Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「君の名前で僕を呼んで」ルカ・グァダニーノ

ポール・トーマス・アンダーソンが、ペドロ・アルモドバルが、グザヴィエ・ドランが絶賛したのもよくわかる、恐ろしいほどに耽美で、切なく、まばゆい映画だった。思春期の青年が抱く強い欲望と、抑えきることのできない欲動。あるひと夏の体験が奇跡のように美…

「あしたは最高のはじまり」ユーゴ・ジェラン

未来がどうなるかなんて誰にもわからない。だからこそ、今を懸命に生きる必要があり、現在が積み重なった後に未来があるということを、わかってはいるけれど、ついつい忘れてしまいがちだ。とにかく今を生きること、そして、私たちのこだわりが、実は些細で…

「ナチュラルウーマン」セバスティアン・レリオ

なにをもって「ナチュラル」とし、なにをもって「アンナチュラル」とするのか。それを決めるのは、他者でも、世間でもなく、自分であるということを、自身もトランスジェンダーである女優ダニエラ・ヴェガが教えてくれた。そして、ほんとうの美しさには強さが…

「銀齢の果て」筒井康隆

選ばれし地域の70歳以上の老人たちが、社会を守るため、互いに殺し合わねばならない「老人相互処刑制度」。いかにも筒井康隆らしい、ブラックで、ユーモアに溢れた語り口ながら、結局のところ、自ら進んで死を選んだ老人の最期が、最も美しく、最も人間らし…

「レディ・プレイヤー1」スティーブン・スピルバーグ

忘れることなかれ。スピルバーグこそが世界を熱狂させた史上最初の映画オタクなのだ。近未来の仮想現実の世界の中で、メカゴジラとガンダムが戦い、キングコングが街を破壊し、デロリアンや金田バイク(AKIRA)が疾走する。自らが血沸き肉躍る世界を描くこと…

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」スティーヴン・スピルバーグ

民主主義を守るのは、その主権者たる国民であり、ジャーナリズムは国民のために「本当のこと」を伝えなければならない。この映画が強く問いかけるのは「その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な…

「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」エドゥアルド・デルック

芸術なんてものに心を奪われたが最後、どんなことがあろうとも、後は盲目的に人生をかけて信じ抜くしかない。ゴーギャンの生き方を辿っていくと、常識やモラル、ときには愛でさえも、それらすべてを捨てて信じ抜いた者だけが真のアーティストになれるのだと…

「さよなら、僕のマンハッタン」マーク・ウェブ

好きな場所で暮らしていいよ、と言われたら、絶対にニューヨークだ。ニューヨークほど、知的で、お洒落で、刺激的で、懐が深く、寛容な都市を他に知らないからだ。昔も、今も、サイモン&ガーファンクルが最高に似合う街、ニューヨークで繰り広げられるほろ…

「バース・オブ・ネイション」ネイト・パーカー

歴史を知れば知るほど、悲しみと絶望の果てに多くの血や涙が流され、今があることを思い知らされる。映画の父、D・W・グリフィスが白人を英雄視した「國民の創生」と、あえて同じタイトルがつけられた本作が、強烈に、執拗に描くのは、差別され、虐げられた…

「長江 愛の詩」ヤン・チャオ

中国は近いようで遠い国だ。こんな映画を観ると、かの国について、あまりに部分的にしか知らないことを強く感じてしまう。上海を起点として、途方もなく壮大な長江を、その源流へと遡る一大ロードムービー。そこで繰り広げられてきた人間の営みを思うと、そ…

「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」ヨルゴス・ランティモス

ヒッチコックを例にあげるまでもなく、本物のホラーというのは、視覚的、あるいは、聴覚的に怖さを訴えかけるものではなく、私たちの想像力をじわりじわりと冒してくるようなものだ。人間の「悍ましさ」や「利己」が徐々に露わとなる121分。奇才ヨルゴス・ラ…

「幕末維新のこと 幕末・明治論コレクション」司馬遼太郎 著/関川夏央 編

説明不要の代表作「竜馬がゆく」は「龍馬の伝記を書こうと思ったわけではなく、龍馬の人柄を書こうと思っただけのことだった」という司馬さんの言葉がなんだかとても感動的だった。なんでも「ものごとをつくるのは、結局は、つくる人の魅力であり、ものをつ…

「ジュピターズ・ムーン」コーネル・ムンドルッツォ

シリアから逃れてきた難民の少年が、凶弾に倒れることなく、転生して天使となったのはなぜか。サイエンスフィクションやファンタジーが私たちの心を掴むのは、それが、ノンフィクションやドキュメンタリーで暴くことのできない真実を抉るからだ。難民・移民の…

「リングサイド・ストーリー」武正晴

そんなに詳しいわけではないけれど、「プロレスを愛するひとに悪いひとはいない」と、どこかで強く信じている。「百円の恋」の武正晴監督が、リングに立ち続ける人間の「崇高さ」を、まっすぐに撮りあげた、びっくりするほどピュアな作品。劇中、今からそこ…

「ワンダーストラック」トッド・ヘインズ

史跡や遺跡、景勝地など、何10年、何100年の時を経ても何も変わらない場所があるけれど、ある意味、ミュージアムもそんな場所だ。1927年と1977年のニューヨーク。同じ「自然史博物館」で交差する、ファンタジックでロマンチックな物語。こんな映画を観ると、…

