ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋次

ひとの幸せを喜び、ひとの悲しみに涙する。それは、寅さんだけでなく、おいちゃんも、おばちゃんも、さくらも、タコ社長だってそうだ。下町の人情がじんじんと沁みるシリーズ13作目。夏。花火。浴衣。寅さんが思わず「浴衣、きれいだね」と口にしてしまうほど、縁側に佇む吉永小百合が艶やかで、まるで美人画のように美しい。

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第13作 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社

「殺し屋1」三池崇史

再見。三池崇史監督が審査員長を務めた映画祭にて、映画を志す者に向けられたメッセージ「『生ぬるい映画に満たされた今を嘲笑うかのような快作』。または、『捻れに捻れた現実を、さらに捻じりあげるような快作』。なんでもいい。幸せな出会いを期待している」は、かつて撮った、自分自身のこの作品に捧げられたような言葉だ。熱量と狂気。野心に満ち満ちた、この日本映画史上、極めて暴力的(あるいは変態的)で残虐残酷な映画をみると、今もなお「得体のしれないものを観てしまった」というモヤモヤとした気持ちにさせられる。

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「アマンダと僕」ミカエル・アース

喪失。日常に開いた大きな穴は埋めようがないし、また、立ち直ったり、乗り越えたりできるものでもない。ただ、私たちができることは、絶望しながら生きる術を手に入れることだけだ。そんなとき、わずかでも気持ちを共有できるひとがいる、というのはこんなにも強く、尊いものなんだ。そばにいる。ともに生きる。というのはそれだけで希望だ。

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映画『アマンダと僕』公式サイト

「ガリーボーイ」ゾーヤ・アクタル

世界に最も影響を与えた音楽はレゲエだと聞いたことがある。特定の人種、宗教に限らず、あらゆる人種や宗教の人々が、同じように奏で、歌っているからだ。カリブ海に浮かぶ小さな島国で生まれた音楽が世界を熱狂させたように、ニューヨークのブロンクスで生まれたHIPHOPカルチャーが世界を席巻している。インドのスラム街で必然的に生まれたリリックが、共鳴を呼び、変化をもたらしていく。何百回、何千回と思ったかわからないけれど、音楽って、言葉って、改めてスゴイ!

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映画『ガリーボーイ』公式サイト

「男はつらいよ 私の寅さん」山田洋次

シリーズ12作目。寅さんの困った顔が好きだ。鈍感なようでいて、人の悲しみや苦しみには人一倍敏感で、頼まれてもいないのにいつもおどけてみせる。マドンナの岸惠子が「寅さんは、私のパトロンね」と言ったけど、ホント、寅さんはみんなにとって自分だけの寅さんだ。本作の最後を締める「啖呵売」がとにかく素晴らしい。その口上はもはや芸術だ。

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第12作 男はつらいよ 私の寅さん|松竹映画『男はつらいよ』公式サイト| 松竹株式会社