Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「レディ・バード」グレタ・ガーウィグ

愛すべき自意識。特別な存在でありたい、特別な存在になりたいと願う少女が、決して伝わることのない母親の大きな愛情に包まれながら、何者でもない自分を受け入れる物語。さすが、さすがの、シアーシャ・ローナン。七転八倒の超チャーミングなどんくさクレイ…

「三尺魂」加藤悦生

三尺魂の花火によって集団自殺を図ろうとしていた4人が、タイムリープを繰り返すことによって「人は誰かの手を必ず借りていて、誰かに助けられている。同時に自分も誰かに手を差し伸べて、誰かの力になっているときがある」(加藤監督曰く)という真理に辿り…

「ファントム・スレッド」ポール・トーマス・アンダーソン

「ブギーナイツ」、「マグノリア」、「パンチドランク・ラブ」、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、「ザ・マスター」。そのフィルモグラフィーを並べるだけで、ポール・トーマス・アンダーソンという監督が、いかに常軌を逸した天才なのかということがわかる。名優…

「モリのいる場所」沖田修一

拙宅の玄関には、万平ホテルに行商に来ていた画廊から、かなり背伸びをして買った熊谷守一の「桜」の絵が飾ってある。彼が45年間住み続けた旧宅跡地にある豊島区の美術館は、とても静かで気負いのない、和やかで自然豊かな美術館だった。蟻を眺め、鳥を眺め…

「エンドレス・ポエトリー」アレハンドロ・ホドロフスキー

カルト界の巨匠としての面目躍如。まるでフェリーニやパゾリーニの映画を観ているような、そんな感覚を21世紀に味わえることの衝撃。詩人である主人公と、巨女や小人、フリークスたちが、おどろおどろしくも美しい世界で繰り広げるマジック・リアリズム。あの…

「女は二度決断する」ファティ・アキン

被害者の身体のみならず、その家族の精神をも殺してしまうテロリズム。このあまりに卑劣で、非道な行為に対し、法の前に無力な私たちは、加害者や、自らの感情にどう折り合いをつけていくべきなのか。とてつもない苦しみの果てに、主人公カティヤが下した二…

「ボヘミアン・ラプソディ」ブライアン・シンガー

かなり期待して映画館に足を運んだけれど想像以上だった。フレディ・マーキュリーが、クイーンが、いかに伝説となったのかを丹念に描いた134分に引き寄せられ、一瞬たりとも目が離せなかった。ブライアン・メイとロジャー・テイラーは本当にいい仕事をした。と…

「オー・ルーシー!」平栁敦子

たった1本の映画によって、少しでも、背中を押されることがあったなら、それはとても素晴らしいことだ。これは、満たされない日常を過ごしていた「LUCY」や、絶望的な悲しみから逃れられない「TOM」だけでなく、誰にも言えず、生きづらく、鬱々とした毎日を…

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」アシュリング・ウォルシュ

当代一の女優となったサリー・ホーキンスが、またもや、素晴らしいキャリアを積み重ねた。こちらも脂の乗ってきたイーサン・ホークとともに。カナダの小さな港町の、これまた小さな家で、ときを経ながら育まれた、一風変わった夫婦のラブストーリー。他の誰で…

「オシムの言葉」木村元彦

サッカーには全然詳しくない。それでも、ロシアのワールドカップ後、それに関連する多くの人たちの寄稿文を読んだけれど、いつまでも余韻が残ったのは、イビチャ・オシムの言葉、とりわけ代表監督が突如解任され、ワールドカップを直前に控えたインタビューで…

「アイスと雨音」松居大悟

なにかを伝えようと真摯に向き合い表現されたものに絶対的な敬意を払いたい。涙を流し、叫んだ者にしか吐きだせないものが必ずあると、たいした根拠もなく、それでいて強く信じているけれど、キャリアも、名もなく、そこに集った若者たちによって綴られる映…

「わたしは、幸福」アラン・ゴミス

私たちが頭に思い描くことのできるアフリカはその広い世界のほんの一部だ。夜な夜な酔っ払いがバーに集い、修理したばかりの冷蔵庫が壊れ、息子が交通事故で重傷を負い、病院でスリにお金を奪われる。絶望の淵から彼女を救うことができるのは音楽。鮮烈なグ…

「友罪」瀬々敬久

「死刑もやむを得ない」と考える人が8割を超すこの国で、人を殺めた加害者が生きていく。そのことを描く映画を撮るというのはとても勇気のいることだ。人を殺めてしまった人間とその家族、そして、殺められた側の家族。その痛みを知ることなど、到底できはし…

「BPM ビート・パー・ミニット」ロバン・カンピヨ

無知から恐れが生まれ、恐れから偏見が生まれ、偏見から差別が生まれる。その負のループを抜け出すために必要なのは、伝える、ということなんだろうけど、こんな映画を観ると、関心のない人間に伝える、ということの難しさを、改めて痛感してしまう。過去だ…

「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」ジョー・ライト

ゲイリー・オールドマンの名演も、ウィンストン・チャーチルという人物の偉業も、さすがに素晴らしかったけど、英国の歴史を描く映画を観ていつも思うのは、英国王室の格式の高さと、それを重んじる国王の気高さだ。公平にして、好悪に偏らず、喜怒を慎み、惑…

