Editor's Record

観たモノ、読んだモノ、聴いたモノ。好きなモノの記録。

「愛しのアイリーン」吉田恵輔

過剰な愛情、過剰な憎悪、過剰な欲望・・・。それらすべてをむきだしに、ただ必死に生きているだけなのに、こんなにも切なくて、哀しいだなんて。覚悟を決めてリミッターをはずした吉田恵輔監督のその圧倒的な熱量にひれ伏せっぱなしの137分。そして、何といっ…

「晩年の子供」山田詠美

「心を痛めることも、喜びをわかち合うことも、予期しない時に体験してしまう」ことを知った、幼き日の山田詠美の、瑞瑞しい感性によって綴られた短編集。そのナイフのように鋭く、砂のように脆く、泡沫のように儚い、小さくつたない感性による「感情の揺れ…

「ウイスキーと2人の花嫁」ギリーズ・マッキノン

嗚呼、憧れのスコットランド。ツイードのスーツに、タータンチェックのキルトに、格子柄のディアストーカーハットに、ハグパイプ。ファッションはもちろん、暮らしの隅々に息づくトラディショナルな美しさ。お酒が尊いのは、そこで暮らす人たちにとっての「…

「それから」ホン・サンス

信じられないほどの洗練。幾人かの男女がただ会話をするだけなのに、そこに人生のペーソスがすべて凝縮され、その狡さや愚かしさまでもが愛おしく感じられてくる韓国映画。ホン・サンスという天才。韓国のエリック・ロメールはどえらい映画を撮る。 ホン・サン…

「サバ―ビコン 仮面を被った街」ジョージ・クルーニー

「なるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高める」とヒッチコックは言った。サスペンスの神様にオマージュを捧げるようなこの映画には、練り込んだプロットと細部への作り込みがあった。黄金時代と呼ばれた50Sのアメリカの虚栄。マット・デイモンとジ…

「判決、ふたつの希望」ジアド・ドゥエイリ

許せない。その因子となるものはなんなのかを深く深く考えさせられる。個人の力ではいかんともしがたい呪縛。個と個を分かつもの。人間はいかに歴史に縛られる存在であるかを思い知らされる。こんな映画を観ると「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、もっ…

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」湯浅弘章

あんなにキレイな鼻水をみたことがない。どこにも居場所のない少女が、「私はここにいる」と嗚咽しながら叫び、自分をさらけだす姿が、純粋で、がむしゃらで、そのどストレートな描写と演技に胸が熱くなった。女子高生二人が奏でる「青空」も「あの素晴らし…

「ミスエデュケーション」デジレー・アカヴァン

つい最近まで性同一性障害は精神疾患のひとつだった。そもそも「障害」と位置づけられていること自体、いかに彼らの存在が無視され、彼らの声が蔑ろにされてきたのかということがよくわかる。そして、理解できないこと、都合の悪いことを排除するために利用…

「寝ても覚めても」濱口竜介

恋愛は残酷だ。こんな映画を観ると、利己的に誰かを強く傷つけ、唐突に誰かに強く傷つけられた、遠い記憶を思い出さざるを得ない。それでも、なのだ。破壊的な衝動も、忘れがたい痛みも、そのすべてを受け入れ、肯定したくなる美しさがこの映画にはあった。…

「ルームロンダリング」片桐健滋

マンガや小説を映画化するばかりの映画界にあって、オリジナル、しかもファンタジーを織り交ぜた物語を撮った片桐健滋監督の野心がとても良かった。しかも、幼い頃に亡くした父親への気持ちを投影しているだなんて。やっぱりデビュー作はこうじゃないと。オ…

「心と体と」イルディコー・エニェディ

触れる。その苦しみも、痛みも、喜びも、そのすべてを、ファンタジックな物語に詰め込んだ美しいラブストーリー。身体性の欠如したバーチャルな時代に、言語でも、感覚でもなく、触れ合いを可視化した素晴らしい映画だった。ベルリンを制した圧倒的な映像ク…

「映画ドラえもん のび太の月面探査記」八鍬新之介

ドラえもんの脚本を「聖書の続きを書くようなもの」というほど、つまりは、藤子・F・不二雄先生が神のような存在である小説家・辻村深月さんが脚本を手がけると知ってからずっと楽しみにしていた。スクリーンに現われたのは、いつもの、そして、スペシャルなあ…

「ハード・コア」山下敦弘

間違っていることを間違っていると言ってしまうと孤立してしまうこの世の中で、居場所をなくした大人たちが群れを為しても、ぽっかり空いた心の穴を埋めることは到底できない、厳しく悲しい現実。この荒唐無稽でありながら、リアリティーに満ちた物語が示す…

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」ナタウット・プーンピリヤ

天才的な頭脳を持った人間が悪知恵を働かせると、こんなにもクリエイティブで、エキサイティングなのかと、道徳観をうっちゃらかって見入ってしまったタイ発のエンターテイメント。カンニングを軸としたスリリングな展開に、学歴偏重や貧富格差といった社会…

「ブランク13」齊藤工

映画を観続けて学んだことのひとつに、物事を一面的に決めつけてはならない、ということがある。誰かにとって憎しみの対象でしかない、どうしようもない人間だったとしても、誰かにとってそのひとの存在がかけがえのない救いとなることがこの世には溢れてい…

