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Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「追憶の森」ガス・ヴァン・サント

生命のエネルギーに満ち満ちた手つかずの自然が生い茂る樹海。そこに世界中から自殺志願者が訪れるというパラドックス。生と死が奇妙に調和する場所で、ガス・ヴァン・サントが、その死生観をスピリチュアルに描いた。悲しみと向き合い、悲しみを乗り越える。1…

「モヒカン故郷に帰る」沖田修一

表面に覆われているものを、磨いて、磨いて、やさしさや、思いやりや、愛情の、「芯」のようなものにじんわりと触れる。沖田監督が撮る映画を例えるなら、こんな感じだ。それにしても、吹奏楽部が奏でる「I LOVE YOU,OK」はサイコー。この曲を聞くと、生き…

「ヴィクトリア」ストゥルラ・ブラント・グロヴレン

140分ワンカット。人生が一変する驚愕の一夜。即興の台詞を喋りながら、歩き、走り、踊り、登る俳優たちを、ひたすらカメラが追い続ける奇跡。そこには、生まれたばかりの映画が持っていた、感覚を共有するという興奮があった。誰もが不可能だと考えているこ…

「シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語」カアン・ミュジデジ

闘犬として生まれた以上、餌を食いたけりゃ闘わねばならず、それが嫌なら死んでいくほかない。何もわかっていないようで、実はすべてを察しているような犬・シーヴァスの眼光をみていると、なんだ、人間社会もおなじじゃねぇか、と思えてくる。この世の不条理…

「スポットライト 世紀のスクープ」トム・マッカーシー

まずは声を上げること。そして、その声に気づくこと。さらに、その声を広く知らしめること。ジャーナリズムが正しく機能する、たったそれだけのことが難しいのはなぜか。黙殺や隠蔽がまかり通るこの世の中で、ジャーナリズムの存在意義を改めて思い起こさせ…

「キャロル」トッド・ヘインズ

「自分を偽る生き方では私の存在意義がない」というキャロルの台詞は、セクシャルマイノリティのみならず、違和感を抱えながら生きている、すべての人たちの心の叫びだ。この映画が素晴らしいのは、女性同士の崇高かつ耽美なラブストーリーであるだけでなく…

「恋人たち」橋口亮輔

「二十才の微熱」から24年。それからわずか4本しか撮っていないけれど、橋口亮輔こそ、日本映画界の最高の映画監督であることに間違いはない。やさしければやさしいほど、繊細であれば繊細であるほど、誠実であれば誠実であるほど、痛みを伴うこの日本の中で…

「ヘイトフル・エイト」クエンティン・タランティーノ

殺られる、殺られる、殺られるぞぉぉぉおお、と、ゾクゾクしっぱなしの167分。一癖も二癖もある男7人と、謎に包まれた女1人の、密室でのウソつき同士の「殺し合い」を、人種差別と略奪が繰り返されたアメリカの歴史に置き換え、超一級のエンターテインメント…

「リップヴァンウィンクルの花嫁」岩井俊二

誰もがどこかで自分の役割を選び、仮面をつけながら生きている。圧倒的な孤独が蔓延しているこの世界の中で、それでも確かに存在する魂と魂の「ほんとう」の触れ合いを、こんなにも美しく哀しく描いた映画を知らない。そして、岩井俊二監督は、社会の膿をあ…

「レヴェナント:蘇えりし者」アレハンドロ・G・イニャリトゥ

アカデミー賞にて、2年連続で監督賞を受賞したアレハンドロ・G・イニャリトゥ、3年連続で撮影賞を受賞したエマニュエル・ルベツキ、そして、レオナルド・ディカプリオ。ハリウッドの超一流が結集し、その才能をいかんなく発揮した作品の、その凄まじさをまざまざ…

「俳優 亀岡拓次」横浜聡子

役柄によって、同じひとが演じているようには見えなくて、それでも、そのひとらしさがどことなく漂っている。俳優という、とても不思議な職業について、これまた絵に描いたような俳優・安田顕が、その悲喜こもごもを演じる、まるでノンフィクションのようなフ…

「最愛の子」ピーター・チャン

隣国の中国で、公称(ということはかなり控えめ)で年間約20万人もの子どもが誘拐され、日本円にして50万〜130万で人身売買されているという事実を、ほとんどの日本人は知らない。映画はときに社会の闇をあぶりだし、のほほんと暮らす私たちに突然、痛切な問…

