Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「エンジェル、見えない恋人」ハリー・クレフェン

見ることよりも、触れること、感じることが愛なのだということを、寓話の中に込めた、どこかミステリアスなラブストーリー。透明人間として生まれ育った少年と盲目の少女。世界から断絶された二人に、まるで、アダムとイヴが林檎を齧ったかのように芽生える…

「食べる女」生野慈朗

鈴木京香、沢尻エリカ、シャーロット・ケイト・フォックス、前田敦子、壇蜜、山田優、そして、広瀬アリス。ともすると、共通項のなさそうな個性バラバラのキャストも、その中心に小泉今日子がいると、俄然、そこに在ることの必然性がみえてくる。それは、彼女…

「日日是好日」大森立嗣

頭で簡単に覚えたことはすぐ忘れてしまうけれど、身体で時間をかけて覚えたことはいつまでも忘れない。湯を沸かし、茶を点て、振る舞う。その様式を芸術にまで高めた千利休と、それを受け入れた日本人のメンタリティーをほんとうに誇りに思う。それにしても…

「ミステリーロード/欲望の街」アイヴァン・セン

物語の抑揚も、無駄な台詞も、過剰な演出も、音楽もほとんど使われていないのが逆にリアル。アボリジニの少女が殺されることによって、抑圧する白人と、抑圧される先住民という、歪んだ、けれども黙認された構図が露わになってくる。荒野での壮絶な銃撃戦の…

「運命は踊る」サミュエル・マオズ

ごく稀に、約120分弱というわずかな時間の中に、人生の真理のようなものをギューッと凝縮したような、驚くべき映画に出会うことがある。この映画が、毎朝登校するために乗っているバスが、ある日突然テロリストによって爆破されることが日常的に起こりうる、…

「アリー スター誕生」ブラッドリー・クーパー

ただ歌が上手いだけの人間と、真のアーティストとの違いは、一体どこにあるんだろう。裕福な家庭に生まれ、箱入り娘として育てられながらも、学校や他者に馴染めず、壮絶ないじめを受け続けて逃げ込んだストリップクラブから這い上がったレディー・ガガ自身の…

「きみの鳥はうたえる」三宅唱

はっきりとさせず、曖昧なまま、それが永遠に続いていく。なんてわけもなく、危なっかしくも刹那的な、大事なことなんて何ひとつ話すことのない、男女三人の幸福な日々を切りとった映画。友達とか、恋人のまえに、人と人。柄本佑、染谷将太、石橋静河の素晴…

「菊とギロチン」瀬々敬久

そういえば、政治犯なんて、完全に死語となった。その是非は一旦置いておいて、手段を選ばず、命を捨てても「世界を変えよう」と、誰一人として、夢にも思わなくなった時代に、突如として現われた革命的な、実に革命的な、日本映画。ジャンベのリズムにのせ…

「ガンジスに還る」シュバシシュ・ブティアニ

アジアの映画が教えてくれるのは「死は祝祭である」ということだ。ガンジス川の畔の聖地「バラナシ」には、限りなくハレに近いケが存在し、人々はそこで、安らかな死を願い、待っている。「死は心から訪れる」とその人は言った。メメント・モリ(死を想え)と…

「ここは退屈迎えに来て」廣木隆一

ロケ地は富山。しかも、高岡多め。MANBOW、高岡自動車学校、文苑堂書店、あっぷるぐりむ、文苑堂書店、国道8号線・・・。あまりに地元すぎて、とても冷静に観ることはできなかったけれど、そういえば、あの頃、なぜ東京じゃなきゃいけなかったのか。東京東京東…

「悲しみに、こんにちは」カルラ・シモン

無意識に溢れでたその涙によって少女は打ち明けることのできない孤独から解放されることはできたのだろうか? 親の死に揺れ動く感情。それでも人生は美しいと思える瞬間や、自然や、かかわりや、感傷や、愛が、この映画には満ちている。子どもの、その繊細で…

「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ」ジョージ・ティルマン・ジュニア

白人の警官が無実の黒人を撃った。という単純な物語ではなく、なぜ彼は撃たれなければならなかったのか、事件を目撃した少女がなぜ口を噤まねばならなかったのか、その背景にある黒人社会そのものの歪みまでもを赤裸々に告発した日本未公開映画。The Hate U …

「ごっこ」熊澤尚人

誰かのために生きる。そのことの喜びと、苦しみと、哀しさを、シンプルに突き詰めた、極めて純度の高い映画だった。今日も、明日も、明後日も、世界中の寂れた街で、星の数ほどの人間が、誰かと寄り添いながら生きている。家族はそこに「在る」のではなく、…

「500ページの夢の束」ベン・リューイン

「アイ・アム・サム」の衝撃。ファニング姉妹を追いかけてはや17年。あのダコタ・ファニングに、自閉症を抱えながらも豊かな想像力を持ち、機知に富んだスタートレック好きなオタク少女を演じさせた映画の神さまに感謝! 嗚呼、そうなのだ。どこかエキセントリ…

「止められるか、俺たちを」白石和彌

「欲望の血がしたたる」、「胎児が密猟する時」、「犯された白衣」、「処女ゲバゲバ」、「赤軍-PFLP 世界戦争宣言」・・・。改めて、すごいタイトルばかり。映画を武器に「革命」を起こせると本気で信じていた若者たちの、圧倒的な熱量を伴った青春が、その薫陶…

