ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「在りし日の歌」ワン・シャオシュアイ

185分の壮大な叙事詩。どんなに政治が介入しようとも、どんなに社会が変容しようとも、どんなに絶望の淵に立たされようとも、夫婦はともに生きていく。人を思いやり、赦し、すべてを受け入れたときに訪れる、ささやかなしあわせ。これは、深い哀しみを抱えながら生きている、市井の人たちへの敬意ある賛歌。いやー、いい映画だった。心の底から感動した。

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映画『在りし日の歌』公式サイト

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」ウディ・アレン

80歳を超えて、こんなにも瑞々しい「恋」の映画を、軽々と撮り上げてしまう感性って! ニューヨークで繰り広げられる、コミカルでシニカル、オシャレで軽妙な「恋」の物語。ハリウッドから干されかけているウディ・アレンの映画がお蔵入りになるのはやっぱりもったいない・・・な。ニューヨークとジャズへの愛が炸裂。ティモシー・シャメラがピアノで奏でるスタンダードナンバー「Everything Happens To Me」が美しすぎる。

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映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』公式サイト

 

「男はつらいよ 寅次郎子守唄」山田洋次

シリーズ14作目。久しぶりの寅さん。寅さんの優しさはその出自からくる悲しみの大きさと無縁ではない。手に負えるか、負えないかは置いておいて、想像する悲しみに耐えきれず、放っておけないのだ。思えば、寅さんはいつも、誰かを放っておけないがために、まわりを巻き込み、迷惑をかける。そして、赦される。つまり、みんな優しい。その繰り返しの物語なのだ。

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第14作 男はつらいよ 寅次郎子守唄|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「ポップスター」ブラディ・コーベット

運命は不思議だ。些細な出来事の重なりがすべてを変える。銃の乱射で不差別に人が殺されることが、もはや、フツウになってしまった時代にスター(偶像)であること。あり続けること。甘い蜜を吸おうとするギョーカイ人が、ペラペラのジャーナリズムを盾にした記者たちが、日頃の鬱憤を晴らすように騒ぎ立てる世間が、容赦なく彼女を責め立てる。ステージで叫ぶように歌うナタリー・ポートマンが切ない。

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映画『ポップスター』公式サイト

「象は静かに座っている」フー・ボー

デビュー作にして遺作。その作品が映画史に名を刻むに違いないことは、果たして偶然なのか、必然なのか。フー・ボー監督の自死の原因といわれる「再編集」の要請。その必要がなかったことを、一瞬一瞬に魂が刻み込まれた234分の、自然光の長回しによって生みだされた「すべて」のカットが物語っている。やり場のない悲しみを抱えた4人のアンサンブル。全身全霊をかけて描かれた映画は傑作という言葉では足りないくらいに美しかった。緊張感に満ちた崇高な映画だった。伝説決定。

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映画『象は静かに座っている』オフィシャルサイト