「お盆の弟」大崎章

いつまでたっても大人にならない(なれない)。グダグダ、ウダウダ。情けなくて、弱くて、イタいけれど、最後の最後、ぎりぎりのところで誠実で、とてつもなく、やさしい。そんな、愛すべきお馬鹿さんたちによって、今日もどこかで映画は作られている。映画…

「ぼくとアールと彼女のさよなら」アルフォンソ・ゴメス=レホン

世界で最も胸を打つ映画があるとすれば、それはきっと、たった一人の誰かのために作られたフィルムだ。愛じゃなくて、恋でもないとすれば、それは一体なんなんだろう。「決して負けない強い力」がこの映画には確かにあった。全編にわたって、やさしさと、誠…

「COP CAR/コップ・カー」ジョン・ワッツ

わずかなモチーフでも映画は傑作になるということの証明。このたった一台のパトカーをめぐるクライム・サスペンスが、こんなにも予測不可能で、手に汗を握る展開になるなんて! 緊迫感みなぎる銃撃戦も素晴らしかったけれど、少年がアクセルを全開に踏み込む…

「幸せをつかむ歌」ジョナサン・デミ

史上最多となるアカデミー賞18回のノミネート。DVD にその名前がクレジットされているだけで手に取ってしまう凄さがメリル・ストリープにはある。世界一有名な鬼編集長や歴史に名を刻む英国首相、本作では、場末のライブハウスで歌うしがないロックシンガーま…

「裁かれるは善人のみ」アンドレイ・ズビャギンツェフ

祈ることのできる人間はまだマシだ。ほんとうに絶望した人間は、信仰を捨て、やがて、神をも恨むようになる。もし神さまが存在するのなら、なぜゆえ善人が救われないのか―。その非力さを思い知らされる厳しく圧倒的な自然の中で繰り広げられる欲望と憎悪と嫉…

「EDEN/エデン」ミア・ハンセン=ラヴ

音楽は人生を簡単に狂わせる。仲間が一人減り、二人減り、そして誰もいなくなってなお、音楽という夢から覚めることを拒み、ズルズルと転げ落ちていく主人公の気持ちが痛いほどよくわかる。純粋でありすぎるがゆえの末路。うたかたの日々。大人になるという…

「家族はつらいよ」山田洋次

山田洋次監督の真価は喜劇にこそ表われる。それも「笑わせるぞ」という喜劇ではなく、肩の力がふぅ〜と抜けた、市井の人たちの日常の中にある喜劇だ。そして、思いっきり、ニヤニヤ、ゲラゲラしたあと、その隙を突くようにホロリさせられる。これぞ究極の職…

「野のなななのか」大林宣彦

ひとは誰にも知られることのない秘密を抱えながら、そのひとだけの人生を歩んでいく。その死によって、その秘密が明かされるとき、残された者たちは、思いがけぬ人生の機微を思い知らされる。死と生。その連鎖、つながりを描いた長編映画。商業主義と一線を…

「ひつじ村の兄弟」グリームル・ハゥコーナルソン

人間よりもはるかに多くの羊が暮らす国。その自然や風土と寄り添うように、古くから脈々と受け継がれてきた伝統的な暮らしには、取り繕ったものにはない、なんともいえない美しさがある。守るべきものはただ一つ。過酷な環境の中で生きる。その厳しさと力強…

「愛の小さな歴史」中川龍太郎

映画の愉しみは「発掘」にある。未だ知らない新しい才能や、強く感性に響く作品に偶然出会えることほど、幸福な気持ちになることはない。映画狂のバイブル、仏「カイエ・デュ・シネマ」が賞賛した、中川龍太郎監督の作品を初見。光石研と池松壮亮は言うまでも…

「サウルの息子」ネメシュ・ラースロー

人類史上、最もおぞましい場所で行われた、他に類をみない非道な行為を映しだす映画が、現在では珍しい余白の狭いスタンダードサイズで撮られたことは正しい。なぜなら、この映画には、語れないもの、映せないものが、あまりにも多すぎるし、ある意味、この…

「ハッピーエンドの選び方」シャロン・マイモン&タル・グラニット

なかなか死ねない時代になった。医学が進歩することですべての人間が幸せになるとは限らない。私たちはようやくそのことに気づき始めた。明るくウィットに富むこのイスラエル映画が教えてくれるのは、法律も、倫理も、いつかやってくる死を前にしては、まっ…

「私たちのハァハァ」松居大悟

女子高生、自転車、夏休み、ケータイ、ギター、公園、夕立ち、コンプレックス、自意識、恋愛、長距離バス、絶望、疾走、東京。これだけ揃えば面白いに決まっている。「バウンス ko GALS」、「リンダ リンダ リンダ」、「SR サイタマノラッパー2 〜女子ラッパ…

