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Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「山河ノスタルジア」ジャ・ジャンクー

富とひきかえに失ったもの。ジャ・ジャンクーは再び、映画という手段を用いて、変化する祖国に翻弄された人間の苦しみと悲しみを、実に丹念に美しく切り取ってみせた。思い通りにはいかないけれど、人生は、ただ淡々と流れていく。そして、特筆すべきは、その…

「WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」佐渡岳利

Perfume を好きになって随分と経つ。彼女たちの曲を聴くといつも泣きそうになるけど、この映画を観て、ようやくその理由がわかった気がした。圧倒的な高揚感。テクノロジーと熱血(スポ根)の融合。Perfume こそ日本が世界と勝負できる最強のコンテンツであ…

「歌声にのった少年」ハニ・アブ・アサド

暫定自治区ガザ。パレスチナの難民たちが隔離、イスライル軍によって支配、弾圧されている地域の人々の暮らしについて、ほとんど何も知らないけれど、音楽が持っている、人々の心を揺さぶる根源的なチカラならわかる。叫ばなければやりきれない思いがそこに…

「オーバー・フェンス」山下敦弘

誰もが胸の内にどろどろぐちゃぐちゃな気持ちを抱えながら生きているけれど、ある日、そこに一筋の光をさしてくれるひとが突然現われて「見つけた!」と思うあの瞬間。「焦がれる」という感情によって、ひとは救われ、生きていけるのだということが、優しく…

「ベストセラー 編集者パーキンスに捧ぐ」マイケル・グランデージ

一冊の本が世にでる、ということはやっぱりすごいことだ。その過程を思うとき、いつも胸が熱くなる。誰もが気軽かつ簡単に言葉を綴り、世に出せる時代だからこそ、作家と編集者、その二人の命がけの闘いが沁みてくる。言葉を生かすか、言葉を殺すか。表現し…

「アイ・ソー・ザ・ライト」マーク・エイブラハム

エルヴィス・プレスリーが憧れ、ボブ・ディランが影響を受けたハンク・ウィリアムス。劇中にある「悲しい曲を歌う奴は、悲しみを知っている」という台詞を体現するかのような、複雑で、どこか痛々しい生き方をした彼が「ロックンロールの種を蒔いた」という定説…

「ストリート・オーケストラ」セルジオ・マシャード

現実逃避は悪くない。というより、映画や音楽や文学に、何か意義があるとするなら、悲しみを一時でも忘れさせ、逃れられない苦しみから、一瞬でも自らを解放してくれるということだ。スラム街で生まれた交響楽団。この映画が素晴らしいのは、そこのみで輝き…

「エミアビのはじまりとはじまり」渡辺謙作

どんな状況であっても「笑える」というのはとても大切なことだ。シリアスに塞ぎこみ、絶望に陥ったとしても、「笑う」ことで救われ、「笑う」ことで、また、新しくなにかをスタートさせることができる。これはそんな「笑い」の強さと可能性を信じる人たちが…

「AMY エイミー」アシフ・カパディア

その歌声を永遠に残すために、神さまがほんの少し、この世に授けたとしか思えない、早熟の天才エイミー・ワインハウスの生涯を描いたドキュメンタリー。彼女の天才が人生を狂わせたのか、狂った人生が彼女に本物の歌を歌わせたのか。哀しみと憂いがたゆたうそ…

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」マリー=カスティーユ・マンション=シャール

なんてこった。ナチス・ドイツが、なぜゆえユダヤ人を迫害し、殺戮しなければならなかったのか? 40年以上も生きてきて、その質問に対する、明確な答え一つ持ってないことに只々愕然とする。知識は何の役にも立たない。知っているか、知らないか、なんて、重…

「トレジャー オトナタチの贈り物。」コルネリュ・ポルンボユ

うっそおおおおおん。桂文枝ばりにイスから転げ落ちそうになる結末。なんとも独特な「間」で繰り広げられる会話と、淡々と進行していく物語に、人間の、欲深いながらも、滑稽で、どうにも憎めない性が描かれる。事実は小説よりも奇なり。驚くべきはこれが事…

「ファング一家の奇想天外な秘密」ジェイソン・ベイトマン

ニコール・キッドマンの仕事の選び方はとても魅力的だ。女優にとって、ときに邪魔なものにもなりかねない「美しさ」や「華やかさ」をひょいと脱ぎ捨て、やむにやまれぬ絶望の淵で、それでも生きていく人間を演じたら、このひとの右にでるひとはいない。親と子…

