Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

映画

「ネオン・デーモン」ニコラス・ウィンディング・レフン

尽きることのない欲望と嫉妬。ファッション業界に渦巻く、美しさに対する女同士の狂気を、道徳や倫理のリミッターを外して描き切る、カンヌで賛否両論を巻き起こした衝撃のダーク・ファンタジー。映画や小説は、ときに、人間はどこまで狂えるのか、という作品…

「静かなる叫び」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

35年振りの続編「ブレードランナー2049」の監督として注目を集めるドゥニ・ヴィルヌーヴが2009年に撮った作品。女性ばかりを狙い、犠牲者14人、負傷者14人を出した、モントリオール理工科大学での虐殺事件を、できるだけ台詞を排し、モノクロームで、77分にギ…

「はじまりへの旅」マット・ロス

理想をいえば、どんな宗教、どんな思想、どんな価値観を持っていても、他者への敬意を忘れず、お互いに認め合うことのできる、寛容な世界であって欲しい。しかし、たとえ世界が不寛容であったとしても、すぐ身近にいる人たち、家族への愛さえ失わなければ、…

「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」ケリー・ライヒャルト

いい映画には余白がある。その余白に、私たちは、精一杯の想像力を働かせる。つまりは、描きすぎず、語りすぎない。そのほうがはるかに豊かな映画体験になるということをこの監督は知っている。アメリカ北西部モンタナの田舎町。代わり映えのない日常の中で…

「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」ジャン=マルク・ヴァレ

言葉では説明のできない、切なく、美しい狂気。社会的な常識なんて関係ないし、他人に慰められることなど、まったく意味をなさない。我を忘れるほどの悲しみや虚しさに打ちひしがれたとき、自らの魂を解放することでしか、人間は救われない、前に踏みだせな…

「The NET 網に囚われた男」キム・ギドク

独裁国家であろうがなかろうが、個である私たちは、国家の政治的なイデオロギーから完全に自由になることはない。それでもなお、自らの尊厳をかけ、国家に抗った男の哀しみが、いつまでも胸を締めつける。なぜゆえ、個のための国家ではなく、国家のための個…

「サバイバルファミリー」矢口史靖

文明の進化が人間の暮らしを豊かにするとは限らない。というよりも、むしろ、進化が豊かさの価値観を狭め、人間を雁字搦めに縛りつけているのではないか、という確信にも似た思いを、奇想天外なフィクションによって表わした矢口史靖監督の新境地。娯楽によ…

「スウィート17モンスター」ケリー・フレモン・クレイグ

イライラ、モヤモヤ。何をしても上手くいかなかったり、誰も信じられなくなったり、あらゆることが嫌になったり。その原因がすべて自分自身にあるとわかっていても、認めることができない。世界はすべて敵。ティーンエイジャー特有の閉塞感をアメリカならで…

「ムーンライト」バリー・ジェンキンス

美しい映画だった。麻薬中毒者を母にもつ黒人のゲイという圧倒的マイノリティ。誰からも肯定されることのない苛酷な状況の中で、もがいて、苦しんで、絶望の果てに頬を流れた涙がほんとうに美しかった。人は誰もが孤独で、胸の奥に深い悲しみを抱えつつ、愛…

「モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由」マイウェン

恋愛偏差値のべらぼうに高い国フランスから、またもや熱烈なアムールが炸裂する、10年にわたる愛の映画が誕生。これぞ「嫌よ嫌よも好きのうち」の極致。さすがの女性監督というべきか、これはちょっと男にはハードルが高いな。激愛。 映画『モン・ロワ 愛を…

「たかが世界の終わり」グザヴィエ・ドラン

すごい。圧巻。呼吸の乱れや胸の鼓動、目線の動き、瞬きの一つひとつまで。悩み、迷い、怒り、悲しみを内包する人間の繊細な「感情」の揺れを、グザヴィエ・ドランは、圧倒的に美しい映像と音楽によって描きだす。傷つけ合い、憎しみ合っても、この映画が愛に…

「ハーフネルソン」ライアン・フレック

「ラ・ラ・ランド」から「ブレードランナー2049」へ。今やハリウッドきっての超・売れっ子となったライアン・ゴズリングが11年前にみせた演技には彼の天才がはっきりと見てとれる。どんな孤独な人間にも、性別や年齢を超え、誰かがきっと寄り添ってくれるという…

「パリ、恋人たちの影」フィリップ・ガレル

どっひゃー。言ってしまえば、一年にわたる夫婦の痴話げんかが、オッシャレ~な恋愛映画になってしまうのは、美しいパリの街並みによるものなのか、愛に生きるフランス人の気質によるものなのか、それはわからないけれど、とにかく小粋。あのゴダールに「息…

「緑はよみがえる」エルマンノ・オルミ

80歳を過ぎたイタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督が亡き父の涙に捧げた映画。戦場に赴いた戦士ひとり一人に、家族があり、暮らしがあり、夢があった。常軌を逸した戦場の中で正気を保つことがいかに困難なことであるか。余計なものを極限まで排した、美しく…

「島々清しゃ」新藤風

漁師役の渋川清彦が「グルーヴよ、グルーヴ」と発する印象的な台詞がある。その、なんとも定義しがたい、音楽による高揚感のようなもの。それが作られていく過程を丹念に描いたのがこの『島々清しゃ』だ。上手くてもグルーヴのない音楽、下手でもグルーヴの…

