Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「君の名前で僕を呼んで」ルカ・グァダニーノ

ポール・トーマス・アンダーソンが、ペドロ・アルモドバルが、グザヴィエ・ドランが絶賛したのもよくわかる、恐ろしいほどに耽美で、切なく、まばゆい映画だった。思春期の青年が抱く強い欲望と、抑えきることのできない欲動。あるひと夏の体験が奇跡のように美…

「あしたは最高のはじまり」ユーゴ・ジェラン

未来がどうなるかなんて誰にもわからない。だからこそ、今を懸命に生きる必要があり、現在が積み重なった後に未来があるということを、わかってはいるけれど、ついつい忘れてしまいがちだ。とにかく今を生きること、そして、私たちのこだわりが、実は些細で…

「レディ・プレイヤー1」スティーブン・スピルバーグ

忘れることなかれ。スピルバーグこそが世界を熱狂させた史上最初の映画オタクなのだ。近未来の仮想現実の世界の中で、メカゴジラとガンダムが戦い、キングコングが街を破壊し、デロリアンや金田バイク(AKIRA)が疾走する。自らが血沸き肉躍る世界を描くこと…

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」スティーヴン・スピルバーグ

民主主義を守るのは、その主権者たる国民であり、ジャーナリズムは国民のために「本当のこと」を伝えなければならない。この映画が強く問いかけるのは「その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な…

「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」エドゥアルド・デルック

芸術なんてものに心を奪われたが最後、どんなことがあろうとも、後は盲目的に人生をかけて信じ抜くしかない。ゴーギャンの生き方を辿っていくと、常識やモラル、ときには愛でさえも、それらすべてを捨てて信じ抜いた者だけが真のアーティストになれるのだと…

「さよなら、僕のマンハッタン」マーク・ウェブ

好きな場所で暮らしていいよ、と言われたら、絶対にニューヨークだ。ニューヨークほど、知的で、お洒落で、刺激的で、懐が深く、寛容な都市を他に知らないからだ。昔も、今も、サイモン&ガーファンクルが最高に似合う街、ニューヨークで繰り広げられるほろ…

「バース・オブ・ネイション」ネイト・パーカー

歴史を知れば知るほど、悲しみと絶望の果てに多くの血や涙が流され、今があることを思い知らされる。映画の父、D・W・グリフィスが白人を英雄視した「國民の創生」と、あえて同じタイトルがつけられた本作が、強烈に、執拗に描くのは、差別され、虐げられた…

「長江 愛の詩」ヤン・チャオ

中国は近いようで遠い国だ。こんな映画を観ると、かの国について、あまりに部分的にしか知らないことを強く感じてしまう。上海を起点として、途方もなく壮大な長江を、その源流へと遡る一大ロードムービー。そこで繰り広げられてきた人間の営みを思うと、そ…

「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」ヨルゴス・ランティモス

ヒッチコックを例にあげるまでもなく、本物のホラーというのは、視覚的、あるいは、聴覚的に怖さを訴えかけるものではなく、私たちの想像力をじわりじわりと冒してくるようなものだ。人間の「悍ましさ」や「利己」が徐々に露わとなる121分。奇才ヨルゴス・ラ…

「ジュピターズ・ムーン」コーネル・ムンドルッツォ

シリアから逃れてきた難民の少年が、凶弾に倒れることなく、転生して天使となったのはなぜか。サイエンスフィクションやファンタジーが私たちの心を掴むのは、それが、ノンフィクションやドキュメンタリーで暴くことのできない真実を抉るからだ。難民・移民の…

「リングサイド・ストーリー」武正晴

そんなに詳しいわけではないけれど、「プロレスを愛するひとに悪いひとはいない」と、どこかで強く信じている。「百円の恋」の武正晴監督が、リングに立ち続ける人間の「崇高さ」を、まっすぐに撮りあげた、びっくりするほどピュアな作品。劇中、今からそこ…

「ワンダーストラック」トッド・ヘインズ

史跡や遺跡、景勝地など、何10年、何100年の時を経ても何も変わらない場所があるけれど、ある意味、ミュージアムもそんな場所だ。1927年と1977年のニューヨーク。同じ「自然史博物館」で交差する、ファンタジックでロマンチックな物語。こんな映画を観ると、…

「ハッピーエンド」ミヒャエル・ハネケ

世界には、ほんの一握り、いわゆる一般的な映画とはまったく異なる次元で、神々しいほどに美しく、観たあとに只茫然とするしかない映画を撮る天才がいる。例えば、レオス・カラックスやポール・トーマス・アンダーソン、あるいは、グザヴィエ・ドランのように。…

「ロング、ロングバケーション」パオロ・ヴィルズィ

人生の最期の最期、それまでずーっと寄り添ってきた老夫婦が、キャンピングカーで旅をしながら、スクリーンに映し出される写真を眺めつつ、あのときはああだった、このときはこうだったと語り合う。なんて豊かな時間なんだろう。例え、一方が認知症で、一方…

「羊の木」吉田大八

人が人を信用することの難しさと強さ、そして、危うさを、最後の最後までラストの読めないサスペンスにしてヒューマンドラマ、ほんの少しのSF要素も散りばめたエンターテイメントに仕上げた吉田大八監督の力量に脱帽。元殺人受刑者を演じた6人の「人間像」が…

