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Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「淵に立つ」深田晃司

このなんともいえない、ひりひりとした痛々しさ! ある日突然やってきた得体の知れない謎の男が暴くのは、誰もが無意識のうちに蓋をし、心の奥底に閉じ込めている原罪。カンヌが認めた才能。生きることは罪を背負うことでもある、という現実を圧倒的な人間描…

「禁じられた歌声」アブデラマン・シサコ

コーランには「彼らを許し、彼らと話し合え」と書かれているという。つまりは、「聖戦」を唱える人間には、神の声でさえ、無力であるということだ。スポーツも、音楽も、外出も許されない日常。本来、人間を救済するための宗教に、縛りつけられ、抑圧される…

「怒り」李相日

まったく別々に起こった出来事も、どこか、大きな意味でつながっている。例えば、ユングが「共時性」といったような、不思議な「巡り合わせ」だらけの世界では、どこかで起こった事件が、まったく異なる場所の、誰かの人生を狂わせることだってあるのだ。こ…

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」リチャード・リンクレイター

なんの意味もない、どうしようもなくくだらない、だらだらとした時間。そんな「無為な時間」の美しさも、かけがえのなさも、今なら痛いほどわかる。決して長くは続かない、人生最高の3日間を切りとった、甘酸っぱくもリアルな青春映画。ビバ☆アメリカ。 映画…

「赤ヘル1975」重松清

野球にまつわる小説を無性に読みたくなるときがある。ある意味、人生で最も幸福だったあの頃を懐かしみ、と同時に、一抹の寂しさを感じる年にもなった。1975年のヒロシマ。ときの流れは、何をもたらし、何を奪ったのか。忘れていいこと、忘れてはならないこ…

「湯を沸かすほどの熱い愛」中野量太

忘れられない作品の一つ、長編映画デビューとなった「チチを撮りに」から3年、中野量太監督は、母親の厳しさと優しさ、そして強さ、つまりは愛を、さらに圧倒的な熱量で撮りあげた。杉咲花の存在感も群を抜いているけど、完璧なまでに「お母ちゃん」になって…

「奇蹟がくれた数式」マシュー・ブラウン

冒頭に記される「正しくみれば数学は真理だけでなく究極の美も併せ持つ」というある数学者の言葉。宇宙にまつわる真理を探究するのが物理学であるように、数学を突き詰めれば突き詰めるほど、その「美しさ」に魅せられていくという感覚はなんとなくわかる。…

「永い言い訳」西川美和

善良な人間の弱さだったり、最低な人間の優しさだったり、一面的ではない人間の、表面には決して表われない、心の奥底にずっと隠されているもの。西川美和監督はそんな人間の複雑な性をあぶりだす天才だ。赦されることのない十字架を背負いながら生きていく…

「ある戦争」トビアス・リンホルム

家族と離ればなれ。それだけで、どんな大義を並べたところで、戦争を正統化することはできない。英雄であろうが、犯罪者であろうが、一生消えることのない心の傷。生きて帰るも、地獄。もう決して元には戻れない。自ら戦場に出向き、命をかけて守り、戦った…

「お父さんと伊藤さん」タナダユキ

上野樹里も、もちろん、リリー・フランキーもいいけれど、これは藤竜也の背中をみる映画だ。大袈裟にいえば、「生きる」の志村喬だったり、「東京物語」の笠智衆だったり。父親はいつも背中で語ってきたけれど、この映画の藤竜也の背中にも、それまで歩んでき…

「グッバイ、サマー」ミシェル・ゴンドリー

子供といえるほど純粋無垢ではなく、大人といえるほどズル賢くもない。人生でもっとも特別な“14歳”の夏に、起こるべくして起こる、恋と、友情と、冒険の物語。天才ミシェル・ゴンドリーの自伝的な作品というだけでボルテージは最高潮。友達が一人いれば、その…

「走れ、絶望に追いつかれない速さで」中川龍太郎

忘れられないシーンがいくつもある。どんなに青臭いといわれようがこんな映画が好きだ。人生の断片、最も輝かしい刹那を、映像によって永遠に刻みつけるもの、それこそが映画であると強く信じている。富山の海が、こんなにも悲しく、美しく、優しかったなん…

「神様の思し召し」エドアルド・ファルコーネ

目に見えるものしか信じない外科医と目に見えないものをこそ信じる神父。価値観のまったく異なる二人の関係に起こる変化を描いたその根底には、人間はきっと分かり合えるはずだ、という願いにも似た思いが込められている。笑うだけ笑ったあとに残る深く温か…

