ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「女は二度決断する」ファティ・アキン

被害者の身体のみならず、その家族の精神をも殺してしまうテロリズム。このあまりに卑劣で、非道な行為に対し、法の前に無力な私たちは、加害者や、自らの感情にどう折り合いをつけていくべきなのか。とてつもない苦しみの果てに、主人公カティヤが下した二度の決断。その悲しみのあまりの重さにただただ茫然とし、やがて、彼女の意志によってもたらされる、そのかすかな希望に気づかされる。心を揺さぶる傑作だった。

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映画『女は二度決断する』公式サイト

「ボヘミアン・ラプソディ」ブライアン・シンガー

かなり期待して映画館に足を運んだけれど想像以上だった。フレディ・マーキュリーが、クイーンが、いかに伝説となったのかを丹念に描いた134分に引き寄せられ、一瞬たりとも目が離せなかった。ブライアン・メイとロジャー・テイラーは本当にいい仕事をした。とりわけ、ほぼノーカット、ライヴ・エンドのラストシーンは圧巻。胸が高鳴り、手に汗を握り、涙を堪えながらスクリーンを見つめていた。音楽はすごい。そして、人を熱狂させる、というのはこういうことなんだ。

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映画『ボヘミアン・ラプソディ』公式サイト 大ヒット上映中!

「オー・ルーシー!」平栁敦子

たった1本の映画によって、少しでも、背中を押されることがあったなら、それはとても素晴らしいことだ。これは、満たされない日常を過ごしていた「LUCY」や、絶望的な悲しみから逃れられない「TOM」だけでなく、誰にも言えず、生きづらく、鬱々とした毎日を送っている私たち自身の映画でもある。そして、再生へのきっかけはどこにでも転がっているという希望の物語でもある。寺島しのぶも、役所広司も、本当にすごい俳優さんだ。

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映画『オー・ルーシー!』公式サイト

 

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」アシュリング・ウォルシュ

当代一の女優となったサリー・ホーキンスが、またもや、素晴らしいキャリアを積み重ねた。こちらも脂の乗ってきたイーサン・ホークとともに。カナダの小さな港町の、これまた小さな家で、ときを経ながら育まれた、一風変わった夫婦のラブストーリー。他の誰でもない、自分が求め、相手に求められる相手と出会うこと。そのことに気づき、受け入れ、思いやり、ともに生き抜くこと。その二人の佇まい、暮らしぶりの、あまりの美しさにただただ圧倒される。

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映画『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』公式サイト

「オシムの言葉」木村元彦

サッカーには全然詳しくない。それでも、ロシアのワールドカップ後、それに関連する多くの人たちの寄稿文を読んだけれど、いつまでも余韻が残ったのは、イビチャ・オシムの言葉、とりわけ代表監督が突如解任され、ワールドカップを直前に控えたインタビューで発した「君たちはサッカーに何を求めるのか?」というものだった。サッカーであれ、なんであれ、なにかをそれ以上のもの、人生とわたりあえるものにするのは、その人の意識であり、言葉であり、そして、思想なのだ。

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文春文庫『オシムの言葉 増補改訂版』木村元彦 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS