Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「あゝ、荒野」岸善幸

寺山修司を知ったのは、たしか、高校二年の頃だった。以来、あの美しく、哀しく、強烈な言葉に魅せられ、古本屋で文庫本を買いあさり、ボロボロになるまで貪るように読んだ。そんな彼の小説を、50年以上たった今、舞台を2021年に置き換えて映画化。しかも、前・後篇を合わせ、5時間5分にも及ぶ長編として完成させた、その情熱と執念にただただ頭が下がる。新宿、家出、競馬、売春、そして、ボクシング。熾烈にしか生きられない孤独な若者たちの肉体と魂のぶつかり合い。これぞ死闘。菅田将暉とヤン・イクチュンがとにかく素晴らしかった。

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映画『あゝ、荒野』 | 10.7前篇/10.21後篇 2部作連続公開

「残像」アンジェイ・ワイダ

偶然なのか、ただの思い込みなのか、表現者にとっての処女作はその人となりと、遺作は人生そのものと重なるように思えてならない。ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダが最後に描いたのは、いかなる理由があろうとも芸術は規制されるべきではないし、芸術家たるもの、表現の自由を奪おうとするあらゆるものと闘わねばならないということだった。冒頭。完璧な構図と色彩。恐ろしいほどに美しいファーストカットが頭から離れない。

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映画「残像」公式サイト

「オリーブの樹は呼んでいる」イシアル・ボジャイン

2000年のときを越えて育まれてきた「命」を人間はいとも簡単に奪ってしまう。2000年後に思いを馳せよ。その土地も、その樹も、すべては「預かっているものなのだ」という老人の言葉は、一時の富を得んがために、取り返しのつかないことをやってしまう私たちへの、まさしく戒めだった。

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『オリーブの樹は呼んでいる』公式サイト

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ケネス・ローガン

弱く不完全な自分を受け入れたときに初めて、弱く不完全な他者を受け入れることができる。強さを押しつけるのではなく、弱さに寄り添うことで、かすかな希望がみえてくる。越えることのできない痛みや、絶望の淵から、ほんのちょっと人間を癒すことができるのは「慰め」なのかもしれない。そう思わせてくれる、やさしい映画だった。

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映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』公式サイト

「メッセージ」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

神学者ルターは「たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える」と言った。メタファーに次ぐメタファー。この観念的で、哲学的な、現代屈指の映画監督が撮ったSF映画が、最後に問いかけたのは、たとえ過酷な運命であるとわかっていても、「今」を懸命に生きられるか、という生命の根源にかかわる問題だった。

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映画『メッセージ』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