「ストレイト・アウタ・コンプトン」F・ゲイリー・グレイ

ROCK であれ、HIP HOP であれ、音楽を純粋たらしめるものは、突き動かされた初期衝動だ。やむにやまれぬ感情の発露は、やがて、多くの熱狂と共感を呼び、時代を超えたマスターピースとなる。この映画を観ると、なぜギャングスタ・ラップがロサンゼルスのコン…

「ディーパンの闘い」ジャック・オディアール

内戦下の祖国・スリランカから、赤の他人の女と少女と家族を装い、命からがらフランスにやってきたディーパン。平穏な日々を掴みかけたそのとき、彼の鬱屈とした魂と、煮えたぎる怒りを、狂気とともに目覚めさせたもの―。それは争いを繰り返す不条理なこの世…

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」アダム・マッケイ

金に目が眩むのは個人だけではない。むしろ、救いようがないのは、組織はおろか、政府までもが臭いものに蓋をし、保身のため、目の前の重大な問題を先送りにしてしまうことだ。実体のない経済、つまりは、マネーゲームに翻弄される人間の悲喜こもごもを鋭く…

「アノマリサ」チャーリー・カウフマン & デューク・ジョンソン

R15指定のストップモーションアニメ。奇想天外とはいかないまでも、一癖も二癖もある展開は、さすが(!)、その脳内を一度は覗いてみたい、変な映画を作り続けるチャーリー・カウフマンの作品だけはある。生きることの哀しみを全編に漂わせながら、私たちの…

「独裁者と小さな孫」モフセン・マフマルバフ

手に入れた権力を手放さぬがために流される血や涙。独裁によって苦しめられている民衆が、世界には数多く存在するけれど、厄介なのは、革命で独裁者が倒されてなお、暴力による新たな独裁が生まれるということだ。監督のモフセン・マフマルバフは母国イランか…

「ディーン、君がいた瞬間」アントン・コービン

ジェームス・ディーンの魅力は、何といってもその「憂い」にある。愛されることへの渇望、スターであることの苦悩、いわば「理由なき反抗」は、一人の人間としての彼自身の謂いでもあった。「急いで生きないと。死に追いつかれないように」という言葉を遺し、…

「ブラック・スキャンダル」スコット・クーパー

わが身に火の粉が降りかかる前に、怪しい奴は、女だろうが、仲間だろうが、容赦なくぶっ殺す。禿げ上がった頭に、黒の革ジャン、金のネックレス、まるで獲物を狙うような青く鋭い眼光。FBIを手玉に取り、イタリア・マフィアを潰し、裏社会の頂点を極めた男の…

「愛を語れば変態ですか」福原充則

ねじれて、ねじれて、ねじれまくる。収束に向かうどころか、どんどん加速していく黒川芽以の暴走に、ただただ身を委ねるべき恋愛コメディ。とんでもなく荒唐無稽に思えるけれど、次第にじわじわ、それで「世界は変わるかも」と本気で思えてくる(かも)。た…

「黒の魂」フランチェスコ・ムンズィ

マフィア映画において最も重要なのは緊張感だ。単調かつ地味に思えるけれど、抑揚を抑え、粛々と進むこの映画に、終始一貫して漂っているのは、息の詰まるような緊張感だ。イタリアマフィアの最大勢力ともいわれるンドランゲタ。組織同士の抗争。殺るか殺ら…

「オデッセイ」リドリー・スコット

人間が窮地に立たされたときに必要なことは、冷静であること、問題を一つひとつ確実にクリアしていくこと、そして、何よりもユーモアを忘れないことであることをこの映画は教えてくれる。科学的検証に基づいたリアリティある描写はハリウッドならでは。それ…

「母と暮せば」山田洋次

リアリティをもって戦争を描ける監督がどんどんいなくなる中、並々ならぬ思いを胸に撮りあげた、山田洋次監督、84歳、84本目の意欲作。ユーモアを交えながら、慎ましくも力強く生きた市井の人々を描いたファンタジーは、ほんとうに悲しくて、やさしい。戦中…

「野火」塚本晋也

「殺し合いの場」である以上、私たちの想像をはるかに超え、戦場は、過酷で、残虐で、そこに様々な欲望や狂気が渦巻いているはずだ。にもかかわらず、ときに映画は(意図するにせよ、しないにせよ)戦争を美しく描くという過ちを犯してしまう。この映画は、…