「名セリフ!」鴻上尚史

演劇は身体の芸術だ。鴻上さんが書くように、目で読むだけでなく、口に出して初めて「身体と深い所で繋がる」んだと思う。古今東西の演劇の代表作からピックアップされた31の名セリフ。いずれも声に出されることで名作になった演劇の解説本になっている点も…

「ハッピーエンド」ミヒャエル・ハネケ

世界には、ほんの一握り、いわゆる一般的な映画とはまったく異なる次元で、神々しいほどに美しく、観たあとに只茫然とするしかない映画を撮る天才がいる。例えば、レオス・カラックスやポール・トーマス・アンダーソン、あるいは、グザヴィエ・ドランのように。…

「ロング、ロングバケーション」パオロ・ヴィルズィ

人生の最期の最期、それまでずーっと寄り添ってきた老夫婦が、キャンピングカーで旅をしながら、スクリーンに映し出される写真を眺めつつ、あのときはああだった、このときはこうだったと語り合う。なんて豊かな時間なんだろう。例え、一方が認知症で、一方…

「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」村上春樹 編・訳

村上春樹は、とても誠実な書き手であると同時に、とても誠実な受け手でもあるということは、彼が翻訳した本を何冊か読めばすぐにわかるけれど、アメリカの作家が雑誌や新聞に発表した記事、あるいは、エッセイを、気の向くままにスクラップし、一冊にまとめ…

「羊の木」吉田大八

人が人を信用することの難しさと強さ、そして、危うさを、最後の最後までラストの読めないサスペンスにしてヒューマンドラマ、ほんの少しのSF要素も散りばめたエンターテイメントに仕上げた吉田大八監督の力量に脱帽。元殺人受刑者を演じた6人の「人間像」が…

「リバーズ・エッジ」行定勲

岡崎京子の「リバーズ・エッジ」を初めて読んだのは、確か、姉が定期的に買っていた雑誌「CUTiE」の連載だった。あの頃はちょうど、世の中に蔓延している薄っぺらな嘘にようやく少しずつ気づき始めた頃で、そこで引用されていた「平坦な戦場で僕らが生き延び…

「リメンバー・ミー」リー・アンクリッチ

昔から「最高のメディアは恋文である」と思っているけれど、音楽も同じ。たった一人のために刻まれるリズムや、奏でられるメロディほど、胸を打つものはない。そして、それが愛について歌われたものならなおさらだ。誰かを思い、作られる音楽の素晴らしさを…

「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」ライナー・ホルツェマー

作られるものは嘘をつかない。繊細なものを作ろうとするなら作り手は繊細でなければならず、誠実なものを作ろうとするなら作り手は誠実でなければならない。アントワープ郊外の邸宅の広大な庭で、パートナーと共に、野菜を育て、草花を愛でる、その暮らしの…

「未来のミライ」細田守

どんな才能を持った監督も全打席ホームランというわけにはいかない。ただ、後々そのフィルモグラフィーを辿っていくと、そのとき、撮るべきもの、撮らねばならなかったものを、必然的に(というより、ある意味、宿命的に)撮っていることの方が多い。「最小…

「ライオンは今夜死ぬ」諏訪敦彦

ゴダールやトリュフォーと並び、ヌーヴェルヴァーグの代名詞といえるジャン=ピエール・レオーの、まさしく映画を生き抜いてきた圧倒的な存在感! 本人を投影するような、死を演じることに苦悩する老俳優の、身振りも、手振りも、その話し方も、それらすべて…

「デトロイト」キャスリン・ビグロー

約40分。これでもかというくらい、執拗に、執拗に描かれる尋問シーンは、尋問というよりも、もはや拷問に近い。1967年のデトロイト暴動のさなかに発生した「アルジェ・モーテル殺人事件」を基にした映画が浮き彫りにするのは、白人警官が黒人を殺しても罪に問…

「アバウト・レイ 16歳の決断」ゲイビー・デラル

娘にエル・ファニング、母にナオミ・ワッツ、祖母にスーザン・サランドン。という時点で、これはゼッタイいい映画に決まっている。中でも! トランスジェンダーとして性転換を渇望する16歳の娘の決断について、彼女(彼)を愛するがゆえに葛藤する母を演じたナ…

「笑う子規」正岡子規 著/天野祐吉 編/南伸坊 絵

睾丸の大きな人の昼寝かな。歴史に名を刻むひとは、なぜか聖人君子のように思えてしまうけれど、人間だもの、くだらないことを考えたり、どーでもいいことを書いたりもする。「子規研究にはいっさい役に立たない」と編者が自虐的に語る本書には、創作には絶…

「ロストパラダイス・イン・トーキョー」白石和彌

社会のシステムからはじかれ、過酷な運命を背負いつつも、這い蹲りながら生きる。バーチャルでは癒されることのない、孤独を抱える二人(プラス一人)が、血生臭いリアルに魂で反応し、共鳴した物語。「凶悪」(これがまさか2作目だなんて!)、「日本で一番…

「悪女/AKUJO」チョン・ビョンギル

やっぱり殺し屋は美女に限る!おおよそマンガでも思いつかないような、ぶっ飛びまくったバイオレンス、アクションシーンの連続。めまぐるしく展開するストーリー、いくつもの復讐を宿命づけられるたびに血が流され、銃で、刀で、斧で、マシンガンで、殺って…