「白い帽子の女」アンジェリーナ・ジョリー

どんなに仲睦まじい夫婦であったとしても、結局のところ、それぞれの孤独と向き合い、それを乗り越えねばならない過程があるということか(この映画を撮った後にこの二人が離婚したという事実がなんとも皮肉)。内面の表出。自己表現の極み。自分をさらけだ…

「ヒップスター」デスティン・ダニエル・クレットン

母の海帰葬をするために集まった家族。三姉妹の兄が手を滑らせ、遺灰の入った壺を、海に落としてしまうシーンがとてもいい(結局、妹たちが見つけてくれるんだけど)。悲しみが癒されていくのも、家族がもう一度絆を深めるのも、ほんとうにささいなきっかけ…

「ハドソン川の奇跡」クリント・イーストウッド

原題は機長のニックネーム「Sully」。この未曾有の航空機事故の映画について、事件そのものではなく、機長の葛藤に焦点を当てたところに、さすが、イーストウッドのセンスと見識がある。抑制された演技と演出。これはひとりの人間の、尊厳と誇り、そして、誠…

「ニュースの真相」ジェームズ・ヴァンダービルト

極めて優秀な人間が、たった一度の過ちで、糾弾され、職を奪われてしまう。社会にとってそれは有意なことなのだろうか。過ちを許容できない社会は、やがて、何がほんとうに大切なのかを見誤ってしまいかねない。ジャーナリズムを生かすのも、殺すのも、私た…

「素敵なウソの恋まじない」ダーブラ・ウォルシュ

先日。ある年配の人に夢を尋ねたら「恋をしたい」と返答された。半分冗談のようだったけど、思い返すたびに、とても素敵な返答だなぁと思う。どれだけ年を重ねても、不安になったり、臆病になったり、盲目になったり、ドキドキしたり。これは、そんな恋の効…

「森山中教習所」豊島圭介

ともに過ごす時間の長さだけが大切なわけではない。たった一言を交わしただけで、たったひと夏を過ごしただけで、一生忘れられない友達になることだってある。連絡先も知らず、もう何十年も会っていないけど、あいつどうしてるかなー、とふとした瞬間に思い…

「葛城事件」赤堀雅秋

現実よりもリアル。痛々しくて、息苦しくて、目を背けたくなる。前作「その夜の侍」もそうだったけれど、赤堀雅秋監督はまたしても、私たちが蓋をして、目を逸らしてきた闇を、これでもかというほど執拗に暴き出した。愛情が深ければ深いほど、一旦歯車が狂…

「日本で一番悪い奴ら」白石和彌

毒をもって毒を制するつもりが、毒がまわって、次第に感覚が麻痺していく。悪事に手を染めることを狡猾に強要するくせに、収集がつかなくなった途端、ひらりと手のひらを返したように、知らぬ存ぜぬを貫く組織というものの闇。これはエンタテインメントであ…

「神様なんかくそくらえ」ジョシュア&ベニー・サフディ

なんといっても、アリエル・ホームズに尽きる。12歳の頃、アル中だった実母にコカインをすすめられたという、その壮絶な生い立ちからくる、ただならぬ存在感と、その佇まいは、都会に暮らすストリートガールのリアルそのものだった。恋とヘロイン。生きる理由…

「DOPE/ドープ!!」リック・ファミュイワ

うわぁ、これはいいぞ! 1970年代のブラックスプロイテーションを、今に甦らせたら、きっとこんな感じ⁉︎ いや、これは現代の「ドゥ・ザ・ライト・シング」だ。90年代のHIPHOPをこよなく愛し、L.A.のスラム街でBMXを乗りこなす、3人のギークたちが最高にダサくて…

「シング・ストリート 未来へのうた」ジョン・カーニー

他人にどう思われようが「自分にはこれがある」と思えるものに出会えることは何よりも幸せなことだ。これは、まわりが見えなくなるほど、何かに夢中になったことがある人なら、胸がキュンキュン締めつけられる映画だ。それにしても、80年代って、あんなにカ…

「家族の灯り」マノエル・ド・オリヴェイラ

観始めてからしばらくの間、なんのこっちゃわからず、つまらないなぁと思う映画ほど、いつまでも頭から離れない作品は多い。105歳のオリヴェイラ監督が描く、ほとんど画面が変わらない会話劇は、家族とはなにか、貧しさとはなにか、欺瞞とはなにか、人生とは…

