Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「未来のミライ」細田守

どんな才能を持った監督も全打席ホームランというわけにはいかない。ただ、後々そのフィルモグラフィーを辿っていくと、そのとき、撮るべきもの、撮らねばならなかったものを、必然的に(というより、ある意味、宿命的に)撮っていることの方が多い。「最小のモチーフを用いて、最大のテーマを語り切りたい」と語った細田守監督。過去の作品が偉大過ぎて、評価も、興行も、あまり芳しくないけれど、小さな日常からの大きな飛躍、時空を超えた奇想天外な冒険の中で主人公くんちゃんが「発見」した、いのちの根源が丹念に丁寧に描かれた、確かに「野心的」な映画だった。この映画を観たあとに亡き祖父の写真を久しぶりにしげしげと見る。

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「未来のミライ」公式サイト

 

「ライオンは今夜死ぬ」諏訪敦彦

ゴダールトリュフォーと並び、ヌーヴェルヴァーグの代名詞といえるジャン=ピエール・レオーの、まさしく映画を生き抜いてきた圧倒的な存在感! 本人を投影するような、死を演じることに苦悩する老俳優の、身振りも、手振りも、その話し方も、それらすべてがまるで伝説のようにそこに存在している。そして、初めて映画を「発見」する子供たちの瑞々しい感性との共鳴、そして、あの傑作「ママと娼婦」のイザベル・ヴェンガルテンとの46年振りの共演も。嗚呼、すべてが奇蹟のようにきらきらと全編に納まっている!

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映画『ライオンは今夜死ぬ』公式サイト

「デトロイト」キャスリン・ビグロー

約40分。これでもかというくらい、執拗に、執拗に描かれる尋問シーンは、尋問というよりも、もはや拷問に近い。1967年のデトロイト暴動のさなかに発生した「アルジェ・モーテル殺人事件」を基にした映画が浮き彫りにするのは、白人警官が黒人を殺しても罪に問われないだけでなく、起訴さえされないという現代にまで根深く蔓延るアメリカの病理だ。映画史に残る「憎まれ役」を演じたウィル・ポールター。見事に演じきった、その怯えからくる狂気が差別を生むのだ。

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映画『デトロイト』公式サイト

 

 

 

「アバウト・レイ 16歳の決断」ゲイビー・デラル

娘にエル・ファニング、母にナオミ・ワッツ、祖母にスーザン・サランドン。という時点で、これはゼッタイいい映画に決まっている。中でも! トランスジェンダーとして性転換を渇望する16歳の娘の決断について、彼女(彼)を愛するがゆえに葛藤する母を演じたナオミ・ワッツの、キャリア史上最高ともいえる演技が本当に素晴らしかった。忘れがたいラストシーン。頭では理解していても、どうしても認めること、許すことができない。が、紆余曲折を経て受け入れた母の、すべてを包み込むように優しく、強い、そのまなざしがいつまでも脳裏に焼き付いている。

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映画『アバウト・レイ 16歳の決断』公式サイト

「笑う子規」正岡子規 著/天野祐吉 編/南伸坊 絵

睾丸の大きな人の昼寝かな。歴史に名を刻むひとは、なぜか聖人君子のように思えてしまうけれど、人間だもの、くだらないことを考えたり、どーでもいいことを書いたりもする。「子規研究にはいっさい役に立たない」と編者が自虐的に語る本書には、創作には絶対に欠かせない「おかしみ」、すなわち「ユーモア」が溢れている。ほんとうに「俳句はおかしみの文芸」だった。

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筑摩書房 笑う子規 / 正岡 子規 著, 天野 祐吉 著, 南 伸坊 著