自死を遂げる直前に、三島由紀夫が何を書こうとしたのか、ふと気になり手にとった一冊。「侯爵家の嫡男と伯爵家の令嬢との命を賭けた禁断の恋の物語」はまるで古典文学。あの川端康成をして「私は奇蹟に打たれたやうに感動し、驚喜した」と言わしめた天才。彼の日本語の表現の豊かさ、美しさに、ただただ驚愕する。こんな優美な作品を読んでしまうと、日本の美意識はほんとうに退化しているといわざるを得ない。ただ、あまりにグッタリしたので、第二巻の「奔馬」になかなか手が伸びないのが難点。
いい映画だった。行き場のない少年と少女のセンチメンタルな恋愛映画としても、カルト、宗教、ヤンキー、AVといった、誰にも知られることのない(ほんとうのところを誰も知ろうとはしない)世界の中で、もがきながら生きる若者たちの青春映画としても。 孤独じゃない、孤高なの。そう心の底から叫んだ伊藤沙莉は「愛のむきだし」の満島ひかりに匹敵するほど(否、それ以上に)素晴らしかったし、須賀健太のラストシーンの笑顔をこれからもずっと忘れることはないだろう。驚くべきはこれが実話であるということ(というより、現実よりソフトに描かれているということ)。そのことを教えてくれるマスメディアはもはやこの国にはもうないし、それを描いてくれる映画作家もまた、ほんの一握りとなってしまった。
3時間48分という上映時間が、長いのか、短いのか、それはわからない。ただ、その中に、想像力を限りなく駆り立てる、人生の悲しみや苦しみが、すべて表現されていた。平均で5~6時間、ときに10時間を超える映画を撮るというフィリピンの奇才ラヴ・ディアス監督の作品を初めて観た。映画のリズムを破壊するスローな長回し。私たちが「映画」であると考える概念から外れたところに、未だ感じたことのない新しい映画の表現があった。
ややスベり気味のタイトルに惹かれて観てみると、パンツ一丁のハゲのおじさんが、打ち込みされた音源にあわせてポエムを叫んでいた。下ネタのナポレオン、本人役で出演のクリトリック・リスのスギムさん。ヒロインの「変な曲だけど、何かいい」の台詞の通り、なんかいい。40後半のおじさんが叫ぶって、なんか、とてもカッコイイのだ。
光と禿(2016) | SPOTTED PRODUCTIONS