んでいた、噂の映画をようやく観る。ピンク映画で名を馳せた、瀬々敬久監督の人生をかけた作品は、「再生の物語」などという甘っちょろい言葉では到底表せない、理屈ではない生と死が観るものをただただ圧倒する快作だった。

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映画『ヘヴンズ ストーリー』公式サイト

 

「セールスマン」アスガー・ファルハディ

覆水は盆に返らない。復讐か、赦免か。妻に暴行をはたらいた犯人と対峙する夫の怒り、憎しみ、温情、心の葛藤がスリリングに描かれるミステリー・サスペンス。イランの巨匠が問いかけるのは、振り上げた拳を下ろすことができるのか、ということだ。

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映画『セールスマン』公式サイト

 

「ありがとう、トニ・エルドマン」マーレン・アーデ

あああ、なんていえばいいんだろう。まさに映画でしか表現しえない「いたたまれないユーモア」によって呼び起こされる感慨。なにかをガムシャラに追い求めることで、いかにまわりの景色を見失っているのか、ということを、ウザく、キモい、イタズラ好きのダメ親父が教えてくれる。その背景にあるヨーロッパの格差社会。様々なシーンで印象的に使われる、時代もジャンルも超えた音楽のセレクト。伝えたいことがありすぎる、162分の大傑作だった。幸せってなんだっけ?哀しくて、切なくて、可笑しくて、温かい。娘役のザンドラ・ヒュラーが父親に無理やり歌わされる、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love of All」が強く強く胸に沁みる。

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映画『ありがとう、トニ・エルドマン』公式サイト

「ハネムーン・キラーズ」レナード・カッスル

せつない。あまりにせつなすぎて、トリュフォーが「もっとも愛するアメリカ映画」と称賛したことがよくわかる。愛するがゆえに罪を犯さねばならない二人に共通しているのは、寂しく、耐えられないほどの孤独だ。愛すれば愛するほど堕ちていく痛切なラブストーリー。「タクシードライバー」を撮る前のスコセッシが監督するはずだった、伝説のカルト映画は、まぎれもない傑作だった。

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映画『地獄愛』『ハネムーン・キラーズ』オフィシャルサイト