「団地」阪本順治

伝説の喜劇役者・藤山寛美の DNA を色濃く受け継ぐ天才・藤山直美が主演する映画が撮られたというだけで、それはもう事件だ。岸辺一徳、大楠道代、石橋蓮司との黄金のカルテットによって生みだされる可笑しみと哀しみは、日本映画界屈指の、というよりも、最高…

「好きにならずにいられない」ダーグル・カウリ

ほんとうの愛は見返りを求めない。どこに行っても場に馴染めず、どこか浮いている、おデブでオタクな43歳の独身おじさんに、まさかそんなことを教えられるなんて。まったくもって冴えなかった大男がどんどんカッコよく見えてくるのは彼が「恋」をするからだ…

「ジョーのあした 辰𠮷𠀋一郎との20年」阪本順治

ボクサーが憧れるボクサー。辰𠮷𠀋一郎はやっぱり特別だった。1人の天才ボクサーを20年にわたって撮り続けた奇跡のドキュメンタリーは、そのまま人間・辰𠮷𠀋一郎の魂の記録でもある。辰𠮷は、弱く、それ以上に、強い。変わったようで揺るぎがなく、変わって…

「ひそひそ星」園子温

科学技術の進歩が人間の感性を蝕むこともある。「遠い国への憧れや、銀河系の彼方へのロマンが失われ、どこでも隣り部屋に行くように簡単になることで、すべてが立体的でなく、平坦になった」という台詞は、劇中で描かれる未来のみならず、現実の世界でもす…

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」ノア・バームバック

隠れた名作「イカとクジラ」のノア・バームバック監督の「らしさ」満載、オフビートでちょっぴりほろ苦い、ハイセンス・コメディ。20代のカップルと対比される40代のカップルの「昭和的」ズレ感が、滑稽でもあり、哀しくもあり、そして、愛おしかった。にして…

ベストテン2016

2016年もあと2日。今年観た映画(DVD)は昨年より少なく108本でした。今年はいろんなことが起きましたが、例年にもまして、映画に救われたように思います。 さて。年末恒例、特に印象に残った映画は、 「きみはいい子」呉美保「あん」河瀨直美「海よりもまだ…

「裸足の季節」デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン

5人姉妹それぞれの個性。互いの存在に寄り添い、ときに、ぶつかり合う関係が、刹那的で美しく、そして、もどかしい。描いたのはトルコ出身の女性監督。物語後半、ほんとうの自由を得るため、末娘が意を決して臨む闘いは、今なお、世界で虐げられ、蔑ろにされ…

「ディストラクション・ベイビーズ」真利子哲也

結局のところ、暴力とは快楽である、ということを前提とする映画しか信用することはできない。菅田将暉も、向井秀徳の音楽も、実に際だっているけれど、なんといっても、これは柳楽優弥の圧倒的な代表作になるに違いない傑作だ。人を殴るたびに響く、ごつん…

「ブルックリン」ジョン・クローリー

故郷アイルランドを離れ、独りアメリカに渡った女性の葛藤と成長が描かれる。現在、アイルランド系と自認するアメリカ人は約3,600万人とか。それらの祖先それぞれに、同じような「移民」の物語があると思うと感慨深い。劇中、もはや帰る場所のない移民労働者…

「ふきげんな過去」前田司郎

とても不思議な映画だった。観終えた後も、一体なんだったんだろう、と何度も何度も反芻している。決して許されないけれど、爆弾を作って、爆発させちゃいたい気持ち、なんとなくわかる。死ぬほどつまらない憂鬱な日常や、えたいの知れない不吉な塊から逃れ…

「教授のおかしな妄想殺人」ウディ・アレン

「人生は無意味である」という真理に到達した大学教授が、生きる意味を求めて計画した完全殺人犯罪。これぞまさしく、筋金入りのペシミストとして、どこか哲学的なコメディを量産してきた、ザ・映画職人ウディ・アレン監督の真骨頂。齢80歳を超えてなお、小粋…

「或る終焉」ミシェル・フランコ

「いのちとは何か」という問いに対する答えが決して一つではないように、この映画もまた、さまざまに解釈し、さまざまに思いを巡らせることができる。知られざる終末医療の現場。患者に寄り添えば寄り添うほど、悲しみや喪失感が増すというパラドクス。ティ…

「セトウツミ」大森立嗣

ひまをもてあますから、くだらないことを考えて、ときに思い悩み、ときに誰かを慮ることだってできる。嗚呼、たしかに青春は、どうしようもなく無意味だったけれど、その無意味な時間がサイコーだったなぁ~と、胸をぎゅっと締めつけられるような映画。あの…

