Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「男はつらいよ 寅次郎恋歌」山田洋次

シリーズ8作目。寅さんが、ただの馬鹿ではないということは、恋の潮時を悟ったときに、潔くさっと身を引くことでわかる。いや、むしろ、人の苦しみや悲しみ、機微にはことのほか敏感で、わかりすぎるくらいわかるから歯がゆく切ないのだ。わかっちゃいるけど…

「僕たちは希望という名の列車に乗った」ラース・クラウメ

「ともかく正義は悪である、というのが私が戦争体験から得た教訓」という言葉を残したのは伊丹十三だ。そもそも、大人の正義と、子供の正義はまったく異なるし、「人間としての正しさ」など、都合のいい大人の正義によって簡単に歪められてしまう。若さ、即…

「男はつらいよ 奮闘篇」山田洋次

シリーズ7作目。本来であれば、他人の面倒を見ている場合ではない寅さんは、そんなことお構いなしの、困っている人を放っておけない人だ。そして、そのことに一体、どれだけの人が救われたことだろう。目の前に助けるべき人がいれば、損得を考えず、手を差し…

「セラヴィ!」エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ

人間のどうしようもないところ、おろかさや、くだらなさや、バカバカしさを、慈しむような眼差しで撮りあげると、きっとこんなコメディになる。パリで同時多発テロが発生し、人々に不安や悲しみが広がったときに「お祭り騒ぎのように、笑えて、ただ楽しめる…

「男はつらいよ 純情篇」山田洋次

シリーズ6作目。正直なところ、(渥美清が憧れた)森繁久彌のスゴさをはっきりと認識したことがなかったので、渥美清と共に画角に収まるシーンは、ちょっとした衝撃だった。その間合い、その芸、そのやりとりは、言葉にするのも無粋。そこに若き日の宮本信子…

「新聞記者」藤井道人

恐らく政治だけの話ではない。権力を維持することが第一の目的となった世界では、やがて、忖度することが当たり前となり、罪悪感は消え失せ、倫理や道徳が正しく機能しなくなってしまう。これは、そんな世界の中で、個人が尊厳を失わずにどう生きていくのか…

「ルパン三世 THE FIRST」山崎貴

息子と二人で映画館へ。これはアガッったーーー!すでに出来上がってしまっている世界観を崩すことなく、さらに観客の期待を超えていく。それは恐ろしく困難な仕事に違いないけれど、そのプレッシャーを喜びに変え、対象への愛情と、歴史を積み重ねてきたク…

「スタンド・バイ・ミー」ロブ・ライナー

中1の夏。砂浜のキャンプ場で、その辺に落ちている木の枝で焚き火をし、友だち4、5人と朝方までだべりながら、気がついたら寝落ちしていた。で、次の日、ぼーっと寝不足のまま、「どさん子」という店で札幌ラーメンを食べて帰った。一緒に行った友だちとは、…

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」デヴィット・ロウリー

な、なんだ、これ。自分がいなくなった世界で妻を傍観することしかできない、その名の通り、時空を超えて幽霊が彷徨する物語。とかくわかりやすさが求められる現代において、ここまで観念的な映画を撮るというだけで称賛に値する。しかも、ケイシー・アフレッ…

「男はつらいよ 望郷篇」山田洋次

シリーズ第5作。山田洋次は「男はつらいよ」について「男の辛さを、男が男らしく、人間が人間らしく生きることがこの世にあっては如何に悲劇的な結末をたどらざるを得ないかということを、笑いながら物語ろうとするものである」と書いている(松竹HPより)。…

「長いお別れ」中野量太

ゆっくり記憶を失っていく父とのお別れまでの7年間。原作からの「長いお別れ」というタイトルがすごくいい。長い月日のなかで、お互いの心境や関係が少しずつ変化し、みんながやさしく、正直になっていく様子が丹念に描かれる。つながりは、かたちが変わって…

「新 男はつらいよ」小林俊一

シリーズ4作目。寅さんを観ていてつくづく思うのは、おいちゃんこと喜劇役者・森川信のすごさだ。浅草の演劇界でエノケンやロッパとしのぎを削り、あの坂口安吾にも絶賛されたという芸が半端ない。本作の最大の見せ場である寅さんとの「婦系図」についてのや…

「アメリカン・アニマルズ」バート・レイトン

退屈な日常。を打破するために犯罪に手を染めてしまった大学生を、その後の本人たちの証言によって緻密に再現した、クライム・エンタテインメント。というよりも、ほぼほぼクライム・ドキュメンタリー。エリート大学に通いながらも満たされない、何者かになら…

「男はつらいよ フーテンの寅」森崎東

寅さんが嫌いという投稿が話題になった。確かに身勝手で迷惑な人ではあるけれど、寅さんにはいつも人が集まってくる。それは寅さんの人柄によるところが大きいものの、忘れてならないのが、これは、おいちゃん、おばちゃん、さくらや博、御前様、まわりの人…

「泣き虫しょったんの奇跡」豊田利晃

負けました。と登場人物が頭を下げるシーンを何度見たかわからない(調べてみるとあの羽生善治でさえプロになって600回負けているのだ)。倒れても、倒れても、倒れても、立ち上がる。その根底にある「好き」という気持ち。それも主人公一人ではなく、多くの…

