Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」クレイグ・ギレスビー

フィギュアスケートを始めたのも、DVを続ける夫に縋ったのも、何度もオリンピックを目指したのも、すべては唯一、母親に愛されたかったんだと思うとやるせない気持ちでいっぱいになる。史上最高にスキャンダラスで、世界中で嫌われたスポーツ選手を、世間の…

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス」ルーシー・ウォーカー

愛するものを、人生をかけて愛し抜く、愛しきることの尊さを、カリブ海に浮かぶ小さな島のミュージシャンたちが教えてくれる。音楽は、哀しみであり、喜びであり、人生であり、歴史であり、愛である。あれから18年。心の奥底から湧き上がってくる魂の歌声と…

「大阪物語」市川準

昨年末に初DVD化された1999年の日本映画。いずれも関西出身の沢田研二と田中裕子の夫婦漫才(レア)、そして、ミヤコ蝶々の芸(喋り)を観たくてレンタル。無論、ともに素晴らしかったけれど、それ以上に、池脇千鶴の瑞々しさ、市川準監督の詩情溢れる映像セ…

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」ヤヌス・メッツ

世界一。その領域に達する者にしか見えない景色があるのだということをまざまざと思い知らされる。氷の男・ボルグと炎の男・マッケンロー。表われ方は違えども、二人に共通しているのは、誰にも理解してもらえることのない「圧倒的な孤独」だ。世界最高峰の戦…

「グリーンブック」ピーター・ファレリー

旅をすればするほど、哀しみと優しさが、じわりじわりと沁みてくる珠玉のロードムービー。ユーモアとウィットに富んだ台詞や、ディープサウスを巡るに相応しいブラックミュージックの数々。その圧倒的なクオリティの高さに心奪われる130分だった。そして、あ…

「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」相原裕美

ロック好きなら一度はその名を聞いたことがあるであろう御年80歳の写真家・鋤田正義さんのドキュメンタリー。好奇心、観察眼、行動力、誠実さ、そして、対象への愛。その言葉と、生き様に、クリエイティブとはどのように生まれるか、ということをまざまざと見…

「ウインド・リバー」テイラー・シェリダン

こんな映画を観ると、如何にアメリカという国のごく一部、断片しか見えていないかということを思い知らされる。未開拓地から極寒の先住民保留地に舞台を変えて甦った現代の西部劇、超一級のクライムサスペンスが暴きだす同国の闇。想像を絶する悲しみの果て…

「彼の見つめる先に」ダニエル・ヒベイロ

目に見えるもの、耳で聞こえるものは、ときに世界を狭めてしまう。これは、もっと感覚的に、もっと衝動的に生きればいいのだと、そんな風に背中を押してくれるような青春映画だ。自我の芽生えも、性の目覚めも、それは決して、論理や理屈ではなく、言葉で説…

「おかしな男 渥美清」小林信彦

例え、運命というものが本当に決まっているとしても、それは決して本人の望み通りでないだけでなく、適切な道へと導かれるものでもない。誰もが「寅さん」として認識している狂気の役者が、もしも「男はつらいよ」に出会わなかったらとしたら…と思わずにはい…

「牯嶺街少年殺人事件」エドワード・ヤン

「いまさら観てないとは言えない映画」はずっとこの映画だった。あの頃、映画好きなら誰もが興奮しながら口にしたエドワード・ヤンの伝説的な作品を、四半世紀のときを経て、ようやく目にすることができた。さて。やっぱりこれは、光と影が織りなす芸術、映画…

「ロープ 戦場の生命線」フェルナンド・レオン・デ・アラノア

戦場。極限の緊張状態の中では、例え味方同士であったとしても、理想と現実、本音と建て前、あるいは、善と悪、清濁をあわせ呑み、飲み込まなければ決して生き延びることはできない。ほんの些細な出来事に凝縮される戦争のすべて。戦闘シーンはワンシーンも…

「夏の力道山」夏石鈴子

夏石鈴子(鈴木マキコ)さんの文体の清々しさたるや! 心の中で思っていることを露骨に書きつつも、決して下品にならないのは、彼女の生き方そのものにきっと品があるからだ。働きながら子を育て、働き、さらにはうだつのあがらない夫の世話をする。そんな女…

「女と男の観覧車」ウディ・アレン

ウディ・アレンのコメディはいつもいたたまれない。そこには「人生というのは、ものすごくシリアスで、ものすごく悲しいもの」だから「何とか笑えるよう最善を尽くすだけ」という哲学が細部に行き渡っている。ある意味で、彼こそがチャップリンのコメディを正…

「地球のレッスン」北山耕平

この本には「簡単に成し遂げられることはなにひとつ書かれていません」と北山耕平は書く。なんでもスピーディーに、便利に、簡単に。インスタントでコンビニエント。効率化が強く求められている時代の中で「簡単に成し遂げられない」ことにこそ価値は生まれ…

「ロンドン、人生はじめます」ジョエル・ホプキンス

あのウディ・アレンをして「おしゃれの天才」と言わしめたダイアン・キートンの魅力が炸裂。まるで少女のように、というとあんまりだけど、こんなにもチャーミングでいられることが不思議。色褪せるどころか、ますますおしゃれなマニッシュスタイルに目を奪わ…

