Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「未来のミライ」細田守

どんな才能を持った監督も全打席ホームランというわけにはいかない。ただ、後々そのフィルモグラフィーを辿っていくと、そのとき、撮るべきもの、撮らねばならなかったものを、必然的に(というより、ある意味、宿命的に)撮っていることの方が多い。「最小…

「ライオンは今夜死ぬ」諏訪敦彦

ゴダールやトリュフォーと並び、ヌーヴェルヴァーグの代名詞といえるジャン=ピエール・レオーの、まさしく映画を生き抜いてきた圧倒的な存在感! 本人を投影するような、死を演じることに苦悩する老俳優の、身振りも、手振りも、その話し方も、それらすべて…

「デトロイト」キャスリン・ビグロー

約40分。これでもかというくらい、執拗に、執拗に描かれる尋問シーンは、尋問というよりも、もはや拷問に近い。1967年のデトロイト暴動のさなかに発生した「アルジェ・モーテル殺人事件」を基にした映画が浮き彫りにするのは、白人警官が黒人を殺しても罪に問…

「アバウト・レイ 16歳の決断」ゲイビー・デラル

娘にエル・ファニング、母にナオミ・ワッツ、祖母にスーザン・サランドン。という時点で、これはゼッタイいい映画に決まっている。中でも! トランスジェンダーとして性転換を渇望する16歳の娘の決断について、彼女(彼)を愛するがゆえに葛藤する母を演じたナ…

「笑う子規」正岡子規 著/天野祐吉 編/南伸坊 絵

睾丸の大きな人の昼寝かな。歴史に名を刻むひとは、なぜか聖人君子のように思えてしまうけれど、人間だもの、くだらないことを考えたり、どーでもいいことを書いたりもする。「子規研究にはいっさい役に立たない」と編者が自虐的に語る本書には、創作には絶…

「ロストパラダイス・イン・トーキョー」白石和彌

社会のシステムからはじかれ、過酷な運命を背負いつつも、這い蹲りながら生きる。バーチャルでは癒されることのない、孤独を抱える二人(プラス一人)が、血生臭いリアルに魂で反応し、共鳴した物語。「凶悪」(これがまさか2作目だなんて!)、「日本で一番…

「悪女/AKUJO」チョン・ビョンギル

やっぱり殺し屋は美女に限る!おおよそマンガでも思いつかないような、ぶっ飛びまくったバイオレンス、アクションシーンの連続。めまぐるしく展開するストーリー、いくつもの復讐を宿命づけられるたびに血が流され、銃で、刀で、斧で、マシンガンで、殺って…

「おじいちゃん、死んじゃったって。」森ガキ侑大

でた。全員が欠陥だらけの登場人物。ズルくて、弱くて、幼いけれど、最後まで憎めないどころか、なんか愛おしいのは、みんなどこかで誰かを、わずかながら慮っているからだ。そうかー。家族とは、良いことも、悪いことも、同じ「思い出」を共有している共同…

「希望のかなた」アキ・カウリスマキ

アキ・カウリスマキの映画はアキ・カウリスマキにしか撮ることができない。映像が氾濫する時代にあって、彼のオリジナリティーが、より一層の輝きを増しているのはなぜか。寛容さを失いつつある世界の中で、社会の片隅で生きる、市井の人たちの「小さな善意」…

「15時17分、パリ行き」クリント・イーストウッド

「やる」と「やらない」の間には、天と地ほどの違いがある。普段どんなに偉そうなことを言っていても決して「やらない」人間がいる一方で、うだつの上がらない奴だと思われていても「やる」人間がいる。地位や立場や境遇ではなく「やる」人間に対する至極ま…

「第50回全国高校野球選手権大会 青春」市川崑

レニ・リーフェンシュタール監督の「民族の祭典」と並んで、「東京オリンピック」で、その記録を、壮大な芸術へと昇華させた市川崑監督による伝説のドキュメンタリー。コピーにある「日本で一番美しいもの」を浮かび上がらせる対象への迫り方はさすが。同作に…

「うつくしいひと/うつくしいひとサバ?」行定勲

何度か書いたことがあるけれど、震災を描く、ということはほんとうに難しい。なぜなら、怒りであれ、悲しみであれ、被災した人たちの、ひとり一人の思いに応えることなど、到底できるはずがないからだ。それでも、なのだ。熊本で生まれ、熊本で育った監督が…

「二十六夜待ち」越川道夫

黒川芽以というだけで期待をしてしまう不思議。監督が「市井に生きる女性の美しさを演じることのできる女優」と語る彼女は、ある意味、とても映画に愛されている女優だ。月光の中に弥陀・観音・勢至の三尊が現れると言い伝えられる二十六夜。「惹かれあう」と…

「スリー・ビルボード」マーティン・マクドナー

これぞ良質な、実に良質な、アメリカ映画。綿密に練られた脚本による予測不可能なクライム・サスペンスの行き着く先は、終わりの見えない哀しみと怒りの連鎖の果てにある、ごく小さく、ごく微かな希望だった。今さら説明するまでもない偉大な女優であるフラン…

「火花」板尾創路

お笑いを仕事にする。そんな無謀な夢に挑み、もがき、苦しみ、傷ついた芸人二人の10年間の軌跡。原作・又吉直樹、監督・板尾創路によって生みだされた作品ならこそ。細部の描写、一つひとつにリアリティが漲っている。かつて、立川談志は落語を「人間の業の肯…

