Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「泣き虫しょったんの奇跡」豊田利晃

負けました。と登場人物が頭を下げるシーンを何度見たかわからない(調べてみるとあの羽生善治でさえプロになって600回負けているのだ)。倒れても、倒れても、倒れても、立ち上がる。その根底にある「好き」という気持ち。それも主人公一人ではなく、多くの…

「続・男はつらいよ」山田洋次

シリーズ第2作。マドンナ役の佐藤オリエも良かったけど、この作品は、何といっても東野英治郎と、ミヤコ蝶々に尽きる。そんな鬼籍に入った殿堂入りクラスの名優の演技(というよりも存在)を目にするだけで寅さんには値がある。そして、丹念に細部にまで練り…

「幸福なラザロ」アリーチェ・ロルヴァケル

富めるものも、貧しきものも、ラザロの前では何の意味も持たない。何人たりとも、その無垢な魂を揺るがすことができないだけでなく、その白痴ともとれる聖人の存在はやがて、疎ましいものとなり、偽善に満ちた人間や、社会を崩壊させていく。ラザロによって…

「魂のゆくえ」ポール・シュレイダー

信仰の矛盾。何かを抑制するということは、鬱憤を溜め込むことでもある。あの「タクシードライバー」を書いた脚本家ポール・シュレイダーが、構想50年の末に完成させた映画にも、当時と変わらぬ、憤懣やるかたない思いが漂っている。キャリア史上最高、この役…

「バイス」アダム・マッケイ

酒癖の悪い青年が強大な権力を握る怪物に変貌する過程を丹念に描いた反骨のブラック・コメディ。ブッシュも、ラムズフェルドも、パウエルも、本人と見紛うばかりにそっくり仕上げられたメイキャップはもはやコント。それでいて、グサリ、グサリと核心をつく物…

「町田くんの世界」石井裕也

結局はどれだけ曝けだせるかということなんだ。石井裕也監督の映画をみていると、これだけ純粋に映画と向き合い、世界と向き合い、表現をするということがとっても尊いことに思えてくる。悪意に満ちている世界の中で、それでも世界を全肯定する強さ。わから…

「記憶にございません!」三谷幸喜

振り返ってみると、三谷幸喜の作品は、映画はすべて、ドラマもそのほとんどを観ている。彼の描く笑いがどこか哀しかったり、彼の描く敵がどこか憎めなかったりするのは、その根底に人間への愛が流れているから。彼にキャスティングされた俳優を、その後、な…

「ドント・ウォーリー」ガス・ヴァン・サント

赦すこと、受け入れることこそが希望なのだと、映画は繰り返し繰り返し描くけれど、簡単に赦し、受け入れるほど人間は強くない。それでも、ふとしたきかっけで、弱さは強さに変わることを、実在した車椅子の風刺漫画家が教えてくれる。ガス・ヴァン・サントは…

「愛がなんだ」今泉力哉

公開時には、満席、立ち見、リピーターが続出。ある映画館の代表に「気が狂ったようにヒットしている」とまで言わしめた恋と愛についての物語。「愛じゃなくても、恋じゃなくても、君を離しはしない」とヒロトは歌ったけれど、言葉の概念や意味なんて、どう…

「ブラック・クランズマン」スパイク・リー

「ドゥ・ザ・ライト・シング」(即ち、正しいことをしようの意)は言うまでもなく、「ゲット・オン・ザ・バス」も忘れがたい映画だ。黒人差別を描きながらも、シリアスに陥ることなく、あくまでもユーモラス、かつファンキーに、そしてオシャレに、抜群のエンター…

「孤独なふりした世界で」リード・モラーノ

戦争や災害など歴史に刻まれることの多くは悲劇だ。そうした悲劇から、あるいは、悲劇にまつわる死者の記憶から、残された者は、目を背け、耳を塞ぐのではなく、苦しみや悲しみを、もがきながらも受け止めなければ前へ進めない。そんな過去・現在・未来への向…

「ある少年の告白」ジョエル・エドガートン

まずは、21世紀の現在もなお、同性愛が「疾患」とみなされ、矯正されているという告発。そして、親として肝に銘じておかねばならないと強く思うのは、我が子といえど、何人なりとも侵すことのできない人格を有する「個」であるということだ。父も、母も、子…

「半世界」阪本順治

四十にして惑わず、なんて難しすぎる。それまで当たり前にいた人たちが、一人、また一人と去っていき、何にも変わらないと思っているのは自分だけで、確実に身体は衰え、環境も変わっている。悟るには若すぎて、冒険できるほど若くもない。どうにも中途半端…

「男はつらいよ」山田洋次

記念すべき国民映画の第1作は、50年を経た今もゲラゲラ笑うことができるコメディの傑作。誰もが寅さんのように、お気軽に、馬鹿正直に、ピュアに、お人好しに生きることができたなら、この国はもっと良くなるはずだ。それにしても、主題歌「男はつらいよ」は…

「希望の灯り」トーマス・ステューバー

ベルリンの壁崩壊後のスーパーマーケットで働く人たちは、ちょっと風変わりで、無骨だけれど、とても心がやさしい。みんないいひと。それは決して、聖人君子的な、あるいは、善意に満ちたいいひとではなく、他人を深く慮りながらも、立ち入りすぎない節度を…