「華氏119」マイケル・ムーア

本当のところは思いのほか複雑だ。マイケル・ムーアにかかると、ヒラリー・クリントンも、そして、バラク・オバマでさえも、ドナルド・トランプと同じ穴の貉に思えてくる。銃乱射事件を生き延びた17才のバイセクシャルの少女によるスピーチと沈黙。心揺さぶるそ…

「タリーと私の秘密の時間」ジェイソン・ライトマン

忘れないでおきたいのは、限界を超えて頑張り続けるよりも、「助けて!」と声を上げて叫ぶ方が大切なときもある、ということだ。子供への愛情が深いがゆえに完璧を求め、自らを蔑ろにしてしまう、痛々しい母親の性を、名女優シャーリーズ・セロンがまたもや体…

「愛しのアイリーン」吉田恵輔

過剰な愛情、過剰な憎悪、過剰な欲望・・・。それらすべてをむきだしに、ただ必死に生きているだけなのに、こんなにも切なくて、哀しいだなんて。覚悟を決めてリミッターをはずした吉田恵輔監督のその圧倒的な熱量にひれ伏せっぱなしの137分。そして、何といっ…

「ウイスキーと2人の花嫁」ギリーズ・マッキノン

嗚呼、憧れのスコットランド。ツイードのスーツに、タータンチェックのキルトに、格子柄のディアストーカーハットに、ハグパイプ。ファッションはもちろん、暮らしの隅々に息づくトラディショナルな美しさ。お酒が尊いのは、そこで暮らす人たちにとっての「…

「それから」ホン・サンス

信じられないほどの洗練。幾人かの男女がただ会話をするだけなのに、そこに人生のペーソスがすべて凝縮され、その狡さや愚かしさまでもが愛おしく感じられてくる韓国映画。ホン・サンスという天才。韓国のエリック・ロメールはどえらい映画を撮る。 ホン・サン…

「サバ―ビコン 仮面を被った街」ジョージ・クルーニー

「なるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高める」とヒッチコックは言った。サスペンスの神様にオマージュを捧げるようなこの映画には、練り込んだプロットと細部への作り込みがあった。黄金時代と呼ばれた50Sのアメリカの虚栄。マット・デイモンとジ…

「判決、ふたつの希望」ジアド・ドゥエイリ

許せない。その因子となるものはなんなのかを深く深く考えさせられる。個人の力ではいかんともしがたい呪縛。個と個を分かつもの。人間はいかに歴史に縛られる存在であるかを思い知らされる。こんな映画を観ると「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、もっ…

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」湯浅弘章

あんなにキレイな鼻水をみたことがない。どこにも居場所のない少女が、「私はここにいる」と嗚咽しながら叫び、自分をさらけだす姿が、純粋で、がむしゃらで、そのどストレートな描写と演技に胸が熱くなった。女子高生二人が奏でる「青空」も「あの素晴らし…

「ミスエデュケーション」デジレー・アカヴァン

つい最近まで性同一性障害は精神疾患のひとつだった。そもそも「障害」と位置づけられていること自体、いかに彼らの存在が無視され、彼らの声が蔑ろにされてきたのかということがよくわかる。そして、理解できないこと、都合の悪いことを排除するために利用…

「寝ても覚めても」濱口竜介

恋愛は残酷だ。こんな映画を観ると、利己的に誰かを強く傷つけ、唐突に誰かに強く傷つけられた、遠い記憶を思い出さざるを得ない。それでも、なのだ。破壊的な衝動も、忘れがたい痛みも、そのすべてを受け入れ、肯定したくなる美しさがこの映画にはあった。…

「ルームロンダリング」片桐健滋

マンガや小説を映画化するばかりの映画界にあって、オリジナル、しかもファンタジーを織り交ぜた物語を撮った片桐健滋監督の野心がとても良かった。しかも、幼い頃に亡くした父親への気持ちを投影しているだなんて。やっぱりデビュー作はこうじゃないと。オ…

「心と体と」イルディコー・エニェディ

触れる。その苦しみも、痛みも、喜びも、そのすべてを、ファンタジックな物語に詰め込んだ美しいラブストーリー。身体性の欠如したバーチャルな時代に、言語でも、感覚でもなく、触れ合いを可視化した素晴らしい映画だった。ベルリンを制した圧倒的な映像ク…

「映画ドラえもん のび太の月面探査記」八鍬新之介

ドラえもんの脚本を「聖書の続きを書くようなもの」というほど、つまりは、藤子・F・不二雄先生が神のような存在である小説家・辻村深月さんが脚本を手がけると知ってからずっと楽しみにしていた。スクリーンに現われたのは、いつもの、そして、スペシャルなあ…

「ハード・コア」山下敦弘

間違っていることを間違っていると言ってしまうと孤立してしまうこの世の中で、居場所をなくした大人たちが群れを為しても、ぽっかり空いた心の穴を埋めることは到底できない、厳しく悲しい現実。この荒唐無稽でありながら、リアリティーに満ちた物語が示す…

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」ナタウット・プーンピリヤ

天才的な頭脳を持った人間が悪知恵を働かせると、こんなにもクリエイティブで、エキサイティングなのかと、道徳観をうっちゃらかって見入ってしまったタイ発のエンターテイメント。カンニングを軸としたスリリングな展開に、学歴偏重や貧富格差といった社会…