Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「裁き」チャイタニヤ・タームハネー

世の中を、注意深く、細やかに見ていないと、こんなにも社会を鋭く洞察する映画はつくれない。言語も、階級も、文化も、宗教も、まったく異なる人々が、裁き、裁かれる下級裁判所の現場を描くことで浮き彫りになる、インドの複雑に入り組んだ現実。私たちは…

「大好きな本 川上弘美書評集」川上弘美

好き、嫌い、というのは説明のしようがない。いくら説明をしようとしたところで、100%しっくりくる言葉などなく、例えば「感性」なんて曖昧な言葉でお茶を濁すことになる。この144冊にも及ぶ書評集は、私がその「感性」を信頼することのできる作家・川上弘美…

「プラネタリウム」レベッカ・ズロトヴスキ

ちょっとしたボタンのかけ違いで、人の一生は驚くような展開をみせる。人は見たいものを見たいようにしか見ることができない。そんな曖昧模糊とした人生の断片をニヒルスティックに、それでいて、ファッショナブルに美しく描く。父ジョニー・デップと母ヴァネ…

「しあわせな人生の選択」セスク・ゲイ

友というのは特別だ。家族や恋人ほど近しくはないけど、かといって、離れていても、いつも寄り添ってくれてるような。言葉を尽くさずともわかりあえて、どんな選択をも、受け入れ、応援してくれる。末期癌で死にゆく男とその友人による4日間の記録。ただ側に…

「三度目の殺人」是枝裕和

大切なのは、真実か、人間か。最強のキャストとスタッフ。この日本映画史上、屈指の心理サスペンスには、司法を超える人間の哀しみと深みが、圧倒的なクオリティーによって表わされている。それにしても、その緻密さといったら! 是枝監督の作品にはいつも、…

「ブランカとギター弾き」長谷井宏紀

自分が生きていく場所も、自分が生きていく術も、自分自身で選ぶという自由。そのかけがえのない尊さをマニラのスラムに生きるストリートチルドレンが教えてくれる。お金も、家も、家族も、そのすべてがなくても、自らで決断する、という自由さえあれば、こ…

「映画ドラえもん のび太の宝島」今井一暁

映画バカの父親とは違い、今まで頑なに暗闇を嫌がっていた息子が、突然「映画に行きたい」といったので劇場へ。大きなスクリーンで観る「映画ドラえもん」はやっぱり最高。ジャイアンの男気に、スネ夫の実はいい奴っぷりに、しずかちゃんの強さに、のび太の…

「さよなら、ぼくのモンスター」ステファン・ダン

抑えようとも抑えきれない気持ちと、その衝動を、オリジナリティ溢れるスタイリッシュな映像で表わしたカナダ映画。自らのセクシュアリティを自覚することで芽生える葛藤と、その受容が、痛々しいほど繊細に描かれる。「クソまみれの人生なら強くなるしかな…

「散歩する侵略者」黒沢清

SFとしても、アクションとしても、そして、ラブストーリーとしても超一級。「地球侵略」というハリウッド的な物語を、こんなにも不思議に、こんなにも独特に描くなんて、これは黒沢清監督にしかなせない業だ。ハラハラして、ドキドキして、ゾクゾクして、ニ…

「いつも心はジャイアント」ヨハネス・ニホーム

主人公リカルドが生きる現実はとても厳しい。神はなぜ、こんな試練を彼に与えたんだろうというくらいに。それでも「何かすべてを超越したものがあるという希望を提示したいと思った」とヨハネス監督はいう。生きる。その無垢で懸命な姿に胸が熱くなる。 映画…

「パターソン」ジム・ジャームッシュ

変わり映えのない日々を生きているようで、一日としてまったく同じ日は存在しない。過ぎ去っていく日常も、瑞々しい詩人の言葉によって、それはかけがえのない、夢のような毎日となる。見逃しているもの、消えていくもの、そのあまりの美しさに、そっと気づ…

「スイス・アーミー・マン」ダニエルズ

「ドブネズミの詩」にある「馬鹿なら馬鹿なほどカッコええ、駄目なら駄目なほどカッコええとか、 そういう世界ってあるんよ」という言葉に支えられて生きてきた。おならをし続ける死体。この映画は、くだらない妄想が、あまりにもくだらなすぎて泣けてきて、…

「バンド・エイド」ゾーイ・リスター=ジョーンズ

理由あって喧嘩の絶えない夫婦がバンドを結成。言葉で、態度で、わかりあえないとしても、音楽でなら、わかりあうことができる。一緒に音を出すことで、音を作ることで感情を共有する、ロックンロールは最強のコミュニケーションツールだ。 バンド・エイド

「聖杯たちの騎士」テレンス・マリック

マスコミの前には一切でてこない巨匠テレンス・マリック。その詩的かつ抒情的に綴られる映像の連なりが、観る者に、まさしく唯一無二の映画体験を齎してくれる。富と名声を得ても虚無感に苛まれる男の彷徨。その刹那の美しさが、映画は「1秒間に24コマの死」…

「幼な子われらに生まれ」三島有紀子

誰にでも、見て見ぬ振りをしているもの、気づかぬふりをしているものはある。そのことといずれ、真正面から向き合わねばならぬとき、支えになってくれるもの、力になってくれるものは、血が繋がっていようがいまいが、やはり、家族だ。浅野忠信、田中麗奈、…

「海は燃えている」ジャンフランコ・ロージ

いかなる人間も生まれる場所は選べない。ターコイズブルーの美しい海のそばで静かな日常を営む人々と、祖国を追われて命からがら海を渡ってきた、あるいは、ぼろぼろの船の中であっけなく命を落とす難民たちとの間に、一体、どんな違いがあるんだろう。ドキ…

「夜明けの祈り」アンヌ・フォンテーヌ

宗教の功罪を、映画は、繰り返し、繰り返し描いてきたけれど、いつも思うのは、命より優先すべき信仰など無意味だ、という強い思いだ。例え、戒律に背いたとしても、蔑まれ、傷つき、救いを求める人たちに寄り添う人は、まるで神と見紛うほどに美しい。 映画…

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」ジョン・リー・ハンコック

「失敗したところでやめてしまうから失敗になる」とは松下幸之助の言葉。ある意味、往生際の悪さというか、なりふり構わぬ執念というか、ビジネスを一気に拡大するためには、憑りつかれた狂気のようなものが必要となってくる。マクドナルド兄弟から権利を根…

「コンビニ人間」村田沙耶香

評価の高い「コンビニ人間」をようやく。文学の最も尊い価値は、誰にも悩みを打ち明けられず、孤独を抱えながら、息をひそめて生きる人たちを、一瞬でも慰めることであると強く信じている。コンビニで働くことで唯一「世界の正常な部品」となれる主人公。私…

「ギフト 僕がきみに残せるもの」クレイ・トゥイール

父親として、強さはもちろん、弱さをみせることが、とても大切なのだということを学んだ。というよりも、弱さをさらすこと、それ自体が強さなのだ。息子には、何を見せ、何を語り、何を遺してやることができるのか。そのことばかりをぐるぐるぐるぐる考えて…

「怪物はささやく」 J・A・バヨナ

孤独、不安、恐れ。誰しも胸の内に「怪物」が棲みついている。その「怪物」と闘い、また、その「怪物」に癒され、導かれながら、人生の最も困難な別れを乗り越えいていく少年を描いたファンタジックな物語。胸が張り裂けそうなほどに悲しく、そして、息をの…

「問いつめられたパパとママの本」伊丹十三

伊丹十三という人のスゴさを知ったのはずっと後になってからのことだ。ただ、彼が生きている間に、その仕事に少しでもリアルタイムで触れることができて、ほんとうに良かったなぁと思う。科学をテーマにしたこの一冊にも、彼の「超一流のうんちく」が散りば…

「彼女の人生は間違いじゃない」廣木隆一

早朝、福島のいわき駅から高速バスに乗り込み、東京へと向かう。駅のトイレで着替えを済ませ、渋谷の雑居ビルにある事務所へ。やがて、呼びだしがかかると、スタッフの運転する車でラブホテルへ移動し、デリヘル嬢として働く。週末が終わると彼女は、昼はパ…

「宇宙からの帰還」立花隆

これは目から鱗の一冊。あの立花隆が昭和58年に著した、宇宙飛行士へのインタビューをもとにしたノンフィクション。国家について、宗教について、神について、宇宙について。彼らの言葉によって明らかになるのは、科学というものの限界と、認識できるものし…

「ビニー/信じる男」ベン・ヤンガー

「この世には3種類の人間がいる。ボクシングをする人間としない人間。それともう1種類、ボクシングをする為に生まれてきた人間」というのは、ある映画をみた、千原ジュニアのコメントだけど、この映画の主人公ビニーもまた、ボクシングをしなければ死んでし…

「ヘヴンズストーリー」瀬々敬久

撮りたいもの、撮るべきものを撮るためには、恐ろしいほどの執念と、並々ならぬ熱意がいる。例え、巨匠と呼ばれる監督であったとしても、ほとんどの場合、それは叶わぬ夢となる。4時間38分。公開から7年間、DVD化を頑なに拒んでいた、噂の映画をようやく観る…

「セールスマン」アスガー・ファルハディ

覆水は盆に返らない。復讐か、赦免か。妻に暴行をはたらいた犯人と対峙する夫の怒り、憎しみ、温情、心の葛藤がスリリングに描かれるミステリー・サスペンス。イランの巨匠が問いかけるのは、振り上げた拳を下ろすことができるのか、ということだ。 映画『セ…

「ありがとう、トニ・エルドマン」マーレン・アーデ

あああ、なんていえばいいんだろう。まさに映画でしか表現しえない「いたたまれないユーモア」によって呼び起こされる感慨。なにかをガムシャラに追い求めることで、いかにまわりの景色を見失っているのか、ということを、ウザく、キモい、イタズラ好きのダ…

「ハネムーン・キラーズ」レナード・カッスル

せつない。あまりにせつなすぎて、トリュフォーが「もっとも愛するアメリカ映画」と称賛したことがよくわかる。愛するがゆえに罪を犯さねばならない二人に共通しているのは、寂しく、耐えられないほどの孤独だ。愛すれば愛するほど堕ちていく痛切なラブスト…

「武曲」熊切和嘉

鎌倉は、もっとも静かで、美しく、洗練された街だ。その街と対比するかのように描かれる、人間のどろどろとした業と、純粋であるがゆえの狂気。綾野剛の圧巻の演技をみて思うのは、俳優の魂は肉体に宿っているということ、そして、チャンバラの殺陣はやはり…