「焼肉ドラゴン」鄭義信

翻弄されるのはいつも普通の人たちだ。普通の人たちが、普通に学び、普通に恋をして、普通に結婚して、普通に暮らすことが叶わない。それは本当に悲しくてやりきれない。それでも家族には、笑いがあり、喜びがあり、愛がある。その確かなことを証明するため…

「孤狼の血」白石和彌

「昭和残侠伝」や「仁義なき戦い」シリーズを例に挙げるまでもなくヤクザ映画といえば東映。刑事に、ヤクザに、女と、それぞれの矜持をかけた熱き生き様に胸が熱くなる。これぞハードボイルド。コンプライアンスという名の下に覆われた「暴力」を露わにする…

「ビューティフル・デイ」リン・ラムジー

俳優の到達点とは一体どこにあるんだろう。一瞬一瞬に緊張感が漲っており、一挙手一投足から決して目を離すことができない。怪優ホアキン・フェニックスの演技を観ていると、彼の佇まいやその仕草に一つの答えがあるように思えてならない。ラストシーン。彼の…

「カメラを止めるな!」上田慎一郎

これを観なきゃ今年は終われない! ということで「カメラを止めるな!」。ああああ、そうなんだ、創作とは狂おしいほどの愛をどれだけ爆発させられるかなんだ。面白いものをつくる。ただそれだけのために、走って、転んで、また走って。遅ればせながら、この…

「ラブレス」アンドレイ・ズビャギンツェフ

久しぶりにまったく救いのない映画をみた。あまりに強い自己愛は、やがて他者への無関心にかたちを変える。携帯でSNSばかりみている妻と世間体ばかりを気にしている夫。人生をリセットしたい、そんな離婚間際の夫婦と行き場のない息子。欺瞞だらけの家族が克…

「のみとり侍」鶴橋康夫

江戸文学の最高峰のひとつといわれる「好色一代男」や江戸庶民が愛してやまなかった春画を例に挙げるまでもなく、江戸の「色好み」は、粋で、鯔背で、そして何よりエネルギッシュだ。阿部寛を主役に据えて、寺島しのぶ、豊川悦司、大竹しのぶ、忘れちゃなら…

「素敵なダイナマイトスキャンダル」冨永昌敬

猥褻の解釈についての警察とのやり取りなんてもはやコント。原作者でもある伝説の天才編集者・末井さんの「ちょっとオチョくるみたいな」という言葉には、遊びというか、余裕というか、表現がもっと若くて熱かった時代の、ノスタルジックともいえる響きがある…

「レディ・バード」グレタ・ガーウィグ

愛すべき自意識。特別な存在でありたい、特別な存在になりたいと願う少女が、決して伝わることのない母親の大きな愛情に包まれながら、何者でもない自分を受け入れる物語。さすが、さすがの、シアーシャ・ローナン。七転八倒の超チャーミングなどんくさクレイ…

「三尺魂」加藤悦生

三尺魂の花火によって集団自殺を図ろうとしていた4人が、タイムリープを繰り返すことによって「人は誰かの手を必ず借りていて、誰かに助けられている。同時に自分も誰かに手を差し伸べて、誰かの力になっているときがある」(加藤監督曰く)という真理に辿り…

「ファントム・スレッド」ポール・トーマス・アンダーソン

「ブギーナイツ」、「マグノリア」、「パンチドランク・ラブ」、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、「ザ・マスター」。そのフィルモグラフィーを並べるだけで、ポール・トーマス・アンダーソンという監督が、いかに常軌を逸した天才なのかということがわかる。名優…

「モリのいる場所」沖田修一

拙宅の玄関には、万平ホテルに行商に来ていた画廊から、かなり背伸びをして買った熊谷守一の「桜」の絵が飾ってある。彼が45年間住み続けた旧宅跡地にある豊島区の美術館は、とても静かで気負いのない、和やかで自然豊かな美術館だった。蟻を眺め、鳥を眺め…

「エンドレス・ポエトリー」アレハンドロ・ホドロフスキー

カルト界の巨匠としての面目躍如。まるでフェリーニやパゾリーニの映画を観ているような、そんな感覚を21世紀に味わえることの衝撃。詩人である主人公と、巨女や小人、フリークスたちが、おどろおどろしくも美しい世界で繰り広げるマジック・リアリズム。あの…

「女は二度決断する」ファティ・アキン

被害者の身体のみならず、その家族の精神をも殺してしまうテロリズム。このあまりに卑劣で、非道な行為に対し、法の前に無力な私たちは、加害者や、自らの感情にどう折り合いをつけていくべきなのか。とてつもない苦しみの果てに、主人公カティヤが下した二…

「ボヘミアン・ラプソディ」ブライアン・シンガー

かなり期待して映画館に足を運んだけれど想像以上だった。フレディ・マーキュリーが、クイーンが、いかに伝説となったのかを丹念に描いた134分に引き寄せられ、一瞬たりとも目が離せなかった。ブライアン・メイとロジャー・テイラーは本当にいい仕事をした。と…

「オー・ルーシー!」平栁敦子

たった1本の映画によって、少しでも、背中を押されることがあったなら、それはとても素晴らしいことだ。これは、満たされない日常を過ごしていた「LUCY」や、絶望的な悲しみから逃れられない「TOM」だけでなく、誰にも言えず、生きづらく、鬱々とした毎日を…