「はじまりはヒップホップ」ブリン・エヴァンス

このドキュメンタリー映画が感動的なのは、年寄りがヒップホップを踊るからではなく、幾多の哀しみや苦しみを経験し、まさしく最晩年に差しかかってなお、ひとは何か新しいことにチャレンジし、社会と新たなかかわりを持てるということを証明してみせたから…

「SCOOP!」大根仁

ぶっちゃけ、なんだかなーと思いながら見ていたけれど、後半、残り30分くらいからグイグイと引き込まれる。もはや日本で最も優れた俳優の一人と言っていいリリー・フランキーの狂気は言わずもがな、今さらながらの、滝藤賢一の怪演っぷりに不意を突かれて涙。…

「聖の青春」森義隆

命をかけて、とか、命を削って、なんて、軽々しく口にしてはいけない。わずか29年の生涯。常に死を意識せざるをえなかった棋士・村山聖の魂の対局と生き様、勝利への執念にみなぎるこの映画を観ると、そんな思いがふつふつと湧いてくる。今この瞬間がすべて。…

「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」川上未映子

その後、芥川賞を受賞する川上未映子の「ありのまま」が生き生きと綴られる初期の随筆集。例えば「早川さんは歌いながら黙っていたし、動きながら静止していて、お客さんは瞑っていた。それを見て私は目と胸がとても熱くなって涙が滲んで鼻からも熱い息が出…

「イーグル・ジャンプ」デクスター・フレッチャー

いやーーーーーあ、興奮した!!! 単なる勝ち負けではなく、私たちが、なぜスポーツに、なぜオリンピックに魅せられるのか、その理由が、105分にギュッと凝縮されている。スポーツ選手はいわば全員がクレイジー。自己の限界を超えようとする、そのときに「栄光…

「オマールの壁」ハニ・アブ・アサド

恋人同士を引き裂いたり、幼なじみを殺し合わせたりする、その背景にあるもの。自爆テロに向かう青年を描いた「パラダイス・ナウ」から8年。パレスチナの若者たちの置かれている状況が、何ひとつ変っていないこと、むしろ、悪くなっていることに、ただただ愕…

「後妻業の女」鶴橋康夫

どんなに恐ろしい事件も、どんなに悲しい出来事も、他人事として眺めると、どれも喜劇に見えてくる。色とカネ。欲にまみれる人間の滑稽で哀しい性を、円熟のキャストとスタッフが、一級のエンターテインメントとして描いた意欲作。まるで伊丹十三のような、…

「山河ノスタルジア」ジャ・ジャンクー

富とひきかえに失ったもの。ジャ・ジャンクーは再び、映画という手段を用いて、変化する祖国に翻弄された人間の苦しみと悲しみを、実に丹念に美しく切り取ってみせた。思い通りにはいかないけれど、人生は、ただ淡々と流れていく。そして、特筆すべきは、その…

「WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」佐渡岳利

Perfume を好きになって随分と経つ。彼女たちの曲を聴くといつも泣きそうになるけど、この映画を観て、ようやくその理由がわかった気がした。圧倒的な高揚感。テクノロジーと熱血(スポ根)の融合。Perfume こそ日本が世界と勝負できる最強のコンテンツであ…

「歌声にのった少年」ハニ・アブ・アサド

暫定自治区ガザ。パレスチナの難民たちが隔離、イスライル軍によって支配、弾圧されている地域の人々の暮らしについて、ほとんど何も知らないけれど、音楽が持っている、人々の心を揺さぶる根源的なチカラならわかる。叫ばなければやりきれない思いがそこに…

「オーバー・フェンス」山下敦弘

誰もが胸の内にどろどろぐちゃぐちゃな気持ちを抱えながら生きているけれど、ある日、そこに一筋の光をさしてくれるひとが突然現われて「見つけた!」と思うあの瞬間。「焦がれる」という感情によって、ひとは救われ、生きていけるのだということが、優しく…

「ベストセラー 編集者パーキンスに捧ぐ」マイケル・グランデージ

一冊の本が世にでる、ということはやっぱりすごいことだ。その過程を思うとき、いつも胸が熱くなる。誰もが気軽かつ簡単に言葉を綴り、世に出せる時代だからこそ、作家と編集者、その二人の命がけの闘いが沁みてくる。言葉を生かすか、言葉を殺すか。表現し…