「リザとキツネと恋する死者たち」ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ

日本の歌謡曲と民俗伝承をベースに、ホラー、コメディ、サスペンスにファンタジーと、あらゆるオタク要素が盛り込まれたハンガリー映画。なんのこっちゃわからない奇想天外なシーンの連続だけど、結局のところ、このオフビートの効いた、ヒトクセもフタクセ…

「ボーダレス ぼくの船の国境線」アミルホセイン・アスガリ

困っているひとに手を差し伸べる。そんなささやかなやさしさが輝きを放つのは世界が殺伐としているからだ。少年と少女と兵士。それぞれがそのまま、イランとイラク、そして、アメリカという国の隠喩となっていることは想像にたやすい。例え、言葉が通じなく…

「ディアーディアー」菊地健雄

誰にもわかってもらえない孤独を、誰もが抱えながら生きている。生身の人間がその感情を爆発させるのは、それでも誰かにわかって欲しいと、魂が全力で叫ぶからだ。そんなひっこみのつかない気持ちを爆発させても大丈夫。この作品には、不完全でもいいんだよ…

「草原の実験」アレクサンドル・コット

ヒロインを演じたエレーナ・アンの映画史に刻まれるであろう美しさ! その凛とした少女の眩さをフィルムに焼きつけただけで、紛れもなく傑作に値するけれど、この映画にはそれだけにとどまらない凄みがある。一切の台詞なし。それでも登場人物の豊かな表情が…

「ソークト・イン・ブリーチ 〜カート・コバーン 死の疑惑〜」ベンジャミン・スタットラー

事実は誰かの手によって必ず歪められる。すべて主観によって留められるとすれば、記憶もまた実に曖昧なもので、時間が経てば経つほど、真実は闇の中だ。これは、カート・コバーンの死が、自殺ではなく、他殺であるという仮説に基づいて作られたドキュメンタリ…

「クリード チャンプを継ぐ男」ライアン・クーグラー

運命の最終ラウンド。セコンドにロッキーが立ち、アポロの息子がリングに向かう瞬間、あのお馴染みのテーマ曲が流れたときの胸の高鳴りといったら! スポーツ、とりわけボクシングがドラマティックなのは、それがいつも「自己との闘い」であるからだ。そして…

「正しく生きる」福岡芳穂

映画は創作された時点で現代の謂いとなる。なぜなら、それは、現代を生きる人たちによって企画され、演出され、演じられるからだ。京都造形芸術大学の学生と第一線で活躍する映画のプロによって作られた北白川派の第5弾作品。原発、DV、貧困。不安な時代に「…

「サイの季節」バフマン・ゴバディ

母国で上映されないばかりか、国外逃亡を続けながら、それでもなお映画を撮ろうとする人たちが、世界中に少なからず存在する。そんな境遇にあるバフマン・ゴバディ監督が撮り上げたのは、国家によってズタズタに傷つけられ、痛みを抱えたまま生きなければなら…

「バクマン。」大根仁

例えば、情熱のようなものを映画にするのは難しい。抑え過ぎると物足りず、やり過ぎるとシラけてしまう。また、誰もが知っている、誰もが好きなものを映画にするのも難しい。どんな風に描いても、批判を免れることはできないからだ。大根仁監督の魅力はいつ…

「悪党に粛清を」クリスチャン・レヴリング

マッツ・ミケルセンはやはり只者ではない。愛する者を理不尽に殺された男が銃とナイフを手に悪党に立ち向かう。これぞ西部劇の正統。極限まで削ぎ落とされたソリッドなプロットと映像にシビれること必至。そして、政治や宗教のそのいやらしい本質を突き、それ…

「ぼくらの家路」エドワード・ベルガー

こういう映画を、大人は、どのように受け止めればいいのだろう。観ている最中も、観終えてからも、激しい憤りや悲しみ、やるせなさ、愛おしさがごちゃまぜになって、なんとも表現できない、複雑な気持ちでいっぱいになった。こんな親子はきっと世界中にたく…

「サム・ペキンパー 情熱と美学」マイク・シーゲル

死のバレエ。サム・ペキンパーといえば、とかくスローモーションと暴力の美に注目が集まりがちだけど、このドキュメンタリーを観ると、いかに彼が「人間を描くこと」にこだわっていたのかがよくわかる。晩年、人間を描くことに興味を示さなくなったハリウッド…

「ジプシーのとき」エミール・クストリッツァ

映画を芸術たらしめる天才。エミール・クストリッツァの映画には、生の鼓動ともいうべき、エネルギーが満ち溢れている。極めて独創的な、賑々しい文体によって語られるのは、生きていくことの喜怒哀楽、そのすべてだ。虐げられた流浪の民ジプシーの青年の目を…