ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「運命は踊る」サミュエル・マオズ

ごく稀に、約120分弱というわずかな時間の中に、人生の真理のようなものをギューッと凝縮したような、驚くべき映画に出会うことがある。この映画が、毎朝登校するために乗っているバスが、ある日突然テロリストによって爆破されることが日常的に起こりうる、イスラエルという国で撮られたことは決して偶然ではない。なるようにしかならない。すべての人生はそうであるけれど、戦争に翻弄される人生ほど不条理なものはない。素晴らしき風刺。傑作。

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映画『運命は踊る』公式サイト

「アリー スター誕生」ブラッドリー・クーパー

ただ歌が上手いだけの人間と、真のアーティストとの違いは、一体どこにあるんだろう。裕福な家庭に生まれ、箱入り娘として育てられながらも、学校や他者に馴染めず、壮絶ないじめを受け続けて逃げ込んだストリップクラブから這い上がったレディー・ガガ自身の人生と、彼女の歌には、やはり、強い関連性があると思えてならない。音楽の圧倒的なチカラが映画を完全に凌駕する作品を初めて観た。レディー・ガガという奇跡。この映画でまた、彼女は永遠となった。

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映画『アリー/ スター誕生』ブルーレイ&DVDリリース

「きみの鳥はうたえる」三宅唱

はっきりとさせず、曖昧なまま、それが永遠に続いていく。なんてわけもなく、危なっかしくも刹那的な、大事なことなんて何ひとつ話すことのない、男女三人の幸福な日々を切りとった映画。友達とか、恋人のまえに、人と人。柄本佑染谷将太石橋静河の素晴らしいアンサンブル。その調和の中の不調和が、なんだかとても切なかった。そうね、青春って目的もなくダラダラとしたかけがえのない時間なんだ。

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映画『きみの鳥はうたえる』オフィシャルサイト

「果てしなく美しい日本」ドナルド・キーン/足立康 訳

この学術文庫のベースとなった「生きている日本」が執筆された1973年当時、日本にはまだ「らしさ」が色濃く残っていたはずで、それは欧米諸国の人たちにとって、実に「奇妙なもの」であったに違いない。そんな極東にある「奇妙な国」のあれこれを「果てしなく美しい」と好意的な視点で母国アメリカに紹介したドナルド・キーン。彼の愛情溢れる仕事には、私たち日本人でさえもハッとさせられる、日本という国の本質が表されている。

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『果てしなく美しい日本』(ドナルド・キ-ン,足立 康):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

「菊とギロチン」瀬々敬久

そういえば、政治犯なんて、完全に死語となった。その是非は一旦置いておいて、手段を選ばず、命を捨てても「世界を変えよう」と、誰一人として、夢にも思わなくなった時代に、突如として現われた革命的な、実に革命的な、日本映画。ジャンベのリズムにのせて「アパッシュの唄」を歌う主人公にあわせ、浜辺で踊るアナーキストと女力士たち。差別を撤廃し、真の平等を勝ちとるための闘争。理想郷を夢見ながら散っていった闘士と、今はなき女相撲の力士たちに、闘うことを忘れた私たちは何を思うべきなのか!

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