Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「ダーティ・グランパ」ダン・メイザー

ロバート・デ・ニーロ、73歳。まるで、山上たつひこ先生のお下劣な世界を映画化したような、ドン引きする人も多いであろう度が過ぎる下ネタを、まるで水を得た魚のように連発する究極のプロフェッショナリズムを見よ! 朝から酒をかっくらい、暇があればナンパ…

「母の残像」ヨアキム・トリアー

死によって、その存在が無になるというよりも、その存在が逆に、強く、濃くなる感覚がある。その人が身近であればあるほど、ましてや、血のつながりがあればなおさらのことだ。それは決して時間ではなく、その死と人生を受け入れ、自分の中できちんと消化す…

「黒い暴動」宇賀那健一

人生で初めてジャケ買いをしたCDはThe Clashの「London Calling」だった。で、この映画、青臭い、青臭すぎると思いながら、結局、最後まで観ちゃう中2レベルの自分に気恥ずかしさを感じつつ、折々に挿入されるパンクな名言にグッとくる。よくよく考えてみる…

「獣は月夜に夢を見る」ヨナス・アレクサンダー・アーンビー

こと映画に関しては、猟奇的な殺人者は美少女、また、化け物と人間の恋ほど切ないものはない、と相場が決まっている。そんな定石に、ヨーロッパで伝承されてきた狼男や吸血鬼など獣人の要素がつけ加えられた北欧発のダーク・ファンタジー。あのラース・フォン・…

「ハングリー・ハーツ」サヴェリオ・コスタンツォ

愛が正しいとは限らない。愛とは狂気であるということは、すでに多くの映画によって表されているし、人間の狂気こそが一番怖ろしいということは、ヒッチコックの映画なんかをみるとよくわかる。この映画が素晴らしいのは、怖ろしくも、美しいということだ。…

「ジュリエッタ」ペドロ・アルモドバル

告解。生きていくうちに知らず知らず犯してしまった罪を告白することで神からの赦しを乞うこと。巨匠ペドロ・アルモドバルの最新作は、喪失し、絶望したひとりの女性でもある母親が、告解によって、再生していく物語だ。映画という表現を通じ人生の機微に触れ…

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」スティーヴン・フリアーズ

どれだけ無垢な気持ちでひたむきに愛することができるか。心を震わせる表現の決め手となるのは、決して上手い下手でないことをメリル・ストリープが全身全霊で示してくれる。そして、忘れてならないのがヒュー・グラント。ハリウッド黄金時代のスターを彷彿と…

「ブロークン 過去に囚われた男」デヴィッド・ゴードン・グリーン

歳をとると誰もが柔和になるというのは幻想だ。というよりも、囚われる過去が増えることで、より自分の殻に閉じこもり、頑固になっていくことの方が自然なのだ。これはそんな偏屈ジジイをあのアル・パチーノが演じるというあまりに渋すぎる映画。絶望だらけの…

「続・深夜食堂」松岡錠司

松岡錠司という映画監督のすごさをどう伝えればいいだろう。「バタアシ金魚」や「きらきらひかる」など、初期の作品のインパクトは言うまでもないけれど、円熟期にさしかかった現在、この「深夜食堂」シリーズを観ていると、その磨き抜かれた、さりげないセ…

「エリザのために」クリスティアン・ムンジウ

いい映画はわかりやすい善悪を描かない。その代わり、私たちの内面に、じわじわじわじわ問いかけてくる。オマエハフセイヲハタライタコトハナイノカと。例え、ツテやコネ、賄賂が横行する社会であっても、それを社会のせいにし、自らも手に染めるかどうかは…

「アズミ・ハルコは行方不明」松居大悟

無差別に男をボコる女子高生たち。最初は眉をひそめつつ、途中から「やっちまえ!」と、心の中で叫ぶ自分がいた。街中に描かれるグラフティも、それに火をつける行為も、すべて法を犯しているけど、やらずにいられない、やりきれない気持ち、ちょっとわかる…

「地獄に堕ちた野郎ども」ウェス・オーショスキー

パンクロックにかぶれ、ゴミのようなCDを死ぬほど買ったけれど、彼らのファーストアルバム「地獄に堕ちた野郎ども」はやっぱり特別な1枚だし、その冒頭「ニート・ニート・ニート」はパンク史上もっともカッコイイ曲だと思っている。オリジナルメンバーでの再結…

「トレジャーハンター・クミコ」デヴィッド・ゼルナー

自分を理解してくれる他者など誰一人いないのだと信じ込み、世界でたった一人、例えようのない孤独に苛まれ、閉塞感に押し潰されそうになった人間が、映画という幻想に逃げ込みたくなる気持ち。すごくよくわかる。これは、そんな、不健全な映画狂いに捧げら…

「イエスタデイ」ペーテル・フリント

誰もがジョンやポールになれると思っていたあの頃。世界中の少年たちが、あのメロディに心を震わせ、あのリズムにシビれていた時代の、ノルウェーのとある高校生の物語。やっぱりビートルズってすごい。モチーフにするだけで、今もなお、映画が1本、簡単に作…

「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」セバスチャン・デデベール

ひっさしぶり! ボーイ・ミーツ・ガール(というには少し薹が立っているけれど)、いわゆるフランス映画のテイストたっぷりのラブストーリー。「ブレッソンの映画を見て、君を思い出したんだ」なんて台詞も、画面いっぱいに映しだされるイアン・カーティスの表…

