Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「ピータールー マンチェスターの悲劇」マイク・リー

ケン・ローチともう一人、イギリスには、マイク・リーがいることを忘れてはならない。一大スペクタクル。国の行く末を左右した事件を、その国を代表する監督が撮ると、それはやっぱり「特別な映画」となる。非武装市民6万人を相手に、騎兵隊はサーベルを振り上…

「命みじかし、恋せよ乙女」ドーリス・デリエ

命みじかし恋せよ少女/朱き唇褪せぬ間に/赤き血潮の冷えぬ間に/明日の月日のないものを。嗚呼、なんて美しい日本語。黒澤明の「生きる」で志村喬が歌った「ゴンドラの唄」を口ずさむ樹木希林と、彼女が遺作で発する「あなた、生きてるんだから、幸せにな…

「サマーフィーリング」ミカエル・アース

この映画が「アマンダと僕」のミカエル・アース監督の作品だということを観終わってから知った。繰り返し「喪失」を描くこの映画監督は、夏の木漏れ日、山々の緑、湖で泳ぐ人々・・・、それから、夕景も、夜景も、過ぎ去っていく風景を絵画のように美しく描く。…

「ジョーカー」トッド・フィリップス

果たして、「ザ・マスター」以上の映画に出会えるのかと思っていたけれど、怪物ホアキン・フェニックス、ここに極まれり。心・技・体、そのすべてにおいて凌駕していた。ここまでくると、決して大袈裟な話ではなく、もはや神の領域。語るべき言葉さえも見つから…

「さらば愛しきアウトロー」デヴィット・ロウリー

圧巻。脱帽。痛快。82歳のロバード・レッドフォードが、自らの引退作に、足を洗えない銀行強盗を描く、この作品を選んだなんて、なんと粋なこと!(しかも監督には新鋭監督をチョイス)可笑しくて、哀しくて、とてつもなく艶っぽい。「問題は僕がどこにいて何…

「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋次

ひとの幸せを喜び、ひとの悲しみに涙する。それは、寅さんだけでなく、おいちゃんも、おばちゃんも、さくらも、タコ社長だってそうだ。下町の人情がじんじんと沁みるシリーズ13作目。夏。花火。浴衣。寅さんが思わず「浴衣、きれいだね」と口にしてしまうほ…

「殺し屋1」三池崇史

再見。三池崇史監督が審査員長を務めた映画祭にて、映画を志す者に向けられたメッセージ「『生ぬるい映画に満たされた今を嘲笑うかのような快作』。または、『捻れに捻れた現実を、さらに捻じりあげるような快作』。なんでもいい。幸せな出会いを期待してい…

「アマンダと僕」ミカエル・アース

喪失。日常に開いた大きな穴は埋めようがないし、また、立ち直ったり、乗り越えたりできるものでもない。ただ、私たちができることは、絶望しながら生きる術を手に入れることだけだ。そんなとき、わずかでも気持ちを共有できるひとがいる、というのはこんな…

「ガリーボーイ」ゾーヤ・アクタル

世界に最も影響を与えた音楽はレゲエだと聞いたことがある。特定の人種、宗教に限らず、あらゆる人種や宗教の人々が、同じように奏で、歌っているからだ。カリブ海に浮かぶ小さな島国で生まれた音楽が世界を熱狂させたように、ニューヨークのブロンクスで生…

「男はつらいよ 私の寅さん」山田洋次

シリーズ12作目。寅さんの困った顔が好きだ。鈍感なようでいて、人の悲しみや苦しみには人一倍敏感で、頼まれてもいないのにいつもおどけてみせる。マドンナの岸惠子が「寅さんは、私のパトロンね」と言ったけど、ホント、寅さんはみんなにとって自分だけの…

「さよなら、退屈なレオニー」セバスチャン・ピロット

例えば、クラスの誰にも馴染めず、というよりも馴染まずに、窓際の席でずーっと外の景色を眺めているような。あるいは、グループの輪の中に入ってはいるものの、なんとなく違和感、というか居心地が悪そうな。いつもそんなコが好きだったなぁと遠い昔に思い…

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」クエンティン・タランティーノ

これはもう、ディカプリオとブラッドピットとタランティーノの、超一流の映画人たちの本気の「遊び」にただただ身を委ねるだけ! その至福を存分に堪能するための映画といっていい。ワンシーンワンシーンに込められたメタファー、古き良き、憧れのハリウッド…

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」山田洋次

11作目。シリーズ最高のマドンナであり、寅さんのソウルメイト、リリーこと、浅丘ルリ子がついに登場。突然だけれど、リリーは「100万回生きたねこ」だ。「いいなぁ。寅さんって、いいね」の彼女のつぶやきに、人を好きになっては振られ、それでもまた好きに…

「ワイルドライフ」ポール・ダノ

父親も、母親も、弱さや狡さを抱えた一人の人間なのだと理解するには14歳は早すぎる。まるで飼い殺されるかのように、じわじわ、じわじわと家族が崩壊するさまを、息子はじっと耐え、ただ茫然と見つめるしかない。ホント、地獄。こんなにも辛い映画はないな…

「そこのみにて光輝く」呉美保

たとえ絶望の淵にあろうとも、魂の純度が変わることはない。また、その高さは、社会的な成功、貧富とはまったく無関係だ。ときに、その魂の純度の高さは、不意に泣きたくなるような美しさをみせる。ようやくの映画「そこのみにて光輝く」。綾野剛、池脇千鶴…

