ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」相原裕美

ロック好きなら一度はその名を聞いたことがあるであろう御年80歳の写真家・鋤田正義さんのドキュメンタリー。好奇心、観察眼、行動力、誠実さ、そして、対象への愛。その言葉と、生き様に、クリエイティブとはどのように生まれるか、ということをまざまざと見せつけられる。数々の出演者の中でも、山本寛斎、高橋靖子が群を抜いてチャーミング。そして、言葉が重い。まったく軽くない。道を切り開き世界を驚かせてきたクリエイターというのは本当に素敵だ。

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映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』公式サイト

 

 

「ウインド・リバー」テイラー・シェリダン

こんな映画を観ると、如何にアメリカという国のごく一部、断片しか見えていないかということを思い知らされる。未開拓地から極寒の先住民保留地に舞台を変えて甦った現代の西部劇、超一級のクライムサスペンスが暴きだす同国の闇。想像を絶する悲しみの果て。ハードボイルド。そのカタルシスに、何度も、何度も、魂が震えた。

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映画「ウインド・リバー」公式サイト 2018年7/27公開

「彼の見つめる先に」ダニエル・ヒベイロ

目に見えるもの、耳で聞こえるものは、ときに世界を狭めてしまう。これは、もっと感覚的に、もっと衝動的に生きればいいのだと、そんな風に背中を押してくれるような青春映画だ。自我の芽生えも、性の目覚めも、それは決して、論理や理屈ではなく、言葉で説明できるものでもない。そして、人生においてほんとうに美しい瞬間、大事なことというのはそういうものなのだ。

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映画『彼の見つめる先に』公式サイト

「おかしな男 渥美清」小林信彦

例え、運命というものが本当に決まっているとしても、それは決して本人の望み通りでないだけでなく、適切な道へと導かれるものでもない。誰もが「寅さん」として認識している狂気の役者が、もしも「男はつらいよ」に出会わなかったらとしたら…と思わずにはいられない人物伝。芸能というのはまこと、幻想を与え、幻想に生きる世界なのだ。なんだかとても哀しい。

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筑摩書房 おかしな男 渥美清 / 小林 信彦 著

「牯嶺街少年殺人事件」エドワード・ヤン

「いまさら観てないとは言えない映画」はずっとこの映画だった。あの頃、映画好きなら誰もが興奮しながら口にしたエドワード・ヤンの伝説的な作品を、四半世紀のときを経て、ようやく目にすることができた。さて。やっぱりこれは、光と影が織りなす芸術、映画とは何かを想起せざるを得ない、映画史に刻まれる傑作。かつて、あの蓮實重彦が「どこを切っても同じ濃度の鮮血が、噴き出してくるような生きた映画」と記した、その言葉のままの、紛れもない傑作だった。

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『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』公式サイト