「健さん」日比遊一

しごく当たり前のことだけど、有名であるからすごいのではなく、すごいからその名が知れ渡るのだ。高倉健という美学。健さんの言葉はなぜこんなにも沁みるのか? 「どんなに大声を出しても、伝わらないものは伝わらない。言葉は少ない方がむしろ、伝わる、と…

「ストーンウォール」ローランド・エメリッヒ

サウジアラビア、イラン、パキスタンでも、同性愛は「死刑」とされている。主人公を白人に変え、英雄視したことに、強い非難があるようだけど、ドキュメンタリーではない以上、現在もなお「全米の若いホームレスの4割は性的少数者(LGBT)の人々であり、また…

「シン・ゴジラ」庵野秀明・樋口真嗣

ようやく「シン・ゴジラ」を観る(遅っ!)。特撮への愛に溢れるオタク・庵野秀明総監督が「何故、空想特撮映画を作る事を決めたのか」と自問し続け、それを、「ゴジラ」の着ぐるみの脱ぎ着の補助からキャリアをスタートさせた樋口真嗣監督が強力にサポートす…

「淵に立つ」深田晃司

このなんともいえない、ひりひりとした痛々しさ! ある日突然やってきた得体の知れない謎の男が暴くのは、誰もが無意識のうちに蓋をし、心の奥底に閉じ込めている原罪。カンヌが認めた才能。生きることは罪を背負うことでもある、という現実を圧倒的な人間描…

「禁じられた歌声」アブデラマン・シサコ

コーランには「彼らを許し、彼らと話し合え」と書かれているという。つまりは、「聖戦」を唱える人間には、神の声でさえ、無力であるということだ。スポーツも、音楽も、外出も許されない日常。本来、人間を救済するための宗教に、縛りつけられ、抑圧される…

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」リチャード・リンクレイター

なんの意味もない、どうしようもなくくだらない、だらだらとした時間。そんな「無為な時間」の美しさも、かけがえのなさも、今なら痛いほどわかる。決して長くは続かない、人生最高の3日間を切りとった、甘酸っぱくもリアルな青春映画。ビバ☆アメリカ。 映画…

「湯を沸かすほどの熱い愛」中野量太

忘れられない作品の一つ、長編映画デビューとなった「チチを撮りに」から3年、中野量太監督は、母親の厳しさと優しさ、そして強さ、つまりは愛を、さらに圧倒的な熱量で撮りあげた。杉咲花の存在感も群を抜いているけど、完璧なまでに「お母ちゃん」になって…

「奇蹟がくれた数式」マシュー・ブラウン

冒頭に記される「正しくみれば数学は真理だけでなく究極の美も併せ持つ」というある数学者の言葉。宇宙にまつわる真理を探究するのが物理学であるように、数学を突き詰めれば突き詰めるほど、その「美しさ」に魅せられていくという感覚はなんとなくわかる。…

「永い言い訳」西川美和

善良な人間の弱さだったり、最低な人間の優しさだったり、一面的ではない人間の、表面には決して表われない、心の奥底にずっと隠されているもの。西川美和監督はそんな人間の複雑な性をあぶりだす天才だ。赦されることのない十字架を背負いながら生きていく…

「ある戦争」トビアス・リンホルム

家族と離ればなれ。それだけで、どんな大義を並べたところで、戦争を正統化することはできない。英雄であろうが、犯罪者であろうが、一生消えることのない心の傷。生きて帰るも、地獄。もう決して元には戻れない。自ら戦場に出向き、命をかけて守り、戦った…

「お父さんと伊藤さん」タナダユキ

上野樹里も、もちろん、リリー・フランキーもいいけれど、これは藤竜也の背中をみる映画だ。大袈裟にいえば、「生きる」の志村喬だったり、「東京物語」の笠智衆だったり。父親はいつも背中で語ってきたけれど、この映画の藤竜也の背中にも、それまで歩んでき…

「グッバイ、サマー」ミシェル・ゴンドリー

子供といえるほど純粋無垢ではなく、大人といえるほどズル賢くもない。人生でもっとも特別な“14歳”の夏に、起こるべくして起こる、恋と、友情と、冒険の物語。天才ミシェル・ゴンドリーの自伝的な作品というだけでボルテージは最高潮。友達が一人いれば、その…

「走れ、絶望に追いつかれない速さで」中川龍太郎

忘れられないシーンがいくつもある。どんなに青臭いといわれようがこんな映画が好きだ。人生の断片、最も輝かしい刹那を、映像によって永遠に刻みつけるもの、それこそが映画であると強く信じている。富山の海が、こんなにも悲しく、美しく、優しかったなん…

「神様の思し召し」エドアルド・ファルコーネ

目に見えるものしか信じない外科医と目に見えないものをこそ信じる神父。価値観のまったく異なる二人の関係に起こる変化を描いたその根底には、人間はきっと分かり合えるはずだ、という願いにも似た思いが込められている。笑うだけ笑ったあとに残る深く温か…

「はじまりはヒップホップ」ブリン・エヴァンス

このドキュメンタリー映画が感動的なのは、年寄りがヒップホップを踊るからではなく、幾多の哀しみや苦しみを経験し、まさしく最晩年に差しかかってなお、ひとは何か新しいことにチャレンジし、社会と新たなかかわりを持てるということを証明してみせたから…