Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「泣き虫しょったんの奇跡」豊田利晃

負けました。と登場人物が頭を下げるシーンを何度見たかわからない(調べてみるとあの羽生善治でさえプロになって600回負けているのだ)。倒れても、倒れても、倒れても、立ち上がる。その根底にある「好き」という気持ち。それも主人公一人ではなく、多くの人たちの将棋への思いが連なったクライマックスに胸が熱くなった。豊田監督もまた、かつてプロ棋士になる夢を諦めざるをえなかったことが、この映画を一層、魂のこもったものにしている。松田龍平がますますいい。

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泣き虫しょったんの奇跡

「続・男はつらいよ」山田洋次

シリーズ第2作。マドンナ役の佐藤オリエも良かったけど、この作品は、何といっても東野英治郎と、ミヤコ蝶々に尽きる。そんな鬼籍に入った殿堂入りクラスの名優の演技(というよりも存在)を目にするだけで寅さんには値がある。そして、丹念に細部にまで練り込まれた脚本クオリティー。原作なしに喜劇を組み立てるというのは本当にすごいことだ。

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第2作 続 男はつらいよ|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

 

「幸福なラザロ」アリーチェ・ロルヴァケル

富めるものも、貧しきものも、ラザロの前では何の意味も持たない。何人たりとも、その無垢な魂を揺るがすことができないだけでなく、その白痴ともとれる聖人の存在はやがて、疎ましいものとなり、偽善に満ちた人間や、社会を崩壊させていく。ラザロによって暴かれるものは私たちの欺瞞。こんな風に世界をハッとさせる映画こそ真に価値のある映画だ。

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映画『幸福なラザロ』公式サイト|2019年4月19日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

「魂のゆくえ」ポール・シュレイダー

信仰の矛盾。何かを抑制するということは、鬱憤を溜め込むことでもある。あの「タクシードライバー」を書いた脚本家ポール・シュレイダーが、構想50年の末に完成させた映画にも、当時と変わらぬ、憤懣やるかたない思いが漂っている。キャリア史上最高、この役を演じるために生まれたとまで評されたイーサン・ホークの静かな怒りは、デ・ニーロに匹敵する狂気を孕んでいた。

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「バイス」アダム・マッケイ

酒癖の悪い青年が強大な権力を握る怪物に変貌する過程を丹念に描いた反骨のブラック・コメディ。ブッシュも、ラムズフェルドも、パウエルも、本人と見紛うばかりにそっくり仕上げられたメイキャップはもはやコント。それでいて、グサリ、グサリと核心をつく物語は、完全に悪ふざけの域を超えている。なお、史上最強で最凶な副大統領ディック・チェイニーは今も健在。アメリカという国のエンターテインメントの底力はこうした映画にあらわれる。

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映画『バイス』公式サイト