「リュミエール!」ティエリー・フレモー

映像学を専攻して最初に観た映画がリュミエールの「工場の出口」だった。ルイとオーギュスト。1895年にシネマトグラフを発明した兄弟による1422本の作品から厳選された108本。ロングショット、クローズアップ、パンショット、ドリーショット・・・。家族や友人…

「絶筆」野坂昭如

脳梗塞で倒れてからも口述筆記で続けられた12年に及ぶ日記やエッセイから編纂。野坂昭如らしく、ふてぶてしく、洒脱に、ユーモアを加えて時代を斬ってはいるけれど、戦争と、そのときに体験した餓えについては、冷静さを保つことのできない鬼気迫る思いが溢…

「We love Television?」土屋敏男

狂っている。共演者であれ、スタッフであれ、番組にかかわる人間のあらゆる逃げ道を塞ぎ、どんどん追い込んでいく姿は、まさに狂人のような恐ろしさがある。しかし、そんな「欽ちゃん」の、ほんとうの恐ろしさを思い知らされるのは、それ以上に鋭い刃を、76…

「勝手にふるえてろ」大九明子

天才・松岡茉優の魅力が炸裂! こじらせっぱなしの暴走ガールが、とてもチャーミングに見えるのは、それを松岡茉優が演じているからだ。これは、中谷美紀の「嫌われ松子の一生」 、安藤サクラの「百円の恋」に匹敵する、とても幸運な当たり役。綿谷りさ原作の…

「gifted/ギフテッド」マーク・ウェブ

教育。例えば、「夢は叶う」と教えるよりも、「夢が叶わなくても、この世界は生きるに値する」と気づかせることの方が、余程に大切だ。理屈で説明することのできないもの。1+1 はわからなくても、愛するもの、愛すべきものを見つけること。そっちの方が、は…

「パーティで女の子に話しかけるには」ジョン・キャメロン・ミッチェル

なぜあんなにもパンクロックに魅せられたのか。それはきっと、なぜかそこに「美しさ」を感じてしまったからなんだろうと思う。遠い惑星からやってきたカルトに属する彼女と、パンクに夢中な少年との恋。あまりに奇想天外で、まったくクソみたいに最低な作品…

「シェイプ・オブ・ウォーター」ギレルモ・デル・トロ

初めてサリー・ホーキンスという女優を知ったのはマイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」だった。その頃から抜群の存在感を放っていたけれど、まさか9年後、ヴェネツィア国際映画祭とアカデミー賞をともに制する映画で主役を務めるなんて! 突出した才…

「南瓜とマヨネーズ」冨永昌敬

だらしなく、自分勝手で、いとも簡単に流されてしまう。そんなイタくクズな彼らをなぜかとても愛おしく感じてしまう。不器用で、どうしようもなく痛々しい恋愛のリアルが、いつまでも余韻として残る稀有な映画だった。それにしても、臼田あさ美が相変わらず…

「グレイテスト・ショーマン」マイケル・グレイシー

シンプルで、力強い、歌と踊りの圧倒的な力。人を喜ばせる、人を楽しませる、その語源にある「エンターテイメント」の真髄が、伝説の興行師P.T.バーナムの人生をベースに、ぶっちぎりのクオリティーで描かれる。どの曲も素晴らしかったけれど、圧巻はキアラ・…

「笑う故郷」マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラット

絶対的なものなど何ひとつない。高尚と低俗、賢明と愚劣、尊敬と軽蔑は、いずれも紙一重。このアルゼンチンとスペインとの合作で生まれた映画は、決して一面で捉えることのできない人間の多面性、複雑な感情のひだを炙りだし、人生は喜劇であり、と同時に、…

「春の雪 豊饒の海(一)」三島由紀夫

自死を遂げる直前に、三島由紀夫が何を書こうとしたのか、ふと気になり手にとった一冊。「侯爵家の嫡男と伯爵家の令嬢との命を賭けた禁断の恋の物語」はまるで古典文学。あの川端康成をして「私は奇蹟に打たれたやうに感動し、驚喜した」と言わしめた天才。…

「獣道」内田英治

いい映画だった。行き場のない少年と少女のセンチメンタルな恋愛映画としても、カルト、宗教、ヤンキー、AVといった、誰にも知られることのない(ほんとうのところを誰も知ろうとはしない)世界の中で、もがきながら生きる若者たちの青春映画としても。 孤独…

「立ち去った女」ラヴ・ディアス

3時間48分という上映時間が、長いのか、短いのか、それはわからない。ただ、その中に、想像力を限りなく駆り立てる、人生の悲しみや苦しみが、すべて表現されていた。平均で5~6時間、ときに10時間を超える映画を撮るというフィリピンの奇才ラヴ・ディアス監…

「光と禿」青木克齊

ややスベり気味のタイトルに惹かれて観てみると、パンツ一丁のハゲのおじさんが、打ち込みされた音源にあわせてポエムを叫んでいた。下ネタのナポレオン、本人役で出演のクリトリック・リスのスギムさん。ヒロインの「変な曲だけど、何かいい」の台詞の通り、…

「ギミー・デンジャー」ジム・ジャームッシュ

殿堂入りのセレモニーにて「音楽は人生であり、人生は商売ではない」とパンクのゴッドファーザーは語った。ジャームッシュが引きだした一つひとつの言葉には、一切のブレがなく、ロックとは生き様であるということを改めて思い知らされる。「最低」こそが「…