Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」ジョナサン・デイトン & ヴァレリー・ファリス

スポーツがドラマチックなのは、選手の戦っている敵が、目の前にいる相手ではないからだ。ある者は個人的な、ある者は社会的な、ある者は歴史的な、それぞれの深い事情を抱えながらコートやピッチの上に立っている。アメリカが自国の闇に気づきながらも、ま…

「チワワちゃん」二宮健

「へルタースケルター」から「リバーズ・エッジ」ときて「チワワちゃん」。映画化3作目にして、岡崎京子のあの感覚を、そのエッセンスを、映像と音楽によって最も見事に表現した映画と出会った。高揚と陶酔と虚勢と倦怠と喪失。スマートフォンやインスタグラ…

「君が君で君だ」松居大悟

狂気の沙汰。完全にイッてしまっている。こんなに狂った映画を、しかも、オリジナル脚本で撮るなんて誰だ? と思ったら、松居大悟監督だというので妙に納得する。例え、多くの人たちが理解できずとも、わずかでも共鳴してくれる人がいるならば、その人のため…

TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY「No Pain , No Gain」牧有太

山田孝之は、ずっと考えていた。ずっと動いていた。ずっとニヤニヤしていた。ずっと企んでいた。ずっともがいていた。ずっと泣いていた。受動から能動。動かされる側から、動かす側に変わったとき、人生は180°ガラリと変わり、突然、強い光を放ちながら輝き…

「家へ帰ろう」パブロ・ソラルス

思えば祖父も戦争を語らなかった。ごく稀に、酔っぱらった勢いで口にはしたものの、それでもこちらが核心に迫ると、途端に口を噤んだ。百聞は一見にしかず。惨劇を目の当たりにした当事者たちの声なき声を現代に甦らせたロードムービー。戦争を終わらせたの…

「つむぐもの」犬童一利

芸歴50年の初主演。高倉健に見いだされた石倉三郎という役者、というよりも、人間の深み。演じるというよりも、ただそこに「在る」だけで美しいのはきっと、本人が美しい生き方を積み重ねているからだ。人が人と交わること、人が人を認めること、人が人を敬…

「運び屋」クリント・イーストウッド

イーストウッドのメッセージはいつも短くシンプルだ。しかし、いつまでも余韻を残しながら、やがて、脳裏に焼きついていく。かつて『グラン・トリノ』という傑作を遺した「神様」からの、もう一つの遺言。しかも、それは、決して重苦しくなく、艶やかで、軽や…

「アメリカン・スリープオーバー」デヴィッド・ロバート・ミッチェル

とても不思議な映画だった。なので、言葉にするのもとても難しい。大人は誰一人として登場せず、もうすぐ新学期(アメリカは9月から)が始まる8月の「ある特別な夏の夜」に起こる、ティーンエイジャーたちの悲喜こもごも。理屈では説明することのできない衝…

「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」エルネスト・ダラナス・セラーノ

モールス信号は世界共通語であり、アマチュア無線は国境を越える。このキューバのコメディが描くのは、そこには人種や思想の違いによる諍いや、自国ファーストというエゴはなく、いわばイマジンのような世界が存在していたということだ。SNSによる「つながり…

「生きてるだけで、愛。」関根光才

程度の差こそあれ、人はみんな孤独だ。きっと分かり合えるなんてのは傲慢で、もしかしたら一瞬分かり合えたかもしれない、そのかけがえのない奇跡を、初々しい感性と瑞々しいキャストで描き切った、他者とつながることが怖くて痛い現代の純度の高い恋愛映画…

「モースト・ビューティフル・アイランド」アナ・アセンシオ

例えば、格差が広がれば広がるほど、倫理や道徳は失われ、人間は果てしなく堕落していくということは、奴隷制などが証明している。そして、不条理にも自由を奪われ、搾取され、抑圧される側にまわったとき、唯一尊厳を守ることができるのは、誰かの命令では…

「エンジェル、見えない恋人」ハリー・クレフェン

見ることよりも、触れること、感じることが愛なのだということを、寓話の中に込めた、どこかミステリアスなラブストーリー。透明人間として生まれ育った少年と盲目の少女。世界から断絶された二人に、まるで、アダムとイヴが林檎を齧ったかのように芽生える…

「食べる女」生野慈朗

鈴木京香、沢尻エリカ、シャーロット・ケイト・フォックス、前田敦子、壇蜜、山田優、そして、広瀬アリス。ともすると、共通項のなさそうな個性バラバラのキャストも、その中心に小泉今日子がいると、俄然、そこに在ることの必然性がみえてくる。それは、彼女…

「アンダー・ザ・シルバーレイク」デヴィッド・ロバート・ミッチェル

これだけぶっ飛んだ映画を撮られたら、アッパレというほかない。妄想につぐ妄想の中に、エロとグロ、現実と虚構、愛と憎しみが、ぐちゃぐちゃに混ぜ込まれた、欲望渦巻くL.A.のシルバーレイクで繰り広げられる、今まで見たこともないネオノワール・サスペンス…

「日日是好日」大森立嗣

頭で簡単に覚えたことはすぐ忘れてしまうけれど、身体で時間をかけて覚えたことはいつまでも忘れない。湯を沸かし、茶を点て、振る舞う。その様式を芸術にまで高めた千利休と、それを受け入れた日本人のメンタリティーをほんとうに誇りに思う。それにしても…