「アイ・ソー・ザ・ライト」マーク・エイブラハム

エルヴィス・プレスリーが憧れ、ボブ・ディランが影響を受けたハンク・ウィリアムス。劇中にある「悲しい曲を歌う奴は、悲しみを知っている」という台詞を体現するかのような、複雑で、どこか痛々しい生き方をした彼が「ロックンロールの種を蒔いた」という定説…

「ストリート・オーケストラ」セルジオ・マシャード

現実逃避は悪くない。というより、映画や音楽や文学に、何か意義があるとするなら、悲しみを一時でも忘れさせ、逃れられない苦しみから、一瞬でも自らを解放してくれるということだ。スラム街で生まれた交響楽団。この映画が素晴らしいのは、そこのみで輝き…

「エミアビのはじまりとはじまり」渡辺謙作

どんな状況であっても「笑える」というのはとても大切なことだ。シリアスに塞ぎこみ、絶望に陥ったとしても、「笑う」ことで救われ、「笑う」ことで、また、新しくなにかをスタートさせることができる。これはそんな「笑い」の強さと可能性を信じる人たちが…

「AMY エイミー」アシフ・カパディア

その歌声を永遠に残すために、神さまがほんの少し、この世に授けたとしか思えない、早熟の天才エイミー・ワインハウスの生涯を描いたドキュメンタリー。彼女の天才が人生を狂わせたのか、狂った人生が彼女に本物の歌を歌わせたのか。哀しみと憂いがたゆたうそ…

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」マリー=カスティーユ・マンション=シャール

なんてこった。ナチス・ドイツが、なぜゆえユダヤ人を迫害し、殺戮しなければならなかったのか? 40年以上も生きてきて、その質問に対する、明確な答え一つ持ってないことに只々愕然とする。知識は何の役にも立たない。知っているか、知らないか、なんて、重…

「トレジャー オトナタチの贈り物。」コルネリュ・ポルンボユ

うっそおおおおおん。桂文枝ばりにイスから転げ落ちそうになる結末。なんとも独特な「間」で繰り広げられる会話と、淡々と進行していく物語に、人間の、欲深いながらも、滑稽で、どうにも憎めない性が描かれる。事実は小説よりも奇なり。驚くべきはこれが事…

「ファング一家の奇想天外な秘密」ジェイソン・ベイトマン

ニコール・キッドマンの仕事の選び方はとても魅力的だ。女優にとって、ときに邪魔なものにもなりかねない「美しさ」や「華やかさ」をひょいと脱ぎ捨て、やむにやまれぬ絶望の淵で、それでも生きていく人間を演じたら、このひとの右にでるひとはいない。親と子…

「白い帽子の女」アンジェリーナ・ジョリー

どんなに仲睦まじい夫婦であったとしても、結局のところ、それぞれの孤独と向き合い、それを乗り越えねばならない過程があるということか(この映画を撮った後にこの二人が離婚したという事実がなんとも皮肉)。内面の表出。自己表現の極み。自分をさらけだ…

「ヒップスター」デスティン・ダニエル・クレットン

母の海帰葬をするために集まった家族。三姉妹の兄が手を滑らせ、遺灰の入った壺を、海に落としてしまうシーンがとてもいい(結局、妹たちが見つけてくれるんだけど)。悲しみが癒されていくのも、家族がもう一度絆を深めるのも、ほんとうにささいなきっかけ…

「流動体について」小沢健二

19年振りのシングルを緊急発売! というネットニュースに踊らされ、オッサン、滅多に行かない街のCD屋さんでゲット。そうそう! このリズムに、このメロディ。心が浮き立つ疾走感も、口ずさみたくなる軽やかさも、引き出しいっぱいのアレンジも、そして、そ…

「ハドソン川の奇跡」クリント・イーストウッド

原題は機長のニックネーム「Sully」。この未曾有の航空機事故の映画について、事件そのものではなく、機長の葛藤に焦点を当てたところに、さすが、イーストウッドのセンスと見識がある。抑制された演技と演出。これはひとりの人間の、尊厳と誇り、そして、誠…

「ニュースの真相」ジェームズ・ヴァンダービルト

極めて優秀な人間が、たった一度の過ちで、糾弾され、職を奪われてしまう。社会にとってそれは有意なことなのだろうか。過ちを許容できない社会は、やがて、何がほんとうに大切なのかを見誤ってしまいかねない。ジャーナリズムを生かすのも、殺すのも、私た…

「素敵なウソの恋まじない」ダーブラ・ウォルシュ

先日。ある年配の人に夢を尋ねたら「恋をしたい」と返答された。半分冗談のようだったけど、思い返すたびに、とても素敵な返答だなぁと思う。どれだけ年を重ねても、不安になったり、臆病になったり、盲目になったり、ドキドキしたり。これは、そんな恋の効…

