Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「どぶ」新藤兼人

新藤兼人による1954年の作品。黒沢明の「どん底」に匹敵する、戦後のルンペン街に暮らす人々の、貧しくもエネルギッシュな生活。それぞれの人物描写も素晴らしかったけど、この映画の見どころはなんといっても乙羽信子の演技と覚悟に尽きる。清純派から180度…

「アラビアの女王 愛と宿命の日々」ヴェルナー・ヘルツォーク

これは「砂漠」を観る映画だ。あのヘルツォークによって、まざまざと見せつけられるのは、圧倒的なスケールの「映画にしか撮れない自然」があるということだ。そして、ニコール・キッドマン。自主制作のような作品から歴史超大作まで、その人が出演しているだ…

「変態だ」安齋肇

最強コンビ降臨。「エロは大宇宙」「変態は王」など数々の名言を発してきた、キング・オブ・エロ、みうらじゅん大師匠の企画・原作を、あのソラミミストの安齋肇さんが撮った映画。これぞまさしくロックなポルノ。魂の解放と愛の物語。荒唐無稽なド変態への道を…

「シークレット・オブ・モンスター」ブラディ・コーベット

ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン。20世紀の独裁者はどのようにして生まれたのか。サルトルの短編小説から着想を得たという不条理な世界。全編に漂う、何かが起こりそうな不穏な空気が、観るものを釘付けにして離さない。そして、あのルイス・ブニュエルを…

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」ジェイ・ローチ

卒業論文のテーマは「赤狩り時代の映画作家」だった。裏切るか、亡命するか、堪えて闘うか。それら三択しか生き残る方法がなかった時代の中で、堪えて闘い続けた男こそ、稀代の脚本家ダルトン・トランボだ。オスカーを獲った「ローマの休日」や「黒い牝牛」の…

「原爆の子」新藤兼人

ふと、新藤兼人の映画を観よう、と思った。戦前・戦中を生き抜いた日本人が戦後、何を書き、何を描いてきたかを、今、深く知りたいと思ったからだ。検閲を免れるため、自腹を切って制作された本作は、被爆国の人間が世界の人々に「原爆とは何か」を初めて知ら…

「月日の残像」山田太一

本編で引用される「私は本を読みつづけることだろう、そして忘れつづけることだろう」というイギリスの作家・ギッシングの言葉。そうだ、過去のほとんどは忘れ去ってしまうけれど、ほんのわずか、記憶に残る過去の断片を、ノスタルジーに浸ることなく、極めて…

「ダーティ・グランパ」ダン・メイザー

ロバート・デ・ニーロ、73歳。まるで、山上たつひこ先生のお下劣な世界を映画化したような、ドン引きする人も多いであろう度が過ぎる下ネタを、まるで水を得た魚のように連発する究極のプロフェッショナリズムを見よ! 朝から酒をかっくらい、暇があればナンパ…

「母の残像」ヨアキム・トリアー

死によって、その存在が無になるというよりも、その存在が逆に、強く、濃くなる感覚がある。その人が身近であればあるほど、ましてや、血のつながりがあればなおさらのことだ。それは決して時間ではなく、その死と人生を受け入れ、自分の中できちんと消化す…

「黒い暴動」宇賀那健一

人生で初めてジャケ買いをしたCDはThe Clashの「London Calling」だった。で、この映画、青臭い、青臭すぎると思いながら、結局、最後まで観ちゃう中2レベルの自分に気恥ずかしさを感じつつ、折々に挿入されるパンクな名言にグッとくる。よくよく考えてみる…

「獣は月夜に夢を見る」ヨナス・アレクサンダー・アーンビー

こと映画に関しては、猟奇的な殺人者は美少女、また、化け物と人間の恋ほど切ないものはない、と相場が決まっている。そんな定石に、ヨーロッパで伝承されてきた狼男や吸血鬼など獣人の要素がつけ加えられた北欧発のダーク・ファンタジー。あのラース・フォン・…

「光ってみえるもの、あれは」川上弘美

ふつうだと思っていたことがふつうではなくて、そのふつうではないふつうをふつうに受け入れるまでの過程。青春。生きることの違和感に、少しずつ、折りあいをつけていく少年二人と少女がとても清々しい。誰かが誰かを思いやる気持ちが滲みでる、やさしさの…

「ハングリー・ハーツ」サヴェリオ・コスタンツォ

愛が正しいとは限らない。愛とは狂気であるということは、すでに多くの映画によって表されているし、人間の狂気こそが一番怖ろしいということは、ヒッチコックの映画なんかをみるとよくわかる。この映画が素晴らしいのは、怖ろしくも、美しいということだ。…

「ジュリエッタ」ペドロ・アルモドバル

告解。生きていくうちに知らず知らず犯してしまった罪を告白することで神からの赦しを乞うこと。巨匠ペドロ・アルモドバルの最新作は、喪失し、絶望したひとりの女性でもある母親が、告解によって、再生していく物語だ。映画という表現を通じ人生の機微に触れ…

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」スティーヴン・フリアーズ

どれだけ無垢な気持ちでひたむきに愛することができるか。心を震わせる表現の決め手となるのは、決して上手い下手でないことをメリル・ストリープが全身全霊で示してくれる。そして、忘れてならないのがヒュー・グラント。ハリウッド黄金時代のスターを彷彿と…