「ミステリーロード/欲望の街」アイヴァン・セン

物語の抑揚も、無駄な台詞も、過剰な演出も、音楽もほとんど使われていないのが逆にリアル。アボリジニの少女が殺されることによって、抑圧する白人と、抑圧される先住民という、歪んだ、けれども黙認された構図が露わになってくる。荒野での壮絶な銃撃戦の…

「運命は踊る」サミュエル・マオズ

ごく稀に、約120分弱というわずかな時間の中に、人生の真理のようなものをギューッと凝縮したような、驚くべき映画に出会うことがある。この映画が、毎朝登校するために乗っているバスが、ある日突然テロリストによって爆破されることが日常的に起こりうる、…

「アリー スター誕生」ブラッドリー・クーパー

ただ歌が上手いだけの人間と、真のアーティストとの違いは、一体どこにあるんだろう。裕福な家庭に生まれ、箱入り娘として育てられながらも、学校や他者に馴染めず、壮絶ないじめを受け続けて逃げ込んだストリップクラブから這い上がったレディー・ガガ自身の…

「きみの鳥はうたえる」三宅唱

はっきりとさせず、曖昧なまま、それが永遠に続いていく。なんてわけもなく、危なっかしくも刹那的な、大事なことなんて何ひとつ話すことのない、男女三人の幸福な日々を切りとった映画。友達とか、恋人のまえに、人と人。柄本佑、染谷将太、石橋静河の素晴…

「果てしなく美しい日本」ドナルド・キーン/足立康 訳

この学術文庫のベースとなった「生きている日本」が執筆された1973年当時、日本にはまだ「らしさ」が色濃く残っていたはずで、それは欧米諸国の人たちにとって、実に「奇妙なもの」であったに違いない。そんな極東にある「奇妙な国」のあれこれを「果てしな…

「菊とギロチン」瀬々敬久

そういえば、政治犯なんて、完全に死語となった。その是非は一旦置いておいて、手段を選ばず、命を捨てても「世界を変えよう」と、誰一人として、夢にも思わなくなった時代に、突如として現われた革命的な、実に革命的な、日本映画。ジャンベのリズムにのせ…

「ガンジスに還る」シュバシシュ・ブティアニ

アジアの映画が教えてくれるのは「死は祝祭である」ということだ。ガンジス川の畔の聖地「バラナシ」には、限りなくハレに近いケが存在し、人々はそこで、安らかな死を願い、待っている。「死は心から訪れる」とその人は言った。メメント・モリ(死を想え)と…

「ここは退屈迎えに来て」廣木隆一

ロケ地は富山。しかも、高岡多め。MANBOW、高岡自動車学校、文苑堂書店、あっぷるぐりむ、文苑堂書店、国道8号線・・・。あまりに地元すぎて、とても冷静に観ることはできなかったけれど、そういえば、あの頃、なぜ東京じゃなきゃいけなかったのか。東京東京東…

「悲しみに、こんにちは」カルラ・シモン

無意識に溢れでたその涙によって少女は打ち明けることのできない孤独から解放されることはできたのだろうか? 親の死に揺れ動く感情。それでも人生は美しいと思える瞬間や、自然や、かかわりや、感傷や、愛が、この映画には満ちている。子どもの、その繊細で…

「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ」ジョージ・ティルマン・ジュニア

白人の警官が無実の黒人を撃った。という単純な物語ではなく、なぜ彼は撃たれなければならなかったのか、事件を目撃した少女がなぜ口を噤まねばならなかったのか、その背景にある黒人社会そのものの歪みまでもを赤裸々に告発した日本未公開映画。The Hate U …

「ごっこ」熊澤尚人

誰かのために生きる。そのことの喜びと、苦しみと、哀しさを、シンプルに突き詰めた、極めて純度の高い映画だった。今日も、明日も、明後日も、世界中の寂れた街で、星の数ほどの人間が、誰かと寄り添いながら生きている。家族はそこに「在る」のではなく、…

「500ページの夢の束」ベン・リューイン

「アイ・アム・サム」の衝撃。ファニング姉妹を追いかけてはや17年。あのダコタ・ファニングに、自閉症を抱えながらも豊かな想像力を持ち、機知に富んだスタートレック好きなオタク少女を演じさせた映画の神さまに感謝! 嗚呼、そうなのだ。どこかエキセントリ…

「止められるか、俺たちを」白石和彌

「欲望の血がしたたる」、「胎児が密猟する時」、「犯された白衣」、「処女ゲバゲバ」、「赤軍-PFLP 世界戦争宣言」・・・。改めて、すごいタイトルばかり。映画を武器に「革命」を起こせると本気で信じていた若者たちの、圧倒的な熱量を伴った青春が、その薫陶…

「華氏119」マイケル・ムーア

本当のところは思いのほか複雑だ。マイケル・ムーアにかかると、ヒラリー・クリントンも、そして、バラク・オバマでさえも、ドナルド・トランプと同じ穴の貉に思えてくる。銃乱射事件を生き延びた17才のバイセクシャルの少女によるスピーチと沈黙。心揺さぶるそ…

「タリーと私の秘密の時間」ジェイソン・ライトマン

忘れないでおきたいのは、限界を超えて頑張り続けるよりも、「助けて!」と声を上げて叫ぶ方が大切なときもある、ということだ。子供への愛情が深いがゆえに完璧を求め、自らを蔑ろにしてしまう、痛々しい母親の性を、名女優シャーリーズ・セロンがまたもや体…