「続・男はつらいよ」山田洋次

シリーズ第2作。マドンナ役の佐藤オリエも良かったけど、この作品は、何といっても東野英治郎と、ミヤコ蝶々に尽きる。そんな鬼籍に入った殿堂入りクラスの名優の演技(というよりも存在)を目にするだけで寅さんには値がある。そして、丹念に細部にまで練り…

「幸福なラザロ」アリーチェ・ロルヴァケル

富めるものも、貧しきものも、ラザロの前では何の意味も持たない。何人たりとも、その無垢な魂を揺るがすことができないだけでなく、その白痴ともとれる聖人の存在はやがて、疎ましいものとなり、偽善に満ちた人間や、社会を崩壊させていく。ラザロによって…

「魂のゆくえ」ポール・シュレイダー

信仰の矛盾。何かを抑制するということは、鬱憤を溜め込むことでもある。あの「タクシードライバー」を書いた脚本家ポール・シュレイダーが、構想50年の末に完成させた映画にも、当時と変わらぬ、憤懣やるかたない思いが漂っている。キャリア史上最高、この役…

「バイス」アダム・マッケイ

酒癖の悪い青年が強大な権力を握る怪物に変貌する過程を丹念に描いた反骨のブラック・コメディ。ブッシュも、ラムズフェルドも、パウエルも、本人と見紛うばかりにそっくり仕上げられたメイキャップはもはやコント。それでいて、グサリ、グサリと核心をつく物…

「町田くんの世界」石井裕也

結局はどれだけ曝けだせるかということなんだ。石井裕也監督の映画をみていると、これだけ純粋に映画と向き合い、世界と向き合い、表現をするということがとっても尊いことに思えてくる。悪意に満ちている世界の中で、それでも世界を全肯定する強さ。わから…

「記憶にございません!」三谷幸喜

振り返ってみると、三谷幸喜の作品は、映画はすべて、ドラマもそのほとんどを観ている。彼の描く笑いがどこか哀しかったり、彼の描く敵がどこか憎めなかったりするのは、その根底に人間への愛が流れているから。彼にキャスティングされた俳優を、その後、な…

「ドント・ウォーリー」ガス・ヴァン・サント

赦すこと、受け入れることこそが希望なのだと、映画は繰り返し繰り返し描くけれど、簡単に赦し、受け入れるほど人間は強くない。それでも、ふとしたきかっけで、弱さは強さに変わることを、実在した車椅子の風刺漫画家が教えてくれる。ガス・ヴァン・サントは…

「愛がなんだ」今泉力哉

公開時には、満席、立ち見、リピーターが続出。ある映画館の代表に「気が狂ったようにヒットしている」とまで言わしめた恋と愛についての物語。「愛じゃなくても、恋じゃなくても、君を離しはしない」とヒロトは歌ったけれど、言葉の概念や意味なんて、どう…

「ブラック・クランズマン」スパイク・リー

「ドゥ・ザ・ライト・シング」(即ち、正しいことをしようの意)は言うまでもなく、「ゲット・オン・ザ・バス」も忘れがたい映画だ。黒人差別を描きながらも、シリアスに陥ることなく、あくまでもユーモラス、かつファンキーに、そしてオシャレに、抜群のエンター…

「孤独なふりした世界で」リード・モラーノ

戦争や災害など歴史に刻まれることの多くは悲劇だ。そうした悲劇から、あるいは、悲劇にまつわる死者の記憶から、残された者は、目を背け、耳を塞ぐのではなく、苦しみや悲しみを、もがきながらも受け止めなければ前へ進めない。そんな過去・現在・未来への向…

「ある少年の告白」ジョエル・エドガートン

まずは、21世紀の現在もなお、同性愛が「疾患」とみなされ、矯正されているという告発。そして、親として肝に銘じておかねばならないと強く思うのは、我が子といえど、何人なりとも侵すことのできない人格を有する「個」であるということだ。父も、母も、子…

「半世界」阪本順治

四十にして惑わず、なんて難しすぎる。それまで当たり前にいた人たちが、一人、また一人と去っていき、何にも変わらないと思っているのは自分だけで、確実に身体は衰え、環境も変わっている。悟るには若すぎて、冒険できるほど若くもない。どうにも中途半端…

「男はつらいよ」山田洋次

記念すべき国民映画の第1作は、50年を経た今もゲラゲラ笑うことができるコメディの傑作。誰もが寅さんのように、お気軽に、馬鹿正直に、ピュアに、お人好しに生きることができたなら、この国はもっと良くなるはずだ。それにしても、主題歌「男はつらいよ」は…

「ガルヴェストン」メラニー・ロラン

アクション映画には哀しみが不可欠だ。闇社会で生きてきた男と、やむにやまれず家出した娘、どこにも行き場をなくした二人の、とても儚く、とても切ない、このロードムービーを観ながら考えていたのはそんなことだ。そして、逃亡劇は究極のラブロマンスを生…

「まく子」鶴岡慧子

風変わりな青年ドノが発する「誰かが、そう信じてほしいことを、俺は信じる」なんて、すごい台詞。みんながそんな風にやさしく生きられたなら、それはきっと幸福に満ちた世界となるに違いない。いつから大人になったのかなんて、まったくわからないし、今も…