「リバーズ・エッジ」行定勲

岡崎京子の「リバーズ・エッジ」を初めて読んだのは、確か、姉が定期的に買っていた雑誌「CUTiE」の連載だった。あの頃はちょうど、世の中に蔓延している薄っぺらな嘘にようやく少しずつ気づき始めた頃で、そこで引用されていた「平坦な戦場で僕らが生き延び…

「リメンバー・ミー」リー・アンクリッチ

昔から「最高のメディアは恋文である」と思っているけれど、音楽も同じ。たった一人のために刻まれるリズムや、奏でられるメロディほど、胸を打つものはない。そして、それが愛について歌われたものならなおさらだ。誰かを思い、作られる音楽の素晴らしさを…

「未来のミライ」細田守

どんな才能を持った監督も全打席ホームランというわけにはいかない。ただ、後々そのフィルモグラフィーを辿っていくと、そのとき、撮るべきもの、撮らねばならなかったものを、必然的に(というより、ある意味、宿命的に)撮っていることの方が多い。「最小…

「ライオンは今夜死ぬ」諏訪敦彦

ゴダールやトリュフォーと並び、ヌーヴェルヴァーグの代名詞といえるジャン=ピエール・レオーの、まさしく映画を生き抜いてきた圧倒的な存在感! 本人を投影するような、死を演じることに苦悩する老俳優の、身振りも、手振りも、その話し方も、それらすべて…

「デトロイト」キャスリン・ビグロー

約40分。これでもかというくらい、執拗に、執拗に描かれる尋問シーンは、尋問というよりも、もはや拷問に近い。1967年のデトロイト暴動のさなかに発生した「アルジェ・モーテル殺人事件」を基にした映画が浮き彫りにするのは、白人警官が黒人を殺しても罪に問…

「アバウト・レイ 16歳の決断」ゲイビー・デラル

娘にエル・ファニング、母にナオミ・ワッツ、祖母にスーザン・サランドン。という時点で、これはゼッタイいい映画に決まっている。中でも! トランスジェンダーとして性転換を渇望する16歳の娘の決断について、彼女(彼)を愛するがゆえに葛藤する母を演じたナ…

「ロストパラダイス・イン・トーキョー」白石和彌

社会のシステムからはじかれ、過酷な運命を背負いつつも、這い蹲りながら生きる。バーチャルでは癒されることのない、孤独を抱える二人(プラス一人)が、血生臭いリアルに魂で反応し、共鳴した物語。「凶悪」(これがまさか2作目だなんて!)、「日本で一番…

「悪女/AKUJO」チョン・ビョンギル

やっぱり殺し屋は美女に限る!おおよそマンガでも思いつかないような、ぶっ飛びまくったバイオレンス、アクションシーンの連続。めまぐるしく展開するストーリー、いくつもの復讐を宿命づけられるたびに血が流され、銃で、刀で、斧で、マシンガンで、殺って…

「おじいちゃん、死んじゃったって。」森ガキ侑大

でた。全員が欠陥だらけの登場人物。ズルくて、弱くて、幼いけれど、最後まで憎めないどころか、なんか愛おしいのは、みんなどこかで誰かを、わずかながら慮っているからだ。そうかー。家族とは、良いことも、悪いことも、同じ「思い出」を共有している共同…

「希望のかなた」アキ・カウリスマキ

アキ・カウリスマキの映画はアキ・カウリスマキにしか撮ることができない。映像が氾濫する時代にあって、彼のオリジナリティーが、より一層の輝きを増しているのはなぜか。寛容さを失いつつある世界の中で、社会の片隅で生きる、市井の人たちの「小さな善意」…

「15時17分、パリ行き」クリント・イーストウッド

「やる」と「やらない」の間には、天と地ほどの違いがある。普段どんなに偉そうなことを言っていても決して「やらない」人間がいる一方で、うだつの上がらない奴だと思われていても「やる」人間がいる。地位や立場や境遇ではなく「やる」人間に対する至極ま…

「第50回全国高校野球選手権大会 青春」市川崑

レニ・リーフェンシュタール監督の「民族の祭典」と並んで、「東京オリンピック」で、その記録を、壮大な芸術へと昇華させた市川崑監督による伝説のドキュメンタリー。コピーにある「日本で一番美しいもの」を浮かび上がらせる対象への迫り方はさすが。同作に…

「うつくしいひと/うつくしいひとサバ?」行定勲

何度か書いたことがあるけれど、震災を描く、ということはほんとうに難しい。なぜなら、怒りであれ、悲しみであれ、被災した人たちの、ひとり一人の思いに応えることなど、到底できるはずがないからだ。それでも、なのだ。熊本で生まれ、熊本で育った監督が…

「二十六夜待ち」越川道夫

黒川芽以というだけで期待をしてしまう不思議。監督が「市井に生きる女性の美しさを演じることのできる女優」と語る彼女は、ある意味、とても映画に愛されている女優だ。月光の中に弥陀・観音・勢至の三尊が現れると言い伝えられる二十六夜。「惹かれあう」と…

「スリー・ビルボード」マーティン・マクドナー

これぞ良質な、実に良質な、アメリカ映画。綿密に練られた脚本による予測不可能なクライム・サスペンスの行き着く先は、終わりの見えない哀しみと怒りの連鎖の果てにある、ごく小さく、ごく微かな希望だった。今さら説明するまでもない偉大な女優であるフラン…