「森山中教習所」豊島圭介

ともに過ごす時間の長さだけが大切なわけではない。たった一言を交わしただけで、たったひと夏を過ごしただけで、一生忘れられない友達になることだってある。連絡先も知らず、もう何十年も会っていないけど、あいつどうしてるかなー、とふとした瞬間に思い…

「葛城事件」赤堀雅秋

現実よりもリアル。痛々しくて、息苦しくて、目を背けたくなる。前作「その夜の侍」もそうだったけれど、赤堀雅秋監督はまたしても、私たちが蓋をして、目を逸らしてきた闇を、これでもかというほど執拗に暴き出した。愛情が深ければ深いほど、一旦歯車が狂…

「日本で一番悪い奴ら」白石和彌

毒をもって毒を制するつもりが、毒がまわって、次第に感覚が麻痺していく。悪事に手を染めることを狡猾に強要するくせに、収集がつかなくなった途端、ひらりと手のひらを返したように、知らぬ存ぜぬを貫く組織というものの闇。これはエンタテインメントであ…

「死神の精度」伊坂幸太郎

何人も死をまぬがれることはできない。死期の近い人間に寄り添い、死をジャッジする死神の物語から見えてくるのは、どんな人生であれ、ドラマチックであるということだ。ウィットに富んだエンタテインメントでありながら、人生の儚さをしみじみと感じさせて…

「神様なんかくそくらえ」ジョシュア&ベニー・サフディ

なんといっても、アリエル・ホームズに尽きる。12歳の頃、アル中だった実母にコカインをすすめられたという、その壮絶な生い立ちからくる、ただならぬ存在感と、その佇まいは、都会に暮らすストリートガールのリアルそのものだった。恋とヘロイン。生きる理由…

「DOPE/ドープ!!」リック・ファミュイワ

うわぁ、これはいいぞ! 1970年代のブラックスプロイテーションを、今に甦らせたら、きっとこんな感じ⁉︎ いや、これは現代の「ドゥ・ザ・ライト・シング」だ。90年代のHIPHOPをこよなく愛し、L.A.のスラム街でBMXを乗りこなす、3人のギークたちが最高にダサくて…

「シング・ストリート 未来へのうた」ジョン・カーニー

他人にどう思われようが「自分にはこれがある」と思えるものに出会えることは何よりも幸せなことだ。これは、まわりが見えなくなるほど、何かに夢中になったことがある人なら、胸がキュンキュン締めつけられる映画だ。それにしても、80年代って、あんなにカ…

「家族の灯り」マノエル・ド・オリヴェイラ

観始めてからしばらくの間、なんのこっちゃわからず、つまらないなぁと思う映画ほど、いつまでも頭から離れない作品は多い。105歳のオリヴェイラ監督が描く、ほとんど画面が変わらない会話劇は、家族とはなにか、貧しさとはなにか、欺瞞とはなにか、人生とは…

「団地」阪本順治

伝説の喜劇役者・藤山寛美の DNA を色濃く受け継ぐ天才・藤山直美が主演する映画が撮られたというだけで、それはもう事件だ。岸辺一徳、大楠道代、石橋蓮司との黄金のカルテットによって生みだされる可笑しみと哀しみは、日本映画界屈指の、というよりも、最高…

「好きにならずにいられない」ダーグル・カウリ

ほんとうの愛は見返りを求めない。どこに行っても場に馴染めず、どこか浮いている、おデブでオタクな43歳の独身おじさんに、まさかそんなことを教えられるなんて。まったくもって冴えなかった大男がどんどんカッコよく見えてくるのは彼が「恋」をするからだ…

「ジョーのあした 辰𠮷𠀋一郎との20年」阪本順治

ボクサーが憧れるボクサー。辰𠮷𠀋一郎はやっぱり特別だった。1人の天才ボクサーを20年にわたって撮り続けた奇跡のドキュメンタリーは、そのまま人間・辰𠮷𠀋一郎の魂の記録でもある。辰𠮷は、弱く、それ以上に、強い。変わったようで揺るぎがなく、変わって…

「ひそひそ星」園子温

科学技術の進歩が人間の感性を蝕むこともある。「遠い国への憧れや、銀河系の彼方へのロマンが失われ、どこでも隣り部屋に行くように簡単になることで、すべてが立体的でなく、平坦になった」という台詞は、劇中で描かれる未来のみならず、現実の世界でもす…