ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「判決、ふたつの希望」ジアド・ドゥエイリ

許せない。その因子となるものはなんなのかを深く深く考えさせられる。個人の力ではいかんともしがたい呪縛。個と個を分かつもの。人間はいかに歴史に縛られる存在であるかを思い知らされる。こんな映画を観ると「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す」という言葉の重さと、その思慮深さが身につまされる。

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映画「判決、ふたつの希望」公式サイト 2018年8/31公開

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」湯浅弘章

あんなにキレイな鼻水をみたことがない。どこにも居場所のない少女が、「私はここにいる」と嗚咽しながら叫び、自分をさらけだす姿が、純粋で、がむしゃらで、そのどストレートな描写と演技に胸が熱くなった。女子高生二人が奏でる「青空」も「あの素晴らしい愛をもう一度」も、そして「世界の終わり」も、そのどれもが澄んで、どこまでも美しかった。

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映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公式サイト

 

「ミスエデュケーション」デジレー・アカヴァン

つい最近まで性同一性障害精神疾患のひとつだった。そもそも「障害」と位置づけられていること自体、いかに彼らの存在が無視され、彼らの声が蔑ろにされてきたのかということがよくわかる。そして、理解できないこと、都合の悪いことを排除するために利用されてきた宗教というまやかし。そこに通底しているのは、マジョリティによるマイノリティの抹殺、強者が弱者を抑圧しようとする偏見という恐れだ。クロエ・グレース・モレッツの圧倒的な存在感。スゴイ。

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ギャガ株式会社(GAGA Corporation)/ミスエデュケーション

「寝ても覚めても」濱口竜介

恋愛は残酷だ。こんな映画を観ると、利己的に誰かを強く傷つけ、唐突に誰かに強く傷つけられた、遠い記憶を思い出さざるを得ない。それでも、なのだ。破壊的な衝動も、忘れがたい痛みも、そのすべてを受け入れ、肯定したくなる美しさがこの映画にはあった。「恋愛なるもの」と真正面から向き合う映画がまさかこの日本で生まれるなんて。誰が言ったか、本当にこれは、現代のヌーヴェルヴァーグだ。

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映画『寝ても覚めても』公式サイト

「ルームロンダリング」片桐健滋

マンガや小説を映画化するばかりの映画界にあって、オリジナル、しかもファンタジーを織り交ぜた物語を撮った片桐健滋監督の野心がとても良かった。しかも、幼い頃に亡くした父親への気持ちを投影しているだなんて。やっぱりデビュー作はこうじゃないと。オダギリジョーに、もはや日本映画界に欠かせなくなった渋川清彦はもちろん良いけれど、光宗薫の気になり感、何よりも池田エライザのひょうひょうと、それでいて芯のある存在感。なんだ、すげぇじゃないか。

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映画『ルームロンダリング』公式サイト