「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」ショーン・ベイカー

なんだろう、このやさしい感じ。定住する家を持たず、物乞いし、体を売って金を稼ぎ、ときに犯罪に手を染めるシングルマザーとその娘の女の子。普通に考えれば絶望的な暮らしが、なぜかきらきら輝いて見えるのは、そこに確かな愛があるからだ。どうか、その…

「四月の永い夢」中川龍太郎

若き天才・中川龍太郎監督のとる映画はどこまでも透明だ。それは、明るいとか、清らかであるとか、そういうことではなく、人々はいつも何かに悩まされ、もがいているけれど、それでも、その生き方の芯に透きとおるような美しさがある。それはきっと「人間の善…

「ザ・スクエア 思いやりの聖域」リューベン・オストルンド

前作「フレンチアルプスで起きたこと」もそうだったけれど、リューベン・オストルンド監督は、いたたまれない状況へと登場人物を追い込み、じわりじわりと人間のいやらしさをあぶりだす天才だ。「思いやり」が、非日常的なもの、特別なものとなってしまった現…

「サニー/32」白石和彌

なにかに縋りたい。リアルな世界では、満たされることのない、癒されることのない魂の救いを、バーチャルなネット世界の「ネ申」に求める気持ち。なんとなくわかる。例えそれが、まるで「宗教ごっこ」のような幻想であったとしても。幻想から目が覚めて、独…

「君の名前で僕を呼んで」ルカ・グァダニーノ

ポール・トーマス・アンダーソンが、ペドロ・アルモドバルが、グザヴィエ・ドランが絶賛したのもよくわかる、恐ろしいほどに耽美で、切なく、まばゆい映画だった。思春期の青年が抱く強い欲望と、抑えきることのできない欲動。あるひと夏の体験が奇跡のように美…

「あしたは最高のはじまり」ユーゴ・ジェラン

未来がどうなるかなんて誰にもわからない。だからこそ、今を懸命に生きる必要があり、現在が積み重なった後に未来があるということを、わかってはいるけれど、ついつい忘れてしまいがちだ。とにかく今を生きること、そして、私たちのこだわりが、実は些細で…

「ナチュラルウーマン」セバスティアン・レリオ

なにをもって「ナチュラル」とし、なにをもって「アンナチュラル」とするのか。それを決めるのは、他者でも、世間でもなく、自分であるということを、自身もトランスジェンダーである女優ダニエラ・ヴェガが教えてくれた。そして、ほんとうの美しさには強さが…

「銀齢の果て」筒井康隆

選ばれし地域の70歳以上の老人たちが、社会を守るため、互いに殺し合わねばならない「老人相互処刑制度」。いかにも筒井康隆らしい、ブラックで、ユーモアに溢れた語り口ながら、結局のところ、自ら進んで死を選んだ老人の最期が、最も美しく、最も人間らし…

「レディ・プレイヤー1」スティーブン・スピルバーグ

忘れることなかれ。スピルバーグこそが世界を熱狂させた史上最初の映画オタクなのだ。近未来の仮想現実の世界の中で、メカゴジラとガンダムが戦い、キングコングが街を破壊し、デロリアンや金田バイク(AKIRA)が疾走する。自らが血沸き肉躍る世界を描くこと…

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」スティーヴン・スピルバーグ

民主主義を守るのは、その主権者たる国民であり、ジャーナリズムは国民のために「本当のこと」を伝えなければならない。この映画が強く問いかけるのは「その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な…

「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」エドゥアルド・デルック

芸術なんてものに心を奪われたが最後、どんなことがあろうとも、後は盲目的に人生をかけて信じ抜くしかない。ゴーギャンの生き方を辿っていくと、常識やモラル、ときには愛でさえも、それらすべてを捨てて信じ抜いた者だけが真のアーティストになれるのだと…

「さよなら、僕のマンハッタン」マーク・ウェブ

好きな場所で暮らしていいよ、と言われたら、絶対にニューヨークだ。ニューヨークほど、知的で、お洒落で、刺激的で、懐が深く、寛容な都市を他に知らないからだ。昔も、今も、サイモン&ガーファンクルが最高に似合う街、ニューヨークで繰り広げられるほろ…

「バース・オブ・ネイション」ネイト・パーカー

歴史を知れば知るほど、悲しみと絶望の果てに多くの血や涙が流され、今があることを思い知らされる。映画の父、D・W・グリフィスが白人を英雄視した「國民の創生」と、あえて同じタイトルがつけられた本作が、強烈に、執拗に描くのは、差別され、虐げられた…

「長江 愛の詩」ヤン・チャオ

中国は近いようで遠い国だ。こんな映画を観ると、かの国について、あまりに部分的にしか知らないことを強く感じてしまう。上海を起点として、途方もなく壮大な長江を、その源流へと遡る一大ロードムービー。そこで繰り広げられてきた人間の営みを思うと、そ…

「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」ヨルゴス・ランティモス

ヒッチコックを例にあげるまでもなく、本物のホラーというのは、視覚的、あるいは、聴覚的に怖さを訴えかけるものではなく、私たちの想像力をじわりじわりと冒してくるようなものだ。人間の「悍ましさ」や「利己」が徐々に露わとなる121分。奇才ヨルゴス・ラ…