「ガルヴェストン」メラニー・ロラン

アクション映画には哀しみが不可欠だ。闇社会で生きてきた男と、やむにやまれず家出した娘、どこにも行き場をなくした二人の、とても儚く、とても切ない、このロードムービーを観ながら考えていたのはそんなことだ。そして、逃亡劇は究極のラブロマンスを生…

「まく子」鶴岡慧子

風変わりな青年ドノが発する「誰かが、そう信じてほしいことを、俺は信じる」なんて、すごい台詞。みんながそんな風にやさしく生きられたなら、それはきっと幸福に満ちた世界となるに違いない。いつから大人になったのかなんて、まったくわからないし、今も…

「ディア・ファミリー 〜あなたを忘れない〜」エリザベス・チョムコ

母親に忘れられるというのは、一体どんな気持ちなんだろうか。ほんの少し想像しただけでも、その驚きや悲しみ、ショックの大きさは計り知れないけれど、高齢化が進む今、世の中には母親に忘れられてしまう人たちが実に多く存在している。認知症の母をとりま…

「ともしび」アンドレア・パラオロ

いかに危ういバランスの中で、私たちの日々の暮らしが成されているのかを、まざまざとみせつけられる、もはやミステリーと呼んでもいい人間ドラマ。台詞はもちろんのこと、物語の核心さえまったく明かされることのない演出は、伝説の女優シャーロット・ラン…

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」前田哲

他人に迷惑をかけながら生きる、ということは、他人から迷惑をかけられても仕方がない、ということでもある。人と人とが関わりながら生きるということは、健常者であれ、障がい者であれ、そんな覚悟を決めるということだ。楽しくて、明るくて、滑稽でありな…

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」ファビオ・グラッサドニア/アントニオ・ピアッツァ

マフィアの生まれた地、シチリア。大人たちが見て見ぬふりをし、誰もが口を噤んでしまう、歪みきった、汚れきった社会の中で実際に起きた凄惨な事件をベースに、ファンタジックに綴られた少年と少女のラブストーリー。心の底から人を想うこと、触れ合うこと…

「マイ・ブックショップ」イザベル・コイシェ

街から本屋さんがなくなることが嫌だ。背表紙のタイトルを眺めながら、気になる一冊を手に取り、手触りや匂い、また、中面から滲みでるものを身体いっぱい感じとる。そうして想像力を育んできた。未だ知らぬ世界との出会いを与えてくれる本屋という空間が、…

「斬、」塚本晋也

映像美。すごい映画というのは画面をひと目みるだけでわかる。一瞬たりとも気を抜けず、一息もつけない緊張感。人を殺める宿命を背負った武士の「業」を容赦なく抉っていく。現代の日本で、これほどまでに切れ味の鋭い、真のサムライ映画が撮られたことの奇…

「夜明け」広瀬奈々子

尋常ならざる、神々しいほどの、圧倒的な存在感。世界を驚かせた「誰も知らない」や、欲望と狂気の「ディストラクション・ベイビーズ」に勝るとも劣らない柳楽優弥がここにいる。嗚呼、生きることは、こんなにも残酷で、切なくて、危ういけれど、確かなもので…

「ビューティフル・ボーイ」フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン

手塩にかけて育てた自慢の息子が、ドラッグによって、いとも簡単に崩れていく。人は人を救えない。例え、父親であろうとも。想像もしなかった試練に対峙せざるを得なかった父親がそう悟ったときに、それでもなおできることは、息子とともにもがき、苦しみ、…

「荒野にて」アンドリュー・ヘイ

母に捨てられ、父を亡くした少年が、走れなくなり、殺処分されそうな競走馬と荒野を彷徨う。あまりに理不尽かつ過酷な状況の中で、お金がなくとも誰にも頼らず前に進む、その少年の強さが眩しかった。切り拓く意志。それが人生の最後の希望なのだ。 映画『荒…

「鈴木家の嘘」野尻克己

フルスイングのデビュー作。敬愛する石井裕也監督が評したそんな言葉がぴったりな映画だった。「家族」を知ろうとして脚本を書き、その答えが見つからず、ならば「作りながら更にもがけばいい」と思ったという野尻克己監督。自身の体験をベースに、まさしく…

「ビール・ストリートの恋人たち」バリー・ジェンキンス

「愛は寛容であり、愛は情深い。また、ねたむことをしない。愛は高ぶらない、誇らない。不作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨みをいだかない。不義を喜ばないで真理を喜ぶ。そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを…

「麻雀放浪記2020」白石和彌

少子高齢化に伴う人口減少、マイナンバーでの管理社会、AIによる労働環境破壊、共謀罪による言論統制。もはや笑い事では済まされない、近未来を予感させる、「東京オリンピックが中止となった敗戦直後の2020年の日本」を舞台にしたスーパー・ウルトラ・ブラッ…

「サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-」デイモン・カーダシス

残念ながら人間は、差別し、抑圧し、ときに迫害さえ厭わない生きものだ。そんな厳しい現実と闘うためには、LGBTであろうがなかろうが、自分の居場所を自分で探して獲得する必要がある。あなたを異常だと決めつける人間は、例えマジョリティーであったとして…