「男はつらいよ 寅次郎夢枕」山田洋次

「いつもその人のことで頭がいっぱいよ。何かこう胸の中が柔らかーくなるような気持ちでさ」「その人のためなら何でもしてやろう。命だって惜しくない」と恋について力説する寅さん。無論、滑稽だけれど、なんだかじんわり沁みてくるのは、あまりに清らかで…

「ベン・イズ・バック」ピーター・ヘッジズ

子供の命を守ろうとする母親とはこんなにも凄まじいものなのか。薬物依存から抜けられない息子から、あらゆるリスクを排除しようと奔走する母親は、まるで外敵から本能的に子を守る野生動物のようだ。毎年、着実にキャリアを積み重ねるジュリア・ロバーツの迫…

「ロケットマン」デクスター・フレッチャー

映画はこれまでも、名曲が生まれる数々の瞬間を描いてきたけれど、この作品の「ユア・ソング」は屈指の素晴らしさ。そのメロディの美しさはまさしく魔法のようだった。あまりに繊細だったがゆえに、奇跡のように美しい曲が生まれ、そのことが一層、エルトン・…

「男はつらいよ 柴又慕情」山田洋次

長町武家屋敷、兼六園、犀川沿いの金沢から、永平寺、東尋坊の福井へと向かう北陸路。そして、満を持して登場したマドンナ役の吉永小百合。エピソード満載のシリーズ9作目も、やはり、なんにも変わらない。偉大なるマンネリズム。そして、センチメンタリズム…

「ゴールデン・リバー」ジャック・オーディアール

ホアキン・フェニックスとジョン・C・ライリーが組んだ段階で、ただならぬ傑作となることは決まっている。これまで観たどんな西部劇よりも血の通った、生々しく、どこか温かな映画だった。なにが幸せなのかと迷ったときは「私が何よりも幸せだと思う瞬間は、は…

「男はつらいよ 寅次郎恋歌」山田洋次

シリーズ8作目。寅さんが、ただの馬鹿ではないということは、恋の潮時を悟ったときに、潔くさっと身を引くことでわかる。いや、むしろ、人の苦しみや悲しみ、機微にはことのほか敏感で、わかりすぎるくらいわかるから歯がゆく切ないのだ。わかっちゃいるけど…

「僕たちは希望という名の列車に乗った」ラース・クラウメ

「ともかく正義は悪である、というのが私が戦争体験から得た教訓」という言葉を残したのは伊丹十三だ。そもそも、大人の正義と、子供の正義はまったく異なるし、「人間としての正しさ」など、都合のいい大人の正義によって簡単に歪められてしまう。若さ、即…

「男はつらいよ 奮闘篇」山田洋次

シリーズ7作目。本来であれば、他人の面倒を見ている場合ではない寅さんは、そんなことお構いなしの、困っている人を放っておけない人だ。そして、そのことに一体、どれだけの人が救われたことだろう。目の前に助けるべき人がいれば、損得を考えず、手を差し…

「セラヴィ!」エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ

人間のどうしようもないところ、おろかさや、くだらなさや、バカバカしさを、慈しむような眼差しで撮りあげると、きっとこんなコメディになる。パリで同時多発テロが発生し、人々に不安や悲しみが広がったときに「お祭り騒ぎのように、笑えて、ただ楽しめる…

「男はつらいよ 純情篇」山田洋次

シリーズ6作目。正直なところ、(渥美清が憧れた)森繁久彌のスゴさをはっきりと認識したことがなかったので、渥美清と共に画角に収まるシーンは、ちょっとした衝撃だった。その間合い、その芸、そのやりとりは、言葉にするのも無粋。そこに若き日の宮本信子…

「新聞記者」藤井道人

恐らく政治だけの話ではない。権力を維持することが第一の目的となった世界では、やがて、忖度することが当たり前となり、罪悪感は消え失せ、倫理や道徳が正しく機能しなくなってしまう。これは、そんな世界の中で、個人が尊厳を失わずにどう生きていくのか…

「ルパン三世 THE FIRST」山崎貴

息子と二人で映画館へ。これはアガッったーーー!すでに出来上がってしまっている世界観を崩すことなく、さらに観客の期待を超えていく。それは恐ろしく困難な仕事に違いないけれど、そのプレッシャーを喜びに変え、対象への愛情と、歴史を積み重ねてきたク…

「スタンド・バイ・ミー」ロブ・ライナー

中1の夏。砂浜のキャンプ場で、その辺に落ちている木の枝で焚き火をし、友だち4、5人と朝方までだべりながら、気がついたら寝落ちしていた。で、次の日、ぼーっと寝不足のまま、「どさん子」という店で札幌ラーメンを食べて帰った。一緒に行った友だちとは、…

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」デヴィット・ロウリー

な、なんだ、これ。自分がいなくなった世界で妻を傍観することしかできない、その名の通り、時空を超えて幽霊が彷徨する物語。とかくわかりやすさが求められる現代において、ここまで観念的な映画を撮るというだけで称賛に値する。しかも、ケイシー・アフレッ…

「男はつらいよ 望郷篇」山田洋次

シリーズ第5作。山田洋次は「男はつらいよ」について「男の辛さを、男が男らしく、人間が人間らしく生きることがこの世にあっては如何に悲劇的な結末をたどらざるを得ないかということを、笑いながら物語ろうとするものである」と書いている(松竹HPより)。…