「ローライフ」トム・フォンドル

冒頭からいきなりの目を覆いたくなる残虐シーンに、一体どうなることかと思ったけれど、物語が進めば進むほど、目が離せなくなり、次第にのめり込んでいった。タランティーノが熱狂した次世代のカルト映画。マスクを被った純度120%の眠れるヒーローが絶望の…

「クマにあったらどうするか」語り手・姉崎等/聞き書き・片山龍峯

ただ木を植えればいいというわけではないようだ。針葉樹の林にはミミズ一匹おらず、それを食べて暮らす動物もいないから、生きた山とはいえない。と、アイヌ民族最後の狩人の姉崎等さんはいう。「クマは約束を守れるけれど人間は守れない」「クマが怖いとい…

「シュガー・ラッシュ:オンライン」リッチ・ムーア&フィル・ジョンストン

子供と映画館へ。隣りの席で、腹を抱えて笑い、しゃくりあげて泣いていた息子をひきあいに出すまでもなく、手に汗を握り、胸が締め付けられるエンターテインメントを存分に堪能する。クリエイティブの根幹にある、多くの人たちを驚かせ、喜ばせたいという強…

「フジコ・ヘミングの時間」小松莊一良

幼い頃にスウェーデン人の父親と生き別れ、国籍のないまま、難民としてドイツへピアノ留学。世界的な音楽家たちから支持を受け、名声を掴みかけるものの、風邪をこじらせ聴力を失ってしまう。それでもなお、腐らず、諦めず、ピアノを弾き続けた彼女が奏でる…

「現代秀歌」永田和宏

小説や、ましてや、エッセイとは異なり、詩歌のたぐいは、天賦の才がないと書けない。なので、歌を詠む人をとても尊敬している。例え、使い慣れた、私たちが日常よく使う言葉であったとしても、5・7・5・7・7のかたちに納める人が納めるだけで、物語(イメージ)…

「スターリンの葬送狂騒曲」アーマンド・イアヌッチ

緊張と緩和。こそが笑いを生むというけれど、強制労働収容所への収容、あるいは、反逆罪による銃殺と、恐怖による支配が崩れ、たがが外れた瞬間に、ここまで人間は「滑稽」になるのかということを丹念に描いた衝撃のブラック・コメディ。状況の変化に態度を一…

「輝ける人生」リチャード・ロンクレイン

信じて飛べ! そう言われても、なかなか飛ぶことができないように、自由に、やりたいことをやり、後悔のない人生を送ることは、殊の外、難しいものだ。モタモタしているうちにやり過ごしてしまわぬよう、迷ったらやる、というくらい前のめりに生きていこう。…

「LUCKY」ジョン・キャロル・リンチ

ハリー・ディーン・スタントンの遺作。風貌、仕草、服装、そのいずれもが、怖ろしいほどカッコイイのは、そこに彼の人生のすべてが滲み出ているからだ。テンガロンハットをかぶり、行きつけのダイナーでコーヒーを飲み、新聞のクロスワード・パズルを解く、頑固…

「男と女、モントーク岬で」フォルカー・シュレンドルフ

盲目的な男の浅はかさと、強かな女の思慮深さを、見事に描いた大人の恋愛映画。設定が40代とは到底思えない人生経験値と恋愛偏差値の高さ! 「ほろ苦くも芳醇なラブストーリー」という言葉はこの作品のためにあるような映画だった。ロマンチストとリアリスト…

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」クレイグ・ギレスビー

フィギュアスケートを始めたのも、DVを続ける夫に縋ったのも、何度もオリンピックを目指したのも、すべては唯一、母親に愛されたかったんだと思うとやるせない気持ちでいっぱいになる。史上最高にスキャンダラスで、世界中で嫌われたスポーツ選手を、世間の…

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス」ルーシー・ウォーカー

愛するものを、人生をかけて愛し抜く、愛しきることの尊さを、カリブ海に浮かぶ小さな島のミュージシャンたちが教えてくれる。音楽は、哀しみであり、喜びであり、人生であり、歴史であり、愛である。あれから18年。心の奥底から湧き上がってくる魂の歌声と…

「大阪物語」市川準

昨年末に初DVD化された1999年の日本映画。いずれも関西出身の沢田研二と田中裕子の夫婦漫才(レア)、そして、ミヤコ蝶々の芸(喋り)を観たくてレンタル。無論、ともに素晴らしかったけれど、それ以上に、池脇千鶴の瑞々しさ、市川準監督の詩情溢れる映像セ…

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」ヤヌス・メッツ

世界一。その領域に達する者にしか見えない景色があるのだということをまざまざと思い知らされる。氷の男・ボルグと炎の男・マッケンロー。表われ方は違えども、二人に共通しているのは、誰にも理解してもらえることのない「圧倒的な孤独」だ。世界最高峰の戦…

「グリーンブック」ピーター・ファレリー

旅をすればするほど、哀しみと優しさが、じわりじわりと沁みてくる珠玉のロードムービー。ユーモアとウィットに富んだ台詞や、ディープサウスを巡るに相応しいブラックミュージックの数々。その圧倒的なクオリティの高さに心奪われる130分だった。そして、あ…

「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」相原裕美

ロック好きなら一度はその名を聞いたことがあるであろう御年80歳の写真家・鋤田正義さんのドキュメンタリー。好奇心、観察眼、行動力、誠実さ、そして、対象への愛。その言葉と、生き様に、クリエイティブとはどのように生まれるか、ということをまざまざと見…