ずっと映画のことを考えている

旧「Editor's Record」(2023.2.28変更)

「幼な子われらに生まれ」三島有紀子

誰にでも、見て見ぬ振りをしているもの、気づかぬふりをしているものはある。そのことといずれ、真正面から向き合わねばならぬとき、支えになってくれるもの、力になってくれるものは、血が繋がっていようがいまいが、やはり、家族だ。浅野忠信田中麗奈寺島しのぶ宮藤官九郎の、素晴らしいアンサンブル。原作は重松清。なぜ私たちは家族を必要とするのかー。生きにくい時代を不器用に生きている人たちの希望となる、とてもいい映画だった。

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映画『幼な子われらに生まれ』公式サイト

 

「海は燃えている」ジャンフランコ・ロージ

いかなる人間も生まれる場所は選べない。ターコイズブルーの美しい海のそばで静かな日常を営む人々と、祖国を追われて命からがら海を渡ってきた、あるいは、ぼろぼろの船の中であっけなく命を落とす難民たちとの間に、一体、どんな違いがあるんだろう。ドキュメンタリー映画は決して答えのでない問いかけをいつも私たちに投げかけてくる。

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映画『海は燃えている』公式サイト

 

「夜明けの祈り」アンヌ・フォンテーヌ

宗教の功罪を、映画は、繰り返し、繰り返し描いてきたけれど、いつも思うのは、命より優先すべき信仰など無意味だ、という強い思いだ。例え、戒律に背いたとしても、蔑まれ、傷つき、救いを求める人たちに寄り添う人は、まるで神と見紛うほどに美しい。

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映画『夜明けの祈り』公式サイト

 

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」ジョン・リー・ハンコック

「失敗したところでやめてしまうから失敗になる」とは松下幸之助の言葉。ある意味、往生際の悪さというか、なりふり構わぬ執念というか、ビジネスを一気に拡大するためには、憑りつかれた狂気のようなものが必要となってくる。マクドナルド兄弟から権利を根こそぎ奪い取り、のちに世界3万5千以上の店舗で、年間15億食以上のハンバーガーを提供するバケモノ企業を「創業」した男は、さすが、さすがの狂人だった。

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映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』7月29日(土)ロードショー

 

 

「コンビニ人間」村田沙耶香

評価の高い「コンビニ人間」をようやく。文学の最も尊い価値は、誰にも悩みを打ち明けられず、孤独を抱えながら、息をひそめて生きる人たちを、一瞬でも慰めることであると強く信じている。コンビニで働くことで唯一「世界の正常な部品」となれる主人公。私もまた、彼女によってまわりにある「普通」から解放され、慰められた読者の一人となった。

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『コンビニ人間』村田沙耶香 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS