Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「ハネムーン・キラーズ」レナード・カッスル

せつない。あまりにせつなすぎて、トリュフォーが「もっとも愛するアメリカ映画」と称賛したことがよくわかる。愛するがゆえに罪を犯さねばならない二人に共通しているのは、寂しく、耐えられないほどの孤独だ。愛すれば愛するほど堕ちていく痛切なラブスト…

「武曲」熊切和嘉

鎌倉は、もっとも静かで、美しく、洗練された街だ。その街と対比するかのように描かれる、人間のどろどろとした業と、純粋であるがゆえの狂気。綾野剛の圧巻の演技をみて思うのは、俳優の魂は肉体に宿っているということ、そして、チャンバラの殺陣はやはり…

「ローマ法王になる日まで」ダニエーレ・ルケッティ

ツイッターでつぶやき、若者たちと自撮りもする。カトリックでありながら「神は新しいことを恐れていない」と同性愛者に一定の理解を示す。史上最も民衆から愛されている法王フランシスコが歩んできた半生は「痛み」を知ることの連続だった。劇中の台詞「奉…

「恋する原発」高橋源一郎

不謹慎といえば不謹慎であるかもしれないし、下品といえば下品であるかもしれない。しかし、なにかを自粛したり、抑制したり、禁止したりする、その背後には、少なからず、なにか「うしろめたさ」のようなものが横たわっているように思えてならない。ことを…

「グッド・タイム」ジョシュア&ベニー・サフディ

さめやらぬ興奮! 観るものの想像力を次々に超えていく予測不可能な100分間。アドレナリンが分泌しっぱなしのクライム・サスペンス。映画でしか感じることのできない疾走感と高揚感を存分に堪能する。理由なき反抗。これは21世紀のアメリカン・ニューシネマ。…

「海辺のリア」小林政広

俳優生活65年の、生きる伝説。黒澤明をはじめ、成瀬巳喜男、岡本喜八、市川崑、五社英雄といった錚々たる監督たちに愛された84歳の仲代達矢が、その一挙手一投足、台詞の一つひとつに、自らのすべてを、その人生を、人間の喜怒哀楽を、全身全霊で表現する。…

「ハートストーン」グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン

思春期。「自分が何者であるか」を気づかされ、もう二度と元通りには戻れない、なにか大切なものを喪失していく過程を、厳しく壮大な自然を背景に見事に描き切ったアイスランド映画。閉鎖的かつ殺伐とした漁村の中で、誰にも相談できず、孤独な魂を抱えなが…

「i」西加奈子

年末年始は一気に読みたい本を読む。今年は、2016年の年末に買って、ずっと読めずに本棚にあったこの本を選んだ。そのとき、西さんが書きたかったこと、書かずにはいられなかった思いがどっと溢れ出ている文章に、言葉に、なんども胸が熱くなる。曖昧なもの…

ベストテン2017

2017年もあと2日。今年観た映画(DVD)は昨年より少し増えて120本でした。今年も映画を観続けることができたこと。そのことがやっぱり幸せだなぁと感じる年の瀬です。 さて。年末恒例の、特に印象に残った映画は、 「オーバー・フェンス」山下敦弘「走れ、絶…

「20センチュリー・ウーマン」マイク・ミルズ

人は人に影響を与えながら、人は人に影響を受けながら、生きている。そこに性別や年齢は関係ない。まさしく今が旬の、エル・ファニングも、グレタ・ガーウィグも、共に素晴らしかったけれど、なんといっても圧巻は、忘れちゃいけない、オスカーとは無縁の大女…

「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」森達也

本を選ぶときに念頭に置いていることの一つに、それが、ネットはもちろん、テレビや新聞で得られない情報であるか、触れられない表現であるか、という自分なりの基準のようなものがある。森さんのドキュメンタリー作品も、著作も、いずれも賛否両論あるけれ…

「ホワイト・ラバーズ」キム・グエン

心に傷を抱えながら生きている二人が、行き場を失い、逃避行に走るロマンチックで、ファンタジックなラブストーリー。二人でいれば怖いものは何もない。死さえも恐るるに足らず。恋は盲目。良いことも、悪いことも、そのすべてをギュッと凝縮したような95分…

「美しい星」吉田大八

人類の行く末を左右するような地球規模の大問題も、宇宙規模で俯瞰して眺めると、どれもハチャメチャで、滑稽で、哀しくみえてくる。SFにしてカルト。三島由紀夫が50年以上も前に抱いていた不安や絶望、そして、焦燥や虚無、それから、自由な表現を、現代に…

「君はひとりじゃない」マウゴシュカ・シュモフスカ

たったワンカットでいい。忘れられないシーンがあるだけで、それはかけがえのない映画となる。突然に母親を亡くした娘とその父親の、絶望と、断絶の果てにあるもの。冒頭からの1時間半がすべて枕だったのかと思わせる圧巻のラストシーン。そのBGM、リバプー…

「カフェ・ソサエティ」ウディ・アレン

圧倒的なオシャレ感。さすが、さすがのウディ・アレンというべきか、衣裳も、音楽も(とろけるようなジャズの数々!)、台詞も、物語も、こんなに瑞々しく、洗練された映画を、80歳を超えた監督が撮りあげたなんて、ほんとうに信じられない。1930年代の黄金時…

「家族はつらいよ2」山田洋次

「家族はつらいよ」も良かったけど、続編がまた、とても良かった。つらいばかりの人生も、七面倒臭い家族との関係も、傍からみると、滑稽で、愛おしい。山田洋次の円熟の喜劇が、ここにきて、ますます極まっている。「喜劇ってのは泣きながらつくるもの」と…

「光」河瀨直美

映画。この光と闇が織りなす偉大なる芸術は、観るものではなく、感じるものであるということを、痛切に教えられた。そして、私たち、一人ひとりの想像力が、映画を殺し、映画を生かす、ということも。「目の前から消えてしまうものほど美しい」という劇中の…

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」石井裕也

ぼくらの石井裕也が帰ってきた。最果タヒの詩集が原作だなんて、素敵なお土産をひっさげて。彼の作品は、もちろんどれも素晴らしいけれど、誰もが見過ごしてしまいそうな世界の片隅で、とことん情けなく、不器用で、それでも、誠実に生きる人たちが描かれる…

「我々の恋愛」いとうせいこう

阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件。日本の安全神話が崩壊した1995年に20世紀が終わったと仮定するなら、作中で描かれる恋愛は、『二十世紀の恋愛を振り返る十五ヵ国会議』による「二十世紀最高の恋愛」にして、「二十世紀最後の恋愛」でもある。ケータイも…

「あゝ、荒野」岸善幸

寺山修司を知ったのは、たしか、高校二年の頃だった。以来、あの美しく、哀しく、強烈な言葉に魅せられ、古本屋で文庫本を買いあさり、ボロボロになるまで貪るように読んだ。そんな彼の小説を、50年以上たった今、舞台を2021年に置き換えて映画化。しかも、…

「残像」アンジェイ・ワイダ

偶然なのか、ただの思い込みなのか、表現者にとっての処女作はその人となりと、遺作は人生そのものと重なるように思えてならない。ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダが最後に描いたのは、いかなる理由があろうとも芸術は規制されるべきではないし、芸術家た…

「オリーブの樹は呼んでいる」イシアル・ボジャイン

2000年のときを越えて育まれてきた「命」を人間はいとも簡単に奪ってしまう。2000年後に思いを馳せよ。その土地も、その樹も、すべては「預かっているものなのだ」という老人の言葉は、一時の富を得んがために、取り返しのつかないことをやってしまう私たち…

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ケネス・ロナーガン

弱く不完全な自分を受け入れたときに初めて、弱く不完全な他者を受け入れることができる。強さを押しつけるのではなく、弱さに寄り添うことで、かすかな希望がみえてくる。越えることのできない痛みや、絶望の淵から、ほんのちょっと人間を癒すことができる…

「メッセージ」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

神学者ルターは「たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える」と言った。メタファーに次ぐメタファー。この観念的で、哲学的な、現代屈指の映画監督が撮ったSF映画が、最後に問いかけたのは、たとえ過酷な運命であるとわかっていても、「…

「この世界の片隅に」片渕須直

ようやくの「この世界の片隅に」。玉音放送を聞いたばかりの、普段はおっとりとした主人公が「最後の一人まで戦うんじゃなかったんかね!」と、怒りとも、悲しみともつかない、やりきれない感情をむきだしにするシーンが忘れられない。社会や政治にそれほど…

「やさしい訴え」小川洋子

15世紀から18世紀にかけて広く使用され、ピアノの隆盛とともに衰退した楽器チェンバロ。西洋や中東において文字を美しく見せるために発達したカリグラフィー。世界にひっそり存在するものに魅せられた3人の男女が織りなす、耽美で、美しく、静謐な。そして、…

「午後8時の訪問者」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

ダルデンヌ兄弟は映画の神様に選ばれた二人だ。彼らが描く映画には、人間の感情が溢れ、観る者は、その感情に揺さぶられ、やがて、胸を締めつけられる。良心の呵責からくる誠実さや、人を思いやることで生まれるやさしさ。この映画の主人公のように、私たち…

「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」レベッカ・ミラー

世の中の、どんな価値観や倫理観に照らし合わせてみても、どうにもならないことがある。たとえ他人に、どれだけ後ろ指を指されたとしても、自分がすべてを受け入れたならば、それはかけがえのない選択となる。ヘンテコでぶっ飛んでいるけれど、なぜかほっこ…

「ヴァーサス ケン・ローチ映画と人生」ルイーズ・オズモンド

カンヌの授賞式で語られた「映画の伝統の一つは世の中に異議を唱え、強大な権力に立ち向かう人々に代わって声を上げることだと信じている」というケン・ローチのスピーチはほんとうに感動的なものだった。なぜならそれは、50年にもわたり、彼が貫いてきた信念…

「愛と痛み 死刑をめぐって」辺見庸

辺見庸という人の著作を読むと「読んではならぬものを読んでしまった」という感覚にいつも襲われる。なぜなら、そこには、多くの人たちが耳を塞ぎ、見て見ぬふりをしている、知られざる事実が、オブラートに包まれることなく、すべて露わになっているからだ…