ブギーナイツ、マグノリア、パンチドランク・ラブ、ゼア・ウィル・ビー・ブラッド、ザ・マスター。泣く子も黙るフィルモグラフィー。天才と呼べる数少ない映画監督のひとり、ポール・トーマス・アンダーソンが描く1970年代のアメリカ、青春グラフィティ、ラブロマンス、そのすべてが圧巻のクオリティだった。そして、極私的に史上最強の俳優フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンのデビュー作。これは何度見てもすごそう。神は細部に宿っている。
自分の子供が生まれて感じたのは、彼に(彼と同世代の子供たちにも)、色々なことを教えられるということだ。それは、忘れていたことを思いだすとか、改めて再認識するとか、そんな上から目線の傲慢なものではなく、新たな発見、または、驚きと言ってもいいものだ。年齢や立場って本当にどうでもいいこと。人間と人間として向き合うことで見えてくるものがある。
寅さん23作目。どうしようもなくなったとき、寅さんにすがりつきたくなる気持ち、よくわかる。せっかちでおっちょこちょい、どちらかといえば頼りないのだけれど、寅さんに「大丈夫!」と言ってもらえたら、なんでだろう、きっと大丈夫な気がするのだ。冷静に正論を説かれるよりも、なんだかよくわかんないけど、無責任に大丈夫って言われる方が、人間、救われることがある。大丈夫ってすごい言葉だ。
第23作 男はつらいよ 翔んでる寅次郎|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト
不思議な映画だった。記憶を失くしても身体は憶えているのだろうか、とか、感覚と記憶を失うとしたらどっちが不幸なのか、とか、記憶は人生にどんな喜びと悲しみをもたらすのか、とか、いろんなことを考えた。シュールでユーモラス、悲哀に満ちているけれど温かい、そんな不思議な映画だった。