Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」前田哲

他人に迷惑をかけながら生きる、ということは、他人から迷惑をかけられても仕方がない、ということでもある。人と人とが関わりながら生きるということは、健常者であれ、障がい者であれ、そんな覚悟を決めるということだ。楽しくて、明るくて、滑稽でありな…

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」ファビオ・グラッサドニア/アントニオ・ピアッツァ

マフィアの生まれた地、シチリア。大人たちが見て見ぬふりをし、誰もが口を噤んでしまう、歪みきった、汚れきった社会の中で実際に起きた凄惨な事件をベースに、ファンタジックに綴られた少年と少女のラブストーリー。心の底から人を想うこと、触れ合うこと…

「マイ・ブックショップ」イザベル・コイシェ

街から本屋さんがなくなることが嫌だ。背表紙のタイトルを眺めながら、気になる一冊を手に取り、手触りや匂い、また、中面から滲みでるものを身体いっぱい感じとる。そうして想像力を育んできた。未だ知らぬ世界との出会いを与えてくれる本屋という空間が、…

「斬、」塚本晋也

映像美。すごい映画というのは画面をひと目みるだけでわかる。一瞬たりとも気を抜けず、一息もつけない緊張感。人を殺める宿命を背負った武士の「業」を容赦なく抉っていく。現代の日本で、これほどまでに切れ味の鋭い、真のサムライ映画が撮られたことの奇…

「夜明け」広瀬奈々子

尋常ならざる、神々しいほどの、圧倒的な存在感。世界を驚かせた「誰も知らない」や、欲望と狂気の「ディストラクション・ベイビーズ」に勝るとも劣らない柳楽優弥がここにいる。嗚呼、生きることは、こんなにも残酷で、切なくて、危ういけれど、確かなもので…

「ビューティフル・ボーイ」フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン

手塩にかけて育てた自慢の息子が、ドラッグによって、いとも簡単に崩れていく。人は人を救えない。例え、父親であろうとも。想像もしなかった試練に対峙せざるを得なかった父親がそう悟ったときに、それでもなおできることは、息子とともにもがき、苦しみ、…

「荒野にて」アンドリュー・ヘイ

母に捨てられ、父を亡くした少年が、走れなくなり、殺処分されそうな競走馬と荒野を彷徨う。あまりに理不尽かつ過酷な状況の中で、お金がなくとも誰にも頼らず前に進む、その少年の強さが眩しかった。切り拓く意志。それが人生の最後の希望なのだ。 映画『荒…

「鈴木家の嘘」野尻克己

フルスイングのデビュー作。敬愛する石井裕也監督が評したそんな言葉がぴったりな映画だった。「家族」を知ろうとして脚本を書き、その答えが見つからず、ならば「作りながら更にもがけばいい」と思ったという野尻克己監督。自身の体験をベースに、まさしく…

「ビール・ストリートの恋人たち」バリー・ジェンキンス

「愛は寛容であり、愛は情深い。また、ねたむことをしない。愛は高ぶらない、誇らない。不作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨みをいだかない。不義を喜ばないで真理を喜ぶ。そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを…

「麻雀放浪記2020」白石和彌

少子高齢化に伴う人口減少、マイナンバーでの管理社会、AIによる労働環境破壊、共謀罪による言論統制。もはや笑い事では済まされない、近未来を予感させる、「東京オリンピックが中止となった敗戦直後の2020年の日本」を舞台にしたスーパー・ウルトラ・ブラッ…

「サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-」デイモン・カーダシス

残念ながら人間は、差別し、抑圧し、ときに迫害さえ厭わない生きものだ。そんな厳しい現実と闘うためには、LGBTであろうがなかろうが、自分の居場所を自分で探して獲得する必要がある。あなたを異常だと決めつける人間は、例えマジョリティーであったとして…

「きらきら眼鏡」犬童一利

すごいなぁ。池脇千鶴は。どんな映画に出ていても、主役であっても、脇役であっても、押しつけがましくなく、すーっと感情移入させてくれる。哀しくても可笑しくて、可笑しくても哀しい、そんな幅をいつも感じさせてくれるホンモノの女優だ。『つむぐもの』…

「来る」中島哲也

人間の弱さや狡さ、危うさに、するすると入り込んでくるもの。「憑かれる」ということを、映像によって具象化した中島哲也監督の野心作。岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡など、主要キャストにからむ、脇を固める青木崇高、柴田理恵、太賀ら…

「おとなの恋は、まわり道」ヴィクター・レヴィン

フィッシュマンズの歌に、悪口ばかり言ってるから好きさ、という歌詞がある。価値観が合わないと辛いだけの悪態も、なんだかお互い楽しく感じてくると俄然、それは恋の予感となる。波長が合うというやつだ。キアヌ・リーブスとウィノナ・ライダー。いくつにな…

「ジュリアン」グザヴィエ・ルグラン

子が親を殺し、親が子を殺す。どんなに酷い事件であったとしても、そこにいたるまでの過程がある。どこかで、父を、母を、子を、救済するポイントが必ずあるはずなのだ。緊張感の途切れることのない、この背筋が凍るようなサスペンスが教えてくれるのは、子…