「タンジェリン」ショーン・ベイカー

ゲイであれ、バイであれ、ノンケであれ、心にぽっかり空いた穴を埋めてくれるのは自分ではない誰かだ。この映画が感動的なのは、ロサンゼルスの片隅で生きるトランスジェンダーを、そのままプレーンに描いているからだ。恋をし、嫉妬し、裏切り、裏切られ、…

「灼熱」ダリボル・マタニッチ

異なる国家、異なる民族、異なる人種、異なる信仰。なぜ拒むのかを深く理解しないまま、なにかに扇動されるように、私たち人間は、自分とは「異なるもの」をいとも簡単に排除してしまう。かつてクロアチア人とセルビア人が殺し合った美しい国に生まれたダリ…

「君の名は。」新海誠

光の美しいアニメーションだった。都会の高層ビルを照らす朝日も、田舎の校庭に射し込む木漏れ日も、美しく清らかで世界を包み込むような光が全編に満ち溢れていた。時代に、とりわけ、若者に圧倒的に支持される作品というのはそれだけで価値がある。なぜな…

「沈黙 ―サイレンス― 」マーティン・スコセッシ

弾圧する側も、弾圧される側も、そのいずれにも「弱さ」はある。この映画が胸を打つのは、善人も、悪人も、人間なら誰しもが持っているその「弱さ」に、終始一貫、揺れ動きながらも寄り添っているからだ。人間を救済するための宗教が、なぜゆえ、こんなにも…

「ラ・ラ・ランド」デイミアン・チャゼル

今さらの「ラ・ラ・ランド」。いやー面白かった! エンターテイメントへの限りない憧れと愛情。ドキドキとワクワク、そして、ちょっぴりの切なさが、きらきら散りばめられた魔法。わずか1本のフィルムでエマ・ストーンの美しさは永遠となった。こんな映画を観る…

「ヒトラーの忘れもの」マーチン・サントフリート

人の痛みをリアルに想像することでしか憎悪の連鎖を断ち切ることはできない、というシンプルで力強いメッセージ。第二次世界大戦後、ナチス・ドイツがデンマークに埋めた200万個以上の地雷を除去した多くは、20歳に満たないドイツの少年兵たちであり、その半…

「狼」新藤兼人

新藤兼人による1955年の作品。貧困が人間をどのように破壊していくのかを緻密に描いたエンターテイメント。それにしても、今や社会派としか紹介されない監督がこんなにも第一級の娯楽作品をインディペンデントで撮った「豊かさ」が、かつての日本映画にあっ…

「僕と世界の方程式」モーガン・マシューズ

いまいちメジャー感はないけれど、サリー・ホーキンスはとても素晴らしい女優の一人だ。愛情表現が不器用で、事故で亡くなった父親に引け目があり、自閉症ぎみで数学にしか興味を示さない息子に相手にされずとも、大きな、無償の愛を注ぎ続ける母親。終盤、そ…

「幸せなひとりぼっち」ハンネス・ホルム

先立った最愛の妻を追いかけようと何度も自殺を図ろうとする偏屈で実直な主人公が、偶然引っ越してきたお隣さんによって、もう一度、生を見つめ直す小さな奇跡。どんな境遇の、どんな人間であれ、人を愛し、人に愛されるため、この世に生まれ、そして、今を…

「皆さま、ごきげんよう」オタール・イオセリアーニ

原題の「冬の歌」は故郷グルジアの歌のタイトルで、その歌には「冬が来た。空は曇り、花はしおれる。それでも歌を歌ったっていいじゃないか」という歌詞があるとオタール・イオセリアーニ監督。人が人を糾弾し、抑えつけ、略奪し、いつまでも殺し合いをやめな…

「どぶ」新藤兼人

新藤兼人による1954年の作品。黒沢明の「どん底」に匹敵する、戦後のルンペン街に暮らす人々の、貧しくもエネルギッシュな生活。それぞれの人物描写も素晴らしかったけど、この映画の見どころはなんといっても乙羽信子の演技と覚悟に尽きる。清純派から180度…

「アラビアの女王 愛と宿命の日々」ヴェルナー・ヘルツォーク

これは「砂漠」を観る映画だ。あのヘルツォークによって、まざまざと見せつけられるのは、圧倒的なスケールの「映画にしか撮れない自然」があるということだ。そして、ニコール・キッドマン。自主制作のような作品から歴史超大作まで、その人が出演しているだ…

「変態だ」安齋肇

最強コンビ降臨。「エロは大宇宙」「変態は王」など数々の名言を発してきた、キング・オブ・エロ、みうらじゅん大師匠の企画・原作を、あのソラミミストの安齋肇さんが撮った映画。これぞまさしくロックなポルノ。魂の解放と愛の物語。荒唐無稽なド変態への道を…

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」ジェイ・ローチ

卒業論文のテーマは「赤狩り時代の映画作家」だった。裏切るか、亡命するか、堪えて闘うか。それら三択しか生き残る方法がなかった時代の中で、堪えて闘い続けた男こそ、稀代の脚本家ダルトン・トランボだ。オスカーを獲った「ローマの休日」や「黒い牝牛」の…

「原爆の子」新藤兼人

ふと、新藤兼人の映画を観よう、と思った。戦前・戦中を生き抜いた日本人が戦後、何を書き、何を描いてきたかを、今、深く知りたいと思ったからだ。検閲を免れるため、自腹を切って制作された本作は、被爆国の人間が世界の人々に「原爆とは何か」を初めて知ら…