「ブロークン 過去に囚われた男」デヴィッド・ゴードン・グリーン

歳をとると誰もが柔和になるというのは幻想だ。というよりも、囚われる過去が増えることで、より自分の殻に閉じこもり、頑固になっていくことの方が自然なのだ。これはそんな偏屈ジジイをあのアル・パチーノが演じるというあまりに渋すぎる映画。絶望だらけの…

「続・深夜食堂」松岡錠司

松岡錠司という映画監督のすごさをどう伝えればいいだろう。「バタアシ金魚」や「きらきらひかる」など、初期の作品のインパクトは言うまでもないけれど、円熟期にさしかかった現在、この「深夜食堂」シリーズを観ていると、その磨き抜かれた、さりげないセ…

「エリザのために」クリスティアン・ムンジウ

いい映画はわかりやすい善悪を描かない。その代わり、私たちの内面に、じわじわじわじわ問いかけてくる。オマエハフセイヲハタライタコトハナイノカと。例え、ツテやコネ、賄賂が横行する社会であっても、それを社会のせいにし、自らも手に染めるかどうかは…

「アズミ・ハルコは行方不明」松居大悟

無差別に男をボコる女子高生たち。最初は眉をひそめつつ、途中から「やっちまえ!」と、心の中で叫ぶ自分がいた。街中に描かれるグラフティも、それに火をつける行為も、すべて法を犯しているけど、やらずにいられない、やりきれない気持ち、ちょっとわかる…

「旅をする木」星野道夫

ある書店員さんにお薦めしてもらった本。ほんとうに素晴らしかった。例えば「人はその土地に生きる他者の命を奪い、その血を自分の中にとり入れることで、より深く大地と重なることができる」と星野道夫さんは書く。ただひれ伏すしかない圧倒的な自然の中で…

「地獄に堕ちた野郎ども」ウェス・オーショスキー

パンクロックにかぶれ、ゴミのようなCDを死ぬほど買ったけれど、彼らのファーストアルバム「地獄に堕ちた野郎ども」はやっぱり特別な1枚だし、その冒頭「ニート・ニート・ニート」はパンク史上もっともカッコイイ曲だと思っている。オリジナルメンバーでの再結…

「トレジャーハンター・クミコ」デヴィッド・ゼルナー

自分を理解してくれる他者など誰一人いないのだと信じ込み、世界でたった一人、例えようのない孤独に苛まれ、閉塞感に押し潰されそうになった人間が、映画という幻想に逃げ込みたくなる気持ち。すごくよくわかる。これは、そんな、不健全な映画狂いに捧げら…

「アスファルト」サミュエル・ベンシェトリ

やさしさほど押しつけがましくない、ささやかな親切や、好意のようなもの。それが人の琴線にそっと触れたとき、凝り固まっていた心は解きほぐされ、魂はゆるやかに癒されていく。そんな素敵な瞬間を描いた、慎ましやかなフランス映画。さびれた団地の中で、…

「イエスタデイ」ペーテル・フリント

誰もがジョンやポールになれると思っていたあの頃。世界中の少年たちが、あのメロディに心を震わせ、あのリズムにシビれていた時代の、ノルウェーのとある高校生の物語。やっぱりビートルズってすごい。モチーフにするだけで、今もなお、映画が1本、簡単に作…

「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」セバスチャン・デデベール

ひっさしぶり! ボーイ・ミーツ・ガール(というには少し薹が立っているけれど)、いわゆるフランス映画のテイストたっぷりのラブストーリー。「ブレッソンの映画を見て、君を思い出したんだ」なんて台詞も、画面いっぱいに映しだされるイアン・カーティスの表…

「健さん」日比遊一

しごく当たり前のことだけど、有名であるからすごいのではなく、すごいからその名が知れ渡るのだ。高倉健という美学。健さんの言葉はなぜこんなにも沁みるのか? 「どんなに大声を出しても、伝わらないものは伝わらない。言葉は少ない方がむしろ、伝わる、と…

「ケンとカズ」小路紘史

すごい。久しぶりに痺れた。ほとんど無名の俳優たちと監督、そして、スタッフでも、脳裏に焼きつき、いつまでも忘れられないものが撮れる。それが映画のすごさなのだ。日々深刻化する覚醒剤の密売。足を踏み入れたら地獄。そこから逃れられない男たちの魂の…

「ストーンウォール」ローランド・エメリッヒ

サウジアラビア、イラン、パキスタンでも、同性愛は「死刑」とされている。主人公を白人に変え、英雄視したことに、強い非難があるようだけど、ドキュメンタリーではない以上、現在もなお「全米の若いホームレスの4割は性的少数者(LGBT)の人々であり、また…

「妊娠カレンダー」小川洋子

芥川賞受賞作を含む短編集。生きることの危うさや脆さ、そして、豊かさを、主観に寄りすぎることなく、ある種、淡々と、丁寧に描写する独特の文体が好き。身体や器官への偏愛、フェティシズムも、人間そのものや文学への、彼女の真摯な向き合い方なんだなぁ…

「シン・ゴジラ」庵野秀明・樋口真嗣

ようやく「シン・ゴジラ」を観る(遅っ!)。特撮への愛に溢れるオタク・庵野秀明総監督が「何故、空想特撮映画を作る事を決めたのか」と自問し続け、それを、「ゴジラ」の着ぐるみの脱ぎ着の補助からキャリアをスタートさせた樋口真嗣監督が強力にサポートす…