「クーパー家の晩餐会」ジェシー・ネルソン

それぞれの事情を抱えながらも、それでも、家族みんなが一堂に集うクリスマス。そんな特別な日に起こる、小さな、小さな奇跡を、いっぱいに詰め込んだ、これぞまさしく本物のハートフル・コメディ。アメリカの人たちにとって、クリスマスという日が、いかに大…

「アイ アム ア ヒーロー」佐藤信介

まさに日本映画界の才能を結集して臨んだ本格的「ゾンビ映画」へのチャレンジ。キャストに旬の俳優陣を揃えながら、完全なるR15、恐らくTVでは大幅にカットしなければ放映できないであろう潔さ。しっかし、こんなスプラッター映画が、TSUTAYAの棚の一番目立…

「孤独のススメ」ディーデリク・エビンゲ

しがらみも、こだわりも、常識も、プライドも、持たなくてもいいものを持ってしまうから、生きることがどんどん窮屈になっていく。自由になるためには、他人の目を気にしない以上に、まずは自らを解放する必要がある。オジサンふたりが織りなす、とてもヘン…

「二重生活」岸善幸

何をやっても満たされない、心の中にぽっかりと空いた空洞を埋めてくれるのは、ただの自分ではなく、他者を媒介とした自分だった。覗いてはならなかった他者の秘密の扉をひらくことで露わになる自らの心の渇きと餓え。この世という迷宮に迷い込んでしまった…

「神様メール」ジャコ・ヴァン・ドルマル

例えばこんなシーンがある。幼いころに片腕を失った女性が座っているテーブルの上で、失われた「手」が、ヘンデルのアリアにあわせ、軽やかにダンスを踊る。やがて、ダンスが終わると、彼女は義手でそっとその「手」に触れ、握手を交わす。こんなシーンがあ…

「さざなみ」アンドリュー・ハイ

「長距離ランナーの孤独」のトム・コートネイと「愛の嵐」のシャーロット・ランプリング。その二人が共演するだけで、この映画は、間違いなく歴史にその名が刻まれる。夫婦として45年間積み重ねてきたものが一瞬にして崩れ去りそうな予兆。まさしく「さざなみ…

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」リチャード・ロンクレイン

住まいのほんとうの価値は、その空間の中で、どれだけの幸せや思い出が積み重ねられてきたかで決まる。それはきっと、立地や相場といった物差しでは到底計り知れないものだ。モーガン・フリーマンとダイアン・キートン。ごく普通の夫婦の日常がこんなにも滋味…

「太陽」入江悠

SF(フィクション)でなくても、こんな風な差別はきっとどこにでもある。支配される側であった人が、支配する側にまわった途端、想像力がいとも簡単に欠如してしまうのはなぜだろう。進化すればするほど退化するものもある、という人間の悲しい性をまざまざ…

「君がくれたグッドライフ」クリスティアン・チューベルト

決してその通りにはいかないにせよ、どのように生きていくのかを選択するのと同じように、どのように死にたいのかを考えておくことは、とても大切なことなんだと思うようになった。そして、人生の豊かさを決めるのは、その長さではなく、どのように人を愛し…

「カミーユ、恋はふたたび」フローランス・セイヴォス

「神よ。変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ」というニーバーという神学者の祈りを、この映画によって初めて知った。そして、さ…

「星ガ丘ワンダーランド」柳沢翔

記憶というのはとても主観的なものだ。光の当たり方が変わると、まったく異なったものに見えるように、誰かによって語られる過去は、思いがけず新たな真実をもたらしてくれる。それぞれの過去が一本につながったとき、美しい思い出が浮き立ってくる、どこか…

「ぼくのおじさん」山下敦弘

ぼくにもおじさんがいた。酔っぱらうといい気分になって、いつも楽しそうに笑っていたなぁ、とか、子供みたいに無邪気で、時折、ほんとうの子供たちをハラハラさせていたなぁ、とか、ぜんぜん大人っぽくないところが大好きだったなぁ、とか、今はもういなく…

「ルーム」レニー・アブラハムソン

子供にとって母親がすべてであるように、母親にとって子供がすべてでもある。これは、しあわせなその小さな世界から一歩足を踏みだす勇気を描いた人生の真実に触れるファンタジー。困難に満ちたこの世界は、それでも美しく、輝いている。そして、愛だけが、…