「MIFUNE:THE LAST SAMURAI」スティーヴン・オカザキ

デカイ。デカすぎる。映画の中のミフネは、スクリーンの画角に収まることなく、信じられない大きさで、私たちに迫ってくる。そのあまりの規格外の存在感に、ただただ圧倒されるばかりだ。思えば、黒澤明を世界のクロサワにしたのも、サムライを世界に知らし…

「ファースト・マン」デイミアン・チャゼル

前人未到。まだ誰も成し遂げていない未知なる領域へ足を踏み入れる人間というのは、まるでそこに引き寄せられる運命、というよりも、宿命によって導かれていく。史実を描く映画をみて思うのはいつもそんなことだ。携帯もなかった時代に「月に行ってみよう」…

「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」ローナ・タッカー

ヴィヴィアン・ウエストウッドは独立している。世界数10カ国、100店舗以上を展開するブランドでありながら大企業の傘下には入らない。だからこそ、依存することはないし、何かに取りこまれることも、何かに属することもない。反キリスト、アナーキスト。そこ…

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」ジョナサン・デイトン & ヴァレリー・ファリス

スポーツがドラマチックなのは、選手の戦っている敵が、目の前にいる相手ではないからだ。ある者は個人的な、ある者は社会的な、ある者は歴史的な、それぞれの深い事情を抱えながらコートやピッチの上に立っている。アメリカが自国の闇に気づきながらも、ま…

「チワワちゃん」二宮健

「へルタースケルター」から「リバーズ・エッジ」ときて「チワワちゃん」。映画化3作目にして、岡崎京子のあの感覚を、そのエッセンスを、映像と音楽によって最も見事に表現した映画と出会った。高揚と陶酔と虚勢と倦怠と喪失。スマートフォンやインスタグラ…

「君が君で君だ」松居大悟

狂気の沙汰。完全にイッてしまっている。こんなに狂った映画を、しかも、オリジナル脚本で撮るなんて誰だ? と思ったら、松居大悟監督だというので妙に納得する。例え、多くの人たちが理解できずとも、わずかでも共鳴してくれる人がいるならば、その人のため…

TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY「No Pain , No Gain」牧有太

山田孝之は、ずっと考えていた。ずっと動いていた。ずっとニヤニヤしていた。ずっと企んでいた。ずっともがいていた。ずっと泣いていた。受動から能動。動かされる側から、動かす側に変わったとき、人生は180°ガラリと変わり、突然、強い光を放ちながら輝き…

「家へ帰ろう」パブロ・ソラルス

思えば祖父も戦争を語らなかった。ごく稀に、酔っぱらった勢いで口にはしたものの、それでもこちらが核心に迫ると、途端に口を噤んだ。百聞は一見にしかず。惨劇を目の当たりにした当事者たちの声なき声を現代に甦らせたロードムービー。戦争を終わらせたの…

「つむぐもの」犬童一利

芸歴50年の初主演。高倉健に見いだされた石倉三郎という役者、というよりも、人間の深み。演じるというよりも、ただそこに「在る」だけで美しいのはきっと、本人が美しい生き方を積み重ねているからだ。人が人と交わること、人が人を認めること、人が人を敬…

「運び屋」クリント・イーストウッド

イーストウッドのメッセージはいつも短くシンプルだ。しかし、いつまでも余韻を残しながら、やがて、脳裏に焼きついていく。かつて『グラン・トリノ』という傑作を遺した「神様」からの、もう一つの遺言。しかも、それは、決して重苦しくなく、艶やかで、軽や…

「アメリカン・スリープオーバー」デヴィッド・ロバート・ミッチェル

とても不思議な映画だった。なので、言葉にするのもとても難しい。大人は誰一人として登場せず、もうすぐ新学期(アメリカは9月から)が始まる8月の「ある特別な夏の夜」に起こる、ティーンエイジャーたちの悲喜こもごも。理屈では説明することのできない衝…

「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」エルネスト・ダラナス・セラーノ

モールス信号は世界共通語であり、アマチュア無線は国境を越える。このキューバのコメディが描くのは、そこには人種や思想の違いによる諍いや、自国ファーストというエゴはなく、いわばイマジンのような世界が存在していたということだ。SNSによる「つながり…

「生きてるだけで、愛。」関根光才

程度の差こそあれ、人はみんな孤独だ。きっと分かり合えるなんてのは傲慢で、もしかしたら一瞬分かり合えたかもしれない、そのかけがえのない奇跡を、初々しい感性と瑞々しいキャストで描き切った、他者とつながることが怖くて痛い現代の純度の高い恋愛映画…

「モースト・ビューティフル・アイランド」アナ・アセンシオ

例えば、格差が広がれば広がるほど、倫理や道徳は失われ、人間は果てしなく堕落していくということは、奴隷制などが証明している。そして、不条理にも自由を奪われ、搾取され、抑圧される側にまわったとき、唯一尊厳を守ることができるのは、誰かの命令では…

「エンジェル、見えない恋人」ハリー・クレフェン

見ることよりも、触れること、感じることが愛なのだということを、寓話の中に込めた、どこかミステリアスなラブストーリー。透明人間として生まれ育った少年と盲目の少女。世界から断絶された二人に、まるで、アダムとイヴが林檎を齧ったかのように芽生える…